ヤバイTシャツ屋さんインタビュー|ネットスラングさえもラブソングに!ヤバTらしさここに極まれり

ヤバイTシャツ屋さんが12枚目のシングル「スペインのひみつ2」をリリースした。

ヤバTは2019年にリリースした8枚目のシングル「スペインのひみつ」を携え、2020年3月に三重・志摩スペイン村にて単独公演を開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮し、やむなく同公演を中止。そこから4年の月日を経て、2024年5月に同会場にて2DAYSで行われたワンマンライブ「ヤバイTシャツ屋さん “スペインのひみつ解明 ONE-MAN SHOW” in 志摩スペイン村 ~ザ・リベンジ~」は両日満員御礼となり、“ひみつ”は解明されなかったものの、大成功となった(参照:ヤバイTシャツ屋さん、満員の志摩スペイン村ワンマン大成功!しかしスペインのひみつは解明ならず)。

「スペインのひみつ2」は志摩スペイン村公演でリリースが発表されたシングル。リミックス以外の3曲すべてがタイアップソングという、メインソングライターのこやまたくや(G, Vo)の汗と涙の結晶とも言える渾身の1枚だ。この特集では志摩スペイン村公演をメンバー3人に振り返ってもらいつつ、シングル3曲の制作秘話に迫る。また結成10周年が過ぎ、もはや中堅バンドと呼べる存在になったヤバTに、現在自分たちが置かれているバンドシーン“ワチャ系”の未来についても語ってもらった。

取材・文 / 清本千尋撮影 / 草場雄介

電車もないのにみんなを野に放とうとしてた2020年

──まずは、志摩スペイン村公演お疲れさまでした。コロナ禍で一度断念した志摩スペイン村公演を今年5月にやっと開催できました。結果的にバンドの結成10周年とスペイン村30周年という絶好のタイミングになりましたね。

こやまたくや(G, Vo) まだ余韻があるくらい、ちょっと楽しすぎましたね。僕らもそうやけど、お客さんもまだ余韻が残ってるみたいで、「次の予定をくれ」「スペイン村で早くやってほしい」「早くスペイン村に帰りたい」……そんな声がたくさん届いています。

ありぼぼ(B, Vo) 終わったあとお客さんからかけてもらう言葉が全部ポジティブで、誰も嫌な気持ちになってなさそうだったのがよかったです。ヤバTのライブで初めて志摩スペイン村に来たお客さんが、その後も普通にスペイン村へ遊びに行っているという話も聞きますし、私も遊びに行く予定を立てていて。2020年に開催できなくなったときから4年という月日を経て、当時よりも大事な公演になりました。だから終わったときは寂しかったですね。「早くまたスペイン村でライブをやりたい」ってずっと3人で騒いでいます。

──2日目のチケットは開催1週間前にして1600枚売れ残っていて、そこからこやまさんの「ラヴィット!」出演での呼びかけを起爆剤にSNSで話題となり、結果的に2日間のチケットが完売。そのことについて報道するメディアもたくさんありましたよね。「来たら絶対楽しい!」という触れ込みで人を集めましたが、先ほどありぼぼさんがおっしゃったように来た人みんなの満足度が非常に高い公演だったのかなと、終演後のSNSを見ていて思いました。

もりもりもと(Dr, Cho) SNSの反応を見て、本当にみんなが楽しんでくれたことがすごく伝わってきました。

ヤバイTシャツ屋さん

ヤバイTシャツ屋さん

──ライブの内容がよかったのはもちろん、アクセスの悪さだけがネックとも言える、志摩スペイン村への移動のスムーズさに感動する声も見られました。終演時間の調整やバスの増便など細やかな配慮が実を結びましたね。

こやま 志摩スペイン村貸し切りって前例がないんですよ。それもあって、お客さんが帰れなくなることをスタッフの方がホンマに危惧していて、警備員の人たちを用意して混雑しいひんよう駐車場から車を出せるようにしてくれたりとか、バスを増便してくれたりとか、めちゃくちゃ準備してくれはったんです。うまくいったのは志摩スペイン村と三重交通さんとの協力体制のおかげ。お客さんたちは「イベントでこんなに並ばずに帰れたことないぞ」って言ってました。

ありぼぼ 「もう家おんねんけど……夢?」みたいな感じで(笑)。

こやま そうそう。志摩スペイン村に来たことがないお客さんたちはみんなちゃんと帰れるんかなとか、終電乗れるんかなって心配してたけど、結果的には早く帰れすぎて引くという。

ありぼぼ 2020年にやろうとしたときは、夕方に開演して夜終わるみたいなイメージやったよな。

こやま 電車もないのに。

ありぼぼ 電車もないのにみんなを野に放とうとしてた。

こやま お客さんもそんなこと何も考えずにチケット買ってたからな(笑)。

ありぼぼ 4年を経てみんな冷静になったよなあ。

──毎年のように新たな音楽フェスやイベントが開催される中で、初回に起こる問題は「初開催だししょうがないな」みたいなことがあるじゃないですか。でもヤバTの志摩スペイン村公演は……。

こやま これだけスムーズな開催が初年度からできるというのはすごいですよね。でも2020年に開催していたらいろいろ問題は起きていたかも(笑)。

ありぼぼ 考える時間が4年あったからこその成功かなと思います。

──初回が満員でこれだけ好評だと、次にやるときはチケットの争奪戦が起きるかもしれませんね。

こやま 後日TwitchのAmazonMusicJPチャンネルで映像配信もしてもらったんですけど、むちゃくちゃたくさんの人が観てくれて。あれでわりと全貌をわかってもらえたはずなんで、ホンマに次はチケット取れないと思います。

ありぼぼ うちらがずっと言ってた「来たら絶対に楽しい」ということが伝わってよかったです。

──「ヤバTはフェスに出ていたら観る」くらいの温度感のお客さんの中には、「またヤバTがなんか言ってるよ」と冷めて見ていた人もいたと思うんです。ヤバTは大げさに告知しておいて、いざ蓋を開けてみたらズコー!みたいなボケをかますことが多いので(笑)。でも今回は本当に最高の内容だったということですよね。

もりもと 今回はホンマにガチでしたね。

──ライブが大成功して、燃え尽き症候群にはなりませんでしたか?

こやま 余韻はすごいですけど、燃え尽きることはなかったです。むしろ「またやるためにがんばらな」って感じ。マジで早く2回目をやりたいですね。

「解明できるかな?」って誰もツイートしてなかったで

──志摩スペイン村公演では、ニューシングル「スペインのひみつ2」の発売告知がありました。2019年にシングル「スペインのひみつ」をリリースして、2020年に志摩スペイン村公演を開催予定だったところ、コロナ禍の影響で公演は中止。そして今回志摩スペイン村公演が大成功という流れがあり、「スペインのひみつ2」をリリースするという。なぜ「2」をリリースするのか、私なりに考えたところ「MOTHER2」や「ターミネーター2」のように、2作目が名作になるみたいなことがあるからかな、と思ったんですが……。

こやま ははは(笑)。それもあります。でも単純にシングルで「2」を出すアーティストって聞いたことないじゃないですか。だから、いつかやりたかったんです。

ありぼぼ 志摩スペイン村公演には「スペインのひみつ解明 ONE-MAN SHOW」というタイトルが付いていたんですけど、全然秘密を解明できなかったんで今回こそはという願いも込めてます。2こそは……ね。

こやま 志摩スペイン村でホンマにスペインの秘密を解明できると思ってワクワクして会場に来た人もおったかもしれんよな。そこだけは申し訳なかった。

もりもと いや、おらんおらん。そんなに秘密に興味持ってもらえてないよ。

ありぼぼ 誰もツイートしてなかったで。「解明できるかな?」って。

──あと今作はヤバTには珍しく、1形態のみでのリリースですよね。

ありぼぼ なんと「くそDVD」が必ず付いてくる。

もりもと 余韻ホクホクのライブ翌日に大雨の志摩スペイン村で撮影した「くそDVD」です。当日バタバタで乗れなかったコラボアトラクションにやっと乗れて、ファーストリアクションが楽しめます。

こやま ホンマにくそかもしれん。このDVD。

もりもと 観た人に嫌われへんといいな……。

ポケベルのように「すこ。」を歴史に刻んでいきたい

──「スペインのひみつ2」1曲目の「すこ。」は「村井の恋」のエンディングテーマで、映画「ニセコイ」の主題歌「かわE」やドラマ「マイルノビッチ」の主題歌「Bluetooth Love」に続く、ラブコメ作品とのタイアップです。いよいよヤバTとラブコメの親和性の高さが証明された感がありますね。

こやま 「ラブコメと言えばヤバTでしょ」っていう。そういうことです。

──(笑)。「すこ。」は、サビの「すこすこスコティッシュフォールド」という歌詞を思いついた時点で手応えがあったのではと思うのですが、いかがですか?

こやま ホンマにそう。「すこすこスコティッシュフォールド」が出てくるまではけっこう大変やったんです。最初は「救急キュンキュン病院」から病院で広げていったんですけど、病院がテーマのサビが思いつかなくて……。「すこすこスコティッシュフォールド」というフレーズが出てきたあと、散歩しているときにトイプードルを見て「尊い尊いとうトイプードル」というフレーズがそこから広がっていきました。

──もりもとさんとありぼぼさんは「すこ。」を初めて聴いたときどんな印象を受けましたか?

もりもと 今回は特にこやまさんの頭の中にある言葉使いとセンスが光っていて、新しい着眼点に感心してしまいました。

ありぼぼ その通りだと思います。「すこ」ってネットスラングですけど、なかなかそれをラブソングにしようという発想にはならない。ヤバTやから許される言葉の使い方だと思います。若い子の中で流行ってくれたらうれしいですね。

──2021年発表の楽曲「dabscription」にも「すこ」という言葉が登場しますよね。

こやま 実はここ数年「すこ」にハマってて(笑)。「すこ」って言葉はたぶん歴史に残らないと思うんです。でも曲にすることで残ったらいいなって。「ポケベル」が歌詞に入ってる曲を今の子が聴いて「ポケベルって何?」ってなるように、そのときに流行っている言葉を歌詞に入れると、のちのちそういうことが起きる。「すこ」なんてその最上級みたいな、絶対意味がわからなくなる言葉。だからこそ歴史に刻んでいきたいですね。「すこ」を。

こやまたくや(G, Vo)

こやまたくや(G, Vo)

──サウンド面でのこだわりはありますか?

こやま 曲自体はすごくシンプルなんですけど、ちょっとかわいい要素もありつつ、ギターのチョーキングをけっこう入れたり、半音ずつ上がっていくようなコード感を取り入れたりしました。「この曲をバズらせたるぞ!」みたいな気持ちじゃなくて、自分の好みのものを詰め込めたので、めちゃめちゃ気に入ってます。家で何度も聴き返すくらいだし、SNSとかでも「むっちゃいい曲できた」と言ってるんですけど、本人がめちゃくちゃ気に入ってる曲ほどそんなに跳ねないという“アーティストあるある”があるので心配です。

もりもと 逆に「これ大丈夫?」って思いながらリリースした曲のほうが世間に広がったりしますよね。

こやま そうそう。「ハッピーウェディング前ソング」とか「かわE」なんか出すまでホンマに不安やったし。「ハッピーウェディング前ソング」は「あつまれ!パーティーピーポー」にむっちゃ似てるやんってメンバー間では言ってて。「かわE」も「ハッピーウェディング前ソング」とわりと近い感じやなって思いながらリリースしてました(笑)。でも結果どちらもむっちゃ聴かれているから、僕らが絶賛している「すこ。」はあまり聴かれないと思います。

もりもと でも聴いてほしい(笑)。

──「すこ。」のレコーディングはスムーズに進みましたか?

こやま 最初アニメ用に90秒の音源を作ったんですよ。そのあとフルを録ったんやけど、展開が気に入らなくて、あとから数秒のイントロをコピペして足して、さらに落ちサビみたいなところも編集で音数減らして落ちサビにして……レコーディング後にものすごい工事してできた曲です。

ありぼぼ なので私たちがというよりは、エンジニアさんの作業がかなり大変だったと思います。

こやま そうそう。構成を変えて納得いく感じになりましたね。食い気味で始まるラストのサビも編集してもらったし。

ありぼぼ レコード会社からは「こういうことは二度とやらないでください」って言われました。