吉田山田×兼松衆「ひとつぶ」インタビュー|ごはん大好きな3人が“ひとつぶ”に込めた思い

生で再現しようとしたら12人

──「ひとつぶ」はいろんな楽器の音が入っていて華やかですよね。アレンジの総合的なプロデュースは兼松さんが主導で?

山田 もう兼松先生にお任せしました。

兼松衆

吉田 僕らの曲、実は管楽器を入れたことがほとんどなくて。その勝手がわかってるのも兼松くんだったからね。

兼松 いろいろ楽器を入れてるイメージがあったけど、管楽器はなかったんだね。

──アレンジをする際に意識したことはなんですか?

兼松 「にぎやかな曲にしたい」という思いは最初からあって、僕のイメージとしては焚火を囲んでたくさんの人が代わる代わる演奏をするイメージ。たぶん2人も同じようなイメージで曲作りをしていたんじゃないかな。

山田 うん。でもこんなにいろんな音が入るとは思ってなかった(笑)。

兼松 ピアノ、ギター、ベース、ドラム、マンドリン、トランペット、トロンボーン、笛が2本とアコーディオンだからちょうど10本。そこに吉田山田を加えて12人、生で再現しようと思ったら必要だね。

吉田 楽器の数は多いけどリッチな感じではなくて、みんながみんな好きなタイミングで好きなように演奏してセッションを楽しんでいるイメージなんだよね。僕らも兼松くんもこのイメージを持って曲作りをしていたからか、仕上がりにお互い違和感が全然なかったんですよね。

突然出てきたBメロ

──歌詞のクレジットには吉田山田のお二人の名前だけが書かれています。「ひとつぶ」の歌詞はどのように作りましたか?

吉田 10周年を迎える前、「変身」(2017年11月発売のアルバム)や「欲望」(2018年10月発売のアルバム)を作っている頃の僕らだったら、僕と山田でちょっと否定し合いながら吉田山田としての言葉の純度を高めていくやり方で歌詞を作っていたかもしれないんですが、今の僕らはそういったことはなくて。お互いにアイデアを出し合いながら、楽しみながら言葉を選んでいけたんですよね。そもそもJA全農さんが打ち合わせで挙げてくださったキーワードの中に「ひとつぶ」という言葉があって、この言葉が出てきたときに、僕も山田もピンと来たんです。直接山田とそういう話をしたわけじゃないけど、僕らが思い描いているイメージが「ひとつぶ」という言葉を軸に組み立てられていることがお互いにわかった。

山田 「ひとつぶ」というキーワードがあったから、歌詞は本当につるっとでてきました。これまでの僕らの曲を振り返ってみても、やっぱり歌詞がすんなり出てきた曲ってすごくしっくりくるんですよね。タイアップがなければ「ひとつぶ」という言葉と向き合うことはなかったかもしれないし、そもそも吉田山田として活動していたら「お米」というテーマで曲を作ることはなかなかないと思うんです。JA全農さんとの出会いは「吉田山田」というユニット名がつないだ偶然のものだったかもしれないんですが、僕らが書きたいこと、書けることと「お米」というテーマが合致した感覚はありました。

左から兼松衆、吉田結威(G, Vo)、山田義孝(Vo)。
吉田山田

吉田 Bメロのメロディができたときに「だ、だ、誰かは… だ、だ、誰かの… だ、だ、誰かは……」というフレーズが自然と出てきて。「誰かは誰かの何かにつながっている」ということが、この曲で僕らが一番伝えたいことだと気付いたんです。

兼松 実はデモの段階ではBメロがなかったんですよ。最初はAメロからすぐサビにいく構成で作っていたんだけど、3人で一緒にいたときに突然「ちょっと入れるから待ってて」と言われて出てきたのが今のBメロなんです。それまではわりと3人でアイデアを出し合いながら揉んでいたんだけど、Bメロに関しては僕があまりタッチしていないところなので「わ、突然吉田山田が入ってきた!」と感動してました。

吉田 面白いのは僕ら2人も、このBメロをどっちが発案したのか覚えてないんだよね(笑)。気付いたら2人で形にできていた。でも兼松くんもそこからすごくて、Bメロが出てきたときにはこのフレーズがこの曲のメインになると言ってなかったんですよ。でも兼松くんはそれを察したのか、イントロにBメロのメロディを持ってきてくれて、曲全体を印象付けるフレーズにちゃんと整えてくれた。こんなにフィーリングが合って曲作りがトントン進んでいくことってあまりないから、すごく楽しかったよね。一度も行き詰まることがなかった。

──お二人はこれまでのインタビューでも「どっちが作ったか覚えてない」ということがけっこう多いんですよね。すごく吉田山田らしいエピソードだと思います。

兼松 やっぱり2人で没頭し始めると、僕が入れない空気感はありますね。

吉田 吉田と山田の2人だけなら阿吽の呼吸でいけるんですけど、そこにアレンジャーさんや作家さんを入れると、言葉や楽器で説明しているうちにいいイメージがどこかにいっちゃうことが多いんです。だけど兼松くんの場合は一発で僕らが思い描いた通りの強さで、思い描いた通りのトーンで弾いてくれる。

兼松 たまたまですよ(笑)。

吉田 いつもそうなの!

兼松 汲み取っているわけじゃなくて、たまたま同じ方向を進もうとしていただけというか。

吉田 いやあ、でもこの曲は特にそれを感じた。だから気持ちよかったなあ。

「こんなに歌うまかったっけ!?」

──兼松さんにとって、今回のようにアーティストと一緒に曲を作るのは珍しいんですか?

兼松 編曲はよくやりますが、「ひとつぶ」のようにコライト的な作業は珍しいですね。今回は3人で同じ部屋に入って思い付いたままに弾きながら歌いながら作っていく、という作業だったのもあって、特に珍しかったと思います。

吉田 音楽というのは自己表現、自己主張の1つだから、外の人に見てもらうのってすごく大事なんですよ。やっぱり自分が表現したいものがあるから音楽をやるわけですが、今回の案件のように頼まれた場合はオーダーがあるし、期限もある。そういういろんな条件を総合的に判断してバランサーになってくれる人の中でも、兼松くんはほかの人にはないバランス感覚を持っていると思っていて。「楽しければいいじゃん」というほどぶっ飛んでないし、だからと言って置きにいくような保守的な感じでもない。チャレンジしているんだけど、行きすぎていない。そのセンスにはこれまでも今回もすごく助けられています。

左から兼松衆、吉田結威(G, Vo)、山田義孝(Vo)。

──兼松さんは吉田山田のお二人と仕事をしていて、どんなところに魅力を感じていますか?

兼松 今回一番感動したのは、シンプルだけど歌がうまいこと。「こんなに歌うまかったっけ!?」と思ってビックリしちゃった。

吉田 兼松くんに言われるとうれしいね。

山田 うん。いろんな人と仕事を一緒にしてるから、お墨付きをもらった感じ。

兼松 これまで僕は山田くんと2人で作業することが多かったんだけど、吉田山田と一緒に曲を作るのは初めてで。さっきも少し話したけど、意思疎通の速さというか、本当に2人の呼吸が合いすぎていて、このペース感で曲を作れる相方はきっとほかにはいないんだろうなと思いました。吉田山田が曲を生み出す現場にいられて、面白かったですね。