ナタリー PowerPush - 山根万理奈
クラウドファンディング初挑戦 みんなで作った「歌ってhappy!」
生まれて初めてのホームシック
──「歌ってhappy!」という曲は、アルバム全体の風通しのよさを象徴していますよね。アルバムタイトルにもなっているわけですから。
自分のモットーとして“歌ってhappy!”というものをずっと掲げてきたので、それを歌ったこの曲は絶対に入れたかったんですよね。ライブでもずっとやっているので、お客さんからのリクエストも多かったですし。これからもこういう気持ちでやっていくよっていう明るい指針になればいいかなって思います。
──曲中には楽しい追っかけコーラスがあります。クレジットを見ると、たくさんの方々の名前が書かれていましたが。
自分の家族とか身近な人にコーラスをしてもらったんです。そのコーラスの部分は、ライブでもお客さんと一緒にやってるので、それを音源でも再現したかったんですよ。たくさんの声がどんどん重なっていくのは面白いですね。かなりほっこりするポイントだと思います。
──「step by step」のサビもみんなで一緒に歌えそうですよね。
はい。まだライブでやったことはないんですけど、そこはぜひ一緒に歌ってもらえたらいいなと思いながら作ってました。そういう一体感が楽しいので。
──「手紙」という曲では、故郷である島根への思いを優しく歌っていますね。
これは去年、アルバムを出したあとくらいに作りました。その頃、初めてホームシックになったんですよ。
──上京されてだいぶ経ってからのホームシックですよね。
あはは(笑)。確かに遅かったですね。まあ、でも初めて経験する感覚になったので、それは曲として形にしておきたいなと思ったんです。最初は聴いてくださるみんなに当てはまるような、故郷をテーマにした壮大な曲にしたかったんですけど、書いていくうちに自分自身が見てきた故郷の景色が具体的に見えてきたので、かなり個人的な曲にはなってしまったんですけど。ここまで固有名詞を歌詞に入れたのは初めてですね。
──そのタイミングでホームシックになったのはどうしてだったんでしょうね?
大学のときにデビューして、卒業する前に上京して、顔出しがあったりとかして(笑)、なんかもうずっと止まらずに走ってきたところがあったと思うんですよ。自分としてはそれに追い付いていくのに精いっぱいだったから、東京という街に出てきたことへの実感があまり湧いてなかったんでしょうね。で、去年、それが実感できてきたからやっとホームシックになったんだと思います(笑)。
──島根に帰りたくなっちゃいました?
ちょっとだけ。でも、ライブなんかでちょいちょい帰ってたんですけどね(笑)。だからこそ、そういう感情になったのが不思議でした。曲にしたことで気持ちは軽くなりましたね。
「いやエロスですけどね(笑)」
──そんな自らの故郷を愛する山根さんですが、一方では「大阪の女に生まれたかった」と言い切っているのも面白いところで。
あはは(笑)。その2曲を同じアルバムに入れるかっていうね。日本の西側の人間からすると、現実的な都会は大阪なんですよ。東京はもはや「宇宙!?」っていうくらい現実離れした感じなので(笑)。だから大阪にはずっと憧れがあったので、それを面白おかしく歌にしてみようかなと。大阪のライブ限定で1、2回やったことがあるんですけど、現地の方々には好評です。
──サウンド的には三線を使っているのが面白いですよね。
曲調的に合うんじゃないかなと思ったので、HANASALの比嘉(大祐)さんに弾いていただきました。今回はそういうひらめきを実際形にしたものも多いですね。今まであまり入れてこなかったコーラスも、今回はけっこう増えましたし。
──あと僕が本作で一番衝撃的だったのが「wonder」。
あー! ぜひ聴いてほしい1曲ですね、目を背けず(笑)。
──アダルトな世界観にかなりドキッとしましたよ。
私ももう25歳になりましたからね、そろそろ大人な面も出していこうと(笑)。実際のところは自然とこういう曲が書きたいなって思っただけなんですけどね。詞から生まれた曲ですけど、スルスルっとできました。
──音数を抑えたシンプルなトラックの上に、ちょっと気怠いボーカルが乗っているのが今までにない雰囲気です。
そのボーカルテイクが録れたときは“キタ!”って思いましたね。歌いやすい曲ではあるんですけど、昼間のレコーディングだったから入り込むのにちょっと苦労しました。けっこう夜の世界の歌なんで。
──ファンの方も衝撃を受けるのではないでしょうか。
そうですね。最初にライブでこれを歌ったときに、「この曲はそういうことじゃないですよね? エロスな意味じゃないですよね?」みたいなことを言われたことがあって。いやエロスですけどねっていう(笑)。もちろん聴き手の方にはいろんな解釈をしていただいていいんですけど、自分としては新しい面を出すことができたのでよかったなと思ってますね。
──この曲も含め、今回はチェロとバイオリンを贅沢に使っている曲がいくつかありますよね。
斉藤さんがやっているUooBというバンドのメンバーの方々に入れていただいたんですよ。ライブで何度か共演させていただく中で、山根万理奈の曲には弦が合うんじゃないかっていう話になったのでお願いすることになりました。ほんとに贅沢な仕上がりになりましたね。オケ録りも立ち会わせていただいたんですけど、とにかく気持ちよかったです。弦の音はほんとに大好きなので、感謝感謝ですね。
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収録曲
- step by step
- 手紙
- 花ざかり
- P.S.
- wonder
- 蛍
- 雨の行方
- 大阪の女に生まれたかった
- 週末には
- 歌ってhappy!
- Hahaha! Happy birthday
山根万理奈(ヤマネマリナ)
島根県出身のシンガーソングライター。2009年よりYouTubeで、カバー曲やオリジナルの弾き語り映像を公開する。透明感あふれる声やおっとりしたキャラクターが注目を集める。その存在が現在所属する事務所のスタッフの目に留まり、2011年6月に山音まー名義でニコニコ動画で人気を博している楽曲をカバーしたミニアルバム「人のオンガクを笑うな!」をリリースし、同年7月にワーナーミュージック・ジャパンからシングル「ジャンヌダルク」でメジャーデビューした。同年11月にカバーアルバム「ざっくばらん」で、自身のルーツとも言える名曲の数々を弾き語りで披露。2012年1月に「STAR e.p.」、3月に「スタートライン」という2枚のシングルを発表したのち、4月に満を持して1stフルアルバム「空な色」をリリースする。その後、2013年5月にインディーズレーベルより「好きで悩んでるわけじゃない」を、2014年にクラウドファンディングで資金を集め制作したアルバム「歌ってhappy!」を発表。年間100本を超えるライブを通じて着実にファンを獲得している。