WOWOW「劇場の灯を消すな!PARCO劇場編」|劇場の歴史と未来を体感、裏テーマは“三谷幸喜を探せ!”

演劇ジャーナリスト・徳永京子が語る、PARCO劇場

「劇場の灯を消すな!」シリーズでは、演劇ジャーナリスト・徳永京子がオフィシャルライターを務める。徳永から見た“演劇界におけるPARCO劇場”、そして今回の放送の見どころとは?

PARCO劇場の前身は1973年に開場した西武劇場です。小説家・詩人としても知られた実業家の堤清二さんが、当時は人通りも少なかったと言われる、駅から距離のある坂道の上にファッションビルを建て、その中に西武劇場が作られました。百貨店ではなくファッションビルという点で新しかったわけですが、堤さんは当時、ファッションを入り口に若い世代にアプローチし、日本の文化度全体を引き上げようとしていたと思います。その筆頭に演劇があり、西武劇場がつくられた。その後、1976年にPARCO西武劇場、1985年にPARCO劇場に改称されました。

日本の演劇は、ここ10年くらい公共劇場が存在感を示すようになりましたが、それ以前は、民間の劇場がシーンをリードしていました。さらにその前は、劇団が自前のアトリエを作ったり、市民会館などを“箱”として借りて公演を打っていましたが、1970年代から2000年くらいまで、つまりアングラや小劇場ブームなど、演劇が若者の文化となり、社会からの注目度も経済市場的にも成長した時期と重なり、それを支えたのが、西武劇場 / PARCO劇場の歴史です。西武劇場 / PARCO劇場は劇場主体で作品をプロデュースし、さまざまな劇団と提携公演も進めました。今、それは劇場にとって当然の活動ですが、当初は画期的だったはずで、それによって劇団や俳優、劇作家、演出家の知名度が上がり、しかも、格好いい存在というイメージもついたんです。

「“on the Road to~”」より。渡辺謙。

西武劇場 / PARCO劇場が演劇をプロデュースするようになって、日本の演劇は圧倒的におしゃれなものになりました。それは堤さんの美意識が大きく影響していると思いますが、例えば今、PARCO劇場の公式サイトに掲載されているアーカイブを見ても、オープン当時のポスターがまったく古びていないんですよね。最近、1964年の東京オリンピックのポスターやサイネージなどのデザインが第2回よりずっと優れていたと話題になりましたが、60年代に洗練が始まった日本のグラフィックデザインが70年代に充実していく、その実例が演劇のポスターで確認できます。演目的にも、細川俊之さんと木の実ナナさんの「ショーガール」のように、洒落た、軽やかな、余裕のあるものを演劇の一面として、具体的な作品で広めたのはPARCO劇場です。

それともう1つ大事なことは、西武劇場 / PARCO劇場のすぐ近くに渋谷ジァン・ジァンがあったこと(編集注:渋谷の東京山手教会の地下に1969年から2000年まであった小劇場。現在はCafé Miyama 渋谷公園通り店と、ライブハウス・公園通りクラシックスになっている)。ジァン・ジァンでは初期の劇団東京乾電池や、“ジーパンを履いたシェイクスピア”として人気を博した劇団シェイクスピアシアターなど、さまざまな作り手が才能を競い合っていて、西武劇場 / PARCO劇場とジァン・ジァンが作っていた公園通りのラインは、日本の演劇界の重要な種まきと収穫をもたらしていたと思います。

そんなPARCO劇場が2016年に渋谷PARCOの建替えに伴い休館し、2020年1月24日に新開場しました。長い休館期間があってようやくの再始動という矢先で、オープニング・シリーズの1作目「ピサロ」と2作目「佐渡島他吉の生涯」が新型コロナウイルスの影響によって公演日程の変更や中止に見舞われました。劇場の方はもちろん、オープニング・シリーズに関わっていたキャスト、スタッフの落胆を思うと本当に胸が痛みます。もちろんコロナによって数え切れないほどのカンパニーの方たちが傷ついていますが、準備に準備を重ねていたPARCO劇場の悔しさは想像に難くありません。ただPARCO劇場がすごいのは、3年強の休館期間も、場所を変えつつ積極的にPARCOプロデュースの公演を行っていたことで、休館期間中、いっときもプロデュース集団としての筋肉を休めなかったんですよね。だからこそ、コロナで公演が中止や公演日程が変更になってもいたずらに後ろ向きにならず、フレキシブルな対応ができているはずです。

「“on the Road to~”」より。左から渡辺謙、藤井隆。

「劇場の灯を消すな!」シリーズは今回が最終回となります。“舞台は生が一番”という大きな前提があり、それは確かに事実で、「テレビ中継や編集されて放送されたもので舞台を判断しないでほしい」と考えている作り手の方は依然として多いと思います。WOWOWさんは、そう言われる対象であるはずなのに、いち早く「劇場の灯を消すな!」と言ってくれた。それは非常にありがたいし、個人的にはとても驚きました。劇場や演劇人がそう声を上げるのは、ある意味当たり前ですし、「We Need Culture」の運動のように、不要不急と言われてしまった文化芸術のジャンル同士が手を結ぶのもわかります。でも、放送という異なるメディアの人からストレートに「劇場の灯を消すな!」という声をいただいたことは、とても意義深い。WOWOWさんは「勝手に演劇大賞」の開催など、これまでも演劇を大事にしてくれていますが、今回のシリーズでは1つひとつの劇場に深く入り込み、その劇場と関係性の深いクリエイターのアイデアや思いを十二分に尊重した番組作りをしてくれました。参加したクリエイターたちもとても伸び伸びと関わっていたことが、コロナ禍での数少ない、ポジティブな出来事だったと思っています。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。


2020年10月23日更新