コミックナタリー PowerPush - 劇場版「PSYCHO-PASS サイコパス」

虚淵玄×深見真の脚本家対談 「理詰め」と「カオス」の相乗効果

残虐描写は塩谷監督、刑事モノのコツは本広総監督

──本広総監督や塩谷監督の持ち味をお二人が感じられたところは?

虚淵 塩谷監督に関しては、残虐描写でしょう(笑)。

深見 はははは(笑)。

──ああ、あのゴアなテイストは塩谷カラーなんですね。

虚淵 いやあ、あれは自分も、2期でシリーズ構成を務められた冲方(丁)さんも、風評被害を被ってる気が大いにしますね(笑)。

深見 自分も虚淵さんも残虐描写が好きだと思われているじゃないですか。でも残虐性の違いというか、方向性が塩谷監督とは違いますよね。

虚淵 たしかに! それは大いに違う。

深見 自分と虚淵さんでも残虐性の方向性は違うんですけど、塩谷監督はまた違うんですよね。メインスタッフの中では、本広総監督がたぶんいちばん残虐性に対して薄い人ですよね?

虚淵 うん。バランス感覚が高いんですよね。「ここは残虐性をアピールしなきゃ」という瞬間にはちゃんとタガは外すけど、何もそれがしたくてしているわけではない。塩谷監督は「よくあんな残虐描写を思いつくよなー」というレベルのことをやってくれるので。

映画冒頭は、画面の色合いを抑えたシーンが続く。

深見 本広総監督のカラーは、刑事モノとしての側面にあらわれているように思いますね。1期のときから、刑事モノをやるときのコツみたいなものは、よく教えていただきました。「画面の色合いを抑えないとダメ」とか。「それをやると刑事モノっぽくなくなる」というポイントのアドバイスがすごく的確なんですよ。

──ジャンルのツボを抑えてらっしゃるんですね。

深見 実績がすごいですからね。あと、「映画だったらこうしなきゃダメだ」みたいなことも、よく教えてくださいました。たとえば、映画の始まり方はこうじゃなきゃダメだよ、とか。最初の草稿から虚淵さんの改稿が入った段階まで、完成した劇場版と冒頭の展開が違いましたよね?

虚淵 そうでしたっけ?

深見 たしか本広総監督から、もっとミステリーっぽく始められないか? と提案があったはずですよ。映画が始まってから2時間、お客さんを客席に座らせ続けるための謎を冒頭部で提示できないか、と。OPで「なんだこれは!?」と思わせないとダメなんだ、ということでした。

天野明のきらびやかな絵と地味な刑事モノの相互作用

──そうしたメジャーな感覚が、本作の人気に繋がっているのでしょうね。ほかにも、これほど本作が広い層に受け入れられるようになった理由を、おふたりはどう分析されていますか?

天野明による第1期のキャラクターイラスト。

虚淵 ひとつ大きいのは、キャラクター原案に天野明さんをひっぱりこんだ山本幸治プロデューサーの慧眼ですよね。正直、最初は浮くかなと思ったんですよ。でも、天野さんのきらびやかな絵と、地味な刑事モノと、相互作用で化けましたよね。あの天野さんのキャラクターの華やかさを、塩谷さんの演出のストイシズムで抑えこんだがゆえの爆発力があった。そこを山本さんが狙ったんだとしたら、すごいなと思いますよ。

深見 自分はスーツと天野さんの絵は相性がいいと思っていたんですよ。「家庭教師ヒットマンREBORN!」も「ジュブナイル向けマフィアもの」で、魅力的なスーツ姿を描かれていましたからね。人気の理由で、自分としては音楽の魅力も大きかったと思うんですよね。

虚淵 たしかに。アレは渋い。

深見 たぶん、「PSYCHO-PASS サイコパス」の後からだと思うんですけど、アニメで菅野祐悟さんの名前をすごくお見かけするようになって。

虚淵 だってカッコいいもん!(笑)

深見 サントラをいただいたんですけど、ドミネーターを使用するときの曲とか、繰り返し聞いちゃいますよね。

広がる「PSYCHO-PASS サイコパス」の世界

──続編やスピンオフも盛り上がっています。

虚淵 特に外伝小説の展開は本当に幅広く展開が広がっているので、そういうところは嬉しいですよね。

深見 今、自分も1冊書いているところです。

虚淵 結構、世界観そのものがどんどん増殖していく感じが「PSYCHO-PASS サイコパス」はうれしいなと思っています。

「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」より、常守朱。

深見 刑事モノとしての骨組みがあるからですよね。公安局という舞台がしっかりしているので。

虚淵 ここまで応用が効く舞台になるとは想定外でしたね。

深見 でも虚淵さん、最初に言ってましたよ。広がりやすいように作ったって。

虚淵 それにしたって広がりすぎ(笑)。ここまで広がるとは、というのはありますよ。自分の想像力を超えた場所にたどり着いてくれているのはうれしいですよね。

深見 ゲームも出ますしね。機種がXboxOneというのが、これまたすごい。

虚淵 本当に、別につまらない作品を作ろうと思ったわけではないですけど、1期がそんなに評価していただけると思いませんでしたし、それがシリーズ化するなんて、驚きというか、本当に幸いでした。

──では最後に劇場版の見どころを。

深見 自分としては、脚本の段階からかなりアクションにはこだわりました。そこを楽しみにしていただけると嬉しいです。

虚淵 劇場版は、見せ場を1カ所に絞るのではなく、分散させたつくりになっています。幕の内弁当っぽさがあるというか。そんなところを楽しんでもらえたらうれしいです。

──ありがとうございました!

劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス / 2015年1月9日(金)全国公開 R15+指定
劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス / 2015年1月9日(金)全国公開 R15+指定

世界は禁断の平和(システム)に手を伸ばす。2116年──常守朱が厚生省公安局刑事課に配属されて約4年が過ぎた。日本政府はついに世界へシビュラシステムとドローンの輸出を開始する。長期の内戦状態下にあったSEAUn(東南アジア連合 / シーアン)のハン議長は、首都シャンバラフロートにシビュラシステムを採用。銃弾が飛び交う紛争地帯の中心部にありながらも、海上都市シャンバラフロートはつかの間の平和を手に入れることに成功した。シビュラシステムの実験は上手くいっている──ように見えた。

そのとき、日本に武装した密入国者が侵入する。彼らは日本の警備体制を知り尽くしており、シビュラシステムの監視を潜り抜けてテロ行為に及ぼうとしていた。シビュラシステム施行以後、前代未聞の密入国事件に、監視官・常守朱は公安局刑事課一係を率いて出動。その密入国者たちと対峙する。やがて、そのテロリストたちの侵入を手引きしているらしき人物が浮上する。その人物は── 公安局刑事課一係の執行官だった男。そして常守朱のかつての仲間。

朱は単身、シャンバラフロートへ捜査に向かう。自分が信じていた男の真意を知るために。
男の信じる正義を見定めるために。

キャスト

花澤香菜、野島健児、佐倉綾音、伊藤静、櫻井孝宏、沢城みゆき、東地宏樹、山路和弘、日高のり子、神谷浩史、石塚運昇、関智一

スタッフ
  • 総監督:本広克行
  • 監督:塩谷直義
  • 脚本:虚淵玄(ニトロプラス)、深見真
  • キャラクター原案:天野明
  • キャラクターデザイン:恩田尚之、浅野恭司、青木康治
  • 総作画監督:恩田尚之
  • 色彩設計:上野詠美子
  • 美術監督:草森秀一
  • 3D監督:三村厚史
  • 撮影監督:荒井栄児
  • 編集:村上義典
  • 音楽:菅野祐悟
  • 音響監督:岩浪美和
  • 主題歌:凛として時雨「Who What Who What」(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)
  • アニメーション制作:Production I.G
  • 制作:サイコパス製作委員会
  • 配給:東宝映像事業部
虚淵玄(ウロブチゲン)

ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。PCゲーム「Phantom -PHANTOM OF INFERNO-」で企画、シナリオ、ディレクションを務めデビュー。「Fate/Zero」(原作小説)、アニメ「ブラスレイター」(シリーズ構成・脚本)、「魔法少女まどか☆マギカ」(シリーズ構成・脚本)、「楽園追放 -Expelled from Paradise-」(脚本)など代表作多数。

深見真(フカミマコト)

小説家、マンガ原作者。アニメの脚本を担当するのは「PSYCHO-PASS サイコパス」が初めて。同作のノベライズも執筆している。小説の代表作に「ヤングガン・カルナバル」シリーズをはじめ、「アフリカン・ゲーム・カートリッジズ」「GENEZ」「疾走する思春期のパラベラム」「シークレット・ハニー」など多数。