世界的に大ヒットしたファンタジー小説「魔道祖師」が初めて舞台化される。同作は、中国のオンライン小説サイトで2015年10月から2016年3月にかけて連載された、作家の墨香銅臭のBLファンタジー小説。ラジオドラマ、マンガ、アニメ、実写ドラマ化など、さまざまな形でメディアミックス展開をし、アジア各国で話題となった。日本では、2020年に実写ドラマ版「陳情令」(字幕版)とアニメ「魔道祖師」(字幕版・吹替版)が放送され、ラジオドラマ配信、原作小説和訳出版が行われたほか、2024年には日本版マンガの連載が開始された。
「魔道祖師」の舞台となるのは、法術を使う者が妖魔や邪鬼を退治する架空の古代中国。強い絆で結ばれた魏無羨と藍忘機、2人の激動の運命が壮大なスケールで描かれる。
「舞台『魔道祖師』」の第1弾「舞台『魔道祖師』邂逅編」の制作にあたり、実力派のスタッフ・キャストが集結。脚本・演出を伊勢直弘、音楽を坂部剛が手がけ、メインイラストレーターとしてGearousが参加している。キャストには、魏無羨役の金子隼也、藍忘機役の廣瀬智紀らが名を連ねた。このたびステージナタリーでは、金子と廣瀬にインタビューを実施。初舞台にして初主演を務める金子と、金子と共に主演を務める廣瀬に、作品や登場人物の魅力について話を聞いた。
取材・文 / 興野汐里撮影 / ヨシダヤスシ
ずっとお会いしたかったです!
──「舞台『魔道祖師』邂逅編」で、金子さんは鬼道の創始者で天才肌の魏無羨役、廣瀬さんは古琴を使った秘術に長ける品行方正な青年・藍忘機役を演じます。この取材の翌日に稽古場で顔合わせがあると伺っていますが、お二人は本日が初対面だそうですね(取材は2月中旬に行われた)。
金子隼也 ずっとお会いしたかったです! 明日からお世話になります。
廣瀬智紀 こちらこそよろしくお願いします。隼也って呼んでいい?
金子 もちろんです!
廣瀬 実はお会いする前から隼也のことをSNS等で拝見していました。実際に会ってみて、可愛さとカッコよさを兼ね備えているなあって。まさに魏無羨役がぴったりだなと思いました。
金子 本当ですか! ありがとうございます!
──金子さんは「ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA」「パーフェクトプロポーズ」に出演するなど、主に映像のフィールドで活動されてきましたが、「舞台『魔道祖師』邂逅編」で初舞台・初主演を務めます。
廣瀬 すごいねえ!
金子 もうひたすらワクワクドキドキしてます。
──「魔道祖師」初の舞台化作品「舞台『魔道祖師』邂逅編」への出演が決まった際、どんなお気持ちでしたか?
金子 最初はうれしい気持ちと不安な気持ちが入り混じっていたんですけど、小説を読んだり、アニメを拝見するうちに、どんどん「魔道祖師」という作品に魅了されていって。「舞台『魔道祖師』邂逅編」で自分がどんな表現ができるのか、楽しみな気持ちのほうが大きくなっていきました。初舞台ということもあり、廣瀬さんをはじめ、いろいろな方にご迷惑をおかけしてしまうと思うんですけど、精一杯演じさせていただきたいと思っています。
廣瀬 いろいろなところで「魔道祖師」がメディアミックスされているのを目にしていたので、まさか自分が「舞台『魔道祖師』邂逅編」に藍忘機で出演させていただけるなんて……夢のような出来事だなと思いました。しかも世界初の舞台化という記念すべきタイミングに、自分が制作現場にいられるというのは、本当に幸せなことだとしみじみ感じましたね。
──廣瀬さんは映像作品への出演経験もありつつ、原作ものの舞台作品をはじめとする演劇作品に多数出演していらっしゃいます。
廣瀬 演劇にはカメラワークや編集が存在しないので、客席側に“面”を向けてお芝居をするとか、登場人物の感情をお客さんに伝わりやすくするために、少し大きな動きをするとか、映像と細かな差異はあれど、そこまで大きな違いはないので、隼也もきっと大丈夫だと思います。今日初めてお会いしたので、まだまだ知らない一面がたくさんあると思うんですが、隼也が魏無羨として舞台上を元気に駆け回る様子がもうすでに目に浮かんでいます。そんな姿を、藍忘機として見守っていきたいですね。
1つひとつの言葉を丁寧に
──「魔道祖師」に登場する仙門の中でも有力な姑蘇藍氏、雲夢江氏、蘭陵金氏、清河聶氏らが力を合わせ、暴虐の限りを尽くす岐山温氏の討伐に成功。中でも夷陵老祖である魏無羨はその戦いに貢献しましたが、強大な力を持つ鬼道に手を染めたがゆえに人々に恐れられ、やがて身の破滅を招いてしまいます。13年後、呪術によって蘇った魏無羨が、宿命の相手である姑蘇藍氏の藍忘機と再会する場面から、「魔道祖師」の物語が大きく動いていきます。お二人はご自身が演じる魏無羨、藍忘機をどのように捉えていますか?
金子 魏無羨は自由奔放で泰然としていて、自分の芯をしっかり持っているけど、それをあまり表に出さないイメージがありますね。でも、ところどころで感情を爆発させるシーンがあるので、そこで魏無羨が持つ人間味を繊細に表現できたら良いなと思っています。
──ご自身と魏無羨とで共通していると感じる部分はありますか?
金子 魏無羨ってたくさんしゃべるじゃないですか。僕はどちらかと言うと口数が少なく、内にこもるところがあるので、真逆かなと。でも、むしろタイプが違うからこそ、魏無羨を演じるのが楽しみです。
──そうなんですね。金子さんは快活なイメージだったので意外でした。寡黙というと藍忘機が思い浮かびます。
廣瀬 そうですね。実際に台本を読んでみても、藍忘機のセリフは少ないほうです。でもそのぶん、1つひとつの言葉に重みがある。信頼の表れなのか、魏無羨に対しては、真っすぐな言葉を投げかけることが多いので、セリフの発し方だけでなく、目線や身振りも大切にしながら、藍忘機が魏無羨に向ける思いを表現できたら良いなと思います。ただ、お芝居は自分1人で作るものではなく、隼也や周りの方々とセッションしながら作るものなので、みんなで協力して「魔道祖師」の空気感を作っていきたいですね。
──廣瀬さんはご自身が演じる藍忘機に共感する部分はありますか?
廣瀬 似ているか似ていないかで言ったら、そこまで似ていないかもしれないですね。役を自分に寄せるパターンや、自分を役に寄せるパターンなど、いくつか役作りの仕方があるのですが、今回は自分を役に寄せながら、自分の中にある藍忘機らしい部分を探しつつ稽古することになるんじゃないかなと思います。
──「魔道祖師」では、魏無羨と藍忘機を軸に、それぞれの人物の思惑が複雑に絡み合う壮大な歴史ドラマが展開します。「舞台『魔道祖師』邂逅編」の台本を読んで、作品の世界観に対してどのような印象を抱きましたか?
廣瀬 まず漢字の多さにびっくりしたというのが正直なところです(笑)。漢字の読み仮名についても日本とは違う読み方をすることが多いので、勉強しながら物語を読み進めていったのですが、重厚感のあるストーリーにどんどん引き込まれていきました。「舞台『魔道祖師』邂逅編」を立ち上げるうえで、生半可な気持ちで臨んではいけないということを、台本を読んで改めて感じましたね。隼也はどうだった?
金子 台本をいただく前に和訳小説を読んでいたので、漢字の多さにはなんとか順応できたのですが、それでもやっぱり、1人の登場人物に対して呼び方が3つくらいあったりする、文化的な違いに戸惑いますよね(笑)。台本を読んで特に驚いたのは、魏無羨のセリフが多いことです。まだまだ手探りしている段階ではあるのですが、1つひとつの言葉を丁寧に紐解きながら、魏無羨というキャラクターを立ち上げていきたいなと。そのために、廣瀬さんをはじめ、舞台経験が豊富なキャスト・スタッフの方々から力を貸していただけたらと思います。
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相思相愛な2人