ゆずとポケモンは“同世代”、アニメ最新OPテーマ「GET BACK」ができるまで (2/2)

置いてきてしまった夢はなかったかな?

──10月23、25、26日に東京・有明アリーナで開催されるアルバム「トビラ」のリバイバルライブ「ゆずの輪 Presents YUZU LIVE 2025 GET BACK トビラ Supported by ITOCHU」についても聞かせてください。この公演も「GET BACK」がきっかけで企画されたとか。

北川 はい。「GET BACK」というフラッグを掲げたときに、これはゆずのほかの活動にも生かせるなって。「図鑑」ツアーをやり切ったときに「ここでゆずとして1つ完成したな」と思ったんですよ。一片の悔いもないというか、今やれることは全部詰め込めたなと。それと同時に「次は何をやるんだろう?」と思ったんです。ちょうど「GET BACK」を制作したばかりだったので、やり残したこと、置いてきてしまった夢やなんとなく消えてしまった目標はなかったかな?と思い返した。その中で出てきたのが「『トビラ』を“GET BACK”する」ということだったんです。あと、「図鑑」ツアーの中で「ワンダフルワールド」を歌ったことも大きかったですね。2008年にリリースした曲なんですが、ツアーで歌っていく中で、今の時代性や自分の年齢のことも重なって、まったく違う曲になっていくような感覚があったんですよ。それもあって、「トビラ」という作品を今ライブでやったら、いい化学反応が起きるんじゃないかなと。

北川悠仁

北川悠仁

──「トビラ」は2000年にリリースされた3rdアルバムです。「飛べない鳥」「嗚呼、青春の日々」などのシングル楽曲が収録され、リアルな葛藤や憤りが表現された、ゆずの異色作として知られています。

北川 僕ら自身にとっても違和感がある作品なんですよ。自分たちの中に歪みが起きたときにできたアルバムというのかな。そういう「トビラ」を今のゆずで“GET BACK”したら、どういうことになるんだろう?というひらめきですね。たまたまデビュー記念日(10月25日)に有明アリーナを押さえられたし、“GET BACK”を掲げたプロジェクトの1つとしてやってみたいなと。

岩沢 「トビラ」に収録されている曲は、ライブでも時折やってはいたんですよ。なのでそこまで距離感のあるアルバムではないと思っているんですけど、とはいえリリースから時間が経っているし、ガッツリ向き合えるのはすごく楽しみです。今の我々がやったらどうなるんだろう? 今ならできるんじゃないの?という変な自信もあって。「若かりしゆず、かかってきなさい」という(笑)。

──なるほど。実は私、シングル「嗚呼、青春の日々」のリリースのときにお二人に取材をさせてもらってまして。北川さんが「ゆずに対する周囲のイメージは、自分たちには関係ない。そう思わないと曲が作れない」という話をしていたのがすごく印象に残っています。

北川 恥ずかしい(笑)。

岩沢 ハハハハ。

「トビラ」を肯定できるようになった

──1997年に「ゆずの素」でデビューして、いきなりヒット曲を次々と生み出して、人気者になって。ゆずのイメージがそこで一気に広がったわけですけど、自分たちはそれだけじゃないと思っていた?

北川 うん、まさにそう思ってました。状況が激変したんですよね。2人で路上で歌っていたら、引き上げられて、たくさんの人に知ってもらって。そのときは明るくて元気というイメージがあったと思うんですけど、僕の中にはそうじゃない部分が確実にあったし、「これを隠しながら続けていくのは無理だな」という危機感があった。暗中模索だったし、その渦中にいるときは見えなかったものも多くて……。でも、今「トビラ」を聴くと、もがいてはいるんだけど、面白いことをやろうとしてるんですよね。そこが憎めないというか(笑)、一生懸命に変わろうとしてたんだなって。そう思えたから「今やったら面白そう」という気持ちにシフトできたのかもしれないですね。

「トビラ」ジャケット

「トビラ」ジャケット

──「トビラ」を引っさげた当時のツアーも必死だった?

岩沢 そうですね。最終日に「やっと終わってくれた」と思ったのを覚えていて。清々しい気分とか「やり切った」ということではなくて、「ようやく終わった。次どうしよう?」という感じだったと思います。たかだか3年くらいのキャリアなのに、当時の状況を受け止めきれなかったし、「トビラ」というヘビーなアルバムを作って、ツアーを完遂しなくちゃいけないという妙な使命感もあった。やっぱり違和感だらけだったし、今振り返ると「そのやり方、疲れるよ」と言ってやりたい(笑)。

岩沢厚治

岩沢厚治

北川 そうだね(笑)。いろんなやり方があったはずなのに、扉をどんどん閉めていって、「この扉だけだ」みたい状態になっていたんですよ。自分たちで退路を断って、「この世界観だけでやるんだ」という。その意志と情熱はすごかっただろうし、鬼気迫るものがあったと思います。もちろん、そのときにしか出せなかった熱量があったし、だからこそ成立してたんだろうなと。今はまったく状況が違うので、当時とは全然違うライブになると思います。「トビラ」を中心にしたライブだけど、懐古的な発想ではなくて。今の自分たちが当時の曲をやることで、また違った魅力を出せるはずだと感じています。

──いわゆる名盤再現ライブとは違う、と。

北川 違いますね。どのアルバムもそうですけど、その都度やり切ってるので、ただ再現するのとは違うのかな。今回の「トビラ」のライブに関しては、当時抱いていた違和感を今のゆずに投入したら、どんなことが起きるのか?という実験的な要素もありますね。僕の中で「トビラ」というアルバムのことをあまり見ないようにしてきたんですよ。すごく尖がっているし無茶苦茶だし、ちょっと恥ずかしい気がしていて。ここにきてようやく「トビラ」を肯定できるようになって、「独特の魅力があるな」と思えるようになったのはよかったですね。

──アルバム「図鑑」を引っさげたツアーがあり、ゆずの新たな表現を切り開いた「GET BACK」ができて。このあとのビジョンについては?

北川 少しずつですけど、“30thアニバーサリー”の大きな山が見えつつあって。「トビラ」のライブに関しても、30周年が始まる前に必要なプロセスだと思っています。

岩沢 年相応に継続していけたらいいなという気持ちもありつつ(笑)、気の向くままやるのもよし、誰かにお尻を叩かれるもよし。“Let it be”でいければなと思っています。とは言え、まごまごしてると30周年が来ちゃいますからね。

北川 再来年ですからね……30周年ってすごいですよね。いい形でたどり着けるようにがんばります。

公演情報

ゆずの輪 Presents YUZU LIVE 2025 GET BACK トビラ Supported by ITOCHU

  • 2025年10月23日(木)東京都 有明アリーナ
  • 2025年10月25日(土)東京都 有明アリーナ
  • 2025年10月26日(日)東京都 有明アリーナ

プロフィール

ゆず

北川悠仁と岩沢厚治によるデュオ。結成当初は横浜・伊勢佐木町で路上ライブを定期的に行っていた。1997年にミニアルバム「ゆずの素」でCDデビュー。1998年にリリースしたメジャー1stシングル「夏色」が大ヒットを記録し、以降「いつか」「サヨナラバス」「桜木町」「栄光の架橋」「虹」「雨のち晴レルヤ」など次々とヒット曲を生み出している。最新シングルは2025年5月配信リリースのテレビアニメ「ポケットモンスター」オープニングテーマ「GET BACK」。10月には3rdアルバム「トビラ」のリバイバルライブ「ゆずの輪 Presents YUZU LIVE 2025 GET BACK トビラ Supported by ITOCHU」が東京・有明アリーナで開催される。