音楽ナタリー Power Push - 吉澤嘉代子
日常の絶景 東京の絶景
うすらとんかち!
──5曲目の「ひょうひょう」は「ひょうひょうっていいな」から始まりますけど、いわゆるクールで飄々とした人に実際に憧れがあるんですか?
飄々としていたいですねえ。いつも挙動不審って言われるので、もっと堂々と、風に吹かれるような感じでいたいなと思うんですけど、なかなか。これは19歳の頃、ディレクターさんにデモを聴いてもらい始めたときに書いた曲なんですけど、聴いてもらった曲に対して「ここは直したほうがいい」とか言われることが本当に耐えられなくて。
──自分の中で完結しているものに手を加えられることが理解できなかったと。
はい。人格までも否定されているような気分で。今自分で聴き返してみると私でもそう言うだろうなとわかるんですけど、その当時はまったく理解できなくて。急に自分の空間に赤の他人が侵入してきたような感覚だったので、ディレクターさんに「森本さんのうすらとんかち!」ってメールを返したんです。ひどい言葉を送って、ケータイの電源を切ってワーって泣きながら「あー! 私、飄々としていたい! ……ん、ひょうひょう?」と思って曲を書いて、当てつけのつもりで送ったんです。今思うとラブレターなんですけど。当時のデモを聴くと、泣いたあとに歌ってるから鼻声なんですよ。妄想世界を飛び出して、初めて社会にぶち当たったときの歌です。
──意見が受け入れることができなかった頃と比べれば、今は大人になったということでしょうか。
あ、それはないですね(笑)。これはもう経験を重ねればどうにかなるものじゃなく、そういう性格なんじゃないかなって。自分が10代のときに思った「飄々としていたい! うわー!」という気持ちには、いつまでも共感してしまうと思います。
──すごく怒ってる人から「うすらとんかち!」ってメールが届いたら、どういう対応していいかわかんないですけどね(笑)。
でもディレクターさんはいまだに武勇伝のようにその話を酒場で持ち出してくるから、たぶんうれしかったんじゃないかと思います(笑)。
──次の「ジャイアンみたい」も、やはりタイトルから?
はい。「ジャイアンみたい」って曲が書きたいなあと思って、そこから自然に浮かびましたね。
──概念としてのジャイアンってありますよね。ジャイアンの5文字だけで傲慢なもの、わがまま、権力といったものを連想してしまうような。
そうなんですよね。でもこういうジャイアン気質な人は苦手で、しかも悪印象なのに映画ではいい人になるみたいな……そういうのイヤなんですよね。
──そんな「映画だけカッコいいジャイアンが好き」という人もいますけど。
観たら「カッコいい! 優しい! 大好き!」ってなっちゃうんですけど、あとあと改めて考えるとイライラしてきちゃう(笑)。逆に最初からいい人がちょっとでも悪いことをすると、すごく悪い人と見なされちゃうし、なんかズルいなって。
化粧を落とすことでドラマチックに切り替わる日常
──「手品」はライナーで「笑顔で血を流しているイメージ」と解説されていますが。
これは物語が明確にあって。若いうちから男に騙されてきた女の人が、その相手を殺しに行くというストーリーなんですけど。
──ほかのアルバム曲と違ってフィクションの度合いが高い、物語性の強い内容ですね。
そうですね。劇っぽい感じで。彼の手品に夢を見させてもらっていたと思っていたけれど、手品を使っていたのは自分だった、という結末ですね。
──ここまで7曲は新曲のほか過去のレパートリーも含めた初音源化作品が続きますが、この構成はどのように考えたんですか?
1曲目を「movie」にすることだけは最初に決めてたんですけど、そこから先は曲がそろってから決めました。ナチュラルなところからだんだん濃くなって……濃くなりすぎて最後は透き通っていくみたいな。このあたりがドロドロゾーンというか。
──8曲目の「化粧落とし」はインディーズミニアルバム「魔女図鑑」からのリメイクです。この曲を今リメイクした理由は?
「魔女図鑑」の曲はもっといろんな人に聴いてもらいたいといつも思っていて。最初の想定としては「魔女図鑑」の曲はあとで全部シングルにして出したいと思っていたぐらい、気に入っている曲ばかりなんです。
──「箒星図鑑」にも同じく「魔女図鑑」から「泣き虫ジュゴン」が選ばれてましたね。ゆくゆくは全曲メジャーでも出したいと考える中で、今回は「化粧落とし」を選んだと。
はい。化粧を落とすのは女性にとって毎日のことなので、日常を切り取るというテーマにも合うかなって。変わりのない、替えの利かない、この上ない日常が、化粧を落とすことによってドラマチックに切り替わる。自分に酔っている歌とも言えますけど、そのドラマチックな切り替わりを平歌からサビに変わるときの豹変ぶりで表現しようと思って作った曲です。
──リメイクによってそこの切り替わりはよりクッキリしましたね。演奏はマーティー・フリードマン(G)、かみじょうちひろ(Dr / 9mm Parabellum Bullet)、中尾憲太郎(B / Crypt City、younGSounds、SEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HER)という豪華な顔ぶれで。
クッキリさせようと思って過剰な演奏にしてみました。皆さん演奏はキレキレなんですけど、物腰はすごく柔らかくて面白かったです。
念願の1人多重コーラス
──9曲目の「綺麗」と11曲目の「ユキカ」は昨年10月発売のミニアルバム「秘密公園」からの楽曲で、その間に新曲「野暮」が挟まる形になっています。「野暮」は「綺麗」のストーリーと地続きになっているとか。
作ったのは「綺麗」と同じ時期なんですけど、先にできたのは「野暮」のほうなんです。むしろ「野暮」が真実のストーリーで、「綺麗」はそこから派生したイメージの中の世界というか。「綺麗」と「野暮」で字面もいいですね。自分で言っちゃった(笑)。
──今回のアルバムは要所要所で作詞家としてすごく冴えてるなと感じたんですけど、この「野暮」だと「あなたを香ばしく責めるなんて」みたいな言い回しが妙に印象に残りました。
ありがとうございます。このへんはもう何も考えず、ノリノリで書いてましたね(笑)。
──あとこの曲のポイントは、吉澤さん1人による多重コーラスですね。
ずっとやりたかったんですよ! 大瀧詠一さんの「おもい」という曲がすごく好きで、今回はアコースティックギターの音も入ってますけど、いつか自分だけの声で成立する曲がやりたいと考えていたんです。それで「野暮」ができたときに、サビの「野暮 野暮」の口の開きとか、多重コーラスにちょうどいいかもしれないと思って。でも、やってみたら想像以上に難しくてヘトヘトになりました。大変でしたけど、やっぱり楽しかったのでまたやりたいです!
次のページ » 友人と曽我部恵一の視点を通して描く東京の絶景
- 2ndフルアルバム「東京絶景」 / 2016年2月17日発売 / e-stretch RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3500円 / CRCP-40446
- 通常盤 [CD] / 3000円 / CRCP-40447
CD収録曲
- movie
- ひゅー
- 胃
- ガリ
- ひょうひょう
- ジャイアンみたい
- 手品
- 化粧落とし
- 綺麗
- 野暮
- ユキカ
- 東京絶景
初回限定盤DVD収録内容
- 綺麗 MUSIC VIDEO
- ユキカ MUSIC VIDEO
- 東京絶景 MUSIC VIDEO
- ジャケット撮影メイキング映像
- 吉澤嘉代子 絶景ツアー “夢をみているのよ”
- 2016年4月9日(土)北海道 cube garden
- 2016年4月16日(土)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2016年4月17日(日)福岡県 スカラエスパシオ
- 2016年4月23日(土)宮城県 Rensa
- 2016年4月27日(水)愛知県 芸術創造センター
- 2016年4月29日(金・祝)大阪府 大阪ビジネスパーク円形ホール
- 2016年4月30日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールC
- 2ndフルアルバム「東京絶景」発売記念イベント ミニライブ&サイン会情報
- 2016年2月20日(土)愛知県 HMV栄 店内イベントスペース
START 16:00 - 2016年2月21日(日)東京都 ヴィレッジヴァンガード下北沢店 店内イベントスペース
START 21:00(イベントスペース開場時間 20:30) - 2016年2月27日(土)東京都 タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
START 18:00(17:30整列後、整理券番号順にて入場)※イベント参加券配布対象店舗:タワーレコード渋谷店 / 新宿店 / 池袋店 / 吉祥寺店 / 町田店 / 横浜ビブレ店 / 浦和店 / アリオ川口店
- 2016年2月28日(日)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
START 15:00(14:30集合)※イベント参加券配布対象店舗:梅田NU茶屋町店 / 梅田大阪マルビル店 / 神戸店 / 京都店 / あべのHoop店
- 2016年2月28日(日)大阪府 タワ-レコ-ド難波店 5Fイベントスペ-ス
START 19:00(18:30集合) - 2016年3月6日(日)愛知県 タワ-レコ-ド名古屋パルコ店 パルコ 西館1F
START 15:30(15:00集合)※イベント参加券配布対象店舗:タワ-レコ-ド名古屋パルコ店 / タワーレコード名古屋近鉄パッセ店
- 2016年3月13日(日)福岡県 キャナルシティ博多B1サンプラザステージ(新星堂キャナルシティ博多店イベント)
START 15:00
吉澤嘉代子(ヨシザワカヨコ)
1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街で育ち、16歳から作詞作曲を始める。2010年11月にヤマハ主催のコンテスト「"The 4th Music Revolution" JAPAN FINAL」に出場し、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2013年6月にインディーズ1stミニアルバム「魔女図鑑」でCDデビューを果たす。同年11月には東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて初のワンマンライブ「吉澤嘉代子 ファーストワンマンショウ ~夢で逢えたってしょうがないでSHOW~」を開催。翌12月より「魔女、旅に出る。」と銘打ったライブハウスツアーで各地を回った。日本クラウン、ヤマハミュージックアーティスト、ヤマハミュージックパブリッシングの3社が合同で設立した新レーベル「e-stretch RECORDS」の第1弾アーティストとして、2014年5月にミニアルバム「変身少女」でメジャーデビューを果たした。2015年3月に1stフルアルバム「箒星図鑑」、2016年2月には2ndフルアルバム「東京絶景」をリリース。4月には初のホール公演を含むワンマンツアー「吉澤嘉代子 絶景ツアー “夢をみているのよ”」を行う。