米津玄師|“変わり映えしない日々の倦怠感”を軽やかに歌にして

一本道で進む。それが自分にとっては一番ちょうどいい

──曲調やサウンドメイキングについても聞かせてください。ピアノのフレーズを軸にしたアレンジになっていますが、この発想はどういうところから出てきましたか?

最近、ピアノしか弾いていないんですよね。昔はギターの弾き語りで曲を作っていましたけど、最近は打ち込んだトラックから作ることが多くて。トラックから作っていくと、1つのループで作るのが一番、生理的に気持ちいい。弾き語りで言葉と歌に比重を置いて作ると、コードとメロディと言葉の3つが骨組みになって、そこにストーリーができあがってくるんです。でも、打ち込みで作ると、ワンループに大きな比重がいく。転調をしたり、あっちに行ったりこっちに行ったりするような、ワンダーにあふれる迷路のようなものを構築するのではなく、基本的に一本道で進む。それが自分にとっては一番ちょうどいい感じがしました。

──シンプルなコード進行にするということが大きかった。

この間「トップガン マーヴェリック」を観たんです。めちゃくちゃ面白かったんですけれど、「面白かった」という感想しかないんですよね。とにかく生理的に面白い。入り口から出口にまっすぐに向かっていく。その潔さに惹かれるような感じもあって、シンプルにいきたいという感じになりました。

──曲を作っている中で、苦心したところはありましたか?

苦心したくなかったんですよね。本当に一筆書きのように書きたかった。でも、やっているうちにスケベ根性のようなものが出てきて、また右左に曲がっているような感じがして。だから、どれだけ平坦に聴かせることができるかという点で苦労したかもしれないですね。あんまりダイナミズムを設けたくなかったので、倦怠感みたいなものを表現するために、いかに抑え込むかというところに苦心したかもしれないです。

──「LADY」という曲名は最後に付けたものですか?

そうですね。タイトルを全然決めずに作っていたんですけれど、歌っていくうちに「レディ」という言葉が出てきた。「レディ」とか「ハニー」とか「ベイビー」って、たぶん自分の頭の中の一番表層にある言葉だと思うんです。そういう自分の生理的な感覚から出てきたものなので、最後に「LADYかな」という感じで付けました。

──ジャケットのイラストは米津さんが描いたものですよね。これはどんなイメージから?

なんでしょうね、これも本当にさーっと描きました。開放感があるのがいいなって。素足で、羽根のように指が広がっている。そういう感じです。

米津玄師「LADY」ジャケット(Illustration by 米津玄師)

米津玄師「LADY」ジャケット(Illustration by 米津玄師)

──素足が、開放感やシンプルさや気持ちよさの象徴になっている。

自分の生活の中で一番開放しておきたいところは足なんですよね。靴下の締め付け感がすごく嫌いで、とにかく履きたくない。なるべく裸足で生きていきたいっていう。

“未知の領域”を自分はどう生きていくのか

──最後に聞かせてください。3月には32歳になり、4月には全国ツアー「米津玄師 2023 TOUR / 空想」も始まります。今年は米津さんのキャリアにおいてどんな年になりそうでしょうか。

まだ全貌は見えていないんですけど、ある種の節目みたいな感じになりそうな気がします。32歳になったということには、個人的にすごく思い入れが深くて。親友が31歳で死んだんで、それより年上になるという意味でも、自分にとって未知の領域という感じがある。そのうえで自分はどう生きていくのか、どんな生活を送っていくのかっていうことには、ある種、自分に課せられた何かがあるような気もしていて。平坦な倦怠感がこの先どこまで続いていくのかわからないですけど、そこからまだ見ぬ新たな視点みたいなものが1つひとつ自分の中に生まれていくといいなって。ぼんやりとしたことなんですけど、今はそういう感じがあります。

──もう1つだけ、あまり普段のインタビューで聞かないことを聞かせてください。音楽に関係なく、今までやってないことでやってみたいことってありますか? 例えばスカイダイビングでもなんでもいいですし、行ってみたことのないところに旅行に行くとか。

依然としてマンガを描きたいですね。自分が主役じゃないものを作りたい。最近は曲もずっと作っているんですけど、そことはまったく関係ない思案にすごく時間を割いている自分がいて。周囲の些細なことについても、「これはなんでこうなっているんだろう」とか、「これはどういうシステムで組み上がっているんだろう」とよく考えるんです。人間に対しても、こいつはどういう生き方をして、どういう人生があって今があるのかとか、その言葉はどういう回路で生まれてきたのかとか、そういうことを考えるのが楽しい。主観と客観でいうと、ものすごく客観的に生きている感じがあるんですよね。それを再構築してみたい。自分が歌うとどうしても自分が主役であると見られてしまう。その視点に干渉されてしまう。そういうことじゃない何かをやってみたいなと思う。それが今パッと思いつくもので言うと、マンガを描くということ。作者が主役じゃないものを作ることができたら楽しそうだなという感じがします。

ツアー情報

米津玄師 2023 TOUR / 空想

  • 2023年4月22日(土)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2023年4月23日(日)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2023年4月26日(水)大阪府 大阪城ホール
  • 2023年4月27日(木)大阪府 大阪城ホール
  • 2023年5月2日(火)熊本県 グランメッセ熊本
  • 2023年5月3日(水・祝)熊本県 グランメッセ熊本
  • 2023年5月7日(日)愛知県 日本ガイシホール
  • 2023年5月8日(月)愛知県 日本ガイシホール
  • 2023年5月13日(土)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2023年5月14日(日)宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2023年5月20日(土)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
  • 2023年5月21日(日)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
  • 2023年5月27日(土)福井県 サンドーム福井
  • 2023年5月28日(日)福井県 サンドーム福井
  • 2023年6月3日(土)徳島県 アスティとくしま
  • 2023年6月4日(日)徳島県 アスティとくしま
  • 2023年6月10日(土)広島県 広島グリーンアリーナ
  • 2023年6月11日(日)広島県 広島グリーンアリーナ
  • 2023年6月14日(水)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2023年6月15日(木)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2023年6月28日(水)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2023年6月29日(木)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2023年7月1日(土)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2023年7月2日(日)神奈川県 横浜アリーナ

プロフィール

米津玄師(ヨネヅケンシ)

1991年3月10日生まれの男性シンガーソングライター。2009年よりハチ名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表した。楽曲のみならずアルバムジャケットやブックレット掲載のイラストなども手がけ、マルチな才能を有するクリエイターとして注目を浴びる。2018年3月にリリースしたTBS系金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」は自身最大のヒット曲に。「Lemon」も収録した2020年8月発売の5thアルバム「STRAY SHEEP」は、200万セールスを突破する大ヒット作品となった。同年の年間ランキングでは46冠を達成し、翌年も2年連続で年間首位を記録。Forbesが選ぶ「アジアのデジタルスター100」に選ばれ、芸術選奨「文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)」も受賞した。デビュー10周年を迎える2022年5月に映画「シン・ウルトラマン」の主題歌「M八七」やPlayStationのCMソング「POP SONG」を収録したシングル「M八七」をリリース。9月より2年半ぶりとなる全国ツアー「米津玄師 2022 TOUR / 変身」を開催した。11月に、テレビアニメ「チェンソーマン」のオープニングテーマを表題曲とするシングル「KICK BACK」をリリース。2023年3月に日本コカ・コーラ「ジョージア」のCMソング「LADY」を配信リリースした。4月より、全国ツアー「米津玄師 2023 TOUR / 空想」を開催する。