音楽ナタリー Power Push - 吉澤嘉代子

“初期3部作”完結編は真骨頂の妄想絵巻

想定通りの“真骨頂”3rdアルバム

──前回のインタビュー(参照:「吉澤嘉代子とうつくしい人たち」発売記念特集 吉澤嘉代子×私立恵比寿中学対談)で、本来は2ndフルアルバム「東京絶景」の次は順当に3rdアルバムを出す予定だったのが、コラボアルバム「吉澤嘉代子とうつくしい人たち」を挟んだことで予定を「組み立て直した」とおっしゃってましたよね。

はい。

──同時に、次のオリジナルアルバムは「閉じた作品になるかもしれない」と。そして「積み重ねてきた部分の一番好きなところを出したい」「自分で言うのもなんだけど、真骨頂みたいなアルバム」と予告されていました。つまり今作がそれにあたるわけですが……。

……恥ずかしーい(笑)。宣伝用の資料にも「アルバム初期3部作」と書いてるんですけど、これがなんの3部作かと言うと、デビュー前にアルバム3枚分のテーマと、あらかたの選曲は考えていたんです。

──デビュー後に作った曲も含まれど、デビュー前からあった曲に関しては「この曲は1stアルバム用」「こっちは2nd用」と決めてあった?

そうなんです。「こういうアルバムにしたい」「この曲は何枚目のアルバムの何曲目に入れたい」と思い描いていたものが、そのまま形になっているんです。

──実際にアルバムとして形にしていく中で、想定からズレてしまうことはなかったんでしょうか。おおむね思った通り?

思った通りです。今回のアルバムだと「地獄タクシー」とかは最近書いた曲ですけど、これもなんとなく「こういう曲が書きたい」と思い描いていたものなので。同世代のアーティストと話していると「考えすぎ」って言われますけど(笑)。

──ほかのアーティストの場合も、1stアルバムには「はじめまして」的な要素があって、それを経ての2ndアルバム、そして3rdアルバムでは経験値とタイミングからその人の真骨頂と呼べる作品になる、みたいな例は過去に数々あったと思うんです。でも吉澤さんは初めから狙って3rdアルバムに真骨頂を持ってきたと。

そっか。みんなが自然にやってることを、私は計算してやってました(笑)。恥ずかしい!

吉澤嘉代子

子供の頃の自分を引き連れて戦っている

──3枚目のアルバムでやろうとしていたことを、言葉で簡潔に表すとどういうことになりますか?

それが難しいんですよね。第1に“物語”というものがあって……物語が子供の頃の拠り所になっていたので、自分が一番好きなことを音楽でやろうと考えたら「小説の機能を持つ音楽」なのかなって。主人公とその舞台にトリップできるもの。でも“物語”というくくりはあまりにも大きくて。今までだって物語的な曲を作ってきているし、いつも「等身大の自分」ではなく物語の主人公になりきって曲を作っているので、これまでと一緒と言えば一緒なんですよ。

──フィクションの世界を書くのは吉澤さんにとって楽なものですか? それとも難しい?

楽なものです。自分自身を切り売りするような曲は苦手で。今回は1曲目と10曲目、最初と最後は自分に絡めた曲だったりするんですけど、やっぱりなんか、完成した気がしないというか……。

──完成した気がしない?

どこまで書いても終わった気がしないし、いつまでも直したくなるんです。本当にレコーディングの最後まで作り直そうとしてたし。自分の生々しい部分を入れることに抵抗があって、でもどうしても入れたくて……。

──ノンフィクションは得意ではないものの、まったくのフィクションだけにはしないんですね。

そうですね。どうして物語をやるのかを考えると、やっぱり子供の頃につながっていくので、そういう曲を入れるべきだと思って。1曲目の「ユートピア」は、自分が作り出した世界に没頭していった底に外に出る扉があって、自分の拠りどころになっていた「物語」を武器に変えて外の世界をサバイブする、みたいな(笑)。今やってる仕事がそういうものだと思っているので。そして最後の「一角獣」は、子供の頃の妄想とお別れをするという曲なんです。始まりから終わりまでを描きたくて、それが全部で私の物語……私の、というか子供の頃の私ですかね。

──今回のアルバムはオムニバスの物語が組曲的につながっているような印象を受けました。その始まりと終わりは、吉澤さん自身を投影したブックエンドのような形で仕切られていると。

そうそう、そうですね。前書きと後書きみたいな。

──セルフライナーノーツではアルバム全体を「言葉で戦う子供の物語」と表現していますが、少し具体的に解説してもらうことはできますか?

スタッフにも「ちょっとわかりにくいから書き直さない?」って言われて、「説明するときがあったら説明します」と答えてそのまま出したんですけど、今がそのときですね(笑)。

──お願いします。

私は物語というものを武器にして音楽を作って食べていますけど、その根っこにあるのは、言葉から逃げて、だけど言葉に救われた子供の頃の自分なんですよね。「屋根裏獣」は子供の頃に妄想していたもので……屋根裏と言っても、押入れの上のちょっとしたスペースだったんですけど、そんなところに自分だけのモンスターがいたら楽しいかなあとか、夜に公園に行ったら何かに出会えるかなあとか、そういう「子供の妄想」を生き物で表現したいと思って浮かんだのが「屋根裏獣」なんです。曲を書くときは根底に子供の頃の自分がいるので、音楽をやる自分というのは、子供の頃の自分を引き連れて戦っている……という意味なんですけど、全然伝わらないですよね(笑)。

──子供の自分が考えたものを、大人になった自分が音楽で具現化して、それを商売にすることで社会人になる、社会で戦っている、という。

そうです、そうです。子供の自分を商品化している。

吉澤嘉代子

都合のいい海から異世界へ

──サウンド面で言うと、今回のアルバムは生の弦楽器、管楽器が印象的です。最近はどうしてもシンセやサンプラーで代用されることが多いですが、これだけぜいたくに生楽器が使われているとやっぱり気持ちいいですね。曲が持っている物語の世界をさらにいい雰囲気にする効果もあるかなと。

そうですね。生楽器でこういう音を録るのはやっぱり予算がかかるんですけど、ディレクターが工夫をしてくれて。管と弦は1日でまとめて録ってもらったりとか、怒涛のレコーディングがあったので成立したのかなと思います。

──1曲目「ユートピア」の冒頭は特にストリングスが効いた、混沌とした世界に誘うような名演ですね。話の流れでここから1曲ずつ詳しくお聞きしたいのですが、この混沌としたアレンジは吉澤さんが曲を作った段階でどのぐらいまでイメージできていたんですか?

生楽器を使うことと、奇天烈な雰囲気、突拍子もないものにしようってことは決めてました。あとエキゾチックな雰囲気にもしたいなと思っていて、いろいろ考えた結果、バンドサウンドに変わった弦を入れて。いまみちともたかさんのギターもすごいんですよ。

──不思議な金属質のギターサウンドですね。ベースはプロデューサーのハマさん自身、ピアノはsébuhiroko(世武裕子)さん、ドラムは黒猫チェルシーの岡本啓佑さんという布陣で。

バンドのメンバーはハマくんが考えてくれました。皆さんすごくて、楽しいレコーディングでしたね。ハマくんのセンスとコミュニケーション能力の高さに感謝です。

──曲自体はいつ作ったものなんですか?

この曲は20歳ぐらいの頃に作ったんですけど、最初はまた違う内容だったんです。ずっと何年も書き直していて、とうとう3枚目のアルバムが来ちゃった。でも初めから3枚目の1曲目にしたいと思っていたから、どうにか形にしました。

──吉澤さんが考えるユートピアとは、どんなイメージなのでしょうか。

この曲で浮かんだのは……市民プールで泳いでいたら、足場がタコの頭になってボヨーンみたいな。そこがなぜか海につながっているけど、塩辛い海水ではなくて、ラメがいっぱい降り注ぐような夢の空間。そんな都合のいい海を想像したらウットリして。つまらなかったり寂しかったりするとき、異世界を想像することがたまにあるんですけど、それが私にとってのユートピアですね。

──先ほどおっしゃっていた「物語」への入口が、この曲では市民プールの底からつながる海として描かれていると。

海ってすごく心の中を表しているものだと思うんです。いっぱい生き物がいる様子は「情報」というイメージがあって、心の中もそうだと思うんですよね。頭の3曲は“海ゾーン”です。