音楽ナタリー Power Push - 夢色キャスト

奇才・畑亜貴の歴史と「夢キャス」の世界

二子玉川で突然の才能開花

──昭和歌謡をたくさんチェックしていたのは、やっぱり言葉に興味があったから?

そうですね。歌詞が楽しめない歌に共感できなくて、最初は洋楽に抵抗があったんですけど、訳詞を読めばいいと気が付いてからはいろいろ聴くようになりました。そんなに言葉にこだわっていたのに、のちにVangelisにドハマりしたり(笑)、自分でも傾向がよくわからないんですけど。

──中学のときにバンドを始めて、その後社会人としてもゲームのサウンドクリエイターという音楽の道に進むわけですよね。ずっとブレなく音楽一本だったんですか?

畑亜貴

最初は演奏家を目指してたんですけど、そんなにうまいわけではないし、かといって作家には……その頃はどうやったら作家になれるのかわからなかったし、自分で曲も作ってはいたけどペースが遅いんですよ。どうしても1カ月に1、2曲しかできなくて、たぶんこのペースでは仕事として作家を目指すのは無理だろうなって。音楽は趣味にしようか、何かほかの道はあるのかと思いながら、大学でもバンド活動を続けてたんですけど、あるとき突然、多作になったんですね。

──何かきっかけがあったんですか?

何かのフタが開いたように突然、バーッと曲があふれてきて。突然のことに驚きつつも、これが本物かどうかわかんないから、とりあえず1日3曲ずつ作ってみようと決めて、そのままずっといけるようならもしかしたら仕事にすることもできるかもしれないと……それを1年ぐらい続けたんですかね。1日3曲をずっと作り続けて、これならいけるかもしれないと大学を辞めました。

──なんでフタが開いたかはわかんないんですよね。補助輪なしの自転車に乗れるような、あんな感覚なんでしょうか。

そうなんでしょうね。二子玉川の駅の階段を降りてたら、急にバーッと曲が湧いてきたんですよ(笑)。いつも五線紙を持ち歩いていたので「わあ、なんかできちゃった」と思ってすぐに書き起こして。それでその日の夜、家に帰ったらもう1曲できたんですよ。

──1日だけならまだしも、それが1年続いたのなら、間違いなくもともと持っていた才能の扉が開いたんでしょうね。

どうなんでしょう。二子玉川で誰かが乗り移ったんですかね(笑)。

ゲーム音楽から「空耳ケーキ」へ

──そこからプロになるべく、どんなアクションを?

あるとき「サウンド&レコーディング・マガジン」を読んでいたら、私の大好きなコナミさんがサウンドクリエイターを募集していたんです。相当なコナミ信者だったので、これはコナミに行って「MADARA」(「魍魎戦記MADARA」シリーズ)と「魂斗羅」の曲を書くしかない!と思いまして(笑)。

──そうか、畑さんは音楽の道と並行して、ディープなゲーム道も通ってるんですよね。

畑亜貴

もともとゲームは大好きで、バンドのリハ終わりにはいつもゲーセンに入り浸ってたんです。もっぱらアーケードゲーム専門で。だからコナミさんの募集にはすぐに飛びついたんですけど、アクション系ゲームのBGMは作ったことなかったので、しょうがないから歌入りのデモを送ったんです。それが通って面接に行ったら、担当の人が含みのある感じで笑ってるんですよ、私を見て。なんだろうなあと思ってたら、「いやあ、デモで歌モノを送ってきた人がいたから面白いなと思って来てもらったんだよね」って(笑)。

──興味本位で(笑)。

今考えてみれば変だなと思うんですけど、そのときは何をどうしたらいいかわからなかったから。でも結局、それがきっかけで仕事ができることになったんです。

──とはいえすぐにインスト制作に対応できたんですか?

なんと言っても夢のコナミ様ですから(笑)。コナミ様のゲーム音楽が作れるなんて!とハッピーモードに入りまして。そこから2年ほど専属契約で仕事をさせていただいたんですけど、それ1本で生活できるほどではなかったんですよ。なんとか音楽だけで食べていきたいと思って、そこからフリーで活動するようになって……ざっくり10年ぐらい、BGMとかいろんな仕事を受けてました。今すごい勢いで時間を飛ばしちゃいましたけど(笑)、10年やったところで「やっぱり私が好きなのは歌モノなんだな」って気が付いたんです。ゲーム内の主題歌とかも多少は作っていたんですが、これからの自分に合っているのは歌モノなんじゃないかと。アニメも大好きだったので、アニメの歌モノが作れないかなと思って設立間もないランティスの副社長の伊藤さんから、お声かけて頂くようになりまして。伊藤さんとは以前からゲームなどで一緒にお仕事したりしてたんです。

──そうして生まれたのが2002年放送の「あずまんが大王」オープニングテーマ「空耳ケーキ」と。ここで作詞家としての一面が大きくクローズアップされるわけですね。

はい。あの曲の歌詞でけっこう注目してもらえて、そこからキャラクターソングなどのお仕事も増えてきて、「作詞のほうがより自分に向いてるのかな」「歌詞ならばこのペースでどんどん仕事できるかもしれない」と確信が湧いてきて。

ミュージカルリズムゲーム「夢色キャスト」

「夢色キャスト」

ミュージカル劇団「夢色カンパニー」に所属する7人の男性をメインキャラクターとした、恋愛シミュレーション型のリズムゲーム。劇中に登場する音楽では、テレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」やクロスメディア作品「ラ ブライブ!」などで知られる作詞家・畑亜貴が全楽曲の歌詞を手がけている。

畑亜貴(ハタアキ)
畑亜貴

1966年8月13日、東京都生まれ。1990年にコナミのサウンドクリエイターとして音楽活動を開始し、1999年にはアルバム「棺桶島」でソロアーティストとしてデビューを果たす。2002年にはテレビアニメ「あずまんが大王」の主題歌「空耳ケーキ」で作詞家として注目を集め、2006年の「涼宮ハルヒの憂鬱」、2007年の「らき☆すた」をはじめとするアニメ関連作品で数多くのヒットソングを生み出した。作品の世界を深く理解した上で紡がれる独特の言語感覚を持った歌詞は高い評価を集め、アニメ・ゲームの分野では引く手あまたの存在に。2010年にスタートしたメディアミックス作品「ラブライブ!」ではシリーズを通じて全楽曲の作詞を担当。2015年現在、JASRAC登録曲数は1400曲以上にのぼる。2015年9月にリリースされたスマートフォン向けゲームアプリ「夢色キャスト」では劇中に登場する全楽曲の作詞を手がける。また2016年1月には、田代智一、黒須克彦、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)とともに結成したプロデュースチーム・Q-MHz(キューメガヘルツ)による1stアルバム「Q-MHz」をリリースする。