夕闇に誘いし漆黒の天使達|目指すは“コミックバンド四天王”の一角

“コミック系ラウドバンド”を標榜する4人組ロックバンド・夕闇に誘いし漆黒の天使達が、6月9日に2ndフルアルバム「2枚目の夕闇に誘いし漆黒の天使達」をリリースした。今作は確かな演奏能力に裏打ちされたハイクオリティなトラックとコミカルな歌詞が織りなすラウド曲を軸に、ピアノロックやトラップ、青春の詰まったJ-POPといった新たなサウンド領域にもチャレンジした意欲作に仕上がっている。

音楽ナタリーではメンバーの小柳(Vo)、ともやん(B)、ミスター千葉(G)、にっち(Dr)にインタビュー。アルバム制作の裏側やそこに込められた思いを詳しく聞いた。また、チャンネル登録者数60万人を超える人気クリエイターとしての顔も持つ彼らが、音楽活動と動画クリエイターとしての活動のバランスをどう考えているのかについても語ってもらっている。

取材・文 / ナカニシキュウ 撮影 / 後藤倫人

「ちゃんとコミックバンドをやろう」と

──そもそも皆さんはどんなふうにバンドとして始まったんですか?

小柳(Vo) ミスター千葉以外が普通に高校の同級生として出会って、軽音部のバンドとしてスタートした感じです。前任のギターが抜けたときに千葉が入って今の形になるんですけど、そもそもの結成当初はオリジナル曲をやってなくて、マキシマム ザ ホルモンのコピーだけをするバンドでした。

──ホルモンのコピーをやるために組んだバンドなんですか?

小柳 いや、みんなの音楽性を総合してみたら、結果的にホルモンだったみたいな。激しい音楽が好きだったのもあるし、そもそも「うまいやつと組みたい」っていう理由で集めたメンバーなんで、難易度の高い曲をやりたい気持ちもあったんです。そういう意味で、ホルモンの音楽が一番条件を満たしていたというか。

──そこから今のスタイルになっていくまで、どんな変遷をたどるんでしょうか。

小柳(Vo)

小柳 あるタイミングで「オリジナル曲を作ろう」ということになって。最初はホルモンっぽい感じのミクスチャー的なニュアンスだったんですけど、もともとライブでは同期を使ってたんで、それも生かしたいなと。そこから電子音の入ったラウド系をいろいろ聴くようになって、そういう要素を自分たちの曲に落とし込みつつ、ただ歌詞はコミックバンドのようにふざけてるっていう。「そこを混ぜてやっていこう」みたいな流れでしたね。

──今、急に“コミックバンド”の要素が入ってきましたけど、そのテーマはどこから生まれたものなんですか?

小柳 そこに関しては、シンプルに俺がコミックバンドが好きだからです。高校でやっていた夕闇以外のバンドも全部コミックバンドだったし。逆に、夕闇は本来コミックバンドにする予定ではなかったんですよ。うまいやつだけ集めて真面目にカッコいいバンドをやるつもりだったんですけど、あるときからMCでふざけ始めたら中途半端な見え方のバンドになっちゃって。「それだったらちゃんとコミックバンドをやろう」と意識を改めました。

──ふざける要素を排除する方向ではなく(笑)。ほかの皆さんはその方向性に納得していたんですか?

ともやん(B) そこに対する疑問は全然なかったですね。

にっち(Dr) 俺は高1からずっとこや(小柳)と一緒なんで、麻痺っちゃってるというか(笑)。「面白いほうがいいんじゃない?」みたいな。

──シリアスな曲だけをやるバンドよりも、むしろこっちのほうがいいと。

にっち いや、そうは言わないけど(笑)。それぞれによさがあると思うんですよね。

ミスター千葉(G) 僕はあとから夕闇に入りましたけど、むしろ面白いほうが好きですね。もともと、夕闇が面白いことをやっているライブ映像を観て「入りたい」と思ったくらいなので。

小柳 千葉はこういう珍しい人材なんですよ。入ってきたとき、ギターのテクニック的な部分とかサウンドのフィーリングとかは全然ダメだったんですけど(笑)、人間的にパンチがあったんですよね。俺らは町田近辺から神奈川あたりで活動してたんですけど、こいつは千葉に住んでたんで、こっちまで来るのに電車で2時間とかかかるんですよ。

にっち 町田で2時間スタジオに入るために、往復4時間かけて来るという(笑)。

小柳 そういう意味不明なことを平気でやれちゃうところが、コミックバンドをやるには適した資質なんじゃないかと思って。決め手はそこですね。あと、実は本名が千葉じゃないし。

千葉 高山将明と申します。

──千葉から来たから「千葉」なんですか?

千葉 そうです。なんかそう呼ばれ始めて。

──地名を名前にするってマンガ「あずまんが大王」の大阪みたいですね。

小柳 俺らはたぶん大阪から来た人を「大阪」とは呼ばないですけど(笑)。確か、初めて会った日にはもう「千葉」だったよね?

ともやん 最初は「千葉ちゃん」って言ってたかな。

千葉 もう慣れちゃって、今では「千葉」と呼ばれるほうがしっくりきます(笑)。

面倒くさいからです

──ではニューアルバム「2枚目の夕闇に誘いし漆黒の天使達」について伺います。音源を聴かせていただいて、「めちゃくちゃ親切なアルバムだな」という印象を受けました。というのも、「この曲のここを面白がってください」というポイントがめちゃくちゃ明確かつ丁寧に提示されているなと。

小柳 なるほど、確かに。

──リスナーをまったく置いてけぼりにしていないというか、「わかるやつにだけわかればいい」というスタンスとは正反対ですよね。そこは意識しているんですか?

小柳 メロと歌詞は全部俺が作ってるんですけど、歌詞に関してはそうですね。

ともやん 逆に「これだけわかりやすく作ってるのに、わからないんだったらもういいよ」みたいな気持ちもあるかもしれないけど(笑)。

──メロと歌詞を小柳さんが手がけているというお話ですけど、作詞作曲のクレジットは全部バンド名になっていますよね。これはなぜ?

小柳 面倒くさいからです。

一同 あははは(笑)。

ともやん まあ、全員何かしら曲作りには関わってるし、間違いではないんで。

小柳 基盤を作るのは誰か1人なんですけど、そこにみんながアイデアを乗せていく感じでやってるんで。だからバンドクレジットでいいか、と。

──具体的には、楽曲制作はどんなふうに進むんでしょう?

小柳 だいたい、千葉かともやんが曲を持ってくるところからですね。

ともやん(B)

ともやん まずツルッと1曲、頭から終わりまで書いた状態のデモをメンバーに投げて。そのあとは曲によって違うんですけど、小柳が「ここ足りないな」と言ってきたらそれを足して、それからドラムのアレンジ、竿隊のアレンジというふうに進むことが多いですね。データでやり取りしながら詰めていく感じです。

──作詞に関しては、小柳さん以外の方が関わる部分も多少はあるんですか?

ともやん千葉にっち 一切ないです(笑)。

──(笑)。となると、小柳さん的には「作詞の印税は俺だけにくれよ」みたいな気持ちになってもおかしくない気がしますけど。

小柳 いや、別にいいかなって。そんなことでいちいち揉めたくないですし。

──なるほど。そうしてできあがったアルバムですが、曲順もすごく“親切”ですよね。まずラウドなサウンドでしょうもないことを歌う“ザ・夕闇”な曲が続いて、だんだん様子がおかしくなっていき、いったんラウドに戻るんだけど最後はさわやかに終わるという。めちゃくちゃわかりやすい流れになっています。

小柳 曲順に関しては何個か案があって、いろんなパターンを試してはみたんですけど、最終的には最初に出た案に落ち着きました。結局これが一番いいなって。

──起承転結がはっきりしていてストーリーとしてきれいですし、それによって各曲のキャラクターも際立っていると思います。

小柳 音源を作るときは、わりとライブを意識して考え始めるんですよ。作品として聴いてもらうことよりも先に、ライブの流れの中でどういう機能を持つ曲にするかっていう発想で。それに加えて、今作に関しては俺が「こういう曲をやりたい」と要望を出して作り始めた曲が多いんで、その結果として1個1個が明確に違うものになってるんじゃないですかね。

──小柳さんがコンセプトを提示して、ともやんさんや千葉さんがそれに即した曲を上げてくるという流れ?

小柳 非ラウドの曲に関してはそうです。完全にイメージ先行で、例えば「Waiting For You」は「きれいなピアノロックサウンドでパチンコのことを歌ってるやつはいないな」という発想からだし、「数字」は「ダークな音にふざけた歌詞を乗せてる曲って意外とないな」というところから始まっていて。