ウエストランド井口と作家飯塚の「今月のお笑い」。

今月のお笑い 32本目 [バックナンバー]

ウエストランド井口と作家飯塚と野田クリスタルが語る「2024年12月のお笑い」

M-1振り返り、敗者復活戦の審査、結局令和ロマン、お笑い界の諸問題、もっと褒めよう

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エバースかわいい

井口 エバースは会ったことないから絶対嫌な奴でつまんない奴だと勝手に思っていたんですけど(※)、面白かったです。けっこう好きでしたよ。どういう人なんですか? エバースって。

飯塚 ネタが面白いのはもちろんのこと、町田さんの人間性みたいなものが一発で伝わったのがすごいなって。「ヤンキー」とかそういうステレオタイプなキャラにするわけじゃなくて、しゃべり方とか風貌で「町田という人間」がみんなに一瞬で伝わって、それを面白がれるところに持って行けるのがすごいなと。

野田 雰囲気の話ですよね。豪快キャプテンのギャンブルゴリラもそうですけど、「こいつ面白いんだろうな」っていうのを匂わせてくる系ツッコミ。

井口 でも、僕はやっぱり会って対峙してからじゃないと判断したくないです。「ロンドンハーツ」(テレビ朝日)で対戦してみないと。「ロンハー」来いよ!(と、かかって来いポーズ)

野田 エバース、前に僕らの配信番組に来てくれたことがあったんだけど、すごい緊張してて。

井口 そうなんですか? それはかわいいなあ。

野田 そう。エバースかわいいんだよ。決勝進出者発表会見のときもそうだったけど、こっちがグッと行くと引くし、先輩への敬意を感じるから、エバースってけっこういいなあって思っちゃってます。人間的に好きなんですよね。

井口 それはいい話聞きました。それに比べてケビンスなんか堂々と歩いてますからね!(笑) 野田さんの話聞いたらエバースは好きになりました。この会がなかったら嫌いなまま年を越すところでしたよ。

※編集部注:井口は知り合っていない全芸人に対する警戒心が強いので、あしからず。

バッテリィズは善のウエストランド

井口 バッテリィズはエースが「アホ」と言われていますけど、そのアホなりの理屈が面白いわけですよね。共感を得るし、一瞬でみんなが好きになった。ルシファー(吉岡)さんと「オトステ」(ルシファー吉岡、ジグザグジギー池田と出演しているポッドキャスト番組)でも話していたんですけど、日本人ってピュアなキャラクターが核心を突いてくるのが好きじゃないですか。「裸の大将」とか「(男はつらいよの)寅さん」とか。そういう部分でグッとみんなの心を掴んだと思います。

飯塚 ギャルタレントが真面目なことを言うのもみんな好きだしね。バッテリィズは、“善のウエストランド”っていう感じがした。ウエストランドの「演劇のチケット代が高い」みたいなくだりをバッテリィズがやるとして、寺家さんが価格を言って、演劇のことを知らないエースさんが「高すぎるやろ!」ってなるのも成立すると思う。目線がピュアか、邪悪かの違いはあるけど(笑)。今回で全国の視聴者に“顔見せ”はできたから、今度から普通のネタにピュアを入れるとか、そのバランスで進化できそう。あと、平場の感じがネタからの地続きなのは強いですよね。

野田 確かに。モグライダーともしげだったら平場でああはならない(笑)。

井口 それは本当にそうです(笑)。好感度を欲しがるっていう悪さもありますから。

飯塚 マユリカは、あのちょっと自虐の入った平場の感じがもう少しネタにも反映されたら、新しいマユリカが見れるのかもとか思いました。

野田 平場が強すぎましたね。「これを言えばウケる」という言葉を思いついたときに、最悪それを言えなくてもいいと思ってる人は平場が強いと思うんですよ。でもやっぱり「M-1」となると「このボケ早く言わなきゃ」と焦る。マユリカはそれがない。別にどこでもチャンスがあると思えている人は強い。

井口 決勝に行ったことがあるとかテレビにたくさん出ているとかは強みになりますよね。「M-1」においては知られてない強みもあれば、知られている強みもある。

左からウエストランド井口、マヂカルラブリー・野田クリスタル

左からウエストランド井口、マヂカルラブリー・野田クリスタル

自分の中で“先に進んだ”ネタ

井口 トム・ブラウンママタルトはやるネタを知っていたんですよ。トム・ブラウンは大好きだし友達だし、ママタルトも仲間ですけど、正直、勝てないんじゃないかなと思っていて。

──なぜそう思ったんですか?

井口 僕はチャンピオンだからわかるんですよ、このネタでは勝てないって。

野田 道が見えるんだ?

井口 見えます(笑)。というのも、(決勝に)行けそうなときに行ききらないと、どうしても1年間ネタを磨くから、自分の中で進んだネタになって1歩とか半歩ズレてきちゃうんです。「M-1」決勝のお客さんって、「M-1」サポーターもいるけどそうじゃない観覧の人もいるんですよ。これは僕らが優勝した翌年の決勝にゲスト出演したときに、お客さんに「あなた誰なんですか?」って話しかけて聞いたので確かです。

野田 話しかけたんだ(笑)。

井口 そうです。これが真実です。くるまは本に「M-1のお客さんにネタバレしてウケない」って書いてましたけど、あんなのは大嘘! こっちは言質とってますからね。点数が伸びなかった人は、自分たちの中で先に行っちゃってるネタが会場に何割かいただろうライトなお客さんに合わなかったっていうことだと思います。いやあ、それにしてもママタルトの点数は低かった!(笑) 久々にあんなに銀色(80点台)を見ましたよ。

野田 銀色並んでたねー。マヂラブ以来の銀。

井口 でも、野田さんはそこから優勝しているわけじゃないですか。そのズレをアジャストすればいいだけだから、「ツッコミが長いのがダメ」とかはまったく気にしなくていい。

野田 打ち上げ配信でも話しましたけど、僕らは途中から「M-1」に寄せながらネタを作っていたんですよ。じゃないと決勝に上がれるイメージがなかったから。でもトム・ブラウンはそのままで決勝に返り咲いてそれはすごいことだと思う。

飯塚 僕もトム・ブラウン大好きですけど、「本当のお笑い好きはトム・ブラウンで笑う」とか「これぞ伝説だ!」みたいになりすぎてる風潮が気になっていて。「めちゃくちゃ変なことしてんなー」って単純に笑いたいのに。

井口 神格化されてますよね。

野田 ランジャタイも同じ現象が起きて、“天才地下芸人”みたいになっちゃったときはけっこうキツかったと思います。そもそもは、トム・ブラウンもランジャタイもクソスベリ芸人なわけじゃないですか(笑)。クソスベリ芸人として登場しないとフリがおかしくなってくる。

飯塚 その期待を崩すとしたら、予選でまったくやってない正統派漫才をいきなり決勝でやるしかないですよね。

お笑い界の諸問題、解決ならず!

井口 「R-1」の予選に今出ているんですけど、2回戦なんてお客さんが15人くらいしかいなくて、たとえ爆発的にウケてもあんまり広まらないんですよね。「M-1」はお客さんのレポが上がるじゃないですか。SとかAとかウケ具合を採点して。ルシファーさんとかピン芸人の人はやっぱり「R-1」に懸けているし、もっと重要なものになっていってほしいと思うんですけど。

飯塚 今はどの賞レースも「M-1」と比較されがちですけど、全然違う審査方法にするとか、まったく別の形にしたらどうなるんだろうなとは思う。

野田 僕は会場が広くないほうがいいと思っていて。実は見せ方にもっと可能性があるんじゃないかなと思うんですよね。そういう部分でも「M-1」との違いを出してみるとか。

井口 優勝した人がその後ちゃんと活躍できたらいいですよね。(お見送り芸人)しんいちはそのへんがうまいから、ZAZYと対立するとかバディ感を出してやっていますけど。ピン芸人って友達いない人が多いじゃないですか。

野田 そうなの?(笑)

飯塚 テレビは関係性のお笑いが主流だから、イジられるとか対立とかの構図が必要なんですよね。そういう意味で漫才は相方とのやり取りから関係性が見えるけど、ピン芸って“作品”だから、テレビへの転換が難しい。

井口 だから、とにかく友達ですよ。友達とラジオをやっとくとか。

飯塚 それは本当にあるかもね。どういう人なのか、説明してくれる人が必要。

野田 ラジオやっとくは一個手かもしれないな。ラジオって本当にみんな聴いてますよね。

井口 でも僕、ちょっとラジオに腹立つことがあって。

野田 ラジオに?

井口 ラジオを聴いている人に、ですね。テレビとか賞レースで芸人がスベったときに、ファンが「でもラジオ面白いから! ラジオ聴いて!」ってフォローする奴。そんなのは当たり前なんだよ! 芸人ってみんな面白いから、1時間フリートークしたら面白いに決まってる。テレビのあの短い隙間で面白いことを言えるかどうかと「ラジオ面白い」は全然話が違うから、テレビでスベったときの擁護に使わないでくれ! ……っていう話です。

飯塚 それで言うと井口くんとは逆のことなんだけど、僕は「ラジオの評価は別にされる問題」というのを考えていて。「好きな人多いよね」「好きな人が聴いてるんでしょ」みたいな、内輪のものだとされて、毎週ものすごいトークが面白くても実力として正当な評価が得られていないなと思う。でもラジオって、本当に雑談だけしてるファン向けのものもあるから「ラジオは……」と一括りにはできない部分もあるんだけど。

野田 マヂカルはラジオでオチのあるエピソードトークをしないんですよ。問題提起して終わり、とか。そこからどう広げていくかが“トーク力”なのかなと僕は思っていて。

井口 だから、全体の評価は低すぎるし、ファンの評価は高すぎるしっていうところですかね。

飯塚 あと「ラジオとポッドキャストが一緒にされてる問題」。

井口 確かに。もっとニッポン放送とかTBSラジオとかが、「我々こそがラジオなんだ」って言っていけばいいんじゃないですか?

──で、「R-1」の話の結論は……?

井口 「友達とラジオをやれ!」でいいんじゃないですか?(笑)

ネタはもっとサクッと見るものであるべき

飯塚 あと「吉住おもしろすぎ問題」っていうのがあって。

野田 なんですか? それは。

飯塚 吉住さんの単独ライブが毎年めちゃくちゃ面白いんですけど、「単独が面白い」ってあまり広がらないなと思っていて。それよりも、ライブの中で起きた“事件”のほうがSNSで話題になる。正しく面白いものが評価されるより、バズっているもののほうが価値が高くなっている風潮がある。

野田 そもそも「ネタが面白い」って一般の人はどのくらい興味があるんですかね?

飯塚 たぶん、「M-1で優勝した」とかは興味があると思うんですけど。

野田 「ネタが面白い」ってもうちょっとサクッとしたことであるべきだと思うんですよね。どう面白いかを解説するようになったから、お客さんからしたらそういう目で見なきゃいけないのかな?ってなる。

飯塚 じゃあ、お笑いを振り返っちゃってるこのライブがよくない?

野田 このライブがよくないですね!(笑) 解説がよくない。

井口 もっと定期的に観られるネタ番組があるといいんですかね。僕は昔「オンバト」を見て、「この人のネタ面白いな」って思っていましたけど、今は「水曜日のダウンタウン」(TBS)で起こる事件とかリアクションのほうが求められてる。

野田 下手したら、「M-1」もネタが盛り上げてる部分は3割くらいなのかもしれない。ほか7割は側(がわ)の話。賞レースですらネタでは盛り上がってない可能性がありますよね。

井口 本当に大変なのになー、ネタって。効率が悪い。

野田 アーティストだったら作曲者に印税とかが入るんだろうけど、ネタ書いてるほうに1円も入らないし、作ったことへの評価が本当にない。しかも、作ったことを主張しすぎると嫌われそうだし。

みんなの良いところを見つけていこう!

野田 (褒められない、褒められないと嘆く井口に)いや、井口はすごいと思うよ。1人の力が強いし、1人の力が強いわりにコンビのネタも強いし。実はここ最近の「M-1」チャンピオンの中で一番ごまかしがないんですよ。マヂカルラブリーは「最下位からの優勝」というドラマがあったし、錦鯉にはおじさん芸人のドラマがあった。でも、ウエストランドはそういうドラマもなく、ただの「ウエストランド」で優勝した。過去1回決勝に行っているのも条件としては最悪で。そういう意味で、チャンピオンとして純粋ですよね。

井口 (褒めを肴にビールをグビグビ飲んで)いやー、野田さんが言ってくれることに意味がありますね! いつも自分で言ってるだけなので(笑)。飯塚さんのことはどう思っているんですか?

野田 飯塚さんに思うのは、こんなにお笑いを知っていて芸人寄りなのに、よくテレビやっていけてるなって(笑)。いまだにライブの作家テンションでいられるのは、もはや怖いです。お笑い芸人に命救われてないとおかしいっていうくらい愛があるじゃないですか。

飯塚 いやいや(笑)。ちゃんと真ん中のこともやっている人間にならないと発言権がないんですよ。お笑いのことしかやっていないと「お笑いの人でしょ? はいはい、芸人くんね」ってなっちゃう。

野田 なるほど。まったく同じ意見です。

飯塚 だから野田さんに勝手にシンパシーを感じていて。「ヒルナンデス!」(日本テレビ)とかメジャーなこともやっているのは「誰かが橋渡ししないと」っていう使命感もあるのかなと思っていて。

井口 飯塚さんはよく言っていますよね、「野田さんはお笑い全体を考えてる」って。

野田 やっぱり、根本に「インディーズが好き」っていうのがあるんですよね。インディーズの中で「インディーズがいい」って言っていてもしょうがない。メジャーの中で「インディーズだ!」と言うのが意味があるから。

井口 そこは2人似てますよね。力を付けないと正しいことができないっていう、室井(慎次)理論。

飯塚 「踊る大捜査線」のね(笑)。

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野田 「あちこちオードリー」(テレ東)でも言ったんですけど、「M-1」チャンピオンでこんなにもクリエイティブな要素が1個もない、プレイヤー一直線の人ってすごい珍しいから、井口が今後目指すべきはプレイヤー日本一かもね。今日井口を見ていて、「もっと言っていいんだ、自分の成したこと」って思った。自分はすごいと思ってるけど周りが全然言ってくれないことってめっちゃあるんですよ。

井口 そうですよ! あなたはすごいんですよ。2冠だし。

野田 じゃあ2冠に関して1個言わせてもらっていいですか? 粗品の2冠と俺の2冠は違うんですよ。俺は先に「R-1」獲ってるんですよ。粗品は「M-1」優勝してから「R-1」なんですよ。その差、わかります? 俺と粗品は違う! 誰かそれを言ってくれよ!

飯塚 あはははは(笑)。確かに、そっちのほうがすごい!

井口 「ゴールデンコンビ」でも優勝してる!

野田 もっと言ってくれ!

──そろそろ終わりのお時間です。

飯塚 結論は、「もっと褒めよう」ですね。

井口 みんなの良いところを見つけていきましょう!

プロフィール

井口浩之(イグチヒロユキ)

1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年から2014年に「THE MANZAI」認定漫才師。「M-1グランプリ」では2020年に初の決勝進出を果たし、2022年に優勝! ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。とろサーモン久保田とのレギュラー番組「耳の穴かっぽじって聞け!」(テレビ朝日)は毎週火曜26:34~。タイタン所属。

飯塚大悟(イイヅカダイゴ)

1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」「家事ヤロウ!!!」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」「クレイジージャーニー」(TBS)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。

野田クリスタル

1986年11月28日生まれ、神奈川県出身。中学時代にお笑い活動をスタート。2002年に同級生とのコンビ・セールスコントで「学校へ行こう!」(TBS系)の企画「お笑いインターハイ」に出場し、優勝した。2007年2月に村上(ムラカミ)とマヂカルラブリーを結成。2017年に「M-1グランプリ」決勝初進出するも、結果は10位。2020年に「R-1ぐらんぷり」王者となり、同年「M-1」でも優勝を果たした。近年は自身発案のジム「クリスタルジム」やゲームソフト「スーパー野田ゲー」シリーズにも力を入れている。

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ウエストランド井口 @westiguchi

年末のイベントの(使えるとこ)!!
読んでねー!!!
#今月のお笑い https://t.co/vzIYUHDMcB

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