夕闇に誘いし漆黒の天使達|目指すは“コミックバンド四天王”の一角

過去に書いた歌詞は過去時点でのリアル

──その「Waiting For You」ですけど、今回のアルバムでは唯一ちょっと不親切さを感じたんですよね。

千葉 ああ、なるほど。

小柳 確かにこれは、少し裏読みをしないといけない歌詞になってるんで。

──歌詞も含めて、パッと聴く限りでは“普通のいい曲”なので、ボケとしては比較的高度だと思います。これまでに夕闇が発表してきたパチンコ曲と比べても、かなり表現が洗練されてきている印象を受けました。

にっち 洗練(笑)。

──今後もライフワーク的に、同じテーマを書き続けて研ぎ澄ませていく予定はあったりするんですか?

小柳 俺はだいたい自分の生き様を歌詞にしてるんで、パチンコを打っている限りは書き続けるかな。

──ということは、もし「パチンコもう飽きた」となればそういう歌詞になっていくかもしれないし、別のモチーフに取って代わるかもしれないと。

小柳 そういうことになりますね。いろんなアーティストさんがよく「前はこう言ってたのに、今は全然違うこと言ってるじゃん」みたいに批判されたりしますけど、当たり前じゃんっていう(笑)。過去に書いた歌詞はあくまで過去時点でのリアルなんで。

──そして次の「Q.O.L」は、個人的に今回のアルバムで一番すごいなと思った曲です。「3分半の中に何ジャンル出てくるんだ?」という。

小柳 これはオケ先行でした。「ミドルテンポの曲が1個あってもいいんじゃない?」みたいなところから始まった曲で。

ミスター千葉(G)

千葉 最初のデモは僕が作ったんですけど、ほかの曲にラウド系が多かったんで「ちょっとさわやかできれいな曲を作ってみようかな」と思って、ピアノとかが入ってくる感じの曲を作り始めて。とはいえラウドの要素も少しは入れたいなと思ったので、サビあとにギターがズクズクいうようなフレーズを入れたりしていきました。

──短い尺の中にいろんな要素をギュッと詰め込む、というのは狙いとして持っていたんですか?

千葉 いえ、たまたまそうなりました(笑)。

ともやん でも言われてみれば、確かにいろんなことやってるよね。

小柳 なんとなく「ここはこうかな」くらいのノリで作っただけなんだけど(笑)、そういえばシャウトもしてるし、ラップもあるし、サビはツービートだけどさわやかで……。

──「この1曲が夕闇のすべてを表している」とも言えるくらいの曲なんじゃないかなと。

小柳 そうかもしれないです。意識してなかったけど(笑)。

──それを意識せずに作れるというのが逆にすごいですけど。もちろん歌詞もちゃんと“夕闇印”で。

小柳 この歌詞の一番のポイントはサビでの“裏切り”なんですけど、実は今まで一度もやっていない手法で。Aメロ、Bメロが長いフリになっていて、タメてタメてサビでボケるっていう。実はコミックソング界広しと言えども、そのスタイルをやってるのってブリーフ&トランクスくらいなんですよ。俺はブリトラもすごく好きなんで、そういうのやってみようと思って。

──ああ、なるほど。言われてみれば確かに「1億円が欲しい」はブリトラ感ありますね。

小柳 リフレイン系だからみんなで口ずさめるし、案外みんなも思ってそうなことだし。そういう言葉を乗せてみようと思ったのがスタートでした。

数字数字数字……そんなに言うなら全部数字で書いてやるよ

──そして先ほどもお話に出た「数字」ですが、これは特に歌詞が特徴的で。すべて「558 5108 74(ここは言葉無し)」のように数字で表記されていますが、どういうところから着想を得てこうなったんですか?

小柳 なんか、数字数字言われすぎてうっとうしいなと感じてたんですよ。動画の再生回数とか登録者数とか、大人は数字の話ばっかりするじゃないですか。「そんなに数字数字言うなら、全部数字で書いてやるよ」と。

ともやん アンチテーゼとしてね(笑)。

小柳 みんなも会社とかで「業績が」「コストが」みたいな数字の話をうんざりするほどされてると思うんで、そこは共感を得られるポイントかなと。なので、ライブでどういうMCからこの曲に入るかっていうフリの部分から考えていきました。

──なるほど。まさかそんな出発点だったとは想像もしませんでした。

小柳 全部を数字で書く手法をあまり見たことがないというのもあるし、歌詞カードを見たときにビジュアル的にバグってる感じも面白いなと。ただ、作詞はめっちゃつらかったですけど(笑)。ラップ調にしてしまったがゆえに、埋めるのが大変で。韻を1つ踏むにもめちゃくちゃ選択肢が限られるし。

──その苦労は容易に想像できます(笑)。

小柳 語呂合わせにしても、考えたら思い浮かぶってものでもないんで。意外と、机に向かってないときのほうが思い付いたりしました。あと、何か文章を入れると自動的に数字で語呂合わせを作ってくれるサイトとかもあるんですけど、超無理やりな「それはないだろ」ってのも平気で出てくるんですよ。そこから使えるものを選別するのも大変でしたね。周りの人に「この語呂合わせ、アリだと思う?」って聞きまくったり。

──個人的には「調子どう?」の「チョウ」を「1,000,000,000,000」と表記しているところにシビれました。よく思いついたなと。

小柳 そういうのも入れないと、さすがに埋まらないんで(笑)。

──これ、逆に全部の歌詞を「ごーごーはちごー」とそのまま数字として歌うみたいなアイデアもあったりしました?

小柳 ありました。最初はそれを混ぜようと思ったんですけど、なんか「芸として違うな」と。唯一、サビで1箇所だけ「1234 1234」ってそのまま歌うことにしました。

ともやん そうだね、あそこだけっていうのが面白い。

──その判断もすごく“親切”ですよね。ちなみに、先ほど作詞には小柳さん以外の方は関わっていないと伺いましたけど、この曲はさすがに多少協力していますか?

ともやん これも完全にノータッチですね。

──一番みんなで作ってそうな歌詞なのに。

ともやん 確かに(笑)。

小柳 マジで1人作業だったんで、人生で一番作詞に時間かかりましたね。普通の歌詞を書くのも大変だと思ってたけど、「言葉をなんでも使えるって、こんなにありがたいことだったんだ」という発見がありました。

──今後も何か、そんなふうに負荷をかけた状態で書いてみるのも面白いかもしれないですね。それでしか生まれないものもありそうだし、動画でそのチャレンジを追ったりしてみても楽しそうです。

小柳 そうですね。何かいいアイデアがあれば今後もやっていきたいです。