yonkey|「人生全額ベット」覚悟を決めた次世代アーティスト

さなりとのコラボ曲に込めたアイデンティティ

──「タイムトリップ」でフィーチャリングされたさなりさんとは、もともとつながりがあったのでしょうか?

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さなりくんのアートディレクターをやられている2BOYさんが僕のジャケットも全部担当してくれている人で、2BOYさん経由で紹介してもらいました。「タイムトリップ」はさなりくんとやることを前提に作ったんです。仮歌は自分の声で入れたんですけど、さなりくんは僕とキーが近いので、歌う姿を想像しやすかったですね。

──さなりさんはyonkeyさんから見てどんな魅力がある人ですか?

最初は年齢を知らなかったんですけど、調べたらめちゃくちゃ若いじゃないですか。腰抜かしましたね(笑)。僕がさなりくんの年齢の頃には、まだ音楽を始めていなかったですから。それでも彼はあれだけのクオリティのトラックを自分で作ることができる……僕よりさらに新しい世代というか、僕とはまったく違う感覚で音楽を捉えているんだろうなと思いました。

──さなりさんは小学生の頃から動画投稿を始めていたといいますもんね。

僕はその頃、野球しかやっていなかったですよ(笑)。音楽は作るものという発想になったのが中学生の頃で、それまで音楽はあくまで聴くものでした。でも、さなりくんはかなり早い段階で音楽を作るものとして捉えていたんだろうと思うと、すごいなと思います。

──「タイムトリップ」の歌詞は“時間”をテーマにしていますよね。AAAMYYYさんとのコラボ曲「ダウナーラブ feat. AAAMYYY」もそうですけど、時間、特に過去を描くという部分は、yonkeyさんの歌詞における強いアイデンティティになっているように思います。

いっぱい恥ずかしいことをしてきたので(笑)。自分の過去を振り返ると、黒歴史的な部分も多いんです。でもそれも自分自身だから、そこはシンプルに言いたいし、伝えたいなって思います。過去はその人のルーツだから。それがカッコいいものではなくても、恥ずかしいものであったとしても伝えていきたいですね。僕はたまに「音楽をもっと早く始めたかったな」って思ったりするし、「あのとき、あの娘とああしておけばよかったな」みたいな感じで過去を振り返ったり、青春のキラキラした感じを振り返ったりすることも多くて。「タイムトリップ」の歌詞では、1番では過去の思い出を振り返ったり、2番では「この先どうなっているんだろう?」って思いを馳せたり……いろんな時系列の描写を入れ込みながら、1曲を通してタイムトリップしているイメージで書きました。

──さなりさんとの世代感の違いを明確に意識しているyonkeyさんが、この歌詞をさなりさんに歌ってもらうという構図は面白いですね。

そうですね。あえて僕のアイデンティティをさなりくんに歌ってもらいたいなと思ったんです。

──あと「タイムトリップ」はサンプリング音も魅力的ですね。生活音などさまざまな音を使ったトラックメイクも、yonkeyさんのアイデンティティになっているような気がします。

「ダウナーラブ」から引き続き、生活音のサンプリングは今回も多用しています。iPhoneのボイスメモを使ったり、かなりいいマイクでキッチンの音とかやスプーンを使った音を録ったりして。すごく細かい話になりますけど、タイムトリップしている状態をイメージした音を作りたくて、4時くらいにMonsterの缶を指でバインッ、バインッと弾いた音を録って、それをトラックに使ったりしました。かなり細かいので聴いてもわからないと思いますけど(笑)。

──yonkeyさんのトラックからは音に対するフェティシズムを強く感じます。今話してくださったMonsterの缶を弾くという感覚も、ちょっとASMR的というか。

そうですね。自分のトラックはデジタルな音をベースにしたものだけど、そこに生を与えたいっていう感覚はあります。生活感とか、「生きてるぞ!」って感覚……生物がうごめいている状態。生きていることの不完全さ。そういうものを無機質なデジタルの中に混ぜ込みたいなって思うんです。だからこそ、自分のトラックにもASMR的な部分が入り込んでくるんだろうと思います。

野球で身に付けた根性で

──去年から徐々に楽曲を世に放っていき、どんどんと認知を広げている状態だと思いますが、手応えはいかがですか?

声をかけてくれるアーティストも増えたし、仲間が増えている感覚があります。仲間が増えるのに伴って、最初はフィーチャリング相手を入口に聴いてくれた人がほとんどだったけど、だんだん僕自身の楽曲に興味を持って聴いてくれる人が増えているなという実感もあるし、それはすごくうれしいですね。「この曲を作っているのは誰なんだろう?」っていうところまで興味を持たせることができればプロデューサー冥利に尽きますから。でも今、それってすごく難しいことだと思うんですよ。ボーカリストにフォーカスされがちなので。そういう中でも「後ろで鳴っている音はなんなんだろう?」って思ってもらえるだけでもうれしいし、そういう人をもっと増やせるようになりたいですね。

──さっき小学生の頃は野球ばかりやっていたとおっしゃっていましたけど、yonkeyさんの音楽に対する熱意にはスポ根感もちょっとありますよね。毎日1曲カバーするとか、すごく忍耐力を必要とすると思うんですよ。

それはあると思います。小学生の頃は東京で一番強いくらいの、すごく厳しい野球チームにいたんですよ。毎朝5時に起きて、みんなで集まって練習して、学校行って、学校が終わったらまた練習して……土日も朝7時から夜遅くまで河川敷で練習するような日々だったので、音楽制作で辛くなるたびにあの頃のことを思い出します。「あれができたんだからできるだろう」って。僕の根性は、野球で身に付いたのかもしれないです(笑)。

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