ロック以外にもカッコいいものっていっぱいある
──ここまでの会話では主にロックバンドの名前が挙がってますけど、現在のyonawoが表現している音楽から思い浮かぶリファレンスって、それとはまた違ったものだと思うんです。何かしらの転機があったのでしょうか?
荒谷 僕、高校を卒業したあとに1年ほどバンクーバーに留学したんです。そのタイミングで音楽の聴き方がだいぶ変わったんですよ。確かに以前はロックが中心だったけど、留学を機に聴く音楽がジャンルレスになったというか。
斉藤 ホントなんでも聴くようになったよね。
荒谷 うん。ロック以外にもカッコいいものっていっぱいあるじゃんって。でも雄哉は昔からいろんな音楽を聴いていて、いろいろと僕に教えてくれてたんですよ。それこそマイケル・ジャクソンにハマったのは雄哉の影響だし、おかげでポップスにもどんどんハマっていって。
斉藤 バンドを始めた当初は荒ちゃんもギターを弾いていて、UKロックっぽい荒削りな音に日本語詞とおしゃれなコード進行を乗せたような感じだったんです。それが「ijo」という曲を作って、いざライブで演奏しようとなったときに「この曲ってピアノのほうが合いそうだよね?」という話になって。それからキーボードを始めたんだよね?
荒谷 うん、そうだった。自分がピアノを弾いて歌うようになってからは、曲のアレンジも一気に変わりました。
斉藤 ギターの場合はどうしても鳴らさないと演奏の隙間が埋まらないんですけど、ピアノだとしっとり弾いてもキレイに埋まるからアレンジの幅がとても広がって、少ない音数で表現できるようになった。それでようやく影響を受けてきた音楽をアウトプットできるようになったんです。
荒谷 同じフレーズを演奏するにしても、音色が違うだけで印象が全然違ってくるもんね。
──確かに、ミニアルバムを通して聴いてみて音数の少なさは印象的でした。キーボードを取り入れたことで、ドラムやベースの演奏に何か変化はありました?
野元喬文(Dr) 荒ちゃんはシンプルだけどクセのあるドラムビートを作るのがうまいんですよ。僕自身もシンプルなフレーズが好きだったので、キーボードが入ったことでよりフィットしてきた感じはありますね。それに僕らは「いらないものはいらない」「ここにあのフレーズ欲しい」と、差し引きしながら曲作りをしているので自然と音数が少なくなったんだと思います。
田中 僕の場合、そもそも荒ちゃんが作る曲やメロディが好きでこのバンドに入ったんです。それを第一に聴かせなきゃと思っているので、少ない音数の中で、いかに自分の演奏を入れるかは意識していますね。
斉藤 僕らは、特に音色にこだわりたいんですよ。それは今回のミニアルバムにも言えることなんですけど、アレンジを決める前の段階で「スネアの音はこれでいこう」と話し合ったりとか、そういうことが僕らにとってはとても大切。ミックス段階でもエンジニアさんとかなり話し合いました。
ループの中でどれだけ遊べるか
──音色面で言うと、「LOBSTER」ではトランペットがとても効果的に使われていて、作品全体のジャズやネオソウル的なエッセンスをさらに強く印象付けていると感じました。
荒谷 僕らみんなチェット・ベイカーが大好きなんですよ。それで今回、2018年に発表した「矜羯羅がる」を再録するにあたって、もっとムーディな感じを出したいねってことでトランペットを入れてみようと。プロのトランペット奏者の方に参加してもらって、一緒にフレーズを考えたんです。
──「しあわせ」の後半から4ビートに切り替わるところなど、ジャズ的な要素は今作のいたるところに散りばめられていますよね。
田中 あの曲、当初はもっとシンプルな展開だったんです。そこに4ビートが合わさったときに「この曲をもっと豊かに聴かせるためにはどういうベースを弾けばいいかな?」と考えていて。僕もちょうどその頃よくジャズを聴いていたので、ライブのリハーサルで覚えたてのウォーキングベースをなんとなく弾いてみたら意外にもみんなから好評で。付け焼刃でやってみたことではあるんだけど(笑)。
野元 あのウォーキングベースが入ってきたときは面白かったですね。僕らの曲はループものが多いんですけど、ただシンプルに同じリズムを繰り返してるだけだと、特にライブだと退屈になっちゃうので、これはいい展開だなと思いました。
荒谷 メロディを作るにあたっても、ループの中でどれだけ遊べるかっていうのは、僕も常に考えてることですね。コード展開はループなんだけど、そういう印象を感じさせないようなアレンジにするっていうのが今の俺らのがんばりどころかなって。
──今作はサウンドプロダクション的にも多岐にわたっていますよね。例えば「Mademoiselle」はアウトロで急に宅録っぽくなって、ギターの演奏がボサノバになるという展開も非常に面白かったです。
荒谷 あれは本当にノリで生まれたアイデアなんですよ。レコーディングがひと通り終わったあと、雄哉の部屋で録ったものを聴き返しながら「この曲、しんみり終わらせてみるのもアリじゃない?」みたいな話になって。その場で雄哉にアコギを弾いてもらったんです。
斉藤 マイクを1本だけ部屋に立てて。本当は別のアウトロがあったんですけど、それをブツッと切ってアコギのセッションに切り替わるっていう。それで曲の雰囲気がけっこう変わりましたね。
次のページ »
すべてが挑戦だったレコーディング
2020年4月10日更新