ナタリー PowerPush - 山根万理奈
クラウドファンディング初挑戦 みんなで作った「歌ってhappy!」
7月から先行配信されていた山根万理奈のニューアルバム「歌ってhappy!」が、このたびCDとしてリリースされた。本作はクラウドファンディングで資金を集め制作されたもの。言わば彼女を愛してやまないファンとともに作り上げられた作品となったわけだ。支持者の期待を背負った制作にはプレッシャーもあったというが、より自由に自らの可能性を追求したことで、これまでにない新たな魅力がたっぷりと詰め込まれている。
今回は約10カ月ぶりとなるインタビューで、本作に注ぎ込んだ思いをたっぷりと聞いた。
取材・文 / もりひでゆき
クラウドファンディングへの挑戦で得たモノ
──ナタリー登場は2013年11月以来となりますね(参照:山根万理奈 ロングインタビュー)。
前回、「早いペースでナタリーさんに戻って来たいです」って言いましたけど、なんとか1年以内に帰ってくることができました!(笑)
──前回のインタビューではクラウドファンディングでアルバム制作資金を募っているとお話されていましたが、それが見事達成され、ニューアルバム「歌ってhappy!」が完成したんですよね。改めてその過程を振り返っていただけますか?
はい。昨年から今年の3月まで、わりと長い期間をかけてアルバム制作資金を募っていたんですけど、最初はかなり早いスピードで資金が集まっていって。私にとってクラウドファンディングは新しい挑戦だったので正直、不安もあったんです。でも意外とみんなそういうシステムを受け入れてくれてるんだなっていうのがわかって、ちょっと驚いたしうれしかったですね。
──一気に目標金額まで到達したんですか?
いや、目標金額までもう少しっていう段階で、ちょっと停滞してる時期もありました。ただ、その期間中に支援してくださった方への特典として、アルバム制作の過程をムービーで配信していたんですね。そのことによってアルバムをより楽しみにしてくださる方も増えたみたいだったし、ライブではお客さんに直接、声がけもしていたので、その停滞時期からはうまく抜け出すことができて。で、そこからはまたスピードを上げて、一気に達成した感じでした。
──あ、目標金額到達前にアルバム制作はスタートさせていたんですね。
そうなんですよ。ある程度、資金が集まってきているのが見えていたので、今年に入ってからは並行してプリプロなどの具体的な作業を始めていたんです。
──その段階でアルバムの内容に関してはどんなものを思い描いていました?
自作の曲だけを入れたアルバムにしようっていうことをまず決めました。その上で、この1年の間に生まれた曲の中から、今までの山根万理奈のイメージを一新できるようなバラエティに富んだものをセレクトしていったらいいかなって。実際、すでにライブで盛り上がっている曲や自分の本質が見える曲など、かなりいろんなタイプの曲を入れることができたなって思いますね。
──確かに本作からは新たな山根さんの表情をたっぷり感じることができます。曲作りの段階から、今までとは違った曲が自分から生まれてきている実感はありました?
ありましたね。前作以降も引き続きなんだかんだライブをたくさんやっている中で、お客さんからいろいろな意見を聞く機会もすごく多くて。「こんな曲が聴きたいです」っていう声を元に曲作りを始めることもあったので、曲調に幅が出てるなっていうのは自分でも感じていました。歌に関してもライブを通して経験したものをふまえ、レコーディングの間にたくさん変化した部分もあったし。
──曲の雰囲気や歌声にはこれまで以上に開けた印象もあって。前作「好きで悩んでるわけじゃない」は、そのタイトルからもわかる通り、いろんな悩みや葛藤が根底にある作品でもあったわけですが、今回はそこをしっかり乗り越えた今の山根さんが濃密に詰まっているなと。
私としてはやっぱりクラウドファンディングで目標を達成できたということがすごく大きくって。その試み自体、いろいろ悩んでた時期があって、自分の力不足でCDが作れないなっていう状況になって始めたことでしたからね。みんなが応援してくれてCDを作れるようになったことは、自分にとって大きな自信になったんです。心も晴れやかになったし。アルバム1曲目の「step by step」はまさにそういう感情を反映させて、これまでの自分とこれからの自分を重ねながら作った曲なので、かなり開けた印象になっていると思います。
──ファンから目に見える形での支援をいただいたことがプレッシャーになることはありませんでしたか?
もちろんありました。自分のよさをしっかり引き出した作品じゃないとダメだなっていう責任感みたいなものはいつも以上に大きかったですね。ただ、制作を続けていく中でいいものができている実感がどんどん湧いてきていたので、不安はだんだんなくなっていきました。最終的にはちゃんと自信を持ってお届けできるものになりましたし。
──収録曲はすべて斉藤哲也さんによるアレンジとプロデュースですね。
はい。斉藤さんはデビューアルバムからずっと一緒にやってくださっている方なので、今回もたくさんのアイデアや意見を言ってくださいましたね。私も斉藤さんのことをすごく信頼しているので、自分のやりたいことを躊躇なくたくさん言えたし。だからプリプロも今まで以上に時間をかけて、1曲ずつしっかり組み立てていくことができたと思います。
──意見を交わす中で大きく変化した曲もあります?
ギター1本の状態に斉藤さんのピアノをはじめいろいろな音が加わると楽曲自体のイメージがガラッと変わることはよくありました。「花ざかり」なんかはより軽快で柔らかくかわいい感じになったと思うし、「大阪の女に生まれたかった」では思いっきり遊ぶことができましたし(笑)。
──遊んでますよねー(笑)。そういうことができるのも、山根さんを取り巻く状況のよさを証明している気がします。
そうですね。今回は斉藤さんのお家スタジオでの作業だったので、すごくリラックスできたっていうのもありました。歌入れなんかも今まではブースに1人で閉じこもってやってましたけど、今回は斉藤さんやマネージャーさんがすぐ横にいる状態で歌ったりもして。最初はやりにくいなあって思いましたけど(笑)、気になる部分に対してすぐ意見が聞けるので結果的にはすごくよかったんですよね。制作作業のいろんなことをマイナーチェンジしながら、いいものを生み出そうっていうことを突き詰められましたね。
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収録曲
- step by step
- 手紙
- 花ざかり
- P.S.
- wonder
- 蛍
- 雨の行方
- 大阪の女に生まれたかった
- 週末には
- 歌ってhappy!
- Hahaha! Happy birthday
山根万理奈(ヤマネマリナ)
島根県出身のシンガーソングライター。2009年よりYouTubeで、カバー曲やオリジナルの弾き語り映像を公開する。透明感あふれる声やおっとりしたキャラクターが注目を集める。その存在が現在所属する事務所のスタッフの目に留まり、2011年6月に山音まー名義でニコニコ動画で人気を博している楽曲をカバーしたミニアルバム「人のオンガクを笑うな!」をリリースし、同年7月にワーナーミュージック・ジャパンからシングル「ジャンヌダルク」でメジャーデビューした。同年11月にカバーアルバム「ざっくばらん」で、自身のルーツとも言える名曲の数々を弾き語りで披露。2012年1月に「STAR e.p.」、3月に「スタートライン」という2枚のシングルを発表したのち、4月に満を持して1stフルアルバム「空な色」をリリースする。その後、2013年5月にインディーズレーベルより「好きで悩んでるわけじゃない」を、2014年にクラウドファンディングで資金を集め制作したアルバム「歌ってhappy!」を発表。年間100本を超えるライブを通じて着実にファンを獲得している。