どの患いさんもすごく楽しそう
──今のぜん君。は、武道館の続きを生きている感覚なんでしょうか? それとも一度リセットして、ニューゲームを始めた感覚ですか?
愛海 リセットされた感覚はあります。武道館を節目に「オタ活人生終わります」みたいな患いさんたちも実際にいたし、ライブの遠征民が減るみたいなことは実際にあって。私たちもそれは覚悟して臨んでいましたけど、活動再開後のツアーではいつものハコが埋まらないようなこともありました。ぜんぶ君のせいだ。という看板を背負っている以上、自分たちの歴史は続いているけど、気持ちとしてはゼロからのスタートだと思ってやっています。
メイ メイはつれづれの活動とも、かつてのぜん君。の活動とも違う気持ちになってるかな。こんなこと言うとアレだけど、これまではずっと走り続けてきたこともあって、ツアーを完遂できたことに感謝なんてしたことなかった(笑)。でも今はグループが一度ゼロに戻ってまたやり直しているような感覚だから、当たり前のことなんだけど患いさんが足を運んでくれるのはすごいことなんだと思うようになったし、ツアーができることにすごく感謝するようになりました。
──新体制初のシングルは「蓮華粧」でした。この曲のリリース前後で、新体制、そして新たな楽曲に対して、ファンの反応はどうでしたか?
愛海 まずは現体制のぜん君。をちゃんと浸透させたくて、新曲を出さずにツアーを回ってみたんです。そこで手応えを感じられたので、昨年8月にまずシングル「蓮華粧」をリリースして。これは私たちも想定していなかったことですが、「蓮華粧」をきっかけに新しくファンになってくれた人もけっこういらっしゃったんですよ。「ぜん君。のことは知ってたけど、きっかけがなくてライブを観たことがなかった」みたいな人たちが、ひさびさのシングルで注目してくれたみたいで。
──新体制になって活動も一新して、既存のファンだけでなく新規層を取り込むこともできたわけですね。
愛海 はい。だから今の現場はいろんな世代のファンが入り乱れてます。ぜん君。10年の歴史の中で、初期が好きだった人もいれば、今の私たちしか観たことがない人もいる。ウチらも「好きに遊んでください」と言ってるから、遊び方も世代によって違うから超自由。
メイ すごく楽しそうだよね。どの患いさんも。
愛海 ぜん君。としてのツアーがひと段落して、私たちも予期してなかったけど、こもちが所属する星歴13夜の活動終了があって、みんながぜん君。の活動に集中できるタイミングでリリースしたのが「こゆび」(2024年12月11日発売のシングル)。ぜん君。がライブ中、いつも小指にリボンを結んでいたことを、今こうして「こゆび」という曲にして伝えることができてうれしい。
メイ これまで小指にリボンをつけて応援してくれた患いさんに、これからも私たちに小指を賭けてほしいと歌う曲です。
愛海 ぜん君。は何度もメンバーの入れ替わりがあったから、「推しを作らないようにしてる」みたいな患いさんもいるけど、もう何も考えずにもう一度オールインしてほしい。そういう決意を歌った、ちょっと強気な曲。
光 「今の5人で行くぞ」って感じで歌える曲なのもうれしいし、1曲の中でいろいろ展開があるから歌ってて楽しいよね。
こもち 個人的には「こゆび」なのに、全力のエモを出さないのが逆にらしいなって思いました。
愛海 まだ私らはエモくなるタイミングじゃないからね(笑)。駆け出しだから。そういう意味で、いいタイミングで「こゆび」という武器を出せて満足ですね。
メイ それで、「こゆび」の次にリリースしたのが「眩盲暈詩(めまいぽえむ)」なんだけど、この曲はまだライブでやってなくて。
愛海 リリースから1カ月以上経つのに、まだ温めてる(笑)。「眩盲暈詩」は初期から応援してくれている人も好きそうな曲ですね。
──初期から中期にかけて多かった、ガチャガチャしたポップ感のある曲ですね。
愛海 はい。そこに今のぜん君。ならではの歌詞や、ちょっと乙女な部分を混ぜ合わせた曲。
むく かわいいけど、歌詞の内容がめっちゃ重い。
光 うん。重いよね。
メイ そこはいつも通りかな(笑)。
愛海 「こゆび」は今の私たちを好きでいてくれる人に向けた曲だけど、「眩盲暈詩」は今まで関わってくれた人たちに向けた節があります。
──でも決して過去に浸っている曲でもなくて、あくまで見ているのは未来であり、前向きな曲だとも感じました。
愛海 それは私も感じます。今、ぜん君。の活動がめっちゃ楽しいし、歌詞を書いていただいているGESSHI類さんや関わってくれるスタッフさんも楽しんで制作をしてくれている感じがあります。その感覚が、どこか前向きに響いているのかも。
メイ 夢でもあり、目標でもあった武道館が、いい意味でも悪い意味でも重かったんだと思います。今はその重荷を下ろして、身軽になった感じもあるんです。
愛海 個人的には重いものを背負っているときもつらくはないというか。どっちでもいいんですよ(笑)。でも今のぜん君。を楽しんでくれている人が多い状況は、すごくいいことなのかもしれないですね。
10年目でも新鮮さを感じる「Sleeping Dirty」
──連続リリース3作目の「Sleeping Dirty」を聴いたときは驚きました。これまでのシングル曲はテンポが速かったり盛り上がれたりするアッパーな曲ばかりでしたし、ぜん君。が「Sleeping Dirty」のようなミドルテンポで静かに聴かせる曲を表題曲に持ってくるのは初めてではないかと。
メイ 自分たちでもびっくりしたよね。まだぜん君。にこんな引き出しが残されていたんだって。
愛海 10年続けている私でも新鮮な気持ちで歌える曲でした。
こもち ミドルテンポだけど、ライブでやってもテンションが下がるようなことは全然なくて。患いさんもじっと聴き入ってくれてる感じ。
むく みんなすごく真剣な顔で聴いてくれる。
光 聴く側も歌う側もすごく集中する、ライブの中でも緊張感のある時間が流れる曲です。
愛海 この曲を歌っているときはメンバー同士で考えてることとか、その日のコンディションとかがすごく伝わってくるから、毎回違う歌になってる感覚がある。
こもち わかるわかる。自分の前に歌っている人の歌い方で、自分が次にどう入るかが決まる感じ。その受け渡しがすごく気持ちいい。
──トラックに隙間があるのでオケでごまかせない、歌うのが難しい曲でもありますよね。
こもち この曲が1番難しいですね。いろんな意味で誤魔化せない曲だから。
愛海 私、難しいとかわからないんだよね(笑)。この曲、難しいんだ。
メイ テンポがゆっくりで、歌うときに気持ちが大事な曲だから難しいと思う。
光 私はこれまでレコーディングした曲の中で録り直しがなかったのであまり難しい印象は持ってなくて。そのまま歌ったらいけました。
こもち すごい! まっすぐな性格だからかな。
愛海 細かいことを考えて、小手先で歌ってるとつまずいちゃう曲だよね。だから何も考えずに歌える光は向いてるかも。これは褒めてるからね!
光 「Sleeping Dirty」は、むくの歌もめっちゃ好き。
むく 「蓮華粧」のときは、ぜん君。らしい歌い方にしなきゃとか、みんなに合わせなきゃいけないと考えていたけど、「こゆび」からの3作は自分らしく歌ったほうがいいじゃんと思って。自分の中の“カッコいい”と、“かわいい”をちゃんと出せるように歌いました。
愛海 ぜん君。らしさなんてあるようでないんですよ(笑)。これまでいろんなメンバーといろんな編成でやってきて、人数も声色も役割もみんな違ったわけですから。だからぜん君。らしさなんて気にしなくていいのに。
こもち そう言われても、ぜん君。のことが好きで入る人はそういうわけにいかないのよ。こもちも入ったばかりの頃は、自分が好きなぜん君。の歌が頭から離れなかった。でも、今リリースしているオリジナル曲は今の5人でゼロから作っているから、新しいぜん君。を紡いでいる感覚がすごくあります。
会場規模じゃない、新しい目標は
──かつてのぜん君。は日本武道館を目指して突き進んでいましたが、今のぜん君。で向かうべき先はどこか定めていますか?
愛海 何を目標とするかはけっこう難しくて、今のツアーが終わったらメンバー間でじっくり話そうかと考えています。もしかしたら、何か目標を掲げること自体がズレているような気もして。
こもち 会場の規模感が目標じゃない感じはあるよね。
愛海 どうしてもこれまでのキャリアがあるから「このメンバーでO-EASTでやってほしい」とか「また大きなステージを目指してほしい」とかいろんな声は飛んでくるんですけど、私たちはまたイチから大きな会場を目指すグループではないと思っていて。これは昔から言ってることの1つですけど、公民館でのライブとか路上ライブとか、もっとみんなにとって身近な場所でライブをし続けたい。極論、地面さえあればライブはできるし、そこに集まってくれたら楽しい空間が作り出せる。大きい舞台を掲げてそこに向かっていくことで生まれるパワーもあると思うけど、次の私たちはもう少し違うアプローチなのかもしれないなと思っています。みんなは立ちたいところある?
メイ メイは野音に立ってみたいな。
愛海 野音かあ。確かに野音はもう一度立ちたいステージかも。武道館まで行ったのに、一番記憶に残っているのは実は野音なんだよね。
こもち それはどうして?
愛海 ぜん君。の自由さは野外のほうが解放しやすいと思ったのかな。日が落ちていく景色とか、開放感のある場所で自分を解き放つのがすごく気持ちよかった。
こもち いいなあ。
愛海 野音はもう一度立ちたい場所だけど、目標にしちゃう感じじゃないんだよなあ。
むく むくは海外にいる患いさんに会いに海外ツアーしたい。
愛海 海外ライブはやり残したことの1つでもあるので、絶対にやらなきゃいけないことですね。海外の路上ライブかもしれませんが(笑)。
メイ 去年、中国のイベントに出させてもらったとき、めちゃくちゃ盛り上がってくれて。「無題合唱」をみんなで歌ってくれたのは感動した。
愛海 海外の方々は反応が全然違って、超楽しかったです。「待ってた」と言ってくれた人もたくさんいたし、まだまだ回れてないので海外のいろんなところに行かないといけないですね。
──もしかしたら「ライブをし続けること」がぜん君。の新しい目標なのかもしれないですね。
愛海 誰かしらの居場所であり続けないといけないと思っています。ひさしぶりにライブに足を運んでくれたけど輪に入れない患いさんを見かけることもあって、そういう人を見つけたら無理やり巻き込むようにしてるから。「おいでおいで」って。誰も置いていきたくないし、観に来たからには楽しんで帰ってもらいたい。みんなにとって楽しい遊び場であり続けることが新しいぜん君。の目標なのかもしれないですね。
プロフィール
ぜんぶ君のせいだ。(ゼンブキミノセイダ)
如月愛海(きさらぎめぐみ)、メイユイメイ、寝こもち(ねねこもち)、むく、煌乃光(ひのひかり)からなる“病みかわいい”をコンセプトにしたユニット。2015年7月に1stシングル「ねおじぇらす✡めろかおす」をリリースした。2020年7月に東京・中野サンプラザホールにて初のホール公演「ぜんぶ君のせいだ。単独公演~生鳴兆候(バイタルサイン)~」を行い、一時活動休止を発表。同年11月に47都道府県ツアー「re:voke tour for 47」をスタートさせる。2021年3月に既発曲の再録音源を収録したアルバム「Q.E.D.mono」をリリースした。2023年3月に東京・日本武道館で単独公演を行ったのち、再び活動休止を発表。2024年3月に活動を再開し、同年11月から2025年1月にかけて3カ月連続シングルを発表した。