同い年の塚原大助×古山憲太郎×田村孝裕が小劇場愛を語る、ゴツプロ!「イノレバカ」キャストが明かす“これまで祈ったこと”

塚原大助が主宰を務める、男6人の劇団ゴツプロ!が、8月から9月にかけて新作「イノレバカ」を上演する。ONEOR8の田村孝裕が作・演出を手がける本作では、一度地獄を見た人たちが集まる寺を舞台にした物語が展開する。塚原、田村、そして出演者に名を連ねるモダンスイマーズの古山憲太郎は、実は同じ1976年生まれ。活動の場は少しずつ違えど、同じ時代、近い場所で関係を紡いできた3人は、それぞれどんな思いを持ち、本作に臨むのか。また特集の後半では、「イノレバカ」に出演するキャストの面々が、作品にちなみ“これまでに祈ったこと”を明かしてくれた。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 川野結李歌

塚原大助×古山憲太郎×田村孝裕 座談会

実は3人とも1976年生まれ

──皆さん、学年の違いはありますが1976年生まれの同い年です。最初の出会いは?

塚原大助 以前からONEOR8やモダンスイマーズの作品は拝見していましたが、僕が田村さんと初めてご一緒したのは2017年のプリエールプロデュース「世襲戦隊カゾクマンⅡ」で、2019年に上演された「~Ⅲ」にも出演させていただきました。古山さんとは明後日公演 芝居噺弐席目「後家安とその妹」(2019年)で共演させていただいて。

古山憲太郎 その前に、実は道学先生もありましたよね?

塚原 ああ! 10年くらい前でしたっけ?

古山 2013年に僕が道学先生に書き下ろした「シンフォニ坂の男」に、大ちゃんが出演してくれて。

塚原 ただ、あのときは作家と俳優という関係だったからあまり話さなかったですよね。

塚原大助

塚原大助

──古山さんと田村さんは舞台芸術学院(以降、舞芸)時代からつながりが?

田村孝裕 演劇を教わった先輩です!

古山 あははは! でも僕らは卒業してすぐ蓬莱(竜太)中心に劇団を立ち上げたもののケンカ別れしちゃって、その後、座長の西條(義将)が「モダンスイマーズをやらないか」って誘ってくれてスタートした、という流れがあったんですね。それで旗揚げ公演をやることになったときに、当時すでに人気があったONEOR8の力を借りようと(笑)、後輩の田村くんたちに出てもらったんです。

塚原 それって何年くらい前のことですか?

古山 旗揚げが1999年だから……。

田村 24年くらい前かな。

古山 当時は劇場から僕の実家が近かったから、みんなうちに泊まりに来たりしてね(笑)。

田村 そんな感じでしたね(笑)。蓬莱さんは舞芸時代から台本を書いていて、コメ(古山)さんたちも舞台に出てて……キラッキラした先輩たちだったんです。それに比べて僕らは地味な期で、中でも僕らはあまり学校に行かなかったメンバーが集まってできた劇団だったので、作・演出のやり方もわからないまま何本か作・演出しているうちに、「本当は役者をやりたいのに!」っていうフラストレーションが溜まって、それで西條さんに「出してもらえないですか」って相談したんです(笑)。

塚原 面白い話だなあ(笑)。

田村 それで3回くらい連続して出してもらって。2作目だったかな、コメさんと俺がずっとダメ出しされたことがあって「どうしたらいいだろう」って悩んだり。

古山 2人で言い合いをするシーンとかね(笑)。それと田村くん、いい役者なんだけど喉が弱くて。

一同 あははは!

古山 そこが大変だった印象があります。

田村 ある芝居で千秋楽の前日に「俺、この役つかんだ!」って思ったことがあったんです。で、千秋楽でいい芝居ができるぞって思って臨んだんだけど、凧に吊られた俺が飛んで行っちゃうシーンで叫んだ後、明転してセリフを言おうとしたらカッスカスで、何を言ってるかわからなくなっちゃって!(笑) ……最悪な千秋楽でした。

一同 あははは!

──そのころ塚原さんは、モダンスイマーズやONEOR8にどんな印象を持っていましたか?

塚原 憧れでしたね。僕は24歳から芝居を始めたんですが、当時は演劇のことも舞芸のことも知らず、ただただ演劇をやりたい一心である養成所に入り、そこから小劇場や商業演劇について知っていきました。その中でモダンスイマーズやONEOR8の評判を聞き観に行くようになって、同世代の劇団だけど、とにかく憧れの眼差しで見ている感じでした。

左から田村孝裕、古山憲太郎、塚原大助。

左から田村孝裕、古山憲太郎、塚原大助。

左から田村孝裕、古山憲太郎、塚原大助。

左から田村孝裕、古山憲太郎、塚原大助。

時を経て感じる、演劇との向き合い方

──御三方それぞれに演劇を志し、二十代から四十代の現在まで演劇道を邁進してきました。年齢を重ねることによって、演劇との向き合い方や考え方に変化はありましたか?

塚原 やっぱりゴツプロ!を立ち上げる前と後ではだいぶ違いますね。一劇団員だった時代と自分で立ち上げたのでは、演劇に対する考え方も見方も、全部が違う。それまでは作るというより、誰かに呼んでもらうまで待つ姿勢だったのが、今は作る意識が強まって、例えば今回のように、田村さんに作・演出をやってもらおうとか、古山さんや田中真弓さんに出演してもらおうとかって、やりたい演劇をやりたい人たちと一緒に作れることに喜びを感じています。

古山 旗揚げした頃、モダンは資金的な問題もあり本公演は2年に3本くらいのペースだったんです。その間ひまだったので、がむしゃらに舞台を入れまくっていました。それこそ1年間に7・8本とか、たくさん出演すれば名前も出るし、上手くなるんじゃないかって思っていたんですけど……楽しかったから後悔はしていませんが、たくさん出たからといって何か特別な成果は感じず。で、30歳を越したくらいに演劇以外のことも始めるようになり、舞台のペースを落とすようになったんですね。今も演劇は好きだし、やればめちゃくちゃ楽しいと思っていますが、四十代になった今、舞台は一番贅沢な遊びというか。苦しいけれどやっぱり一番没頭できるし、最高の瞬間を味わえる場だなと思います。それと、いろいろな劇に関わりましたけど、今はどんな作品であっても自分なりの探求の仕方とか作品ごとの面白さがあると感じられるようになってきて、前よりも演劇を俺は楽しんでいると思います。

古山憲太郎

古山憲太郎

田村 僕らは舞芸を出てすぐ旗揚げして、作・演出の経験もないまま始めちゃったから、ずっと自分たちのことしか考えていなかったと思います。そこから徐々にいろいろなお仕事をいただけるようになって、外にも意識が向いてきたというか……。演劇って本当にアナログな世界なので、どこまで行っても人間力だし、そういう点で塚原さんもコメさんも人間力があって羨ましいなと思う。一方で、この歳になって改めて「自分ってなんだろう」と自分に(意識が)返ってきたところもあって。新作が書ける体力も落ちてきたし、今、年に6・7本舞台をやってるんですけど少し天井が見えてきたところもあって、じゃあこの先どうしていこうと考える中で、自分に意識が向き始めている感じがあります。

──小劇場から商業演劇まで田村さんのご活躍の幅は本当に広いですが、外のお仕事と劇団の中でのお仕事に対しては意識の違いがありますか?

田村 外のお仕事の場合は、例えばゴツプロ!だったらゴツプロ!のカラーに合わせつつ、僕がこれは面白いんじゃないかと思うものを提案します。「サザエさん」など原作ものの場合は原作のカラーに近づけていくし、プロデュース団体のカラーに寄せることもあるし……それぞれを見ながら僕がそこに少し寄っていくような感覚です。でも劇団公演は純粋培養で、僕が面白いと思っていることを提示する場。劇団で公演するときは「僕はこういう人間です、うちの役者はこういう役者です」とプレゼンする意識ですね。なので劇団で天下を取ろうみたいなことは全然考えていなくて、なんならみんなが忙しくなって劇団公演が打てなくなっちゃったから解散、というのが理想の形です。

──お二人は?

古山 僕は劇団と外であまり違いはないです。ただモダンの場合は、しばらく間が開いたとしても、パッとモダンの空気になっちゃうというか、久しぶりだったとしても「こいつ、こういう感じでやってくるな」って阿吽の呼吸でわかってしまうし、演出家にも手の内がバレてしまってるので、それこそ家族のようにスッと入れます。と同時に会わない間にどんなことをやってきたのか一瞬でバレてしまう緊張感もありますけどね(笑)。それから、劇団外では俳優に集中できますけど、モダンは裏方の仕事も劇団員がやるんです。例えば蓄光も自分たちで床に貼っていくので、舞台に対する責任感や愛着が全然違います。そうやって自分たちで全部やっている感じ、心を込めて作品を作っている感じがお客さんにも伝わるのかなとは思います。まあ、すべてはお金がないということが大きな理由ではありますが……。

田村 モダンスイマーズはチケットが安すぎますよね。ずっと3000円だもんね。

古山 でもそうじゃないと入らないんですよ。

田村塚原 そんなことはないですよ!

古山 あと、「若い人に観てほしい」という蓬莱の思いもあって。

田村 本当にすごいなあと思います。

田村孝裕

田村孝裕

──塚原さんは外の仕事と劇団で、違いは?

塚原 劇団外では、役者でいられるのがものすごく楽というか。役者だけやれるのは楽しいし幸せだなと思いますね。ゴツプロ!は、プロデュース公演も複数やっているからいろいろなことをやらないといけないのが大変です。ただみんなでああだこうだ言いながら企画を立て、本番が始まり千秋楽を迎えたときの達成感は計り知れない喜びではあります。なので、劇団外では役者をやれるのが楽しいし、ゴツプロ!では役者だけやっているのでは得られないものが得られるという違いはありますね。