音楽ナタリー Power Push - 夢色キャスト

奇才・畑亜貴の歴史と「夢キャス」の世界

遊び心は隠しコマンドで

──キャラクターありきの楽曲を手がける上で、畑さんが気を付けているのはどんなことですか?

キャラクターが言わないこと、しないことはなんなのかを意識しています。ちょっとでもイメージのズレがあると、受け手はテンションが落ちるんですよ。「あれ? 俺の○○はこんなこと言わないぞ」みたいな。そう感じさせたくないんですね。どんどん興味を持って好きになって、その世界を楽しんでもらえるように、気を散らしたくないということはすごく考えています。

畑亜貴

──それは畑さんがゲームやアニメのいちファンであることが大きいでしょうね。ちゃんとファン心理がわかった上で作り込んでいる。

絶対にその世界観に水を差してほしくないんですよ(笑)。難しいのは、キャラクターの意外な一面との線引きですね。そのキャラクターが持っていない部分なのか、実は内に秘めている意外な部分なのか。アニメやゲームはたくさんのスタッフが関わって作っていくものだから、スタッフの気持ちも逸らしたくないんです。誰か1人でも「あっ、イメージが違う!」となると、せっかくいいものを送り出そうとしているときに、ふと冷めてしまうから。

──とすると作品やファンの求めるニーズ100%で考えますか? ちょっといじわるな要素を加えてみたり、トラップを仕掛けてみたり。

遊び心はいっぱいあるけど、そこはあくまで隠しコマンドとして入れていることが多いです。よく見ると「アレッ?」みたいな。それはそれで、あると何回も楽しめるので。よくある例だと「友情の歌だと思ったら恋の歌だった?」とか。

──「夢キャス」は始まったばかりなので、ストーリーが進むのと同時にキャラクター個人の特徴やそれぞれの関係性もこれからどんどん深く描かれていくかと思います。畑さんが担う役割も大きくなっていきますね。

そうですね。どんどん世界観が広がっていく中で、このキャラクターはこんな愛され方をしているんだなというファンの気持ちも汲み取って、楽しい歌を作っていきたいです。

気軽に楽しめる「夢キャス」の舞台

──畑さん的「夢キャス」のおすすめポイントは? 作品に関わるスタッフの一員として「夢キャス」をプレゼンするとしたら、どんなふうに伝えますか?

プレゼンかあ。……やってみると、気持ちいいよ(笑)。けっこうサクサク進むんですよ。あまり難しいと音楽を聴いてる心の余裕もなくなってくると思うんですけど、「夢キャス」は音楽にノリながら気軽に楽しみつつ、物語の世界にもしっかりのめり込める作品じゃないかなと思います。

──あと「夢キャス」は劇団が舞台で、新しいコンテンツが「公演」として順次楽しめるから、本当に劇団の新公演を楽しむような感覚もありますよね。

「夢色キャスト」のプレイ画面。

実際の演劇を鑑賞するのと同じで、ちっちゃな劇団を私たちも一緒に盛り上げていくぞという気持ちで楽しめると思いますし……観たいお芝居があってもスケジュールの都合でなかなか観に行けないことってあるじゃないですか。その悔しさをこのゲームにぶつけることもできます(笑)。

──あー、ゲームだとそういう勝手のよさはありますよね。自分の都合のいい時間に楽しめるという。

そうなんですよ! チケットを取っちゃったのに行けないってこともよくあるし、誰かに譲るのもなかなか大変だし、「うわー当日券で行くしかないのかー」みたいなこと、私もよくありますからね。

──ちなみに畑さんは「夢キャス」の中で、この子は萌えるなーというキャラクターはいますか?

うーん……制作に関わってると、どうしてもみんなを等しく愛するモードになっちゃうんですよ(笑)。「ラブライブ!」もそうなんですけど、1人だけ贔屓にできないんですよね、やっぱり。

──純粋にプレイヤーとして楽しめない歯がゆさもあると。

そうですね(笑)。若干の親心とともに見守っているような気持ちです。

作詞家・畑亜貴の野望

──「作詞家・畑亜貴」の誕生から現在までを駆け足で振り返っていただきましたが、これから先やろうと思っていることはありますか?

畑亜貴

今、ひさしぶりに自分のアルバムを作ろうと思っていて、曲を準備しているところなんですけど、まずはそれを完成させたいです。そのときに作りたいものを形にしていくことは、ずっと止めないと思うので、時間との戦いにはなりますが続けていこうと思っています。

──まだやったことがなくて、挑戦してみたいことはありますか? 例えば作詞家としてなら、誰に歌詞を書いてみたいとか。

あー、それはもちろん、ささきいさおさんです。

──おお、即答ですね。ささきさんのあの声でこそ歌ってほしい言葉があると。

そうですね。……ごめんなさい、今ちょっと妄想でニヤニヤしちゃった(笑)。大きな目標ですね。

──もしもその目標をクリアしてしまったら、その先は?

そのときは「次はアルバム全曲を書かせてください!」とか(笑)、新たな野望に燃えるんじゃないでしょうか。

ミュージカルリズムゲーム「夢色キャスト」

「夢色キャスト」

ミュージカル劇団「夢色カンパニー」に所属する7人の男性をメインキャラクターとした、恋愛シミュレーション型のリズムゲーム。劇中に登場する音楽では、テレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」やクロスメディア作品「ラ ブライブ!」などで知られる作詞家・畑亜貴が全楽曲の歌詞を手がけている。

畑亜貴(ハタアキ)
畑亜貴

1966年8月13日、東京都生まれ。1990年にコナミのサウンドクリエイターとして音楽活動を開始し、1999年にはアルバム「棺桶島」でソロアーティストとしてデビューを果たす。2002年にはテレビアニメ「あずまんが大王」の主題歌「空耳ケーキ」で作詞家として注目を集め、2006年の「涼宮ハルヒの憂鬱」、2007年の「らき☆すた」をはじめとするアニメ関連作品で数多くのヒットソングを生み出した。作品の世界を深く理解した上で紡がれる独特の言語感覚を持った歌詞は高い評価を集め、アニメ・ゲームの分野では引く手あまたの存在に。2010年にスタートしたメディアミックス作品「ラブライブ!」ではシリーズを通じて全楽曲の作詞を担当。2015年現在、JASRAC登録曲数は1400曲以上にのぼる。2015年9月にリリースされたスマートフォン向けゲームアプリ「夢色キャスト」では劇中に登場する全楽曲の作詞を手がける。また2016年1月には、田代智一、黒須克彦、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)とともに結成したプロデュースチーム・Q-MHz(キューメガヘルツ)による1stアルバム「Q-MHz」をリリースする。