コミックナタリー Power Push - 「ベルセルク」
“マンガに生きる” 三浦建太郎と鳥嶋和彦が大放談
僕は不自由な人、羽ばたけない人のためにマンガを作りたい(鳥嶋)
三浦 こうしてお話をして思うのは、やはり鳥嶋さんは言葉を大切にする方なんですね。
鳥嶋 もちろん。編集者というのは言うなれば、首から上の仕事なんですよね。目で見て、耳で聞いて、口で話すのが編集者だと。そして心は表現するものであって、確認するものではない。
──鳥嶋社長がジャンプで仕事されていた頃と今とで、編集者の印象は変わりますか?
鳥嶋 単純にレベルが低くなってきているかなあ……。
三浦 今のネット社会で生きている若者と、それがなかった時代の若者とでは印象は違いますか?
鳥嶋 それは「何かが増えるということは、豊かさに繋がるか?」という問題に関係していますね。
三浦 僕としては「今が豊かか?」と言われたら疑問ですね。
鳥嶋 簡単に言ってしまえば「空腹は最高の調味料」なんです。情報に関しても同じこと。
三浦 けれども今はそういった人たちがマンガの読者となるわけですよね。
鳥嶋 そこがまず考えるべきところで、本当にその人たちは僕たちにとってのお客だろうか?
三浦 違うんですか?
鳥嶋 ……じゃあ、三浦先生は誰のためにマンガを描いていますか?
三浦 僕の個人的なことを言えば、「自分に似た誰か」です。僕の感性の届く範囲までしか、僕のマンガは届かないと思うんです。高校時代の僕と似た感性を持つ人に届けたい。
鳥嶋 僕の定義とは違うけれど、とても正直な意見だと思います。僕が現場の編集者だったら、僕は不自由な人、羽ばたけない人のためにマンガを作りたい。フィクションの翼を与えることによって彼らを救いたい。それは僕自身が不自由だった子供の頃、言葉によって、本によって羽ばたくことができたから。
三浦 はあー……。やっぱり個人的な体験が元になってくるんですね。そういった個人的な思いを抜きにして、例えば「会社のため」「今の社会の人のため」にマンガを作る必要はないんですよね。
鳥嶋 まったく必要ないですよ。作家は考えなくていいけれど、編集者はそこも考えなくちゃいけない。
──ところで鳥嶋社長は、編集者に最も重要な能力とはなんだと思いますか?
鳥嶋 「人を愛する力」。客観的に人を見た上で、その人を愛せる力だね。そして編集者としての力はあるのに、どう使えばいいかわからない人もいる。そういった編集者は自分に対して臆することをせず「自分のやりたいことは自分にしかできない」と考えるべきだ。
三浦 僕の友人にもエゴイスティックなタイプなのに、そこが人間的な魅力に繋がっている人がいますね。
鳥嶋 その通りです。「自分が何をするべきか」というのは忘れちゃいけない。
「ベルセルク」は「つらい作品」(鳥嶋)
三浦 先ほどは13巻関連のお話がありましたが、「ベルセルク」全体の率直な感想をお聞きしてもいいですか?
鳥嶋 はっきり言ってしまえば、「つらい作品」ですね。さっきも言ったけど導入を間違えている。三浦先生はテーマを打ち出してから描くのが向いている作家なのに、引いたところからマンガを描いてしまっているので、そこがすごくつらい。そして色んなことを勉強してどんどんテーマを掘り下げるけれど、それをセリフで伝えきろうという強引さもある。僕が担当だったらセリフは5分の1にして、カット数は4分の1にするかな。何故なら三浦先生は絵の力以上に、言葉の力・セリフの力を持っている作家だから。もちろんあなたは絵が抜群に上手い! けれどもあなたの本当の力はセリフにこそある! セリフに愛があるんだ。きっとあなたは優しい人間なんでしょうね。
三浦 これは……恥ずかしいですね(笑)。
鳥嶋 お世辞じゃないですよ。それからキャラに関する展開が急ぎ過ぎかな。3分の1のスピードでようやく読者の視点になります。
三浦 死ぬまで終わらなさそうだ(笑)。
鳥嶋 それもいいんじゃないですか? 終わらなくちゃいけないなんてルールはないんだから。あなたの中にキャラクターの描きたいものがあり、そこに向かっていければそれでいいじゃない。
三浦 これは個人的な好みですが、僕はキャラも好きですが、怒涛のようなストーリーにも憧れていて、それを描きたいとも思ってしまうんです。
鳥嶋 それは錯覚というか、そのままキャラを描くことがストーリーに繋がると思いますね。それからもうひとつ、あなたは編集者としての視点を自分の中に抱えちゃダメです。あなたのような作家は心の中に編集者もいるから、自分に対して厳しい。担当編集者が気づかなくても、自分だからわかる問題点が見えてしまう。そして先に自分の作品を自分で切ってしまうところがあるんです。
三浦 なるほど……。今からそんな意識改革できるかな。
鳥嶋 できますよ。
三浦 確かに1話にギチギチに詰め込んでいるせいで筆が遅いというところもあるので、もっとゆっくりにしてもいいかもしれません。
鳥嶋 もっと言うと、背景はいらないです。
三浦 それはたまに自分でも思います(笑)。
鳥嶋 なぜなら人物のアップだけで十分に魅せる画力があるんだから。
三浦 もうちょっとマンガにしろってことですかねえ……。高校時代に衝撃を受けた、いろんなマンガへの憧れが入ってきてしまうんですよね。でも確かに、線一本で感じさせるほうが粋だということはわかります。
鳥嶋 引き算というのは頭がいるんです。足し算は時間があれば誰でもできる。あなたはもっと引き算をしたほうがいい。あとは性格がピュアで真面目すぎる。よくぞこの純粋さのまま、この年齢まで生きてこれましたね(笑)。
三浦 自分でもそう思いますね。今回の原稿から少しずつやってみます。これまでずっとスタイルを崩さずにマンガ家を続けてきて、そろそろ自分のサイズに合わなくなってきた気がしますし…。
鳥嶋 明らかに合ってないです。やりすぎて嫌味になってしまうくらいでいい。僕なんて大分嫌味な人間だよ? 僕が白泉社にいる間に一緒に嫌味になろう(笑)。
「僕の感情がすべて」と考えていた(三浦)
三浦 僕は他誌の持ち込みが上手くいかず、描きたいものがわからなくなったときに、「僕の描きたいものがすべて」「僕の感情がすべて」と考えたことがあります。
鳥嶋 推測にすぎないけれど、それはおそらく持ち込みを繰り返しているときに、他人に合わせようとしたんじゃないですか?
三浦 散々ありました。
鳥嶋 で、それがとことん一掃されたときに、相当な絶望感があったんじゃなかと。
三浦 一番困ったのは、編集者が拒絶するほど酷いというわけではないけれど、いじっているうちに訳がわからなくなってしまって……。
鳥嶋 それはきっと編集者が三浦先生に対する視点を持っていなかったんでしょうね。その編集者は感想を言っているうちに、前の自分が何を言ったのか覚えていない。それなのに権限を持っている。作家にとってはつらいパターンですね。
次のページ » 才能とは「檻の中の犬」(鳥嶋)
- 三浦建太郎「ベルセルク(38)」/ 発売中 / 626円 / 白泉社
- 「ベルセルク(38)」
- コミック
- Kindle版
変貌を遂げた世界で、安全な土地を求め旅に出たリッケルトとエリカは魔物に襲撃されたところを新生鷹の団に救われた!導かれるがままに辿り着いたのは白き鷹グリフィスが君臨する都ファルコニアだった。グリフィスと鷹の団への複雑な想いを胸に秘めたリッケルトは…。一方、海神の危機を脱したガッツ一行はキャスカの身の安全と、精神の回復の望みをかけパックの故郷、妖精島へ向かうのだった。
「ベルセルク」全巻のカバーデザインがリニューアル!
白泉社のジェッツコミックスが、ヤングアニマルコミックスとレーベル名を改めた。これに合わせ、「ベルセルク」全巻のカバーデザインがリニューアル。1巻の表紙イラストは旧版から変更され、三浦が物語初期のガッツを38巻と同じ構図で描き下ろした。
- 三浦建太郎「ベルセルク(1)」/ 発売中 / 626円 / 白泉社
- 「ベルセルク(38)」
- コミック
- Kindle版
テレビアニメ「ベルセルク」
MBS:2016年7月8日(金)毎週金曜26:40~
※初回のみ27:00~
TBS:2016年7月8日(金)毎週金曜26:25~
※初回のみ26:40~
CBC:2016年7月8日(金)毎週金曜27:16~
※初回のみ27:31~
BS-TBS:2016年7月9日(土)毎週土曜24:30~
WOWOW:2016年7月1日(金)毎週金曜22:30~
※再放送 翌週金曜22:00~
※放送日時は変更になる場合があります。
スタッフ
原作・総監修:三浦建太郎(スタジオ我画)(白泉社ヤングアニマル連載)
監督:板垣伸
シリーズ構成:深見真
シリーズ構成協力:山下卓
メインキャラクターデザイン:阿部恒
音楽:鷺巣詩郎
劇中歌:平沢進「灰よ」
制作:LIDENFILMS
アニメ制作:GEMBA/ミルパンセ
キャスト
岩永洋昭、水原薫、日笠陽子、興津和幸、下野紘、安元洋貴、行成とあ、沢城みゆき、高森奈津美、平川大輔、竹達彩奈、寿美菜子、稲垣隆史、中村悠一、石井康嗣、小山力也、櫻井孝宏、大塚明夫、石塚運昇
©三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/ベルセルク製作委員会
三浦建太郎(ミウラケンタロウ)
1966年7月11日千葉県生まれ。1985年週刊少年マガジン(講談社)にて「再び…」でデビュー。1988年、月刊コミコミ(白泉社)に読み切り作品「ベルセルク」を発表。翌年多少設定を変え連載を開始した。同時期に月刊アニマルハウス(白泉社)にて原作に武論尊を迎え「王狼」「王狼伝」「ジャパン」を立て続けに発表するが、以降は「ベルセルク」のみに注力。細部まで書き込まれた圧倒的画力、壮大なストーリー、異形の怪物と戦う姿が熱狂的なファンを生み、1997年にアニメ化、2002年には手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を獲得した。2012年から2013年にかけては劇場アニメ3部作が公開され、2016年7月より新作アニメがオンエアされている。
鳥嶋和彦(トリシマカズヒコ)
1976年、集英社に入社し週刊少年ジャンプ編集部に配属。鳥山明、桂正和ら多くのマンガ家を発掘し、数々の名作を世に送り出してきた。「ボツ!」が口癖の鬼の編集者としても有名。2015年に集英社専務取締役を退任し、白泉社代表取締役社長に就任する。