吉田山田「うちのはなし」インタビュー|なぜ吉田結威と山田義孝は「家族」を題材にし続けるのか (2/2)

コロナ禍での救いだった「ディオとおっちゃん」

──「ディオとおっちゃん」を最初に聴いたとき、そのファンタジックな音色から「おとぎ話」(2019年11月発売のアルバム「証命」の収録曲)のような曲かなと思いましたが、2番の頭に「競艇が好きなおっちゃんに」と出てきて、現実的なことを歌った曲なんだと気付かされました。どちらかと言えば「日々」に近い印象でした。

吉田 これは、コロナ禍で出会ったおっちゃんと犬のことをなるべく忠実に書いた曲ですね。コロナ禍で不要不急の外出を控えなければいけないとき、最寄りのスーパーに行く途中、家から1分ぐらいのところに工場があって。そこにめちゃくちゃ筋肉質で見た目は怖いけど人懐っこい、ディオという犬がいたんです。当時僕は犬を飼っていなかったから、動物と触れ合いたい欲求をディオが満たしてくれた。

吉田結威(G, Vo)

吉田結威(G, Vo)

──犬好きの吉田さんにとって、コロナ禍での救いでもあったわけですね。

吉田 はい。僕だけじゃなくて近所のみんながかわいがっている、地域の人たちに愛された犬だったんです。でも、真夏に1週間くらいそのディオと飼い主のおっちゃんの姿を見かけないときがあった。それでおっちゃんやディオにもしものことがあったとしても、毎日触れ合っていても連絡先すら知らないことに気が付いて。自分が弱っていたときに助けてもらったのに、おっちゃんやディオに何かあったときには何もできない。そのことが本当に悲しいことだということに気付いたんです。

──ディオとおっちゃんは無事だったんですか?

吉田 取り越し苦労だったみたいで、無事でした。ただ、ディオはそのあとに亡くなってしまって、僕も引っ越しをしてしまったので、最近はおっちゃんとも会えていないんです。世間話の中で僕が歌を歌っていることは伝えていたし、工場近くのスタジオに行く機会があるときは必ず寄るようにしているので、この曲を渡しに行きたいなと思っています。おっちゃんにはその頃、「ちゃんと働けよ」って言われてたから(笑)。

「お前はここにいろ」と言ってもらった

──「ディオとおっちゃん」が吉田さんの記憶にまつわる曲だとすれば、「けむり」は山田さんの記憶に深く結び付いた曲ですよね。

山田 この曲で歌っているのは、青空に煙が上がっている風景。父親が亡くなって、火葬場の煙突から煙が上がっているときに、青空なのが嫌だった。青ければ青いほど、すごく痛かったんです。曇りだったらよかったのに、と思うくらい。そのときの気持ちを思い返してみると、「ありがとう」「ごめんなさい」「愛してます」みたいな言葉では言い表せないんですよね。感謝を伝えたくても「ありがとう」だけには収まらなくて、作詞はすごく試行錯誤をしましたが、僕が伝えられない気持ちの部分は編曲のレフティ(Ryo'LEFTY'Miyata)さんが音で補ってくれた。重たくズシンとくるこの曲の低音に、あのときの気持ちが表現されていますね。

山田義孝(Vo)

山田義孝(Vo)

吉田 この曲のアレンジはけっこう挑戦的で、最初はもうちょっと普通のアプローチだったんですよ。でもレフティさんとやりとりをする中で、省けるものは省いて、ストリングスと重低音だけでずっと緊張感を持たせた形にするのはどうか、という着地点が見えて。弾き語りでフォーキーなイメージを持たれがちな吉田山田として、ここまでコンテンポラリーな曲が受け入れられるかどうか不安もありましたが、レフティさんが違和感のないギリギリのところに落とし込んでくれました。

──吉田山田にとっては異色な曲ですが、最近のライブでは頻繁に披露されていますよね。

吉田 ライブの中ですごく素敵なスパイスになってくれています。「けむり」を歌っているときの客席がすごく不思議な空気感なんですよ。泣いている人もいるし、ボーッとしている人もいる。今までにない反応なので、僕らも新鮮でうれしいですね。

山田 1カ所だけ、よっちゃんが歌詞を補ってくれた場所があるんですよ。「けむり けむり 見上げた空に 手を振ってまだここにいよう」のところ。この曲は全体的にふわふわしているんですが、この言葉を入れることで、ちゃんと地に足をつけられた。「お前はここにいろ」って、よっちゃんに言ってもらった気がするんですよね。

純度の高いまま完成させた「花瓶」

──最後の「花瓶」は、年明けに開催された「吉田山田シアター」で初披露された曲です(参照:吉田山田、新機軸ライブ「吉田山田シアター」で魅せた音と映像の合作)。そもそも山田さんは何に着想を得てこの曲を書いたのですか?

山田 2016年に「山田義孝展」という展示をやらせてもらって、そこで描いた「血と水」という絵を歌にしたのが「花瓶」です。「血と水」は赤いペンでいろんな種類の花が花瓶に刺さっている様子を描いたもので、違う品種の花が同じ水を吸っている姿が家族に重なるなと思って。

──童謡っぽくてかわいらしい、非常にシンプルな構成の曲ですよね。

吉田 「花瓶」にはAメロ、Bメロ、サビといった概念がまったくない。型にハマっていない曲なんですよ。もっと言えば、構成を整えることもしなかった。例えば、誰かに手紙を書くときって、文脈はあるかもしれないけど、サビも何も考えないじゃないですか。曲作りだって本来そういうものかもしれないから、この曲は山田から出てきたそのままの形で仕上げようと思って。ただ「赤 白 黄色 紫 オレンジ」と色を並べて歌うフレーズだけは曲を通して2回聴きたくなったから「山田さん、このフレーズだけは繰り返させてください」とお願いして今の形になりました。

山田 別にお願いしなくてもいいのに(笑)。

吉田 少し前の僕だったら「この曲は短すぎるから続きを書かなきゃ」と考えただろうけど、これ以上言葉を重ねると説明的になってしまうと思って。昔は自分で手を加えないことを怠慢だと感じていたんですよ。山田が書いた曲に対して、吉田の視点も入れなければいけないんじゃないかと真面目に考えすぎていた。たとえワンコーラス分の長さしかないとしても心に響くものがあれば、僕が付け加えるようなことはせず純度の高いまま完成させるべきじゃないか。「花瓶」はそういう思いを象徴的に表す曲かもしれないですね。

吉田山田

吉田山田

熱さではなく、研ぎ澄まされたものを

──「うちのはなし」のリリース後には全国ツアー「吉田山田ツアー2026~SUPER FAMILY CONCERT~」が開催されます。どんなツアーになりそうですか?

山田 Xでツアーに関して「自分の家族のことを飲み込めていないから、ちょっと行くのが怖いです」という反応を見かけたんですよ。でも人それぞれの“うち”があるだろうから、あまり僕らの家族像を押し付けるようなライブにはしたくない。吉田山田が歌う家族の曲って「家族っていいよね」だけで終わらせないものだし、日常で感じるいろんな気持ちをライブで解放できるような空間にしたいです。

吉田 47都道府県ツアーを回って以来、最近のライブまで僕らが大事にしていたのは闘志だったり、熱さだったり、むき出しの命をどこまで見せられるかでした。でも今回のツアーでは、それを1回封印したい。なぜかと言うと、熱くなり続けることには限界があるから。小難しいこともあまり言いたくないし、普通のことを普通に言って、ライブが終わってからじんわり「あの日はよかったな」と思ってもらえるようなものにしたい。

──事務所からの独立の影響もあったのか、2025年の春に開催された「THE BEST」ツアーでは鬼気迫るものを感じました。MCで「ベストを更新した」と言っていたのも印象的でしたが(参照:吉田山田の最高到達点、「THE BEST」ツアーで新たな門出への決意語る)、今は少しモードが変わったんですね。

吉田 常にベストを更新しなくちゃいけないのは今も変わりませんが、その方法が変わったというか。勢いや熱さで見せるのではなく、もっと研ぎ澄まされたものを届けたい思いが強いのかな。直接的に「大丈夫だよ、がんばってね」と言うのではなく、観に来てくれた1人ひとりの横に立って一緒に歩くような気持ちをライブで表現できるのか。それが今回のツアーで挑戦したいテーマかもしれないです。新しくリリースする楽曲たちと一緒にそれが実現できるかどうか、いろんな人に観に来てもらいたいです。

吉田山田

吉田山田

公演情報

吉田山田ツアー2026~SUPER FAMILY CONCERT~

  • 2026年4月18日(土)神奈川県 YOKOHAMA ReNY β
  • 2026年4月19日(日)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
  • 2026年4月25日(土)千葉県 KASHIWA PALOOZA
  • 2026年4月26日(日)新潟県 ジョイアミーア
  • 2026年4月29日(水・祝)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
  • 2026年5月2日(土)京都府 KYOTO MUSE
  • 2026年5月3日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2026年5月5日(火・祝)香川県 DIME
  • 2026年5月6日(水・振休)広島県 Live space Reed
  • 2026年5月16日(土)岐阜県 岐阜club-G
  • 2026年5月17日(日)兵庫県 チキンジョージ
  • 2026年5月23日(土)宮城県 darwin
  • 2026年5月24日(日)福島県 郡山CLUB #9
  • 2026年5月31日(日)北海道 cube garden
  • 2026年6月6日(土)東京都 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
  • 2026年6月7日(日)東京都 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
  • 2026年6月13日(土)石川県 Kanazawa AZ
  • 2026年6月14日(日)長野県 LIVE HOUSE J
  • 2026年6月20日(土)福岡県 DRUM Be-1
  • 2026年6月21日(日)熊本県 熊本B.9 V1
  • 2026年6月27日(土)大阪府 BananaHall
  • 2026年6月28日(日)愛知県 DIAMOND HALL

プロフィール

吉田山田(ヨシダヤマダ)

吉田結威(G, Vo)と山田義孝(Vo)からなる男性2人組アーティスト。高校時代に出会った2人が紆余曲折を経て、2003年頃に音楽活動をスタート。地道にライブを重ね、2009年10月にシングル「ガムシャランナー」でメジャーデビューを果たす。2013年12月から2カ月にわたってNHK「みんなのうた」でオンエアされた「日々」が大きな反響を呼び、ロングヒットを記録。2020年4月にデビュー10周年を記念したベストアルバム「吉田山田大百科」を発表した。2025年3月、長年所属した日音から独立し、4月より新たな体制で活動を開始。精力的なライブ活動を経て、2026年4月に新作EP「うちのはなし」をリリースした。