コミックナタリー Power Push - 「ベルセルク」

“マンガに生きる” 三浦建太郎と鳥嶋和彦が大放談

僕が担当だったなら絶対にやらせない!(鳥嶋)

「ベルセルク」10巻より。

鳥嶋 「ベルセルク」を読んで、僕が担当だったなら「絶対にやらせない!」というところがあります。10巻の、グリフィスがこれからどう上がっていくかというところで、シャルロットに手を出していとも簡単に堕ちていくところ。これは本当につらい!「三浦先生はここから作品をエスカレーションさせようとしているんだな、13巻への一連の流れが描きたいんだろうな、『デビルマン』(永井豪)のオマージュなんだろうな……」と伝わってきます。でも僕は「デビルマン」をリアルタイムで読んでいて、あの暴走は少年マンガとしてはまずいところに入ってしまったと思っていました。「ベルセルク」も、グリフィスが堕ちた時点で13巻の蝕に行きつくことが決まってしまったけれど、本来、キャラクターはそんなに簡単に堕としちゃいけないんですよ。

三浦 「ベルセルク」の場合、キャラができあがっていく順番があったんです。「黒い剣士・ガッツ」のイメージが最初に決まり、そのときにはまだ過去などはまったく決まっていなくて……。

鳥嶋 3巻まで読んでも、過去が何もわからなかったですからね(笑)。

三浦 初めての長期連載だったので、3巻までは「黒い剣士・ガッツ」をとにかく立てなければいけないと思って。そこで決まっていたことが、黒ずくめで怒っているということ。そして怒っているから復讐鬼で、復讐鬼だから大剣を持って腕に大砲がついている。3、4巻まではキャラクター性を前面に押し出し、それが終わってから復讐に至るまでの過去を考えよう……となりました。

鳥嶋 それならば逆に、3巻までの描き方を変えてもよかったんです。キャラ立てをするのならば、週刊連載だったら最初の3週目までにしなければならないからね。

三浦 今は本当にそうですよねえ……。

鳥嶋 僕だったら「主人公は何を目指すのか」「背景にはどんな過去があるのか」を作家とディスカッションしてから1話目を描いてもらう。持ち込みをした読み切りがよくても、それを分解してディスカッションしてから改めて第1話を作る。それは編集者の仕事なんです。

三浦 それが……当時は持ち込みをした雑誌が廃刊寸前で、担当さんもほかの部署に異動してしまったんですね。だから初めは、白泉社さんと関係のない人のアシスタントに連れていかれたりして。

鳥嶋 えっ! 誰?

「ベルセルク」13巻より。

三浦 誰だったか覚えていないんです(笑)。そのままいなくなってしまった新人さんだったので。そしてそこからまた何度か担当が変わり、バタバタしているうちに最初の担当さんに行き着いたんです。よく鳥嶋さんが接するみたいに、作家はダメ出しをたくさんされることで成長するとも言われますが、僕はデビューしてすぐ連載できてしまったので、ダメ出しをされたことが少ないんですよね。……あ、でも白泉社の前に4年くらい少年誌に持ち込みをしていたので、そこで散々ダメ出しされていました(笑)。

鳥嶋 その雑誌ではどうしてダメだったんですか?

三浦 僕に地力がなかったのも当然ですが、それを差し引いて言いますと、SFやファンタジーというジャンルを載せる意図がなかったんです。

鳥嶋 確かあの頃は、あだち充旋風が吹き荒れていた時代で、少年マンガの勢いはサンデーにありましたね。あだち先生の影響を受けてマンガ界はラブコメ全盛期で、だからといってジャンプがラブコメでサンデーに対抗するのはどうかという話になって……。そして生まれたのが「北斗の拳」です。

「ベルセルク」16巻より。

三浦 へえー。でも僕の中で「北斗の拳」は、マンガ界でどっしり中心にありますよ。読んでいた当時、ケンシロウの拳が、実際に画面のこちら側に出てくるようなところが衝撃的でした。だから「ベルセルク」で同じことをするにはどうすればいいのだろうかと、連載当初すごく悩んでいましたね。「北斗の拳」の拳と異なり、剣だと造形上どうしても「線」になってしまうので、同じような迫力が出せないんです。だから拳の代わりに斬られた人間を吹っ飛ばして回転させて、それで飛び出す効果を出してみたんです。

少年マンガと青年マンガの違いは「苦さ」(鳥嶋)

──三浦先生はジャンプに持ち込みをしたことはありますか?

三浦 ないですねえ。怖かったから(笑)。

鳥嶋 うーん。怖かったろうなあ……。

三浦 おっかないです。週刊連載を求める猛者たちがジャンプに持ち込みをするわけじゃないですか。とてもじゃないけど敵わないと思った。

鳥嶋 でもそこで勝てば、マンガ界のトップに立てるじゃない。

三浦 そうなんですよね……。実際そういう場所でしたし。でもそんな器じゃなかったんですよ。

「ベルセルク」第344話より。

鳥嶋 いやあ、戦えたと思いますよ。

三浦 戦えたかなあ……。

鳥嶋 僕に会えればね! 世代的にも同じですし(笑)。

三浦 タイムマシンで戻るかあ(笑)。いや、あの頃本当か嘘か分からないような、おっかない噂をいろいろ聞いたんですよ。

鳥嶋 週刊連載だから相当ハードだったことは確かですね。人が倒れたりもするだろうし。

三浦 僕から言うと、あの頃のマンガ家は皆さん超人なんですよ。才能を持っている方々が、さらに無茶をして週刊連載をしているようなイメージで。

鳥嶋 確かに当時、ジャンプで休載っていうのはなかったですね。さらに「ジャンプ愛読者賞」という企画もあって、連載をやりながら読み切りまで描いていた。掲載の順番はくじ引きで決めるんですが、当時新人だった鳥山明くんに「1番手さえ引かなければ(執筆時間が取れるので)大丈夫」って言ったら、見事に1週目を引いちゃって……その年はお正月休みがなくなった!

──その頃のマンガはデジタルもなく、今より遥かにハードだという印象があります。

鳥嶋 だからこそあの頃のマンガは、追い込まれて描く分レベルが高くなる。例えば2日でネームが描けるっていうのも、当時にしては特に速くない。さらに言うなら、2日で描くのも4日で描くのも、実は中身に大差はない。違いは何かと言えば、それは決断の差。クイズでもよくあることで、3択問題は選ぶときに迷うから間違える。逆にパッと浮かんだ答えが正解であることのほうが多いんです。そして作家が迷っているときに、編集者も一緒に迷ってはいけない。編集者にとって大事なことは、そのときの素材を見て、どう調理するか考えること。要するに、使える場所と使えない場所の見極めが大切。打ち合わせとは描くことを整理することで、1つでも印象に残ったコマがあれば、それをどう使うかを考える。読者アンケートだって、言ってしまえば「どの作品が好きか」ではなく「どの作品が印象に残ったか」を調べるためにあるんですよ。

三浦 そうなんですか! ところで当時のジャンプ編集部では「新人マンガ家を育てるための秘伝!」みたいな共有知識はありましたか?

鳥嶋 なかったですねえ。ただ僕が副編集長になったときに初めて、今に至るジャンプの教材を作ったんです。編集者のレベルがあまりにもバラバラだったから。感想を言えばいいと思っていた編集者が山ほどいたけれど、それだとマンガ家は伸びない。そしてどこが良くて、どこがダメで、どう直せばいいのか整理するためには、まず編集者がマンガの文法を知らなくちゃいけないんです。

三浦 ところでジャンプは少年マンガでアニマルは青年マンガですが、編集の工程に違いはありますか?

「ベルセルク」17巻より。

鳥嶋 ありません! 少年マンガと青年マンガのたった1点の違いは「苦さ」。人間の味覚の進化には甘さと苦さの2種類があって、苦さがあると一気に文化が複雑になる。けれども少年マンガには苦さがない。

三浦 青年マンガに持ち込みをしてくる新人マンガ家の中で、その苦さを理解できている方はどれくらいいますか?

鳥嶋 それ以前に苦さを理解している編集者がいなければ、マンガ家がいくら来てもダメなんです。僕は今、白泉社で40歳未満の社員を相手に塾をしています。部署も年齢もバラバラの4人を1組のチームにして、「あなたが社長になったら」「あなたが編集長になったら」の2択でプレゼンをしてもらう。そしてそのプレゼンについて4人と僕とでディスカッションをする。それが「鳥嶋塾」。1チーム2時間で3ローテーションしてやることになっています。そんな中からいろんな意見を持つ人材が育てばいいなと思ってます。

三浦 意見の多様性はマンガ作りに繋がりますもんね。少年マンガは特に表面的な価値観に揺らいでしまいがちなので。

鳥嶋 そう、だから僕は毎回冒頭に「言葉にして人に説明することで、初めて自分が何を考えているのか、どうすればいいのかわかる」ことが目的だと説明しています。そして「人の話を聞くことによって、初めて自分がどこにいるのかわかる」とも。

三浦 たまに、僕みたいにある程度マンガ歴がある人間が、何か新人マンガ家に教えられることはないだろうかと考えるんですよ。

鳥嶋 それはメソッドじゃないかな。教本を作ってあげること。

三浦建太郎「ベルセルク(38)」/ 発売中 / 626円 / 白泉社
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変貌を遂げた世界で、安全な土地を求め旅に出たリッケルトとエリカは魔物に襲撃されたところを新生鷹の団に救われた!導かれるがままに辿り着いたのは白き鷹グリフィスが君臨する都ファルコニアだった。グリフィスと鷹の団への複雑な想いを胸に秘めたリッケルトは…。一方、海神の危機を脱したガッツ一行はキャスカの身の安全と、精神の回復の望みをかけパックの故郷、妖精島へ向かうのだった。

「ベルセルク」全巻のカバーデザインがリニューアル!

白泉社のジェッツコミックスが、ヤングアニマルコミックスとレーベル名を改めた。これに合わせ、「ベルセルク」全巻のカバーデザインがリニューアル。1巻の表紙イラストは旧版から変更され、三浦が物語初期のガッツを38巻と同じ構図で描き下ろした。

三浦建太郎「ベルセルク(1)」/ 発売中 / 626円 / 白泉社
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Kindle版

テレビアニメ「ベルセルク」

アニメ「ベルセルク」公式サイト

MBS:2016年7月8日(金)毎週金曜26:40~
※初回のみ27:00~

TBS:2016年7月8日(金)毎週金曜26:25~
※初回のみ26:40~

CBC:2016年7月8日(金)毎週金曜27:16~
※初回のみ27:31~

BS-TBS:2016年7月9日(土)毎週土曜24:30~

WOWOW:2016年7月1日(金)毎週金曜22:30~
※再放送 翌週金曜22:00~

※放送日時は変更になる場合があります。

スタッフ

原作・総監修:三浦建太郎(スタジオ我画)(白泉社ヤングアニマル連載)

監督:板垣伸

シリーズ構成:深見真

シリーズ構成協力:山下卓

メインキャラクターデザイン:阿部恒

音楽:鷺巣詩郎

劇中歌:平沢進「灰よ」

制作:LIDENFILMS

アニメ制作:GEMBA/ミルパンセ

キャスト

岩永洋昭、水原薫、日笠陽子、興津和幸、下野紘、安元洋貴、行成とあ、沢城みゆき、高森奈津美、平川大輔、竹達彩奈、寿美菜子、稲垣隆史、中村悠一、石井康嗣、小山力也、櫻井孝宏、大塚明夫、石塚運昇

三浦建太郎(ミウラケンタロウ)

1966年7月11日千葉県生まれ。1985年週刊少年マガジン(講談社)にて「再び…」でデビュー。1988年、月刊コミコミ(白泉社)に読み切り作品「ベルセルク」を発表。翌年多少設定を変え連載を開始した。同時期に月刊アニマルハウス(白泉社)にて原作に武論尊を迎え「王狼」「王狼伝」「ジャパン」を立て続けに発表するが、以降は「ベルセルク」のみに注力。細部まで書き込まれた圧倒的画力、壮大なストーリー、異形の怪物と戦う姿が熱狂的なファンを生み、1997年にアニメ化、2002年には手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を獲得した。2012年から2013年にかけては劇場アニメ3部作が公開され、2016年7月より新作アニメがオンエアされている。

鳥嶋和彦(トリシマカズヒコ)

1976年、集英社に入社し週刊少年ジャンプ編集部に配属。鳥山明、桂正和ら多くのマンガ家を発掘し、数々の名作を世に送り出してきた。「ボツ!」が口癖の鬼の編集者としても有名。2015年に集英社専務取締役を退任し、白泉社代表取締役社長に就任する。