「ミュージカル『薄桜鬼』」(以下薄ミュ)の名曲をライブ形式で送る“お祭り騒ぎのステージ”「HAKU-MYU LIVE」が6年ぶりに復活。「ミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE 3」では、「志譚」「真改」シリーズの4作を中心とした楽曲が披露される。
自身が演じるキャラクターの枠からはみ出ないように、しかしギリギリのラインを攻めながらステージを盛り上げたいと意気込む、土方歳三役の久保田秀敏、山南敬助役の輝馬に「HAKU-MYU LIVE 3」の楽しみ方を伝授してもらった。
取材・文 / 興野汐里撮影 / 川野結李歌
先人の力あってこそ、今の薄ミュがある
──2012年にスタートした薄ミュが4月27日に10周年を迎えました。お二人は、10周年の節目に上演された「ミュージカル『薄桜鬼 真改』斎藤一 篇」(参照:橋本祥平が薄ミュにカムバック!「どこまでも夢を見させてくれる作品」)に出演されましたが、公演に臨むにあたって“10周年”ということについて意識されましたか?
輝馬 そうですね。薄ミュが始まった頃、自分は何歳だったんだろう? 何をしていたんだろう?ということをまず考えました。そうやって振り返ってみると、10年間何かを続けていくのはものすごいことだなと。
久保田秀敏 僕、30歳を超えてから役者の楽しさがわかり始めたんですよ。10年前にも役者はやっていたんですけど、当時の僕が薄ミュに出演していたら、ペラッペラのお芝居や立ち居振る舞いしかできなかっただろうから、いろいろな現場を経験させてもらってからこの作品に出会えて良かったなって思いました。今、良いお芝居ができているかと言われると、そうは思わないんですけど……。自分自身が楽しんだうえで、お客様にお芝居を提供できる最低限のラインまでは来られたんじゃないかと、振り返る良いきっかけになったと感じています。
──久保田さんは2021年の「ミュージカル『薄桜鬼 真改』相馬主計 篇」(参照:「薄桜鬼 真改」開幕に梅津瑞樹が喜び「満開の桜の花をお目にかけます」)から、輝馬さんは2015年の「ミュージカル『薄桜鬼』黎明録」から薄ミュに参加されています。
久保田 今、出演しているキャストで言うと、(近藤勇役の)井俣(太良)さんの次に長いんだっけ?
輝馬 そうなんです。「薄ミュ歴がだいぶ長くなってきたね」と言っていただくことが多いんですけど、出演作の本数でいうと半分にも満たないんですよ。僕が演じる山南敬助は以前、味方良介が演じていたんですが、先人の力があってこそ“今の山南”があると思うので、彼をリスペクトしながら演じさせていただいています。味方の思いを受け継ぎながら、でもまねをするわけではなく、しっかり自信を持って自分なりの山南を演じたいなって。
──薄ミュの歴代キャストやスタッフの方々にお話を伺うと、お互いに強い絆で結ばれているんだなということを感じます。2015年の「ミュージカル『薄桜鬼』藤堂平助 篇」から2016年の「ミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE 2」まで斎藤一役を務めた橋本祥平さんが「真改 斎藤一 篇」でカムバックするなど、過去作に出演したキャストが同じ役で復帰することは、2.5次元ミュージカル作品において珍しいケースと言えるかもしれません。
輝馬 そうですね。「真改 斎藤一 篇」で祥平が戻ってきたときは、一度巣立ったひなが大きくなって戻って来たような感覚になりました。今でもかわいいですけど、「黎明録」の頃の祥平はもっとかわいかったんですよー!(笑)
久保田 祥平くんは薄ミュのスタッフをやったことがきっかけで舞台業界を目指して、その後、憧れの先輩(松田凌)と同じ役で薄ミュの舞台に立つことになったんでしょ? そんな人が座長としてセンターに立っているのを見ると、すごく感慨深くなるよね。
たった1行の裏にあるドラマを考える
──「ミュージカル『薄桜鬼』HAKU-MYU LIVE 3」では、「志譚」「真改」シリーズの4作を中心とした楽曲が披露されます。薄ミュシリーズに出演してきたお二人が感じる、薄ミュの“音楽的”な魅力とは?
久保田 一番のポイントはキャッチーさだと思います。歌詞が自然に頭の中に入ってきて、薄ミュの世界に入り込みやすい楽曲が多い気がしますね。
輝馬 薄ミュは、2.5次元ミュージカルと呼ばれる分野の中でも相当繊細な作り込みをしている作品だと思います。薄ミュの世界は、ただ単に歌がうまいだけでは表現できない。薄ミュの楽曲を歌うには、人間力と“芝居心”が求められると思います。
久保田 もちろん歌唱スキルも大事だけど、そのキャラクターが何を感じているかを、観ている人に伝えられるかどうかが大切だもんね。そういう核の部分を理解できていないと、いくら歌がうまくても意味がないし、そんなことではお客様からチケット代をいただけないと思うんです。そのキャラクターの格好をして、セリフを言ったり歌ったりするだけなら誰がやっても一緒。たった1行のセリフでも、その裏側にはどんなドラマがあるのか、“1行の裏に存在する10行”のことを読み取らないと、作品自体が薄っぺらくなってしまうんじゃないかなって。
輝馬 本当にそう! でも俺、そういうことを考えつつも演技を固めないで稽古場に行くんですけど、この感覚わかります?
久保田 わかる! 俺も固めない(笑)。
輝馬 この人ねえ、意外に固めないんですよ(笑)。
久保田 稽古は試す場所だから、早めに芝居を固めちゃうと自由さがなくなっちゃうじゃない。稽古を重ねるうえで、感じることが日々変わっていくと思うし……。稽古終盤、最後の1週間くらいでだんだん固めていくので、共演者の方はやりづらいかもしれません(笑)。
──そのときに感じた感情を芝居に乗せる面白さも、演劇の醍醐味の1つですよね。ちなみにお二人は、薄ミュの楽曲の中でお気に入りのナンバーはありますか?
久保田 「真改」のオープニング曲「雪風華」と、近藤さんが斬首されるシーンで歌う「刀に込めよう」ですね。「刀に込めよう」で近藤さんに対する思いを吐露するとき、自然と涙があふれてくるんですよ。「HAKU-MYU LIVE 3」では自分が出演する前の「志譚」の楽曲も歌うそうなので、改めて覚え直そうと思います。
輝馬 僕はやっぱり山南のソロナンバーに思い入れがありますね。実は山南のソロって3曲もあるんですよ(笑)。
久保田 へー!
輝馬 「志譚 土方歳三 篇」と「真改 相馬主計 篇」に同じシーンが登場するんですが、味方から引き継いだ曲と、西田大輔さんの演出になってから作っていただいた曲、まったく別の曲を歌ったことがあって。両方を歌わせていただいたことによって、新たな発見があって面白かったです。前回の「真改 斎藤一 篇」では「真改 相馬主計 篇」の楽曲をアレンジしたものを歌わせていただいて、それも新鮮で楽しかったですね。