音楽ナタリー Power Push - 米津玄師
「Bremen」を目指してたどり着いた場所
対になることで別のものが浮き彫りになる
──アルバムの全14曲は曲調や歌詞の視点はさまざまですが、どれも聴き手をイメージした言葉と音が選ばれていると思いました。
誰かのために音楽を作りたいと思ったのは確かです。自分の身近にいる人間を肯定したいと思った。以前はただひたすら「自分はこう思う」ということだけを考えて、外にあるものに一切目を向けない、頑固な作り方をしていたんです。そうやって周りのものを見ずに、自分の中にあるものだけで作るというのはものすごく弱々しいなと思ったんですね。自分はそういう弱い人間ではいたくない。なよなよした自分の殻に閉じこもっているだけの、自分の心の中にあるものだけですべて完結させようとする人間ではいたくないというか……強く生きたかったんです。そういう意味では、ある種マッチョに生きていくということなのかもしれない。あと、これは最近ずっと言ってることなんですけど、やっぱり米を作ってる人間が一番偉いんですよ。
──米を作ってる人間が一番偉い?
自分は音楽を作っているわけですけど、人間が社会的に生きていく上では音楽なんて必要ないんです。衣食住を担っている人間が一番偉い。自分なんてそういう人たちがいなくなればすぐにでも死に絶えるような弱々しい存在であると思うんです。で、そう考えたときに、自分にも普通に暮らしている人に対して何かやれることがあるんじゃないかと。アルバムを作っている間はそういうことを考えてました。
──「YANKEE」のときのインタビューでは「呪い」というのが1つのモチーフになっていると言っていました。今作にはそういう複数の楽曲に共通するモチーフはありますか?
「呪い」のようなモチーフと言っていいのかわからないですけど、曲同士を対話させたかったんですよ。
──「曲同士を対話させる」というと?
アルバムを通して、明るいものと暗いもの同士で対話させるというか。こっちの曲ではこういうふうに言ったけれども、そのあとに出てくる曲ではそれを対消滅させるような言葉が出てきたりする。自分の中にある明るい部分と暗い部分、ポジティブな部分とネガティブな部分を1つのアルバムに落とし込んで、対応させてみたかった。
──曲同士、それぞれが矛盾していたり、反目しあっていたりするということ?
そうですね。中でも「メトロノーム」と「Blue Jasmine」は自分の中ではすごく対になっている。「メトロノーム」は別れの歌で、「Blue Jasmine」は愚直なラブソング。そういう相反するものが対立することによって、何か別のものが浮き彫りになったりするのを感じるんですよ。自分自身のごく限られた一面を切り取って1つの曲にして、残った面もまた1曲にする。それを1つのアルバムに閉じ込めるということをこのアルバムではやっていました。
街の光を背に暗いほうへ
──ほかにも対になっている曲はあるんですか?
「アンビリーバーズ」と「ホープランド」もそうですね。どちらも自分の中にある負の感情から生まれた曲で、似ているところもあります。このアルバムは1曲目から14曲目に向けて、どんどん暗い方向に進んでいくものにしたいと思っていたんです。だから13曲目の「ホープランド」はかなり暗い曲。でも暗くなればなるほど、明るい言葉と明るい音でしか表現できなくなる自分がいて。
──今言ったような「明るいところから暗いところに進んでいく」というアルバムをイメージしていたということは、米津さんの中である程度曲順も意識して曲を作ってたんでしょうか?
それは全然意識してなかったです。この中で意識していたのは「Blue Jasmine」くらいですね。「Blue Jasmine」は13曲ができあがった段階で、最後にふさわしい曲が1つもないっていうことに気が付いて。それで新たに作った曲。それ以外は曲順はほとんど意識せずに作っていました。
──「明るいところ」「暗いところ」というのはどういうイメージだったんですか?
ボロボロになった、今はもう誰も使ってない高速道路をいろんな人や生き物たちが、街の光を背に暗いほうへと進んでいくイメージです。曲順は意識してなかったんですけれど、アルバムを作っている最中から、なんとなくイメージができあがっていました。
──アルバムの曲名や歌詞の中の言葉には「暗闇で光るもの」がたくさんありますよね。「ウィルオウィスプ」は鬼火、「フローライト」は蛍石を指す言葉。「Neon Sign」や「雨の街路に夜光蟲」なんかもそうですよね。そういう「夜に光るもの」のモチーフが点在しているように思います。
「引っ越しをしたら曲がたくさん書けるようになった」と「アンビリーバーズ」のときのインタビューで話したんですが、それがまさにこの曲たちなんです。建てかけのビルがそこら中にあって、それが崩れかけのようにも見える街で見た印象的な光景は圧倒的に夜のものが多くて。橋を渡った反対側に灯りがあって、ポツポツと光が見える。そういう景色。だから「暗闇で光るもの」っていうのは、今住んでいる街そのものっていう気もします。
──そして「アンビリーバーズ」の歌詞の最初の一行で「ヘッドライトに押し出されて 僕らは歩いたハイウェイの上を」と書いているわけですよね。そこで、「これから廃墟になった高速道路を舞台にした夜の物語が始まる」ということをちゃんと指し示している。
「アンビリーバーズ」はまさにそういう曲です。このアルバムはその最初のシチュエーションからできていると思います。
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- ニューアルバム「Bremen」 / 2015年10月7日発売 / UNIVERSAL SIGMA
- 「Bremen」初回限定 / 画集盤
- 初回限定 / 画集盤 [CD+画集] 4212円 / UMCK-9772
- 「Bremen」初回限定 / 映像盤、通常盤
- 初回限定 / 映像盤 [CD+DVD] 3564円 / UMCK-9773
- 通常盤 [CD] 3240円 / UMCK-1522
CD収録曲
- アンビリーバーズ
- フローライト
- 再上映
- Flowerwall
- あたしはゆうれい
- ウィルオウィスプ
- Undercover
- Neon Sign
- メトロノーム
- 雨の街路に夜光蟲
- シンデレラグレイ
- ミラージュソング
- ホープランド
- Blue Jasmine
初回限定 / 映像盤 DVD収録内容
- 「アンビリーバーズ」Music Video
- 「フローライト」Music Video
- 「メトロノーム」Music Video
米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊
- 2016年1月9日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2016年1月12日(火)徳島県 club GRINDHOUSE
- 2016年1月13日(水)香川県 高松オリーブホール
- 2016年1月15日(金)大阪府 Zepp Namba
- 2016年1月16日(土)大阪府 Zepp Namba
- 2016年1月22日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2016年1月24日(日)新潟県 新潟LOTS
- 2016年1月26日(火)宮城県 Rensa
- 2016年1月30日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2016年1月31日(日) 広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2016年2月3日(水)北海道 Zepp Sapporo
- 2016年2月6日(土)東京都 Zepp Tokyo
- 2016年2月11日(木・祝)東京都 豊洲PIT
- 2016年2月12日(金)東京都 豊洲PIT
米津玄師(ヨネヅケンシ)
男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、代表曲「マトリョシカ」の再生回数は800万回を、「パンダヒーロー」の再生回数は400万回を超える人気楽曲となる。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。同年10月にメジャー2ndシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」、ハチ時代のアルバム「花束と水葬」「OFFICIAL ORANGE」の再発盤をリリースした。2014年4月、米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表。同年6月には初ライブとなるワンマン公演を東京・UNITで開催した。2015年1月にシングル「Flowerwall」をリリース。4月には全国ツアー「米津玄師 2015 TOUR / 花ゆり落ちる」を開催し、10公演を行った。同年8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」で野外フェス初出演を果たす。9月にシングル「アンビリーバーズ」を発表。10月にはアルバム「Bremen」をリリースし、2016年1月からワンマンツアー「米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊」を実施する。