コミックナタリー PowerPush - 劇場版「PSYCHO-PASS サイコパス」
虚淵玄×深見真の脚本家対談 「理詰め」と「カオス」の相乗効果
「理詰め」と「カオス」の相乗効果
──おふたりはお互いの仕事のどんなところに魅力を感じますか?
深見 やっぱり虚淵さんのプロットは、人をびっくりさせる力がすごいんです。「なるほど!」みたいな感覚がある。虚淵さんの作品のそういうところが、お仕事をご一緒させていただく前から好きなんですよね。あとは1期・2期・劇場版で、面白さがちゃんと連動している。そういうところがすごいと思うんです。劇場版を観てから1期を観ると、また新しい見方ができる。そういう大きな視点みたいなものがある。シビュラの存在感が、劇場版を観ることでより浮き彫りになる。……1期の脚本を書いていたときから、こうした全体像は狙っていたんですか?
虚淵 世界規模で見たときに、シビュラは最後の希望に感じられるような、そういう視点は意識していましたね。
深見 ああいう世界観づくりみたいなものは、虚淵さんの仕事を見ていて、もっと勉強しなきゃって思いました。
──虚淵さんはいかがですか?
虚淵 自分は結構理詰めで脚本を書きすぎてしまうところが弱点としてあるんです。深見さんは、いい意味でのカオスというか、理詰めでは出てこないようなものを書けるんですよね。ある意味でノイズなんだけど、だからこそキャラクターの情念がこもったり、意外な側面が出たりするような脚本が書ける。ハッとさせられるみたいな輝きというんですかね。そこになかなか自分は至れないんですよ。だからまずは先に深見さんにそういう、整理がついてない状態のものを書いてもらうわけです。
深見 悪い言い方をすると、趣味丸出しのものを書いているんですよね(笑)。ミリタリーもそうだし、格闘技とか、恋愛要素とかもそう。全部自分の趣味で、どんどん入れちゃう。
虚淵 それがほしかったんですよ。「PSYCHO-PASS サイコパス」の話は、ただただ理詰めで書いたら、味気ない話になっちゃうのはわかりきっていたので。
深見 だから「これはカットされちゃうだろうな」と思っても、あえて書いたりしましたね。それを自分は「ぶっこむ」と言っているんですけど。
虚淵 まさにそれが求めていた部分ではあったので、良かったです。「さすがにこれはないわ」ってものもありましたけど(笑)。でも、話の辻褄が合わなくならない限りは、なるべくぶっこまれたものを残そうとしました。
──お互いの持ち味が上手く重なりあう、いい共同作業なんですね。
虚淵 芸風がかぶってない気がするんですよね。だから上手くお互いによっかかりながらやれたなと思います。
深見 意外と重ならないんですよね。共通点は香港映画好きなところくらい。SFの趣味も意外と合わなくて。たとえば自分は神林長平さんの作品では「戦闘妖精雪風」がベストなんですけど、虚淵さんは「敵は海賊」がお好きだとか。
虚淵 そうそう。
深見 同じ作家が好きでも、好きな作品の傾向はちょっと違う。そんな微妙な重なり具合がいいんでしょうね。
人間じゃないものと人間が対話する“虚淵節”
──虚淵さんがご覧になって、劇場版でいちばん深見色が出ているなと思ったところはどこですか?
虚淵 傭兵団が登場するんですけど、そのアクションとか、細かいキャラの立て方は深見さんらしいなと思いましたね。あとは朱が街を散策するシーンかな。
深見 逆に自分からも虚淵さんっぽいところは言ったほうがいいですか?
──はい、是非。
深見 朱が、とあるキャラクターと会話をするシーンがあるんですが、そこはとても虚淵さんっぽいというか、「PSYCHO-PASS サイコパス」っぽいなと思いました。先日「楽園追放」を観させてもらったんですけど、そこにも似たようなシーンがあったんですよね。虚淵さんって、絶対的な強者との対話がお好きなんじゃないですか?
虚淵 ああー……人間じゃないものと人間が対話する、みたいなシーンは、たしかに結構書くような気がしますね。
深見 そこが虚淵さんの味なのかなと。
虚淵 なんなんすかね(笑)。言われてみれば毎回ありますよね。
深見 中間管理職っぽい感じというか、虐げられているものからの目線が描かれますよね。虚淵さん的に、何かそこに込めたいものがあるんですか?
虚淵 今、別に虐げられているわけじゃないんだけどなあ(笑)。そこはスネーク・プリスキン(映画「ニューヨーク1997」「エスケープ・フロム・LA」の主人公)節が自分の中に沁みついているのかな。
深見 体制を強く描くことで、逆にキャラクターの反体制感が高まる、みたいな狙いはあります?
虚淵 それはあるかもしれないですね、たしかに。
深見 すごい管理社会を描くと、その分、それに反抗する人間の強さみたいなものが強調されますもんね。それが「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」での虚淵さんの持ち味があらわれているところなのかな、と。
虚淵 そもそも「PSYCHO-PASS サイコパス」というのは、そういう話でしたしね。
──虚淵作品では反体制の人は社会の強者であることが多いような。朱もエリートですし。その理由は何か思いつかれますか?
虚淵 たしかに自分の作品だと、抵抗する人は、権力者に抵抗するだけの力を持っている者が多いです。それは「権力そのものが不当だ」という発想が別にないからですかね。権力がなくなったら、焼け野原になって終わり、ということになってしまいますし。
深見 虚淵さんが考える権力のシステムは、悪質だけど悪じゃないものなことが多いですよね。「魔法少女まどか☆マギカ」のキュゥべえも、「楽園追放」のディーヴァも、「PSYCHO-PASS サイコパス」のシビュラシステムも、どれも別に悪ではない。人によってはこれのほうが便利じゃないかとすら思う。
虚淵 ええ。それを望んだ人たちがいて、その人たちのために動いているシステムだというのはあるので。依存している弱者も含めての体制なんですよね。キュゥべえだけは、依存している弱者がいないですけど。
深見 あれは依存している弱者じゃなくて、搾取対象がいるシステムですもんね。
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世界は禁断の平和(システム)に手を伸ばす。2116年──常守朱が厚生省公安局刑事課に配属されて約4年が過ぎた。日本政府はついに世界へシビュラシステムとドローンの輸出を開始する。長期の内戦状態下にあったSEAUn(東南アジア連合 / シーアン)のハン議長は、首都シャンバラフロートにシビュラシステムを採用。銃弾が飛び交う紛争地帯の中心部にありながらも、海上都市シャンバラフロートはつかの間の平和を手に入れることに成功した。シビュラシステムの実験は上手くいっている──ように見えた。
そのとき、日本に武装した密入国者が侵入する。彼らは日本の警備体制を知り尽くしており、シビュラシステムの監視を潜り抜けてテロ行為に及ぼうとしていた。シビュラシステム施行以後、前代未聞の密入国事件に、監視官・常守朱は公安局刑事課一係を率いて出動。その密入国者たちと対峙する。やがて、そのテロリストたちの侵入を手引きしているらしき人物が浮上する。その人物は── 公安局刑事課一係の執行官だった男。そして常守朱のかつての仲間。
朱は単身、シャンバラフロートへ捜査に向かう。自分が信じていた男の真意を知るために。
男の信じる正義を見定めるために。
キャスト
花澤香菜、野島健児、佐倉綾音、伊藤静、櫻井孝宏、沢城みゆき、東地宏樹、山路和弘、日高のり子、神谷浩史、石塚運昇、関智一
スタッフ
- 総監督:本広克行
- 監督:塩谷直義
- 脚本:虚淵玄(ニトロプラス)、深見真
- キャラクター原案:天野明
- キャラクターデザイン:恩田尚之、浅野恭司、青木康治
- 総作画監督:恩田尚之
- 色彩設計:上野詠美子
- 美術監督:草森秀一
- 3D監督:三村厚史
- 撮影監督:荒井栄児
- 編集:村上義典
- 音楽:菅野祐悟
- 音響監督:岩浪美和
- 主題歌:凛として時雨「Who What Who What」(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)
- アニメーション制作:Production I.G
- 制作:サイコパス製作委員会
- 配給:東宝映像事業部
虚淵玄(ウロブチゲン)
ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。PCゲーム「Phantom -PHANTOM OF INFERNO-」で企画、シナリオ、ディレクションを務めデビュー。「Fate/Zero」(原作小説)、アニメ「ブラスレイター」(シリーズ構成・脚本)、「魔法少女まどか☆マギカ」(シリーズ構成・脚本)、「楽園追放 -Expelled from Paradise-」(脚本)など代表作多数。
深見真(フカミマコト)
小説家、マンガ原作者。アニメの脚本を担当するのは「PSYCHO-PASS サイコパス」が初めて。同作のノベライズも執筆している。小説の代表作に「ヤングガン・カルナバル」シリーズをはじめ、「アフリカン・ゲーム・カートリッジズ」「GENEZ」「疾走する思春期のパラベラム」「シークレット・ハニー」など多数。
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