WORLD ~Change The Sky~|不条理に満ちた世界を演劇で変える

“日本を変える”を合言葉に、骨太な人間ドラマを描き出す舞台「WORLD」が、「WORLD ~Change The Sky~」のタイトルで5年ぶりに帰ってくる。2013年の初演「WORLD」、2016年のリメイク作「WORLD ~beyond the destiny~」に続き、脚本を大幅改訂して3度目の上演となる今作では、2つの殺人事件を巡るジェットコースターサスペンスが繰り広げられる。

稽古開始を約1カ月後に控えた4月下旬、ステージナタリーでは、主人公の連続殺人犯・三上龍司役を務める校條拳太朗、龍司を止めようとする幼なじみ・相沢顕示役の杉江大志、そして、事件を追いかける記者・浅沼達樹役の田中稔彦、刑事・犬飼猛役を演じる小笠原健の座談会を実施。作品内容はシリアスながら、4人は打ち解けたムードで話し始め、笑いの絶えない座談会に。しかし、話題がいざ芝居のこととなると、彼らは作品にかける熱い思いを語った。

なお特集の後半には、初演から「WORLD」に出演し続けている金山一彦と、脚本・演出を手がける菅野臣太朗のコメントも掲載している。

取材・文 / 川口聡 撮影 / 清水純一

あらすじ

2021年、生温かい雨が降る深夜の東京。派出所で警察官が何者かによって殺害された。大量の返り血を浴びたはずの犯人の痕跡は、降り続く雨によって洗い流されてしまう。“レインコートの男”と称される犯人の行方を追う警察と、憎しみに満ちた瞳を持つ女性。夜が明けても止むことのない雨の中、2人目の犠牲者が発見される。

時は18年前にさかのぼり、冷たい雨が降る2003年の奥多摩。孤児院で残業をしていた保育士が恋人によって殺害される。第1発見者でもある容疑者の男は、近くの派出所に勤務する警察官だった。何度も求婚を断られた男は、衝動的に犯行に及んだと供述する。

2003年と2021年、2つの殺人事件は1人の男によって交差し……。

校條拳太朗×杉江大志×田中稔彦×小笠原健 座談会

どしっとしたオーラの校條×ヤンチャな杉江×職人肌の田中×陽気なお兄さん小笠原

──校條さんと杉江さんは今作が初共演になりますが、現時点でのお互いの印象はいかがですか?

左から校條拳太朗、杉江大志。

杉江大志 めんちゃん(校條)は……今のところ、すごく優しそうな印象です。

校條拳太朗 実際、優しいよ(笑)。大志くんは良い意味でお調子者で、現場を盛り上げてくれそうなイメージがありますね。

杉江 稽古はまだこれからですが、すでに居心地が良いので作り上げていくのが楽しみです。

校條 楽しみだね。

──校條さんと杉江さん以外は、それぞれこれまでに舞台で共演されていますね。

校條 オガケンさん(小笠原)とは以前コメディ作品でご一緒したことがあるのですが、普段から陽気なお兄さんそのものです。

小笠原健 よく言われます!

校條 トシさん(田中)は、頼りになる先輩という印象ですね。あと、やたらとパンを食べてるイメージがあります(笑)。

田中稔彦 あははは! めんちゃんは僕からすると不思議な人。稽古中も焦ってる姿を全然見たことがないし、どしっとしたオーラがあるよね。

小笠原 落ち着き方がハンパないね。

校條 まだお二人には気づかれてないけど、鈍感なだけなんです(笑)。

小笠原  そうなのか(笑)。めんちゃんは、あまりはっちゃけるタイプではないけど、対照的に大志は飛び抜けて明るいキャラだよね。

杉江 よく言われます!

田中 大志は事務所の後輩なので、付き合いも長くて。最初は「ヤンチャなやつだなー」と思っていたんですが……今もその印象はあまり変わってないです(笑)。

一同 (笑)

杉江 ちょっとー! どんでん返しがくると思ったら。

田中 でも変わらないで居続けるってすごいことだよ。普通は年齢と共にだんだん落ち着いていくから。

杉江 褒められてる気がしないな……。トシくんとは共演も多くて、僕の成長を一番見てくれている先輩だと思います。黙々と自分の中で世界を積み上げて、作品の世界となじませながら芝居を作っていく印象がありますね。

左から田中稔彦、小笠原健。

小笠原 そうそう、トシくんは職人肌というか、孤高の天才というか、野球で言うとイチロー選手タイプ。クールな面もありますが、お互い駆け出しの頃に共演して切磋琢磨してきたので、熱い部分も持っていることを僕は知っています!

田中 ケンケン(小笠原)はムードメーカーだよね。持ち前の明るさで座組みを引っ張ってくれて、頼りになる存在です。

杉江 健くんとは「ミュージカル『テニスの王子様』」で初共演したんですが、その頃から面倒を見てもらっていて、優しいお兄ちゃんって感じです。

1人ひとりが主人公になり得る、「WORLD」の魅力は人間臭さ

──これまでに2度上演されている「WORLD」は、“目を背けてはいけない、我々日本人の物語”をテーマに、世の中の不条理やそれにあらがう人間たちを真っ向から描いた作品です。オファーが来たときの心境はいかがでしたか?

左から田中稔彦、校條拳太朗、杉江大志、小笠原健。

校條 連続殺人犯というのは初めて挑戦する役どころなので、純粋に楽しみというのと、役作りが難しそうだなと。

杉江 観劇させていただいた前作「WORLD ~beyond the destiny~」が重いテーマを扱った会話劇だったので、「これは、やりがいがあるぞ」と思いました。

小笠原 僕はプロデューサーから「オガケンにぴったりの役があるんだけど、台本読んでみて」と言われて。まず「そんなカッコいいオファーの仕方ある?」と思いました(笑)。僕は東野圭吾さんの小説が好きなんですが、「WORLD」の台本もミステリー小説を読んでいるような面白さがあって。この重厚なドラマが、舞台としてどうやって立ち上がっていくのか楽しみです。

──田中さんは前作で温水凛太郎刑事役を演じられました。

田中 再びお声がけいただいたときは「次はどんなアプローチで刑事を演じようかな?」と考えていましたが、今回は記者の役で(笑)。とはいっても重要な役どころですし、脚本の内容も変わっているので新鮮な気持ちで挑みたいです。

──本作では、2003年の孤児院での殺人事件と、2021年、現在進行形で起こる連続殺人事件が交差していきます。物語の魅力はどのようなところにあると思われますか?

校條 登場人物1人ひとりが主人公になり得るぐらい、それぞれに思いを抱え、背負っているものがあって、憎しみやその裏にある愛が色濃く描かれているんですよね。そういった人間臭さが魅力なのかなと。

小笠原 人間は法律という正義に縛られて生きていますが、もっと根本的な“人間としての正義”って何なんだろうな?と考えさせられる作品ですね。一口に正義といっても、定義は人によって違うし、正解は1つじゃない。お客さんには自分の価値観と照らし合わせながら観ていただきたいです。

杉江 人間の芯の部分を突いてきますよね。

小笠原 えぐられる物語だよね。殺人事件って、例えばニュースで「この人が犯人です」と報道されても、「あの人が悪かったんだね」で終わりますが、「WORLD」では殺人に至るまでの苦しみや葛藤が描かれます。罪を犯すのはもちろん良くないことだけど。

校條 そうですね。僕自身も正義のためとはいえ、殺人を犯すことは間違っていると思います。だからこそ、そうせざるを得なかった龍司が、18年間背負ってきたものと真摯に向き合いたいです。

杉江 稽古が始まる前から、すでにワクワクしています。演じる人によってもガラッと印象が変わる脚本なので、挑戦しがいがありますね。

田中 脚本が面白いのはもちろん、大きな劇場で会話劇を紡ぐという難しさも同時にあるんですよね。今回は特に広い、なかのZEROの大ホールでの公演なので、攻めてる作品だなと思います。

小笠原 なかのZERO 大ホールだったら普通はチャンバラやミュージカルをやりたくなるけどね。

田中 劇中の情報量も多いので、お客さんが集中して劇世界に入ってくれるように仕上げたいですね。

道を間違えた「情熱大陸」、無機質な情熱男、Unstoppable Train、そして恥辱・稚拙

──本作にはさまざまな思惑を持つ人物が登場しますが、それぞれご自身が演じる役をご紹介いただきつつ、キャッチコピーをお願いします。

小笠原 急に大喜利みたいになりましたね(笑)。

校條 僕が演じる三上龍司は“道を間違えた「情熱大陸」”ですね。ドキュメンタリー番組の「情熱大陸」には、人生をかけて1つの分野を極めたプロフェッショナルが登場しますが、龍司は復讐という道に人生を捧げてしまった。殺人が正義であると強く信じている龍司にどれだけ説得力を持たせられるかが勝負だと思っています。

小笠原 僕が演じる犬飼は“無機質な情熱男”かな。犬飼は新宿南警察署の捜査一課巡査部長という、とにかくカッコいい警察官でして。冷静な一面もありつつ根は正義漢なので、刑事としての葛藤を交えながら熱く演じたいと思います!

田中 “Unstoppable Train(止められない電車)”ですかね。浅沼達樹はジャーナリストとして直感で「ここだ!」と思ったところに切り込んで、どんどん突き進んでしまう役なので。記者の役は初めてですが、今「ハウス・オブ・カード 野望の階段」という、記者が活躍する海外ドラマを観て研究しています。記者の身体の脈動というか、常にアンテナを張って何かを探っている感覚を大事にしたいですね。今回は“良い芝居”をしないことが目標なんです。

校條杉江小笠原 おー!

田中 誰の目にも止まらなくていいので、とにかく目の前の役者と一生懸命セッションしたいなと思います。

杉江 相沢顕示のキャッチコピーは……うーん、“恥辱・稚拙”ですかね。

──“恥辱・稚拙”……その心は?

杉江 僕の中で今思い描いている顕示を想像してみて、パッと浮かんできた言葉です。深く考えず、感じ取ってください(笑)。

一同 (笑)。

杉江 復讐に燃える龍司とは違って、普通に幸せな生活を送っている顕示ですが、それだけの役ではないので、彼が内に秘めているものと対峙しながら作っていきたいです。