ナタリー PowerPush - やなぎなぎ
デビュー1周年目前に直球ギターロックで勝負
やなぎなぎが4thシングル「Zoetrope」をリリースした。そのタイトルチューン「Zoetrope」は、現在放映中のテレビアニメ「AMNESIA」のオープニング曲。中川翔子「空色デイズ」などで知られる齋藤真也の作編曲によるストレートなギターロックに仕上がっている。
やなぎといえば2012年2月のデビュー以来、ノスタルジックな色合いをたたえた青春ポップ「ビードロ模様」や超高速ヘヴィロック「ラテラリティ」など、多彩な3枚のシングルを発表。また自らはエレクトロやミニマルミュージックの影響下にある楽曲群を制作している。ナタリー4度目の登場となる今回は、そんな彼女が直球勝負に打って出た、その理由を語ってもらった。
取材・文 / 成松哲
クルクル回っているイメージが欲しい
──もはや、やなぎさんインタビューの常套句になってしまった気もするんですけど、新曲「Zoetrope」、ビックリしました(笑)。
超直球ですよね(笑)。
──はい(笑)。ご本人曰く「BPM200超えのド・ロック」の野心作だった3rdシングル「ラテラリティ」の次は何を仕掛けてくるのかな?と思ったら、まさかの正調ギターロック。サビに向かってグイグイ盛り上がっていくメロディラインといい、絶妙なタイミングで入るストリングスやギターソロといい、聴いていて本当に気持ちいいんですよ。
今までテーマソングを手がけさせていただいたアニメ(「あの夏で待ってる」「ヨルムンガンド」「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」)はどちらかというと男性の視聴者の多い作品だったと思うんですけど、今回の「Zoetrope」は「AMNESIA」のオープニングテーマ。視聴者の大半が女性っていうアニメのテーマソングなので、マニアックな方向に振り切るのではなく、ちょっと伝わりやすいものにしたかったんです。あとハープを使ってみたり、ストリングスをドラマチックに動かしてみたりすることで、ド直球のギターロックの中にも、かわいらしさや乙女チックな感じ、女の子女の子した感じを盛り込めたらいいな、と。
──どういう仕上がりになるのか、しっかりイメージを固めた上で制作に入ったんですか。そこも「完成形の見えない曲を作りたかった」と言っていた「ラテラリティ」とは正反対ですね。
そうですね。「AMNESIA」のストーリーを読ませていただいたときから「直球な曲のほうが似合う作品だな」「そういう曲を作れる方と一緒にやりたいな」と思っていたので、(齋藤)真也さんに声をかけさせていただきました。(齋藤が作編曲を手がけた)中川翔子さんの「空色デイズ」をよく聴いていたので。
──ということは、齋藤さんには「ちょっと乙女チックな要素を盛り込んだストレートなギターロックで」というオーダーを?
はい。アニメのスタッフの方との打ち合わせのとき「作品の世界観から考えて、ちょっと怪しい感じがあってもいいかも」っていう話もしていたので「ストレートなロックの中に、ちょっとゴシックな感じの乙女チックさが欲しい」というお話をさせていただきました。あと、個人的な希望として「クルクル回っているイメージが欲しい」と。
──「クルクル」?
「AMNESIA」のストーリーに時間軸のループを感じたので、「曲をちょっとクルクルした感じにしてください」って(笑)。タイトルが「Zoetrope」(回転のぞき絵)なのもそういう理由なので。
──内側にイラストを描いた筒を回転させながら、その側面に空いた隙間から覗くとイラストが動いて見えるんだけど、実は何回転させても同じ動きしかしないゾエトロープと、私の感じたループのイメージを重ね合わせてみた、と。
そうですそうです。覗くたびに違う絵に出会えるけれど、気付けば最初のイラストに戻っているという。
もう1つの選択肢を選んだ私がどこかにいたら
──そのタイトルだけでなく、詞も「AMNESIA」の物語に寄り添ってますよね。最初のフレーズからして「欠け落ちなくしてしまった 最後のコンポーネントを探して」と、ループ世界で記憶を取り戻そうとするヒロインのことを描いている。
「AMNESIA」のように、1人の主人公が違う世界の同じ時間を何度も何度も体験するループもの、並行世界ものっていうテーマ自体、昔から面白いと思っていたので、それをうまく詞で表現したくて。思うがままに書いたら、こうなってました(笑)。
──前回のインタビューで「人生に後悔はない」って言っていましたけど、それでもあり得たかもしれない、もう1つの世界やもう1人の私の存在には興味がある?
今の生き方に全然後悔はないんですけど、それでも「もし並行世界を行き来しながら生きていくことになったら、私はどうするだろう?」「私が選ばなかった、もう1つの選択肢を選んだ私がどこかにいたら面白いな」っていうことを考えるのは、なんか好きなんですよ。
──では作詞は比較的楽だった?
かなりスムーズなほうでしたね。書き留めておいた言葉もけっこうありましたから。
──例えばどんな言葉を?
タイトル自体そうですし、あとは「白日夢」とか。
──「白日夢」ということは、並行世界は興味の対象ではあるものの、あくまで夢なんですね。
そうかもしれない(笑)。さっきの「生き方に後悔していない」っていう話にもつながるんですけど、「AMNESIA」の主人公のように、たとえいろんな世界を体験することになっても、最終的には自分がどの世界で生きていくのか選びたいし、選んだ世界で自分はどうやって生きていくのかっていうことはきちんと考えたいんです。詞の中にもその意思を盛り込んだつもりですし。
──「二度とない永遠を いま その手で掴んで」と叫んでいるし、曲のラストでは「最後のコンポーネント」「隙間」を「埋めて」いますしね。
いつも「自分のやりたいことをしっかりやろう」とは思っていますから。
収録曲
- Zoetrope
- 星々の渡り鳥
- replica
- Zoetrope (instrumental)
- 星々の渡り鳥 (instrumental)
- replica (instrumental)
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。6月にはテレビアニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマを含む2ndシングル「Ambivalentidea」、11月にはテレビアニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディングテーマを収録した3rdシングル「ラテラリティ」を発表。そして2013年1月にテレビアニメ「AMNESIA」のオープニングテーマを含む4thシングル「Zoetrope」をリリースした。