wyseが2024年2月に結成25周年を迎えた。これを記念し、手塚プロダクションと再びコラボレーションを展開する。
2018年、手塚プロダクションとのコラボシングル「ヒカリ」を発表し、結成20周年に向けて勢いを付けたwyse(参照:wyse、20周年記念で手塚作品とコラボ)。それから6年、コロナ禍やバンドの“充電期間”などを含め、ひと筋縄ではいかない日々を過ごしながらも25周年にたどり着いた。
このたび彼らは「ブラック・ジャック」「ユニコ」からインスパイアされた両A面シングル「Voice / Drawing」を5月にリリース。これらの楽曲に込めた思いとは? そして25周年を迎えた心境は? メンバー4人に話を聞いた。
取材・文 / 秦野邦彦
25周年を想像以上のものに
──結成25周年を迎え、手塚プロダクションとのコラボレーションで「Voice」「Drawing」という素晴らしい2曲が完成しました。まずは再コラボに至った思いから聞かせてください。
TAKUMA(Vo, B) 25周年という僕たちだけではどうにもならなかったものを、ファンの方、関係者のおかげで迎えることができました。そこでまずどういう1年にしたいか、wyseとして何を届けたいかを考えたときに、やっぱり新曲で今の自分たちを提示したいというのが根底にあったんです。同時に自分たちのこれまでの活動を振り返ると、前回手塚プロダクションさんとコラボさせていただいたときに、たくさんの方に喜んでいただけたことがものすごく大きな歴史として残っていて。なので今回も手塚治虫さんのキャラクターのお力をお借りする形で、25周年をみんなの想像以上のものにできないかと思い、お願いしたという流れになります。
──「君があの日の笑顔取り戻すなら 涙枯れるその日までヒカリになる」と歌った前回のコラボ曲「ヒカリ」は、たくさんのファンを勇気付けると同時に、wyseにとっても大事な1曲になったと思います。今回は「ブラック・ジャック」と「ユニコ」をモチーフにした楽曲となっていますが、これらの作品を選ぶにあたって、皆さんの中でどんな話し合いがあったんでしょうか。
TAKUMA 僕らが選ぶというより、使わせていただけるならという気持ちを持ちつつ、メンバー、スタッフと話をしました。今の世の中の状況下、正義、悪、何が真実で偽りなのか、といった作品のメッセージと僕たちの楽曲を合わせることで、より伝えられるものがあるんじゃないかという思いもあって、「ブラック・ジャック」を使用させてもらえたらありがたいと考えていました。もう1つの「ユニコ」は、知ってる方にも知らない方にも、まず何よりそのキャラクターのかわいらしさが入ってくると思います。そこに合わさるように、表面だけではないメッセージも含め、心の深いところに語りかけてくる作品。wyseとしてのメッセージを添えることで、優しさが温もりとして残ればいいなという思いからチョイスさせていただきました。
月森(Vo) 「ヒカリ」のときも、ただ「鉄腕アトム」のテーマソングを作る、ではwyseが一緒にやる意味がないので、アトムから受け取ったメッセージをwyseとして表現することに全力を注いだんです。なので今回も「ブラック・ジャック」と「ユニコ」ではまた内容が全然違いますけど、光があれば影もある──そういった作品のテーマを僕たちが受け取ってwyseの楽曲として出せたらいいなと思いました。
HIRO(G) 結局、題材が「ブラック・ジャック」と「ユニコ」なのでそれに寄り添った形にはなるんですけれども、最終的なアウトプットとしてはwyseの楽曲なので、今まで作ってきた楽曲と比べても違和感のないものを作れたらと思っていました。
MORI(G) 「ヒカリ」をリリースしたときは自分たちが今まで溜めてきた以上のパワーを与えていただきましたし、何よりもファンのみんな、wyseに関わってくれるすべての人が心からあのプロジェクトを楽しんでくれた印象が強かった。「Voice」と「Drawing」も、25周年という僕らの大事な1年に力添えをもらいつつ、wyseの歴史の一部として生まれてきた楽曲たちなので、一番はやっぱりみんなが喜んで、楽しんでくれることが大前提かなという気持ちで制作に取り組みました。もしかしたら、これをきっかけに「ブラック・ジャック」「ユニコ」という作品を知る方もいるかもしれませんし。
何が正義で悪なのか?「ブラック・ジャック」インスパイア「Voice」
──20周年のコラボプロジェクト始動時に手塚るみ子さんと対談された際、手塚さんが「皆さんの世代だったら『ブラック・ジャック』が一番やりやすいのではないでしょうか」とおっしゃっていたことが思い出されます(参照:「ヒカリ」特集 wyse×手塚るみ子対談)。まずはその「ブラック・ジャック」からインスパイアされた「Voice」に込めた思いについて聞かせてください。
TAKUMA 「ブラック・ジャック」という素晴らしい作品とただコラボするだけでなく、やっぱりwyseとして何を提示するかの軸を持たなければいけないと思っていて。「25周年の1年を代表する曲ってどんなものだろう」と考える中で、ファンの皆さんにはwyseらしさという意味での居心地のよさを感じてもらいつつ、これまでなかった新しいものを提示する曲にしたいという思いがありました。
──「Voice」というタイトルだけあって、月森さんは自身の声をどう乗せればいいかというところもレコーディング時に気にしたのではないでしょうか。
月森 TAKUMAが歌詞を書いているので、どういうところが「ブラック・ジャック」とリンクしてるんだろうみたいな話はもちろんしながらレコーディングして。ただ、コラボというのを抜きにしても言葉として入ってくるイメージや意味が強い曲だと思うので、歌詞の持つ力がストレートに伝わるといいなと思いながら歌いました。
──「ブラック・ジャック」は、命に真摯に向き合う無免許の天才外科医と患者のやりとりの中に優しさや厳しさを内包した医学ドラマです。皆さんにとっても思い入れの深い作品ではないでしょうか。
月森 もちろん思い入れはあります。僕は今回ジャケットの制作に構成含めて携わっていまして。例えばブラック・ジャックとピノコが立ってるだけでもカッコよくはなるんですけど、「せっかく2人とコラボするんだったら、一緒に生きていたい」という思いを込めました。ただカッコつけるより、1つのものをみんなで一緒に作り上げていく。そんな物語の切り抜きができないかなという思いから生まれたジャケットです。
HIRO 「ブラック・ジャック」は医療がテーマのマンガですが、医療業界の話というより命そのものに重きを置いた話が多い印象です。命の大切さは大前提ですけれども、善悪もそこに絡んで、果たして悪は救うべきなのかなど、考えさせられる話がたくさんありました。そういう光と闇、二面性のある部分を楽曲で表現できたらいいなと思って。僕ができることはギターのアプローチしかないですけど、そういう部分をなるべく表現したつもりなので、聴いていただいた方に少しでも感じ取ってもらえたらうれしいです。
MORI 単なる勧善懲悪ではないところが印象的でした。例えば死というものがすべてバッドエンドなのかというと、そういうわけではない話もあるし、命というものは当たり前のように流れているものじゃない、という話もあって。人が生まれてくるときにはうれしくて涙するし、別れるときには悲しくて涙する。そういう1個1個のドラマが描かれていました。wyseの楽曲にもいろんな側面があって、そのうえで今回コラボさせていただくことでドラマを1つ僕らに分けていただいた気がします。コロナ禍を経てライブが少しずつ元に戻りつつある中、みんなの声の大切さがすごく身に染みてわかる今、ステージでこの楽曲がまた僕らにうれしさや喜びを運んでくれるんだろうなと感じながらギターを弾きました。
TAKUMA これは僕個人の考えですけど、ブラック・ジャックは金銭で命を選んでいるドライな人のようで実はそうではなく、人間味があるんですよね。何が真実で、正義で、悪なのか、要素が混在していて、一面だけ見たら首を傾げることも違う角度から見たらものすごく共感できる部分がある。「ブラック・ジャック」はそういうことを描いた作品だと感じるんです。人間誰しも1人で生きていけなくて、いろんなことに悩みながら自分1人で選択をしていると思いがちだけど、そうじゃないんですよね。そこに至るまでにいろんな人の言葉、出来事、思い出があって。それでも99%もうどうにもならないときに残りの1%を埋めてくれるのは誰なんだろう? それによって自分は選べるものが変わるんじゃないか? その1%は君なんだ、ということを訴えたい。それが僕のこの曲に込めたメッセージです。