「米」を表現する振付
──「ひとつぶ」という曲にはパパイヤ鈴木さんによる振付が付いているのも1つの特徴です。
山田 まさかパパイヤ鈴木さんに振りを付けてもらえる日が来るなんて思ってもいなかったから、感動しました。完成した振付もさすが!と言うしかない。手の動きで「米」を表現するなんて、どうやったら思い付くんだろう。
吉田 すごいよね。「米」という文字だからこそ完成した振付になっている。
──吉田山田も活動初期の楽曲には振付があって、今でもライブでは山田さんが一部それを再現することがありますが、今後ライブで披露される際はこの振付も再現されるんでしょうか?
吉田 最近はアコースティック編成のライブが多かったから振付のことは考えていなかったけど、山田が踊るのか、もしくはダンサーを呼んで僕らの横で踊ってもらうのもいいね。
山田 まだ僕らのライブでダンサーを入れたことってないんですよ。いつかやってみたかったことでもあるから、この曲でそれが叶ったらうれしいなあ。
3人で歌う「ひとつぶ」
──昨年11月の配信ライブで「ひとつぶ」が初披露された際、兼松さんもゲストとして演奏に加わっていましたが、吉田山田さんの歌声に兼松さんも声を重ねていたのが印象的だったんです(参照:吉田山田が“かつてのホーム”で11年前のセトリ再現、山田は渾身のマジック披露)。
吉田 お気付きでしたか。兼松くんは作曲スキルがすごくて演奏もできて、歌もめっちゃうまいんですよ。曲作りの最中に兼松くんが入れてくれるデモの歌声が素晴らしくて。ライブでコーラスをお願いしたら「いや……大丈夫です」みたいな反応だったけど、せっかくだから一緒に歌って!とお願いして、四谷天窓のライブでは歌にも参加してもらいました。
兼松 「誰だこいつは」って炎上するんじゃないかと思って(笑)。あまりライブで声を重ねることはないので、すごく緊張しました。バンドでやるときはコーラス入れてるの?
吉田 「ラララ」とか、みんなで一緒に歌う部分を歌ってもらうことはあるけど、基本的にはプレイに集中したい人が多いから、「もし歌えたら」くらいでお願いしていることがほとんどかな。僕らも長年やってるからわかるんだよね。「この人は楽器が専門だけど歌うのも好きなタイプだな」とか、「頼まれればやってくれるけど基本的には楽器に集中したい人だな」とか。兼松くんは、遠慮がちにしてるけど歌うのが好きなタイプでしょ。
兼松 うん。歌うのは大好きです(笑)。でも弾きながら歌うのは難しいから、これまであまりやってこなかったんだよね。
吉田 本当はほかの曲でも歌ってほしかったんだけど「いや、炎上するんで……」って断られちゃった(笑)。
山田 でも編曲するときに声を重ねることはあるでしょ?
兼松 実はコーラスの採用率はけっこう高くて、さかのぼってみるといくつもあります。
山田 だからいい声なのは間違いないんですよ! みんなが認めている声ですから。
思い出のおにぎりが一番
──今日の取材ではJA全農さんが撮影用におにぎりを用意してくれました。皆さん、好きなおにぎりの具はなんですか?
兼松 難しいですね。
山田 僕は明太子一択!
吉田 究極を言うと、具の入っていない“銀むすび”だと思うんですよね。
山田 うわ、大人っぽい返答!
吉田 僕、新米を硬めに炊いたごはんが大好きなんですよ。自分の好みで炊いたごはんは必ずひと口、そのまま食べるようにしているんですが、気付くと一膳くらいそのまま食べちゃう。お米本来のあのおいしさを知ると、具がなくても満足できちゃうんですよね。
山田 大人になって知ったおいしいものもいいけど、小さい頃に食べていたアルミホイルにくるまれてちょっと表面が乾いた感じのおにぎりも忘れられないんですよね。
兼松 海苔がしんなりしちゃってる感じね(笑)。
山田 そうそう。今ではコンビニで海苔がパリパリのおにぎりが食べられるけど、小さい頃に食べた、すでに海苔が巻かれてちょっとカピカピになっているおにぎりもおいしかったなあ。
吉田 吉田家は3兄弟なんですけど、おかんが弁当箱を洗うのが大変だからという理由でおにぎりの中にすべてのおかずが入っていたんですよ。からあげや卵焼きが、すべて1つのおにぎりに……。
山田 えっ!? それぞれおにぎりがあるんじゃなくて、全部1個のおにぎりなの?
吉田 そう。今で言う“爆弾おにぎり”の走りだね。でっかいアルミホイルに包まれたおにぎりにすべてが込められている。これはおかんの発明だったと思います(笑)。で、かねまっちゃんのおにぎりは?
兼松 思い出という切り口で考えると、梅干しかなあ。お母さんが看護師だったのもあって、衛生面をすごく気にしていたんですよね。しょっぱいものや酸っぱいものが入ったおにぎりは傷みにくいから、梅干しが一番いいみたいで。
吉田 おにぎりの偏差値が高い!
兼松 梅干しの入ったおにぎりがすごく好きなわけではないけど、梅干しを食べると昔のことを思い出しますね。
吉田 衛生面のこと気にし始めたら、うちのおにぎりなんてメチャクチャ傷みやすいから(笑)。
山田 子供の頃は特別だと思ってなかったし、なんなら隣の友達のおにぎりとかお弁当をうらやましいと思っていたけど、大人になって振り返ってみると自分の食べていたものが好きなんですよね。だからアルミホイルに包まれたあのおにぎり、たまに食べたくなるんだよなあ。
食生活に人となりが表れる
──緊急事態宣言によって20時以降はあまり店が開いていない現状などもあり、2020年から2021年にかけては食との向き合い方を改めて考えさせられた1年だったと思います。皆さんはこの1年でごはんとの向き合い方がどう変わりましたか?
兼松 深い質問ですね……。ぬか漬けの話をここですればよかったな(笑)。
吉田 僕らは兼松くんの自宅兼スタジオに行って曲作りをしていたんですが、すごく素敵なんですよ。ちゃんと料理もしているんだなというのがわかる部屋だった。
兼松 そこまでこだわってはいないんですけどね。歳を取ったからか、ごはん炊いて、お味噌汁作って、魚焼いたら満足するようになったというか。
吉田 武士じゃん! 武士(笑)。
兼松 20代の頃は「肉をたくさん焼いちゃおう」とか「満足するくらいの量のパスタを作ろう」とかがあったけど、外食がしにくくなって自分で作るとなると、毎回パスタとかだとちょっと重いんだよね。ごはんに味噌汁に何か一品、あとぬか漬け、みたいな形が去年からけっこう続いていて、自分の食が落ち着いてきたのを自覚しています(笑)。
山田 僕らは去年までけっこう慌ただしい生活を送っていて、ツアーを回って各地でおいしいものを食べてきたけど、自分の生活の中で丁寧に食を考えたことってあまりなかったかもしれないなと思ったんです。丁寧な生き方をしようと思ったときに、食生活は自分の体調だったり、モチベーションだったり、それこそ周囲の環境だったり、いろんな物事とリンクしている。もしかしたら食生活を聞いただけで、その人の人となりが表れるかもしれない。それに気付かされた1年だったから、僕もちゃんとした食を心がけるようになりました。
吉田 一時期、糖質抜きダイエットが流行ったこともあって、ごはんを食べないほうがいい、みたいな風潮がありましたけど、食事制限のようなアプローチはやればやるだけ心が荒んでいってしまうような気がして。僕もトレーニングをしているうえでは食べすぎないようにしていますが、例えば栄養素を重視しすぎた食生活に陥って、食事が“摂取”に変わってしまうのはよくないと思うんです。おいしいものを作ってくれた人の思いや気持ちを受けとめながら食べることで心も豊かになる。僕は一人暮らしだから気を抜くと自堕落な食生活になっちゃいそうなんだけど、「ひとつぶ」のような曲を作ることができて、改めて生産者や料理をしてくれた人に思いを馳せながら、ちゃんと食事を取るよう気を付けるようになりました。