音楽ナタリー PowerPush - YOJI BIOMEHANIKA×小室哲哉
レジェンド同士の初対談
シンセサイザーの音が気持ちいい時代
──EDMってメロディがとても印象的というか。日本人の琴線にふれる展開が、多くの人の心をとらえている要因なのかな?と思うんです。
小室 デヴィッド・ゲッタあたりから、ボーカリストをフィーチャーする手法を始めて、それがわかりやすかったんだと思います。またフェスだと48時間とかノンストップでやるので、ビートの速い曲ばかりでなく遅いものもやったらフィジカル的にも楽だったりとか。日本人にも受け入れられやすい要素もあると思うんです。現在EDMを聴いてる人って主に1990年代に生まれで、幼い頃にパソコンが普及してTVゲームにもなじみが深い。そのあたりも人気の要因になっているのかもしれません。
YOJI シンセサイザーの音が気持ちいい時代になっているのかなって。昔だったら違和感のあった特殊なシンセの音も、人々にはすごく心地よくなっているし。
小室 家でどれだけ電子音が鳴っているかってことですよ。ちなみにウチは空気清浄機までしゃべりますからね。「部屋が乾いています」って(笑)。ピコピコした音から歪んだ音までが心地よく感じられるようになれたのかも。
“裏”から入る「Chapter X」
──人間の電子音に対する許容量が広がり、ダンスミュージックも新たな時代へと進みつつある中、YOJIさんは実に11年ぶりにYOJI BIOMEHANIKA名義でアルバム「Chapter X」を発表しました。現在のシーンの盛り上がりを意識して今回のアルバム発表に至った部分はあるのでしょうか?
YOJI 違うんですよ。本当に流行りとかに関心がないので。好きなようにやっていた音が、うまいこと時代と足並みがそろっていただけです。僕はタフでハードでメロディックな音が好きだったので、その2つをうまく同居させられていたのが11年前。でもだんだん作っているビートとメロディがあわないようになった。それがすごくつらくて。やればやるほど変になっていった。だからメロディとトラックを分離させて、トラックだけを生かしていこうと。そうすると、YOJI BIOMEHANIKAという名前が邪魔になって、YOJI名義になった。でも自分の中で成熟してきた感が出てきたと同時に、メロディを作りたいと欲求も強くなったから、じゃあここでもう1回メロディとトラックをあわせてみようと思ったんです。
小室 このアルバム、いきなり“裏”(のビート)から入り、真ん中あたりから徐々にスピードが速くなっていくんですよ。
YOJI 最後はものすごい速いんです(笑)。
小室 だから時代とかそんなに気にして作っていないと思いますよ。何かにあわせようとかしていない。って僕の解釈ですけどね(笑)。
YOJI ははは(笑)。とにかくなるようになれ、ってことですよね。気持ちいい方向にそのまま走ったら完成したという感じで。何も意識はしていないのかも。
小室 だから意地悪なんですよね、いい意味で。冒頭の30秒くらいある裏打ちの長さ! 本当にリズムが取りにくい(笑)。でも聴いていると自然と心地よさを感じて、最後にはきちっとシンクロしているんですよね。最近はリスナーに親切すぎる音が多いから、すごく面白い。
YOJI とにかく音を突っ込むのが、大好きなので(笑)。
──このアルバムがシーンにどういう刺激を与えるのか楽しみです。お2人はダンスミュージックシーンの未来はどうなっていくと考えていますか?
YOJI 正直どうにでもなれって感じ(笑)。
小室 でも大阪は最近元気があるなって思います。シーンをなんとかしようという気持ちとか、勢いやスピード感が伝わってくるので、こちらも協力できることはしようと思っています。
YOJI 今は電子音が世の中にあふれている時代だから、エレクトロニックな音を作るにはどんどんいい時代になっていると思いますよ。
──今回お話を伺って、お2人が一緒に楽曲制作されたら面白そうだと思いました。
YOJI じゃあ1回作ってみましょうよ! ナタリーのために! ってなんでやねん!!(笑) どういう音ができるのか想像できないですね。僕は何かを狙って音を作ることができない人間なので、途中から好きなことをやってしまうかも。それが“らしさ”につながっているのかもしれないですが。
小室 どちらかが曲を渡して、あとは好きなように調理してください、というのはアリかもしれませんね。
YOJI じゃあ世の中には出せないようなものを作ってみませんか?(笑)
小室 ごっつい音作れそうですよね。間違いなく僕らにしか作れない。
- YOJI BIOMEHANIKA ニューアルバム「Chapter X」2015年6月5日発売 / 2916円 / avex trax / AVCD-93060 / Amazon.co.jp
- 「Chapter X」
収録曲
- THE PLACE FOR FREEDOM
- DIE IN THE MORNING
- BLAZING
- MORE THAN WORDS
- CLOUD BURST
- RECOVERY
- LOOK @ THE HEAVEN (2015 OWN REWORK)
- WAKE UP TO REALITY
- GOT A FEELING
- THE PLACE FOR FREEDOM (HDM EXTENDED MIX)
- LOOK @ THE HEAVEN (BASSJACKERS RMX)
- NEEDS (2015 HOUSE REWORK)
- RECOVERY (REPRISE)
YOJI BIOMEHANIKA(ヨージビオメハニカ)
兵庫県神戸市出身のダンスミュージックプロデューサー。日本のみならず全世界で人気を博し、デヴィッド・ゲッタやカルヴィン・ハリスなどそうそうたる顔ぶれが並ぶイギリスのクラブ系専門誌「DJ MAG」のDJランキングの上位に名を連ねる。2008年からYOJI名義で活動をしていたが、2015年6月に約11年ぶりにYOJI BIOMEHANIKA名義のアルバム「Chapter X」をリリースした。
小室哲哉(コムロテツヤ)
1958年11月27日東京都生まれ。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家、編曲家、キーボーディスト、シンセサイザープログラマー、ミキシングエンジニア、DJ。1983年、宇都宮隆、木根尚登とTM NETWORKを結成し、翌年「金曜日のライオン」でデビュー。同ユニットのリーダーとして、早くからその音楽的才能を開花させた。1993年にtrfを手がけたことがきっかけで、一気にプロデューサーとしてブレイク。以後、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle With t、globeなど、自身が手がけたアーティストが次々にミリオンヒットを記録した。2010年に作曲家としての活動を再開し、AAA、森進一、北乃きい、超新星、SMAP、浜崎あゆみなど幅広いアーティストに楽曲を提供する。2014年はTM NETWORKのデビュー30周年プロジェクトを精力的に展開。そして2015年、20周年を迎えるglobeをはじめ、さまざまなプロジェクトを進行させている。