「くだらないなあ」と笑って、元気になってもらえたら
松たか子
コントは無理だと、逃げていました
実は前にも松尾さんにお声がけいただいたことがあって、でも「私は面白いことができないから無理です」とずっと逃げていたんです。それで、「(2021年に上演された)『パ・ラパパンパン』をがんばるので勘弁してください」とお願いして「パ・ラパパンパン」をがんばったんですけど、またお話をいただいて……。松尾さんが、「無理に面白いことをやらなくても、そのままやれば面白いように脚本を作るから大丈夫」と言ってくださったので、もう逃げる理由がなくなってしまいました(笑)。でもやってよかったと思います。どのエピソードも松尾さんが大活躍だし、大人計画の皆さんや「パ・ラパパンパン」で共演したオクイシュージさんともまたご一緒できて楽しかったですね。この作品が今年の初仕事だったので、すごくがんばれそうな気がします(笑)。
6作品のうち、特に印象に残っているのは「WOWOWニュースサテライト・アンド・シングルファーザー」。普通に緊張し、普通に笑っちゃいましたね。でもできあがった映像を観たら、ニュースキャスターのようにカメラの動きに合わせて目線を変えながら話せていなかったことがわかり、反省しました。あと、リハーサルの時点ではテキパキした感じで話していたのですが、松尾さんに「もうちょっとのんびり話す感じで」と言われて、自分としては安藤優子さんから滝川クリステルさんにイメージを切り替えて、語尾を切なくすることを意識しながらしゃべってみました。その点だけ、唯一役作りしましたね(笑)。
松尾さんと夫婦役を演じた「タイムスリップ両親」は、本当に一生懸命やりました! 一生懸命すぎてセリフを一瞬忘れちゃって、「あ!」って言ってるのもそのまま映像で使われていました(笑)。娘役の三葉虫マーチさんが何をやっても笑わない方で、それが逆に良かったなと。本当に何をやってもびくともしないので、「この人、こんなに揺るがないんだ!」と、改めて自分の役割に立ち返らせてもらいました。
とにかく必死でやろうとがんばった
笑いは面白いものであると同時に、怖いものだという思いがあったので、簡単に足を踏み入れてはいけない領域という感じがしていました。テレビドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」のときも、みんな別に“面白くやろう”とはしてなくて、ただしゃべっていただけ……あ、角田(晃広)さんは面白くしようとしてたかもしれませんけど(笑)。特に松尾さんは「面白くする、笑わせる」と言いつつ、必ず毒もあるものを作り続けている方だから、私がそこにうまく入れるのかなという思いがありました。でも、必死にやる姿を面白いと思ってもらえるならば、とにかく必死にやろうと。幸い現場には松尾さんもずっといらっしゃったので、ちょっとしたテンポやテンションをすぐ見ていただけたり、松尾さんや監督がおっしゃったことをすぐ試すこともできたので、「ああ、こうしたほうが面白いのか」と勉強になりました。
松尾作品に感じる愛情
私が「好きだな」と思う方たちは皆さん、優しかったりシャイだったりする一方で、すごく冷めた目線も持っているところが共通しています。そういう人たちが私は好きだし、信頼できるなと思います。これまでの「松尾スズキと30分の女優」に出演された女優さんたちが皆さん本気で馬鹿げたことをやっているのも、やっぱり松尾さんあってのこと。このシリーズは松尾さんとスタッフの方との意気も合っているし、信頼関係もできていて、バランスの良い現場だと感じました。そういう場所で一生懸命がんばるという点では、私が普段やっていることとあまり変わりがありませんし、コントに見えているかどうかはわからないのですけれど(笑)、自分なりのやり方でやり切った、という思いはあります。
それに、こういった作品に作り手が時間を割くことができるのは最高ですよね。番組をご覧になった方には「くだらないなあ」と笑ったり、「こいつらよりマシか」と感じて元気になってもらえたら。そういう愛情が松尾さんの作品にはあふれていると思うので……。コントは最初で最後のつもりですけど(笑)、いつかまた松尾さんが書かれたものに出られたらうれしいなと思っています。
プロフィール
松たか子(マツタカコ)
1977年6月10日生まれ、東京都出身。1993年に舞台「人情噺文七元結」で俳優デビュー。ドラマ、映画、舞台など多くの作品に出演しているほか、歌手としても活動。主な映画出演作には「四月物語」「告白」「小さいおうち」「アナと雪の女王」などがあり「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~」で第33回日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞した。また近年の主な舞台出演作にNODA・MAP「Q: A Night At The Kabuki」、「イヌビト~犬人~」、COCOON PRODUCTION 2021+大人計画「パ・ラパパンパン」など。6月から8月にかけてNODA・MAP「兎、波を走る」に出演する。
「いつか呼ばれるかな」と期待していました
長澤まさみ
台本を自分なりに解釈し、臨んだ
この番組のことは知っていて、「いつか呼ばれるかな」って期待していたので、うれしかったです。これまでの女優さんたちの回をすべて観られたわけではないんですけど、麻生久美子さんの回は、一生懸命な役を演じている麻生さんがすごく可愛いですよね(笑)。今回私はどういう役をやらせてもらえるのかなと想像して、「早く台本が来ないかな」と楽しみにしていました。
台本を読んで、まずは「センタア飯店」がキャッチーで面白いなと思いました。とある飲食店で松尾さんと私が演じる夫婦が架空の言語をしゃべるんですけど、例えばセリフの中に「ッ」が2つ入っていたりするんです。それはなぜなのかを自分なりに解釈して、自分で役を作ってほしいというのが松尾さんのやり方。なので私も「こう読んだら面白いかな?」と、自分が気持ち良かったり、面白いと感じた音を探って練習していきました。
ストーリー仕立てのコントに惹かれる
演じたうえで一番のお気に入りは、「老紳士を捨てる」です。老紳士を飼っていた女性が、結婚を機に老紳士を捨てる、というドラマ仕立ての作品で、できあがった映像を観ながらゲラゲラ笑いました。印象に残っているのは、恐竜をコンセプトにした喫茶店が舞台の「恐竜最後の日」。実は撮影前に、恐竜の動きを研究している人たちのYouTubeを見て、その人たちの動きを真似させていただきました。この話では私がコンテンポラリーダンスのダンサーという設定だったので、ちょっとだけ踊るシーンもあるのですが、振付の方はいなかったので、自分なりに考えて臨みました。そうしたら撮影後にSNSで偶然、面白いダンス動画を見つけてしまって、「ああ、これもできたなあ!」と思ったりしました。道に寝転んで、野良の“キャッツ”を捕獲する「野良キャッツ、捕獲女」は、すごく寒い日に撮影したんです。床はコンクリートで痛いし冷たいし、難しかったですね。また、じゃれあう部長と課長を横目で見つめる「居心地最高」は一発撮りで、一気に集中力を高めて出し尽くす感じであっという間に撮影が終わってしまいました。
4作品とも全部面白かったのですが、やっぱり私はストーリー仕立てのコントのほうが好きだなと思いました。今回もコントだからといって特に意識はせず、映画やドラマと同じように準備しました。ただコントって、そのときに感じて出したものが大切というか、やりすぎたり練習しすぎたりすると新鮮味がなくなって面白くなくなるんですよね。その点で、やっぱりコントは深いなと思います。
松尾さんとの関係性があってこそ
松尾さんの作品には、基本的にとても普遍的なことが描かれていると思います。一見するとよくわからないところもあるかもしれませんが、寂しかったり、可哀想だったり、痛そうだったり、影を負っていたりする役柄がすごくポップに描かれるので、噛めば噛むほど味が出てくるじゃないですけど(笑)、ジーンときてしまう。そこが魅力的だなと思います。
演出家としての松尾さんは、当たり前ですけど真面目に厳しい方です。だからこそ、本番前に用意をしておかないとダメだし、緊張感も大事だと思います。一方で共演者としての松尾さんは、松尾さんにしかできないようなキャラクターがあって……“松尾さんが演じる、松尾さんの世界観をまとった松尾さん”になっているのが個性的で面白いですね(笑)。
今回は、これまでの松尾さんとの関係性があったからこそできた、という感じがしています。安心して現場に行けたし、思い切り「こうやりたい」と思って、落ち着いて取り組むことができました。次にもしまた松尾さんとお仕事ご一緒できるなら……今度は舞台がいいですね。
プロフィール
長澤まさみ(ナガサワマサミ)
1987年、静岡県生まれ。2000年に第5回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞。2003年公開「ロボコン」で映画初主演を飾る。翌年の「世界の中心で、愛をさけぶ」では、第28回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など数々の賞を受賞した。主な映画出演作に「モテキ」「海街diary」「50回目のファーストキス」「コンフィデンスマンJP」シリーズ、「MOTHER マザー」「すばらしき世界」「マスカレード・ナイト」「シン・ウルトラマン」など。近年の舞台出演作に「新感線☆RS『メタルマクベス』disc3」、ミュージカル「キャバレー」、「フリムンシスターズ」、NODA・MAP「THE BEE」など。映画「ロストケア」が3月24日に公開。