3カ月にわたってWOWOWライブで放送されてきた「宮藤官九郎ウーマンリブシリーズ3カ月連続大特集」が8月28日にフィナーレを迎える。ステージナタリーでは、ウーマンリブシリーズの特集放送に合わせて毎月3作品ずつをピックアップし、各作品の見どころを紹介してきた。
8月28日にオンエアされるのは「ウーマンリブ発射!」「キラークイーン666」「『轟天VS港カヲル』~ドラゴンロック!女たちよ、俺を愛してきれいになあれ~」の3つ。シリーズ最終回となる今回の特集では、宮藤が“自分自身を痛めつけた”という3作品の誕生秘話が明かされる。
構成 / 興野汐里
裏テーマは“自分自身を痛めつける”!?
宮藤官九郎が語る、「ウーマンリブ発射!」「キラークイーン666」「轟天VS港カヲル」誕生秘話
──1999年に上演された「ウーマンリブ発射!」では、当時の宮藤さんの“やりたいこと”がたっぷり詰まったカオスなお話が展開され、同時に作家としての葛藤が描かれている印象を受けました。
見返すと、かなり支離滅裂ですが、実は稽古初日には台本ができていました。めちゃめちゃノリノリで書いたし、まったくブレてなかったので、書いている精神状態と作品の完成度は、必ずしも比例しないんだなと、思います。
思い入れの深いシーン……なんか、大堀こういちさんが、荒川(良々)くんにツッコむシーンで「もっと来い! もっと来い!」と言いながら、自分のひじで自分の肋骨を強打しすぎて、あばら骨にヒビが入ったのを覚えています。あと、これはウーマンリブでは毎度のことですが、稽古しすぎて役者がどんどん疲弊していくのがわかりました。ちなみに、これの本番中に「池袋ウエストゲートパーク」の脚本依頼が来ました。確か。
──型破りなストーリーが魅力の「キラークイーン666」(2001年上演)にはシンガーソングライターの白井貴子さんがご本人役で出演されています。
型破りに見えますが、これも実はまったく悩まずに書き切った作品なので、やっぱり少しは悩んだり煮詰まったりしたほうが、客観的になり、完成度は上がるんだな、と思います。「デトロイト・ロック・シティ」という、高校生がKISSのライブを観に行く、だけのロードムービーがあるのですが、これを日本に置き換えて、白井貴子さんのライブを観に行こうとした、だけなのに、ニセ白井貴子が現れ邪魔する、みたいな物語を発想したんだと思います。確か。
思い入れのあるシーン。ド頭の、荒川くんと夫婦役のコントは、たまに夢に出てきます。猫背(椿)さんと右近(健一)さんのヤンキーの歌は、「CHEMISTRYみたいに唄ってくれ」と言ったような。あとは「白」「井」「貴」「子」のバックダンサーのシーンは、「パチンコ伊勢志摩」と並んで、僕の最高傑作だと思います。
ちなみに、この作品の初日に映画「GO」が公開され、これが終わってすぐ「木更津キャッツアイ」の撮影だったと記憶しています。
──2004年に上演された「『轟天VS港カヲル』~ドラゴンロック!女たちよ、俺を愛してきれいになあれ~」では、劇団☆新感線の人気シリーズ「直撃!ドラゴンロック」に登場するキャラクター・剣轟天(橋本じゅん)と、グループ魂の港カヲル(皆川猿時)がコラボレートしました。宮藤さんは剣轟天の大ファンだそうですが、剣轟天と港カヲルが対決するというアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?
港カヲルというキャラクターを与えられたことで皆川くんが舞台上で解き放たれる瞬間があり、「今なら、俺の大好きな轟天にも勝てるんじゃないか?」という、ゴジラ対メカゴジラみたいな発想です。筋肉対贅肉。いのうえひでのりさんの創造物である轟天と、俺の創造物である港カヲルの対決が観たかったんだと思います。ただ、轟天をやるためには体を絞らなくてはならない、という、じゅんさん独自のこだわりと、皆川くんが追い詰められて日に日に痩せていく、というアクシデントがありました。この公演がなければ「君にジュースを買ってあげる♥」は生まれなかったし、紅白にも出られなかった。
好きなシーンは、轟天がはなまるうどんでバイトしているシーンと、(片桐)はいりさんの「やっちまいな!」ですかね。
今回放送される3作に共通している裏テーマは「自分自身を痛めつける」だと思います。実際、この本番中に十二指腸潰瘍になりました。ちなみに、これと同時期に上演した「鈍獣」で岸田國士戯曲賞をいただきました。
──「宮藤官九郎ウーマンリブシリーズ3カ月連続大特集」がいよいよフィナーレを迎えます。改めて3カ月連続放送を振り返っていかがでしたか?
うーん。基本的に自己評価が低く、前作を否定するところから次回作の構想を始めるタイプの作家なので、バラエティに富んでしまうのは必然なのだと思います。振り返ってみると、どの公演の、どの役者も、どの場面のどのギャグも、キラキラと輝いていて眩しいですね。はい。
- 宮藤官九郎(クドウカンクロウ)
- 1970年生まれ。1991年より大人計画に参加し、脚本家・監督・俳優として活動している。1995年に結成したパンクコントバンド・グループ魂ではギタリストを務め、作詞・作曲も担当。第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第53回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第49回岸田國士戯曲賞、第29回向田邦子賞、東京ドラマアウォード2013脚本賞、第67回芸術選奨文部科学大臣賞など多数の賞を受賞。2019年に放送されたNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」では脚本を手がけた。10月にはねずみの三銃士「獣道一直線!!!」の公演を控えている。