ゴツプロ!第六回公演 向こうの果て 小泉今日子×塚原大助×山野海|下北沢から全国に発信する、ゴツプロ!初の“女と男”の物語

今度は自分が誰かのドアを開きたい

──ゴツプロ!では塚原さんがプロデュースをされていますが、小泉さんも2015年以来、プロデュースを手がけられてきました。お三方は俳優の目線だけでなく、作品を外側から見る目線もお持ちかと思いますが、お互いにどんなところをリスペクトしていますか?

小泉 大助くんは、二十代の頃、バッグ1つ背負ってアジアを旅して回っていましたが、その旅はきっと今も続いているんだろうなと思います。演劇人だけでなく、お洋服や飲食店の方々も巻き込みながら、どんどん仲間を増やしていて。国境の垣根を越えて海外の仲間たちもいますし、みんながゴツプロ!を応援している。そんなパワーがとても頼もしいです。

塚原 ありがとうございます……がんばろう。

小泉 山野さんには夢がいっぱいあるんですよね。その夢をどんどん口に出して、1個ずつ叶えている。まだまだ豪快なエネルギーを持っていると思うし、こういう人に人は集まってきますよね。

山野海

山野 あははは! ありがとうございます。私から見てですが、小泉さんが一番大事にしているのは、自分のセンスと直感なんだろうなと思います。小泉さんには、私と小山豊さんのユニット・tagayasのプロデューサーもしていただいていますが、伝えてくださる言葉が毎回スッと入ってくるんです。それは私が親しい間柄だからというわけではなく、きっと誰に対してもそうだと思うんですよ。自分の勘とセンスを大事になさっているし、その責任を自分で持つために、自らいろんなことをやっていらっしゃるんだろうなと。信頼できる人です。

塚原 今日子さんは、ふくふくやに出演していただいたときも小道具や衣装をご自分で用意されたり、自ら率先して動かれていて、そのスタンスは今回も変わりません。「これからは自分で作っていきたいんだ」という前のめりな姿勢で会社を立ち上げて、本当にカッコいい人だなと思います。

──小泉さんが新しい世界に足を踏み入れたり、新たな挑戦をされるとき、どんなことが原動力になっているんでしょうか?

小泉 私自身、若い頃はたくさんのクリエイターの方にいろいろなドアを開いてもらって。その頃はまだ十代で子供だったんですが、出会った方々は、私の話をちゃんと聞いてくれて、私が人と違う意見を言っても、きちんとジャッジしてくれました。本当に人に恵まれていたんですよね。それが今の私を作ってくれたと思うので、「今度は自分が誰かのドアを開きたい」って思ったんです。それが原動力なのかなと。

演劇の街・下北沢から世界へ

──小泉さんは2000年に岩松了さん演出の「隠れる女」で初めて本多劇場に立たれ、昨年9月に放送されたWOWOWの番組「劇場の灯を消すな!」では「本多劇場編」に出演されています(参照:「劇場の灯を消すな!」本多劇場編、小泉今日子・皆川猿時ら15名のコメント到着)。下北沢という街への思いをお聞かせください。

小泉今日子
塚原大助

小泉 下北沢はやっぱり演劇を目指す人にとって聖地ですよね。本多劇場に向かう途中、小劇場 楽園の入り口でジャージを着た若い劇団員の子とすれ違ったりして、素敵な街だなと思います。私は本多劇場、ザ・スズナリ、駅前劇場の舞台に立たせていただき、プロデュース公演を楽園で行ったので、OFF・OFFシアター、「劇」小劇場、シアター711、小劇場B1を制覇して、本多劇場グループの劇場をコンプリートすることにチャレンジ中なんです。

山野 “劇場スタンプラリー”も折り返しですね(笑)。

──ゴツプロ!も、これまで駅前劇場や本多劇場で公演され、下北沢とは縁が深いですね。

塚原 アメリカにはブロードウェイ、イギリスにはウエストエンド、韓国にはテハンノという有名な演劇の街がありますが、下北沢は間違いなく日本の演劇のメッカです。本多劇場グループがある下北沢で育った僕らとしては、これから先の、この街の未来について考えていきたいと思っています。

小泉 昨年10月に予定していた明後日の本多劇場公演がコロナ禍の影響で延期になって、代わりに朗読劇やトークショー、ライブを3週間にわたってやっていく「asatte FORCE」という企画を行いました(参照:本多劇場での「asatte FORCE」小泉今日子ら出演の朗読など14企画が展開)。本多劇場さんもコロナ禍で悲鳴を上げていたと思いますが、作り手にすごく寄り添ってくださって。ここからまたどうやってお客さんを劇場に呼べるか、私たちみんなで考えなきゃいけないなと。

山野 そうですね。バラバラに考えていてもうまくいかないから、一緒に取り組んでいかないと。私も下北沢には若い頃から育ててもらったので、我々の代でその灯火を消したくないんです。若い人たちがまた夢を持てる場所にしていかないと、と思っています。

塚原 今、ゴツプロ合同会社では勝手に「世界のSHIMOKITAプロジェクト」という企画を練っています。ゴツプロ!の台北公演をきっかけに、本多劇場グループと台北の烏梅劇院ウーメイゲキインとが姉妹劇場の提携を結ぶまでに至りました。コロナが落ち着いたら、文化交流はもちろんのこと、さまざまな劇団が台湾で芝居を打てるようなったら良いなと思いますし、そういう環境を作っていく使命が僕らにはあると感じています。

劇場でも生配信でも、演劇ならではのパワーを感じてほしい

──さらに「向こうの果て」では、視聴者が視点を切り替えながら作品を鑑賞できるマルチアングル配信という形で全公演が生配信されます。

塚原 お客さんが観たいアングルを選べるというのは、とても演劇っぽい取り組みですよね。すべての公演で生配信をするのは大変なことだと思いますが、初日から千秋楽にかけて成熟していく演劇の“ナマモノ感”を楽しめると思います。コロナがなかったら演劇を配信するという発想も生まれなかったですし、今まで演劇を観たことがない方や遠方で劇場に来られない方にも作品を届けられるチャンスだと、前向きに捉えています。

小泉 毎公演生配信するということを今はあまり想像できてなくて、劇場に入ってから「やだこれ!」ってなるかもしれません(笑)。

山野 あははは!

塚原 それは困る(笑)。月額499円(税込548円)で全16回公演が観られるので、これはすごいことです!

左から塚原大助、小泉今日子、山野海。

──生配信も含め、公演が楽しみになりました。

山野 ゴツプロ!では、いつでも大人たちが全力で遊んでいるので、そういう姿を見ていただき、お客様の中に何かが残って、いつかまた思い出してもらえるような作品にできればと思います。

塚原 今日子さんをはじめ、客演の関口アナンや皆川暢二、そして小山豊もスタッフさんも含め、大好きな人たちと一緒に芝居が打てることに感謝しています。劇場でも生配信でも、演劇ならではのパワーを1人でも多くの方に感じていただければ。

小泉 今回、私が演じる律子に翻弄される男たちは、劇中でみんなすごく悲しい目をするんですが、私は彼らにどれだけ悲しい目をさせられるかが勝負だと思っています。その様子を存分に楽しんでいただきたいです。


2021年5月15日更新