鈴村健一&川尻恵太が仕掛ける予測不能な即興劇「AD-LIVE 2022」 (2/2)

“アドリブワード”の神に愛されそうな鳥越裕貴、愛されないかもしれない高橋健介

──「AD-LIVE 2022」最後の地となる大阪国際交流センター 大ホール公演の初日9月24日公演には、演出チームとしても「AD-LIVE」に参加経験のある浅沼晋太郎さんのほか、初出演の上村祐翔さん、鳥越裕貴さんが登場します。

川尻 鳥越くんとは昔飲んだことがあるんですけど、実はイベントでしかご一緒したことがなくて。鳥越くんはコメディからシリアスまで、いろいろな色を全部同じレベルで出せるオールラウンダーだと思います。彼はとにかく引き出しが多い。爪痕を残しながらも、全体をまとめる力をちゃんと持っているんですよね。あと特筆すべきは、お祭り男なところです(笑)。

鈴村 無敵だな! パーフェクト超人。

川尻 「AD-LIVE」に俳優さんが出ることが発表されたとき、ファンの皆さんも「鳥ちゃんはメンバーに入ってるでしょ」って想像するんじゃないかな。それぐらい「AD-LIVE」との相性が良いと思います。

「AD-LIVE 2022」9月24日公演のビジュアル。

「AD-LIVE 2022」9月24日公演のビジュアル。

鈴村 この前、鳥越さんが出演されている特撮作品を観たんですけど、すごく良い役を演じてて、目が離せなかった。存在感がありますよねえ。

川尻 でもお調子者っていう(笑)。

鈴村 良いことですよ! 彼はたくさん“アドリブワード”(編集注:「AD-LIVE」では観客から募集したさまざまな言葉を、劇中で“アドリブワード”として使用。本番中、出演者は“アドリブバッグ”から好きなタイミングで自由に“アドリブワード”を引くことができるが、引いた言葉を必ず言わないといけないルールになっている)引きそう。

川尻 うまく使いこなしていきそうですね。「AD-LIVE」初出演には見えないんじゃないかな。

鈴村 「AD-LIVE」には、おおまかに分けると演劇色が強い公演とバラエティ色が強い公演があるんですけど、浅沼くんも出るし、この回が一番演劇的になりそうだなって。

川尻 そうですね。浅沼さんが全体の流れを作ったところに鳥越くんと上村さんが乗っかるのか、もしくはひっくり返すのか。

鈴村 「AD-LIVE」って、パワープレーをしようって思ったらいくらでもできるんです。鳥越さんのお話を伺っていると、パワープレイヤーにもなれるけど、演劇的な展開になったらその範囲内でパワープレーをするんじゃないかなっていう予感がありますね。

鈴村健一

鈴村健一

──そして最終日の9月25日公演には、小野賢章さん、神谷浩史さん、高橋健介さんが出演します。

川尻 高橋健介は……彼は一体なんなんでしょうね(笑)。

鈴村 謎の存在!?(笑)

川尻 僕、けっこうご一緒させてもらってるんですけど、変なんですよ。目鼻立ちはすごく整ってるのになぜかカッコよく決まらないことが多い。

鈴村 おかしいな(笑)。

川尻 変なバズリ方をするんです。真面目にやってもちょっと笑われてて。

鈴村 そういう人いますよね(笑)。

「AD-LIVE 2022」9月25日公演のビジュアル。

「AD-LIVE 2022」9月25日公演のビジュアル。

川尻 コメディに強いしシリアスなお芝居もきちっとできるんですけど、平場ではなぜかちょっと気持ち悪くなる。

鈴村 出演作も観てるけど、そんなふうには見えなかったですよ(笑)。

川尻 ははは! あと、高橋くんはアドリブワードの神に愛されなさそうだなと思います(笑)。

鈴村 マジですか!(笑)

──不遇なところも含めて、皆さんから愛されているということですよね(笑)。

鈴村 つまりメタ的な俳優であると。

川尻 誰も予想だにしない、変なところに着地する。それがめちゃくちゃ面白い、みたいな人なんですよね。彼にしか出せない色味があって、僕は好きです。小ズルかったりするのも面白いんですよ。でも最後は自分が張った罠に自分でひっかかっちゃう(笑)。

鈴村 「AD-LIVE」はそれが起きやすいですよね。

川尻 追いつめられたときの表情もめちゃめちゃ良いんですよ。

川尻恵太

川尻恵太

──高橋さんの予測不能な動きに、小野さんと神谷さんはどう対応するのでしょう?

鈴村 セオリー的には賢章がまとめ役のような立ち位置になると思います。ただこの前、賢章が「神谷さんが理詰めで来たら負けると思います」と言ってて(笑)。賢章には「賢章らしくやれば大丈夫だよ」って言ったんですけど、やっぱり神谷浩史が理詰めモードになったら面白いですよね。加えて、高橋さんが“ノー理詰め”なのも最高! 理性対感性の戦い。

──要注目ですね(笑)。先ほど浅沼さん、上村さん、鳥越さん出演回は演劇色が強そうだとおっしゃっていましたが、一方でバラエティ色が強そうなのはどの回だと思われますか?

鈴村 これは読み切れないですね。千葉公演の初日(榎木、島﨑、荒牧出演回)はそうなる可能性があるんですけど、榎木くんが意外にちゃんと筋を作ってぶっ壊したい“理性を持ったクラッシャー”タイプなんです。この組み合わせは、榎木くんの出方次第で劇的に変わるんじゃないかと。一番バラエティっぽくなりそうなのは、千葉公演の2日目(江口、安元、速水出演回)だと思いますね。速水さんがちょけたらバラエティ回になります(笑)。うわー、ちょけそうだなー。

川尻 ちょけて止まれなくなった場合、誰が止めるんだっていう(笑)。

鈴村 安元くんの孤軍奮闘! ただ、安元くんの役がちょけてたら終わりですね(笑)。

今年は“ただ楽しい”ことをやりたい。ゆくゆくは常設の“「AD-LIVE」劇場“も?

──これまで鈴村さんはキャストとして「AD-LIVE」の公演に出演するほか、「AD-LIVE 2021」ではユメノスケとして声の出演をするなど、さまざまな形で公演に参加されてきました。今回、鈴村さんの出演予定はあるのでしょうか?

鈴村 彩-LIVEいろどりぶとして、皆さんのサポート役で参加します。

川尻 何かあったときのストッパー(笑)。

鈴村 お芝居が停滞したり、このまま行くとストレートな流れで進んじゃうなっていうときのために、カンフル剤的な役割で入りたいと思っていて。でも僕が助けてあげられないときもあるかもしれない(笑)。そうなったときにどうなるかも見どころですね。

──川尻さんは今回も、照明や音響のタイミングを決めるキュー振り役として参加されるのでしょうか?

川尻 そうですね。あとはストーリーの流れを観ながら、どうしていくかを鈴村さんと相談して、流れを整えたり、揺さぶりをかけたり。

鈴村 実は彩-LIVEの頭脳は川尻さんなんですよ。僕はイヤモニをして舞台に出るので、川尻さんの傀儡になる可能性もあります(笑)。

川尻 今回は出演者が3人だからコントロールするのが大変かもしれませんね。

川尻恵太

川尻恵太

──「AD-LIVE」は2018年に10周年を迎えてからも(参照:「AD-LIVE」10周年 鈴村健一×浅沼晋太郎×川尻恵太)、キャラクターの特徴、物語のオチ、演出のギミックを当日のくじ引きによって決定する「AD-LIVE ZERO」や、体験型謎解きエンタテインメントを制作しているSCRAPとコラボした「AD-LIVE 2020」、初の2幕構成に挑戦した「AD-LIVE 2021」を上演するなど、毎年進化を続けています。俳優陣を迎えた今回の「AD-LIVE 2022」でも大きなチャレンジをされますが、今後どのような挑戦をしたいと考えていらっしゃいますか?

鈴村 10周年のとき、すさまじい達成感があって……実は燃え尽き症候群になりかけたんです。でも、絶対に15周年は迎えたいなと思っていて。「AD-LIVE」って基本になる“器”はずっと変わっていなくて、器の中に何を入れるか、毎回自由に変えることができる。今回、俳優陣に出ていただくのもその一環なんです。今後、声優陣が一切出ない公演もあって良いと思うし、「AD-LIVE」というフォーマットを誰かに貸し出すのも良いと思う。究極の理想を言うと、365日「AD-LIVE」の公演が観られる常設会場を作りたいなと(笑)。キャパ200くらいの会場で毎日「AD-LIVE」をやっている、みたいな環境に憧れがあるんです。おかげさまで「AD-LIVE」は大きなコンテンツになってきているんですけど、一方で次代を担う若い人たちのためのステージも提供したいと思っていて。小劇場ブームのとき、いろいろな実験演劇に触れたことが今の「AD-LIVE」にもつながっていると思うから、「AD-LIVE」が小劇場に回帰するのも良いんじゃないかなって思っているんです。

──若い演劇人を育てることを目的とした常設の“「AD-LIVE」劇場“、とても素敵な発想だと思います。

鈴村 僕はもともと内気で、人と社交的に付き合えないタイプだったんですが、演劇のメソッドを学ぶことによって自分の中で“革命”が起きて、「人格が変わったの?」っていうくらいポジティブな思考になったんです。演劇を勉強したおかげで、誰かと関わることこそ面白いと思えるようになった。ということもあって、「AD-LIVE」を誰もが気軽にチャレンジできるカルチャーにできたら良いなって思うんです。演技経験の有無を問わず、誰でも参加できるような文化になったら面白いですよね。

──その機会があったら参加したいです!

鈴村 ぜひ一度体験してほしいです。アドリブワードを引くときの感覚ってめちゃくちゃ面白いですからね。

鈴村健一

鈴村健一

川尻 鈴村さんが以前おっしゃっていたと思うんですけど、「AD-LIVE」にはほかのエチュード舞台と大きく違うところがあって、「AD-LIVE」って約1年かけて会議をしたり、検証をしたりするんです。でも当日になるまでどんな公演になるかまったくわからない! そこに労力をかけるって本当にすごいことじゃないですか?

鈴村 ははは!

川尻 むしろエチュードって、その日にバッと集まってやるものっていうイメージがあると思うんですけど、実は僕の活動の中で一番長い期間準備しているものなんです。鈴村さんや皆さんの長年の知識や経験が積み重なったおかげで、今年は俳優の方々に参加してもらえることになって。俳優のみんなにも今まで味わったことない感覚を経験してほしいですし、「AD-LIVE」を体験して成長した彼らの姿を見てみたい。声優さんと俳優さんがお互いに胸を貸し合って、普段舞台上で観られない交流が育まれる、そんな「AD-LIVE」になるんじゃないかと期待しています。

鈴村 そうですね。「AD-LIVE」では毎年異なるテーマを設定していて、できるだけ人間の根源的な部分を刺激するようなテーマを据えるようにしているんですよ。そうすると芝居空間が生まれやすくなるし、役者が立ち回りやすくなるんです。でも今回はもう少しライトにやりたいっていう思いがあって、“痛快群像劇!”というテーマにしました。“ただ楽しい”ことをやりたい、それが一番の哲学なんじゃないかって。このご時世、“ただ楽しい”ことってすごく尊いなって個人的に思ったんですよね。良い意味で、何かを持って帰らなくても良いんじゃないかなっていうのが、今の僕の素直な気持ちです。もちろん、観客の皆さんがどう捉えるかは本当に自由。「抱腹絶倒! 面白かった!」っていう回があっても良いと思っていて。“ただ楽しい”ことをうまく作品に昇華できるように準備しているので、構えずに観に来ていただければと思います!

左から鈴村健一、川尻恵太。

左から鈴村健一、川尻恵太。

プロフィール

鈴村健一(スズムラケンイチ)

大阪府生まれ。1994年にテレビアニメ「マクロス7」で声優デビュー。テレビアニメ「銀魂」(沖田総悟役)、「おそ松さん」(イヤミ役)など、声優として数多くの人気作品に出演し、さまざまなキャラクターを幅広く演じている。また、ラジオパーソナリティや音楽活動など多彩な分野で活躍。音楽活動においてはすべての楽曲の作詞を自ら手がけるほか、2008年に立ち上げた「AD-LIVE」では総合プロデューサーを務める。

川尻恵太(カワジリケイタ)

1981年、北海道生まれ。SUGARBOY主宰。2006年に上京後、ラーメンズおよび小林賢太郎作品の演出補、エレキコミック、エレ片の構成作家を務め、お笑いから演劇に至るまで幅広い作品を発表してきた。8月に「ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』~誰が為にのぞみは走る~」(脚本・演出・作詞)の公演を控えている。