吉澤嘉代子|10個の変化と手放したくないもの

変化7高いギターを買った

──音楽面での変化は最近何かありましたか?

去年、GIBSONのL-1という古いギターを買いました。デビュー5周年を迎えたので、お祝いの気持ちもあり。

──それは高いギターなんですか?

はい。私にとってはめっちゃ高いやつ(笑)。最初はもっと気軽に使えるくらいのものにしようと思っていたんです。ギターを買うのが初めてだったので、楽器が好きな弟と一緒にいろいろと見て回って。半年くらいずっと探していて、その中で気に入ったのが今のギターです。

──決め手はなんだったんですか?

「ああ、もうかわいい!」っていうところです。自分の感覚の話なんですけど、ギターは“ガワ”があるか“ガワ”がないかの2種類あって。

──ガワ?

枠というか、弾いた感触? ガワがあると、ちょっとかしこまった弾きづらさがあるんです。そういうのがいいときもあるんですけど、自分で曲を作るときはガワがないギターがいいなと思って。購入したギターは完全にガワが削り取られている感じがしたので、それで選びました。

──そのギターを手に入れて、音楽的に何か変わりました?

うーん……ギターを弾くのが楽しくなったということですかね。弾いていて疲れないんです。今のところはそのくらいだけど、自分にとっては大きいですね。商売道具なので。

変化8レーベル移籍

──仕事面ではレーベル移籍という大きな動きもありました。環境がガラリと変わるのは音楽をやるうえで影響が大きいと思いますが、どうでしょう?

転職に近い感じがしますね。

──新しい環境で制作された新曲は何か変化を感じますか?

そうですね、今年の春に新しいチームが始まってすぐ世の中が自粛期間に入ってしまったので、コミュニケーションが取れないまま制作する不安があったんですけど、リモートでやりとりを重ねたりしてその不安は解消されました。素敵な人が集まったチームでお仕事していて楽しいです。

──レーベル移籍第1弾作品となるシングル「サービスエリア」は、どのように制作されたのでしょうか?

吉澤嘉代子

次のアルバムのテーマを“恋人”にしたいと思っていたので、恋人たちが出てくる3曲をシングルとして提案しました。その頃はまだコロナの前だったので、5月の野音で新曲を発表しようと考えて準備していたんですけど、そのライブが中止になって。焦らなくていい状況になったので、アルバムに入れようと思っていた「サービスエリア」という曲を仕上げてみようと思ったんです。今自分が一番熱中して書けるものを出すことができました。

──ステイホーム期間などに気持ちが参ってしまうことはありませんでしたか?

……参っていたのかもしれないです。緊急事態宣言が出てからは、ミュージシャンがSNS上で新曲を発表したり、曲をつないでリレーしていたりしていましたけど、それを見るたびに自分が付いていけないことに落ち込んでしまって。

──うちで踊れなかったわけですね。

そうですね。みんなこんなにがんばっているのに私はだめだ、みたいな。自分の作品には世の中のことを反映しないというルールで今まで作ってきて、それを侵してでも伝えたほうがいいのか……自分と同じように参ってしまっているファンの方のために音楽を作りたいという気持ちもあったんですけど、やっぱり私ができることはその瞬間瞬間で提示していくのではなく、時間をかけて自分の中で育んだ物語を完璧な形でお届けすることだと踏み止まりました。

──吉澤さんは以前から、将来作るアルバムの構想を事前に考えていると言ってましたけど、それはレーベルを移籍しても変わらず?

はい。時代にまったく影響されないスケジュールがあって。設計図の通りに動いている感じです。いつも何作か先のものを想定しているんですけど、前作では1人の“女性”を描いたので、個人を描いた次は2人にしたいなと思ったんです。それで、2人ならば“恋人”にしてみようかなと。ペアで2人きりの関係性を描こうと思って恋人に決めました。

──恋人をテーマにした作品で「サービスエリア」というのはあまりない設定ですけど、なぜこういう形に収まったのでしょう?

自粛期間中に曲を書いていたので、サービスエリアに向かうことにすごく魅力を感じたんです。そんなに特別なことではなかったはずなのに、禁じられるとものすごく特別なことになる。日常だったものが非日常になるという状況からイメージがふくらんで。

──確かに春頃のあの閉じ込められたような状態って異様でしたよね。作品資料には「夜のサービスエリアを舞台に、恋人たちが異世界に誘われる幻想を書きました」という吉澤さんの解説があります。

「その人と一緒にいるとロマンチックな気持ちになっちゃう、ウフ」みたいなことを難しく描いています。「すごく幸せ」「今この瞬間に死んでもいい」と思うことって人生に何回かあると思うんですけど、そんな瞬間を切り取りたいと思いました。

──ちょっと前にTwitterで「『なぞる』という言葉に『擦る』以外の漢字があってほしい。」とつぶやいていたので「ああ、きっと新曲の歌詞を書いているんだろうな」と思っていたんですけど、この曲の1行目にありました。そういう細かいこだわりは相変わらず?

はい。表記には妥協したくないんですけど……「なぞる」は本当にモヤモヤしました。

──なんとなくわかります。曲調的にひらがなのイメージではないけど、漢字で書くと「この字なの!?」って感じがありますよね。もっと別の当て字がありそうな。

そうなんです。でも造語を使いたくなかったので、あくまでありものを。

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変化9「5kgやせた」