ぜんぶ君のせいだ。が5thアルバム「或夢命」をリリースした。
5月に凪(なぎ)あけぼの、征之丞十五時(ゆきのじょうおやつ)の2名が加入し、わずか半年の間に2枚のシングルと2作の再録アルバムを発表してきた彼女たち。新体制初のオリジナルアルバムとなる本作には、5人で歌うことを前提に制作された新曲を軸に、「ロマンスセクト」「唯君論。」といったライブで定番曲となっている楽曲の再録バージョンなど計12曲が収録されている。新体制になり“5人で魅せること”を追求してきたぜん君。はどう変化しているのか。アルバム書き下ろしの新曲の制作秘話などを交えながら、メンバー全員へインタビューを行い、グループの変化に追った。
取材・文 / 倉嶌孝彦
1年前とは思えないZeppワンマン
──ぜんぶ君のせいだ。の2019年の活動を振り返ると、1月の東京・Zepp Tokyoでのワンマンライブで始まってます(参照:革命前夜のぜんぶ君のせいだ。Zepp Tokyoに立つ「ぜん君。はここから変わる」)。
ましろ すごく遠く感じますね。感覚的には5月にぼの(凪あけぼの)と(征之丞)十五時が入ってからの半年はめちゃくちゃ早くてつい最近のことのように思えるんですけど、4月以前のライブのことはどこか遠い出来事のように感じて。不思議な1年ですね。
一十三四 新体制になって5色のぜん君。が定着したからかな。まだ2人が入って半年というのが信じられない(笑)。もっと前から一緒に活動していた気がしています。
──それほど2019年の後半は濃い半年だったんでしょうね。
如月愛海 そうですね。かなりの本数のライブをしたし、シングルと一緒に再録アルバムもリリースしていたので、レコーディングもここ数年で一番多かった。
一十三 ぼのと十五時が入ってからの半年だけで1年分以上の活動を詰め込んだ感覚があるんですよ。
──ぼのさんと十五時さんは2019年の前半と後半でまったく違う生活になったのでは?
征之丞十五時 そうですね。新しい世界に飛び込んでからの半年は必死すぎて、しばらく頭の中がパニックでした(笑)。何をやっても初めて経験することばかりだったので。
凪あけぼの ぜん君。に入る前の自分がまったく思い出せないんですよ。「何を考えて生きてたんだろう」みたいな。ぜん君。に入るまでの人生では何かに夢中になったことがなくて、今年の前半と後半でまったく違う生き方をしているからかもしれないですね。
如月 私たち3人は、もうぜん君。になる前の自分とか、ぜん君。を辞めたあとの自分を全然イメージできないんです。それぐらい命懸けでやっている中で「或夢命」という新しいアルバムのタイトルを見たときに、すごく腑に落ちたんです。これは自分なりの解釈ではあるんですけど、命懸けで向かっている夢がもう現実になりつつあるんだ、ということを「或夢命」という言葉から感じ取ったんです。
──ぜん君。の夢は、以前から目標としている日本武道館でのライブですよね?
如月 はい。武道館は目標であり、自分たちの夢の舞台でもあるんですけど、これまで長い間活動してきた中で、もうただの夢物語ではなくて、そこに至る道が見えてきている。私には5人で武道館に立っている景色がもう見えつつあるんです。
ましろ もしかしたら患いさん(ぜんぶ君のせいだ。ファンの呼称)の中にはメンバーが変わったりする中でぜん君。のこれからを心配してくださった方がいるかもしれないけど、5人になっても夢は変わらないし、僕らが表現したいことも変わらないんです。最初から掲げ続けてきた夢を思い起こす言葉がアルバムのタイトルになっていて、すごくうれしかったですね。
洗脳される「Greedy Survive」
──5人体制になって「LIVE or DIE~ちぬいち~」「LIVE or DIE~ちぬに~」という2つの再録アルバムをリリースしているわけですから、今作を含めて半年でアルバム3枚分のレコーディングをしているわけですよね。
ましろ たった半年でアルバム3枚はすさまじいですよね(笑)。5人でどう魅せるか、5人でどう歌うかを常に考えながらレコーディングをしてきたし、ツアーで何度もライブをやってきたから、今回のアルバムでは5人で歌う形の完成形のようなものが見えてきた気がしました。
──ラップ調のボーカルが続く「Greedy Survive」や、ダンスミュージックの要素が強い「whiny melty whiny」など、今回のアルバムにはこれまでのぜん君。のイメージと毛色が異なる曲が収録されているのが印象的でした。
一十三 「Greedy Survive」のデモをもらったときは、最初どんな曲か理解しきれなくて。
如月 5人全員で「Greedy Survive」のデモを聴いて、ちょっとしたパニック状態になりました(笑)。
征之丞 「え? これぜん君。の曲?」みたいな感じ。
凪 ちょっとお経っぽい歌い方の曲で、今までのぜん君。にはなかった曲なんですよ。
一十三 何度も聴いているうちにだんだん好きになってきた気がする。すごく中毒性のある曲で、好きになるというより洗脳されたような感じなんだよね。
如月 曲を作ってくれたsyvaさんが今まで一番ふざけた曲なんじゃないかな(笑)。
一十三 お経のように単調な歌い方で始まるんですけど、各自ちょっとずつニュアンスが違ったりして。遊びながら歌えた曲だったよね?
凪 うん。レコーディングがすごく楽しかった。
征之丞 ぜん君。の曲って世の中の流行には関係ないところにあるものが多いんだけど、この曲はちょっと今っぽい。
如月 それ、私も感じた。お経というと今っぽくないけど(笑)、要はラップに近い歌ですから。「私たちもちゃんと今の音楽に付いてきてるんで」みたいなスタンスも出したいんですよ。
ましろ 今っぽいし、ぜん君。として新しい挑戦ができるのはうれしいよね。
コドモメンタルの要素
──水谷和樹さん作曲の「whiny melty whiny」を聴いたとき、同じく水谷さんが楽曲提供をしている星歴13夜のサウンドに近いものを感じたんですよ。
如月 私も思いました。デモをもらったとき、メモで「星歴」って書き込んだんですよ。
一十三 さっき話をしていた「Greedy Survive」は、個人的にはKAQRIYOTERRORの歌っているものに近いのかなと思っていて。作曲をしてくださる2人がほかのグループの曲を作りながら、「ぜん君。にこういうことやらせたら面白いかも」と思ってくれているのって、すごくありがたいことだよね。
如月 私たちはいろんな曲を全部歌わせてもらえるわけだから、ラッキーだね(笑)。
ましろ さっきの「Greedy Survive」が新しめの音楽だとしたら、「whiny melty whiny」には1990年代のダンスミュージック感がある。数年後リバイバルとかでもう1回流行しそうな絶妙な古さを突いている感じがたまらないんですよね。
如月 「whiny melty whiny」は、大人っぽいサウンドを子供っぽい私たちが歌うところがすごくいい。みんなちょっとだけ大人っぽく歌おうとがんばっているし、吐息が聴こえてきそうな歌い方なのが個人的にツボで。
凪 わかるわかる! ちょっとエロい。
一十三 あくまでちょっとなんだよね(笑)。秘密の花園を覗いちゃったときの気持ちみたいな。
如月 私はこの曲で「娼年」という映画(2018年4月に公開された三浦大輔監督作品)を思い出したんです。子供が観ちゃだめなわけではなくて、ただ単に子供が観るには少し早いかなくらいのニュアンス。「娼年」の中で流れてたら合いそうだなあ。
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託された「愛してる」