音楽ナタリー Power Push - 夢色キャスト
奇才・畑亜貴の歴史と「夢キャス」の世界
「ハルヒ」「らき☆すた」そして「ラブライブ!」
──その後さらに「作詞家・畑亜貴」の名を決定付けたのは、やはり2006年の「涼宮ハルヒの憂鬱」でしょうか。「ハルヒ」は音楽の注目度もすごく高かったし、同じ京都アニメーション作品として翌年に登場した「らき☆すた」でも畑さんがキャラソンまで含めて大量の楽曲を手がけて、このあたりからWikipediaが異常に長くなっていきます。
そうですね(笑)。「ハルヒ」と「らき☆すた」でキャラソンまで一手に引き受けるようになって。
──アニメの世界観を深めて広げる畑さんの作詞家としての才能が高く評価され、そこからは八面六臂の活躍でアニメ音楽に欠かせない存在となりました。そして2010年にはさらに「ラブライブ!」という大きな大きな波が。
来ましたね。びっくりしましたね。
──「ラブライブ!」はゲームやアニメなどのいわゆるオタク文化の枠を大きくはみ出す人気を獲得しているコンテンツだと思います。その中でも畑さんの書く歌詞はやはり大きく注目されていて。作中のアイドルたちに感情移入できる歌詞をこれだけ量産できるのはなぜなんでしょう。
私自身、アイドルが大好きなんです。ピンク・レディーからの流れもあって……阿久悠先生がピンク・レディーの曲をディープに書き続けたように、私もアイドルを担当してみたいと思いがずっと心の中にあって。「ラブライブ!」でそれができたことが本当にうれしかったし、アイドルの曲だといろんなジャンルの音楽に挑戦できるから、自分が今まで好きだったものを全部詰め込んで、次世代に手渡すような意識があったりもして。
──確かに、アイドルソングやアニメソングは雑多なジャンルを取り込むことが許される、恐らく日本特有の独特なフォーマットとして進化していますよね。
ええ、そうなんですよ。自分にとってそれができるのが「ラブライブ!」で。
──膨大な数だからもちろん大変だとは思いますけど、楽しさも大きいでしょうね。
楽しいですよー。さあ次はどの球を投げようかと。
──「ラブライブ!」で初めて畑亜貴という名前に注目した人もいるでしょうし、作詞家の名前なんて気にせずにひたすらその世界に没頭している人もいると思います。
作詞家はあくまで裏方なのでそれでいいんです。でも、自分が好きな曲を並べて聴いたときに「あれ……歌詞書いている人は同じ?」とふと気付いて名前を意識してくれたら、ちょっとうれしいです。「つまり私とあなたの趣味は一緒よ」みたいな(笑)。同志を見つけたような気持ちになってもらえたら、作家冥利に尽きますね。
「夢キャス」を彩る音楽
──そんな歴史を経ての「夢色キャスト」です。この作品は男性キャラクターによるミュージカル劇団と脚本家に抜擢された女の子の奮闘を描いた物語ですが、男性が歌う楽曲となると「ラブライブ!」とはまた違う感覚なのではないでしょうか。
違いますね。日々新たな挑戦で、すごく楽しいです。「ラブライブ!」もそうですけど、やっぱり二次元ならではの楽しさ、生身じゃない楽しさというのがあるんですよ。プレイヤーや視聴者がキャラクターへの自分なりの思い入れを膨らませていくように、歌詞を書いていくことによって、キャラクターの知らなかった一面をみんなと共有できる楽しみがあって。
──「夢キャス」のスタッフからは、最初にどんなオーダーがあったんですか?
全体像としてこういう方向でというオーダーはなかったですね。まずは脚本があって、このシーンでかかってほしい曲、という場面ごとのリクエストを受けて。
──メインテーマの「CALL HEAVEN!!」はひたすら明るくてさわやかな、物語の幕開けにふさわしい楽曲ですね。
この曲はこれから育っていくコンテンツの導入部なので、すごく大事なポジションなんですよ。なので強い色を付けるよりは「これから楽しい世界で遊ぼうよ」「新しいことを始めようよ」というウェルカム感が大事だなと思って。乙女から熟女まで(笑)、みんなが楽しくなれるような歌詞になるよう意識しました。
──ゲーム内で畑さんが作詞を手がける公演曲も徐々に出てきています。「PERSONA+MYSTERY」はピンク・レディーにもつながるような、ディープな歌謡曲のエッセンスを感じました。
はい。ちょっとゾクゾクする感じの。このへんは昭和歌謡のルーツが出ているかもしれませんね。
──「桜よ薫れ愛薫れ」は歌舞伎出身のキャラクター・藤村伊織がフィーチャーされた公演「春の夜の夢のごとし」の楽曲ということで、オリエンタルな曲調の色気ある世界観が楽しめます。
キャラクターに寄せた曲はグッと寄せるようにしています。キャラクターの魅力をいろいろと妄想してもらえるように(笑)。
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ミュージカルリズムゲーム「夢色キャスト」
ミュージカル劇団「夢色カンパニー」に所属する7人の男性をメインキャラクターとした、恋愛シミュレーション型のリズムゲーム。劇中に登場する音楽では、テレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」やクロスメディア作品「ラ ブライブ!」などで知られる作詞家・畑亜貴が全楽曲の歌詞を手がけている。
畑亜貴(ハタアキ)
1966年8月13日、東京都生まれ。1990年にコナミのサウンドクリエイターとして音楽活動を開始し、1999年にはアルバム「棺桶島」でソロアーティストとしてデビューを果たす。2002年にはテレビアニメ「あずまんが大王」の主題歌「空耳ケーキ」で作詞家として注目を集め、2006年の「涼宮ハルヒの憂鬱」、2007年の「らき☆すた」をはじめとするアニメ関連作品で数多くのヒットソングを生み出した。作品の世界を深く理解した上で紡がれる独特の言語感覚を持った歌詞は高い評価を集め、アニメ・ゲームの分野では引く手あまたの存在に。2010年にスタートしたメディアミックス作品「ラブライブ!」ではシリーズを通じて全楽曲の作詞を担当。2015年現在、JASRAC登録曲数は1400曲以上にのぼる。2015年9月にリリースされたスマートフォン向けゲームアプリ「夢色キャスト」では劇中に登場する全楽曲の作詞を手がける。また2016年1月には、田代智一、黒須克彦、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)とともに結成したプロデュースチーム・Q-MHz(キューメガヘルツ)による1stアルバム「Q-MHz」をリリースする。