ぜんぶ君のせいだ。インタビュー|武道館、活動休止、新体制で向かう先

ぜんぶ君のせいだ。は2023年3月に東京・日本武道館で単独公演を行ったのち、無期限の活動休止を発表。2024年3月に新体制で活動を再開した彼女たちは、2024年11月から2025年1月にかけて、3カ月連続シングル「こゆび」「眩盲暈詩」「Sleeping Dirty」をリリースした。

音楽ナタリーではメンバー5人にインタビュー。新メンバーオーディションや新曲リリースについて、赤裸々に語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / Icビジュアルアートディレクション / フクモトエミ

活動休止という時間が必要だった

──約3年半ぶりのインタビューなので、2023年から24年にかけての活動休止に関するところから話を伺えたら(参照:ぜんぶ君のせいだ。武道館ワンマンをもって活動休止)。そもそもなぜ日本武道館公演という大舞台でのライブをもって活動休止をすることを決断したのでしょうか?

如月愛海 日本武道館がいろんな意味で節目だった、ということだと思います。これはメンバーにとっても、患い(ぜんぶ君のせいだ。ファンの呼称)さんにとっても同じで。例えば「武道館まで行ったら、その先のステージはもうイメージできない」というメンバーもいただろうし。たぶんこてちゃん(个喆)がそうだよね?

メイユイメイ うん。ゆくえしれずつれづれのときから一緒にやってきたこてちゃんは、活動休止を発表してからわりとすぐ「武道館でステージを降りる」という決断をしてた。それに比べてメイはすぐに何かを決断することができなかった。

メイユイメイ

メイユイメイ

愛海 个喆は活動歴も長かったし、どこかで今後のことを考える節目が必要だったんじゃないかな。節目を必要としていたのは患いさんも一緒で、「武道館までの道のりを見てきたから、推し活をひと区切りする」という方もいた。そうなる気持ちもわからないでもないし、それぞれの思いも尊重したいから活動休止という時間が必要なのかも、という話はけっこう早くからしていました。

──結果として、ぜんぶ君のせいだ。は1年の活動休止期間を経て再始動するわけですが、武道館公演の時点では未来のことは何も決まっていなかったのでしょうか?

愛海 私はそもそもぜん君。を辞めるという選択肢のない人間だから、続けるつもりではいたけど、何がやれるのか、誰とどうやってやれるかは明確には決まっていませんでした。ぜん君。の曲は海外でも聴かれているのに、コロナ禍で外国を回ることもできてなかったし。

──メイさんとこもちさんは、活動休止期間にどんなことを考えましたか?

メイ すぐにステージを降りる決断をした人を前にして、メイは自分でどうすべきかわからなくて、しばらく考えてました。でも自分がこれ以降ステージに立たない姿は想像できなかったし、武道館公演の特典会で「待ってるね」と言ってくれた方に「待っててね」と返事したから、そのままいなくなるのはなんか違うのかなと思って。

寝こもち こもちはぜん君。の活休期間中に星歴13夜の活動があったから、休みらしい休みがなくて。どちらかと言うと「ぜん君。が動かないから星歴13夜でコドモメンタルを支えないといけない」って使命感のほうが強くて、「辞める」の「や」の字すら出てきませんでした。こもちは歌うことが大好きだから、歌えるのであればどんな場所でも、どんな形でも歌い続けたいという気持ちがあって、星歴13夜としての活動を続けてました。

寝こもち

寝こもち

愛海 武道館を節目と捉えていたみんながいる中で、私がぜん君。として武道館に立ったときに思ったのは「ここが夢の到達点じゃないな」ということでした。一度、自分の夢に出てきたライブの景色があって。それは武道館よりも大きい場所で、患いさんたちもたくさんいたんです。それにもし、ぜん君。が終わるんだったら、活動休止してそのままいなくなるのではなくて、「これにて解散!」と宣言してスパッと終わるべきだとも思っていたし。

──愛海さんはお芝居をやったり、小説を書いたり、いろんなことに興味を持って行動するタイプですよね。ぜん君。を辞めてほかのことに挑戦する選択肢もあったのではないでしょうか。

愛海 おっしゃる通り、いろいろなことに興味があるし、やれることはやっていますが、別にすべてぜん君。をやりながらできるんですよ。舞台の本番とNot Secured,Loose Ends(ゆくえしれずつれづれを前身としたコドモメンタルの新グループ)のお披露目の日が被って、死ぬかと思ったけど、なんとかなったし。確かに「時間が足りない」と思うことはあるけど、だからと言ってやれなかったことはない。だからぜん君。を辞めて別の何かに集中しようみたいなことは考えたこともないですね。それくらい私の中心にはぜん君。があり続けています。

必要だったのは“1つずつ乗り越えてくれそうな人”

──活動休止から1年が経ち、ぜん君。は新メンバーのむくさんと煌乃光(ひのひかり)さんを迎えた新体制で2024年3月に活動を再開しました。活動再開にあたってはどんなことを考えましたか?

愛海 私はぜん君。として10年活動を続ける中で何度もメンバーの脱退と加入を経験しているから、新しく人を入れるにせよ、入れないにせよ、ちゃんと悩もうと思いました。私たちはライブの本数が多いから必然的に一緒にいる時間が長くなりますし、どこかでお互いにストレスを感じたり、コミュニケーションの摩擦が生じたりしてしまうんですよ。でもそんなのはある程度仕方のないことで、それを乗り越えながらも、全国で待ってくれている患いさんたちに向けて、ちゃんと歌を届けなければいけない。だからもし新しい人が入るのであれば一生懸命、1つずつ乗り越えてくれそうで、長くがんばれそうな人を探す必要があった。

如月愛海

如月愛海

こもち うん。一緒にずっとがんばってくれそうな人。

愛海 人間、誰しも新しいことに興味が出てきたり、時間が経って考え方が変わるのは当たり前なんですよ。私みたいな人間は欲張りだから、なんでもかんでもやろうとしちゃうけど、みんながみんなそうではないこともわかってて。だから、新しいぜん君。を大切にしてくれて、いろいろあっても一緒に長くがんばれる人を探しました。

メイ もちろん、気持ちだけじゃなくて歌が歌えるかどうかも選考基準でした。

愛海 一応、私たちは武道館に立ったグループなので、今の自分たちと肩を並べても遜色ないレベルの人、もしくは見込みのある人がいいなって。別に私たちも歌がめちゃくちゃうまいグループではないけど、ちゃんと基礎がなってないと感情的に歌ったときに破茶滅茶なことになってしまうんです。ある程度技術面でも頼りになる人を求めていました。特に歌唱力で評価が高かったのが、むく。

むく 泡色(あわいろ)担当のむくです。歌、がんばってます。

むく

むく

愛海 人前なのでかわいい子ぶってますね(笑)。むくはぜん君。だとどういうポジション?

むく 難しいなあ……。「かわいい」って言いたいけど、こもちもかわいいし。

愛海 こもちはちょっと三枚目なところもあるから(笑)。

メイ むくとこもちはかわいさの種類が違うかな。

愛海 むくはかわいい歌い方もカッコいい歌い方もできるうえに、ちゃんと“届く声”を持っている子だと思います。

メイ オーディションのときから歌はピカイチだったよね。

愛海 うん。でもオーディションのときのむくは、うまいからこそ“失敗しちゃいけない”みたいな気持ちが先立っててもったいなかった。でも「外れてもいいから大きい声で歌ってみて」と伝えたとき、ほとんどの人がうまくできない中、むくは負けん気を出して勢いのある歌声を披露してくれて。本人的にはそんな歌声を披露するつもりはなかったろうけど、それがすごくよかった。

──技術だけで負けん気がなかったら、選ばれなかったかもしれないわけですね。

愛海 はい。技術だけでも、気持ちだけでも受からなかったと思うので、その両方を持っているのがむくです。もう1人の新メンバー、光は特に精神性で惹かれた子です。真面目ないい子だなって。

煌乃光 落日色(らくじついろ)担当の光です。ポンコツなんですけど、真面目になんでも取り組む真剣さは持っているつもりです!

煌乃光

煌乃光

愛海 ポンコツというか不器用というか。3つ何かを伝えたら最後の1つしか覚えていないようなことがよくある(笑)。

 全部本気で聞いてるんですよ。でもどうしても忘れちゃう……。

愛海 うん。ずっと真剣に聞いてくれている顔はしてるもんね。

 最近はメモを取るようになったので、だいぶマシになりました。

メイ 光の真面目さを感じたのは、オーディションのときに課題曲の歌詞を手書きしてきたこと。みんなスマホで確認する中、手書きの歌詞を持ってくる子はなかなかいないから。

 これには理由があって、ただ時間がない中で歌詞を覚えなきゃいけないから「書いたほうが頭に入るかも」という受験生みたいな発想で紙に書いただけでした。しかもそこまで頭には入ってなくて、焦りました。

メイ 今だったらわかるんだけど、オーディションのときはこの子のキャラクターまでわからないから「めっちゃ真面目な子がきた!」と思いました(笑)。

こもち でもやっぱり紙に書いてくるのは真面目だよ。

愛海 それと、うれしい感情も悔しい感情もそのまま顔に出るタイプ。どっちかというと。

メイ 本人は隠そうとしてるけど、わかりやすいよね。

 隠せているつもりだった(笑)。

愛海 そこもいいところなんだよ。感情が伝わりやすいし、素直な性格だってことだから。素直なのはすごくいいことで、一緒に生活するうえで大事になってくる部分だし、素直になれなくて成長が阻害される子もたくさん見てきましたから。