「横浜音祭り2022」Kan Sanoから見た“のんびりした横浜”、初のBillboard Live YOKOHAMAで「全部を出し切りたい」

9月17日に神奈川県横浜市を舞台にした日本最大級の音楽フェスティバル「横浜音祭り2022」がスタート。このイベントの開幕を祝してライブハウスと連携した周遊型プログラム「横浜音祭りライブ・ホップ!」が実施され、スペシャルプログラム「横浜音祭りライブ・ホップ!特別公演」では9月17日から19日にBillboard Live YOKOHAMA、21日にKT Zepp Yokohamaでさまざまなアーティストによるライブが日替わりで展開される。

音楽ナタリーでは「横浜音祭り2022」特集の第2回として、9月18日公演に出演するKan Sanoにインタビュー。横浜に抱くイメージや市内のおすすめスポット、アコースティックのバンドセットで臨む「横浜音祭りライブ・ホップ!特別公演」への思いを語ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ

横浜で仕事があるとラッキー

──横浜という街にはどんなイメージがありますか?

ミュージシャンとしては、やはりライブで行くことが多い街ですね。赤レンガ倉庫にあるMotion Blue YOKOHAMAとか、その周辺で毎年やっている「GREENROOM FESTIVAL」に出演したりとか。一般的には横浜というと中華街であったりみなとみらいであったり、大きな街の印象があると思うんですが、僕はけっこう横浜市内でも田舎のほうにプライベートでよく行くので、生活者としての視点で言えばどちらかというと“のんびりしたところ”っていう感覚なんですよね。

──横浜の中心地ではないところへよく行かれるんですね。それには何か理由があるんですか?

単純に、家から近いからですね。一応、東京都民ではあるんですけど、けっこう神奈川寄りのところに住んでいるので、横浜とか川崎には昔からなじみがあるんですよ。買い物にもけっこう行きますし。

──そうなんですね。スタジオやライブハウス、レコード会社などが東京の都心に多いイメージなので、ミュージシャンの方が住むには都心近くのほうが適しているのかと思っていました。

僕の場合は自宅で作業することが多いですし、もともと田舎出身ということもあって、あまり人の多いところだと落ち着かないんですよ。それに、横浜にもリハーサルスタジオやレコーディングスタジオがいくつかあって、たまにそこでの仕事が入ると「お、ラッキー!」って(笑)。渋谷とかへ出るより距離も近いですし、気持ちも楽です。

──横浜でお気に入りのスポットはありますか?

シネマ・ジャック&ベティという古い映画館にわりと行きます。深夜のレイトショーを狙ってよく行っていて、ちょっとゆったりしているところが好きなんですよね。あとは「中古レコードのタチバナ」っていうレコードショップとか。僕はレコードが好きなので、ちょっと遠くまで買いに行ったりもよくするんです。横浜だと、関内のディスクユニオンも好きですね。それと……お気に入りの古民家カフェがあるんですけど、あんまり知られすぎて混み合っても困るんで、名前は出さないでおきます(笑)。めちゃめちゃ好きな場所なんで。

──(笑)。お話を聞いていると、けっこうアナログなものに愛着があるタイプなんですね。せかせかした都会的なムードはあまりお好きではない?

そうですね。カフェにせよ映画館にせよ、平日のちょっと空いている時間帯を狙ってふらっと行くことが多いです。レコードショップもそうですね。

音楽を身近に感じてもらいたい

──今回、Kan Sanoさんはそんな横浜で行われるイベント「横浜音祭り2022」に出演されます。

今お話ししたように、横浜は自分にとってすごくなじみのある土地なので、そこで行われる音楽イベントに呼んでいただけてうれしいです。あと、僕のライブはBillboard Live YOKOHAMAが会場になるんですけども、実はまだ行ったことがなくて。もちろん横浜にビルボードができたことは知ってましたし、周りのミュージシャンの中には演奏したことのある人もチラホラいますね。いい会場、いいライブハウスというものは常に探しているので、そういう意味でも興味はすごくあります。

──「横浜音祭り」自体についてはどんな印象がありますか?

音楽を仕事として発信している身としては、「音楽をもっと身近に感じてほしい」といつも思っているんですよ。例えばテレビをつければ音楽は流れてきますし、YouTubeなどでも気軽に楽しめるものではあるんですけど、それは実際に目の前で人が演奏している音楽を浴びる体験とはまったく違うものですよね。こういうお祭りを通じて、生の音楽パフォーマンスに触れる機会がもっともっと増えてほしいですし、それが当たり前になってくれたらいいなと思います。

──街のそこかしこで音楽が演奏されている環境が普通になる、いわば年中「横浜音祭り」の状態が理想?

ここまで大規模なものを日常的に行うというのは難しいかもしれないですけど、そうなってくれたらいいですよね。例えば街中で演奏していたりすると、どうしても苦情が来てしまったり……僕も路上ライブは何度もやってきて、苦い思いをいっぱいしてきたんですよ(笑)。それを誰からも怒られることなく大手を振ってやれるようになったり、みんなもそれを楽しんでくれるようになったら理想的だなとは思います。

──今年の「横浜音祭り」では、把握しきれないほど数多くのプログラムが用意されています。その中でKan Sanoさんが気になる催しは何かありますか?

おっしゃる通り全部を把握できてはいないんですが(笑)、「ショパン国際ピアノコンクール」で2位を獲った反田恭平さんのコンサート(11月6日に横浜みなとみらいホール 大ホールにて行われる「横浜音祭り2022クロージングコンサート 反田恭平&Japan National Orchestra」)が気になりますね。今回の「横浜音祭り」にはモノンクルや田島(貴男 / Original Love)さんといった、比較的近いシーンにいて関わりのあるミュージシャンも出演するんですけど、反田さんとかはまったくつながりも面識もないので、すごく興味があるんです。

──なるほど。クラシックはもともとお好きなんですよね?

聴く専門って感じですけどね。仕事で関わることはまったくないので、ちょっとライブは観てみたいです。普段クラシックを好んで聴いている方からすると、逆に僕らのような音楽が新鮮に映るかもしれないですし、ちょっとでも興味があったらライブに足を運んでもらえるとうれしいですね。それまであまり触れてこなかった新しいジャンルに触れられるというのも、こういうイベントの醍醐味の1つではあると思うので。

──また、今回のスローガンが「みらいに響け みんなの音楽」というものになっています。このスローガンについて、あるいは音楽の未来について何か思うところはありますか?

さっきの「音楽をもっと身近に」みたいな話ともつながるんですけど、結局それって子供のときの教育に関わってくる話なんですよね。何よりもまず、未来ある子供たちにもっと音楽を身近に感じてもらいたいです。

──それこそ今回のプログラムには、子供たちがプロのミュージシャンに学べるワークショップなども含まれていますね。

そういうものはどんどんやってほしいですし、やっていくべきだと思います。子供って可能性の塊なので、感受性も感性も開かれている時期のうちに音楽と自由に触れ合うべきなんですよ。そうすることによって、将来的に面白いミュージシャンがいっぱい出てくることになると思うんです。人はどうしても大人になっていくにしたがって「これはダメ、あれもダメ、自分はこういうことはできない」ってどんどん選択肢を減らしていっちゃうものなので。

──ちょっと大げさに言うなら、今の日本の音楽教育に疑問があるわけですか?

ははは(笑)、まあそうですね。それで言うと、僕は中学3年生のときの音楽の先生がすごく印象に残っているんですよ。ちょっと普通と違うというか、すごく面白い人で。あまり譜面が読めなかった僕に合唱部のピアノ伴奏をさせてくれたり、そのときの弾く内容も自由にアレンジさせてくれたりとか、のびのびと音楽をやらせてくれたんです。具体的に音楽的な何かを教えてくれたというよりは、自由に音楽を表現できる環境を作ってくれたというか。大事なのは、そういう環境作りだと思うんです。

──学校での音楽教育って、極端に言えば「譜面通りに弾くことだけが唯一の正しいあり方だ」みたいな画一的な方向へ行きがちなイメージがありますけど、そうではない価値観を認めてあげることが大事だと。

そうですね。その先生はクラシックの教育を受けてきた方ですけど、あまり旧来のルールにとらわれないタイプの人だったので、それがすごくありがたかった。「譜面通りに弾かなければダメ」「コンサートはお行儀よく静かに聴くもの」みたいなルールって、現実的にはほんの一部の世界でしか通用しないもので、そこからちょっと外に出たら僕みたいなミュージシャンが世の中にはいっぱいいるわけです。ただ、そういう“外の世界”と子供たちが触れ合う機会が学校教育においてはなかなかないと思うので、今回のようなワークショップを通じて開かれた世界の自由な音楽に触れることは、すごく重要だと思うんですよね。