これはもはや“平井大ヒットメドレー”

──さまざまな出来事があった2021年でしたが、秋からはひさびさの全国ツアー「HIRAIDAI Concert Tour 2021-22」がスタートしました。

全国各所を回る有観客ツアーは約2年ぶりですね。気心の知れた仲間と音楽を奏でるのが、ミュージシャンにとってもっとも充実した時間だと思っているので、ようやくあるべき場所に戻って来られたなという気持ちが強かったです。だからプレッシャーよりも、「また好きな音楽を奏でられる！」といううれしさのほうが勝っていました。

──2年前とはライブの環境も大きく変わったと思うのですが。

正直、僕のライブでは音楽にじっくり耳を傾けていただかなくても構わないと思っていて（笑）。家族や恋人と語らいながらでも、終演後に何を食べようか考えながらでもいい。それぞれ好きな感覚で楽しんでもらいたいし、その傍らに自分の音楽が寄り添っていればいいなという感覚が強いんです。今はオーディエンスの方はライブ中に声を出せないし、僕ら側にもいろんな制約がありますけど、どんな環境下でもお互い自由に楽しめさえすればそれでいいと思っているので、環境の変化はあまり気にならなかったですね。

──なるほど。今回のツアーテーマやセットリストでこだわった部分はありましたか？

もはや“平井大ヒットメドレー”みたいなツアーになればいいなと思って（笑）。サブスクを自分でチェックして、ストレートに再生回数の多い曲から順番にセレクトして構成を決めていきました。

──（笑）。

初めてやってみたんですけど、これがどの会場でもすごく評判がよくて。今後のツアーも自分の人気曲をチェックして臨もうと思いました。どの楽曲にも自分の思いがこもっていて、全部聴いていただきたいと思うから、披露する曲を自分で決めるのってすごく難しいんですよね。だけど人気が高い曲から順にセレクトしていけば、皆さんにも喜んでもらえるし、僕もあれこれ悩まなくていい（笑）。お互いにいいことだらけじゃないですか。

──理にかなっていると思います。そこには「今だからこそ、この曲を演奏したい」という自分のエゴはなく？

いつどこにいても、どんな心境でも耳にしていただけるような曲を目指していつも曲を作っているので、そういうエゴが影響することはないですね。特に今回は2年ぶりのツアーでもあったので、「とにかく今、皆さんが聴きたいものを届けたい」という気持ちが強かったです。

──ライブ中のMCも短めでしたし、できる限りたくさん曲を聴かせたいという平井さんの意思を感じました。

皆さんは僕の音楽を聴きたくて会場に足を運んでいると思うので、トークは最低限に留めておこうかなと（笑）。伝えたいことのほとんどは、音楽に込めればいいと思っていますし、それが僕にとってナチュラルな表現方法でもありますしね。

ライブにおけるもっとも自由な時間

──ちなみにステージ演出についてはいかがですか？

今回はあまり華美なことはせずに、とにかくシンプルに、ナチュラルにしたいなと。でもこんなご時世なので、せめてライブを観ている間は皆さんに幸せな気持ちになってもらいたくて。バックの映像や照明にはこだわりましたね。

──演奏中、平井さんと一緒にいろんな場所にトリップしたような気分になれる映像がステージに映し出されていましたね。

例えば恋人と一緒に海に行って夕陽を見るだけでも、日常から少し離れた特別な幸福感を味わうことができますよね。僕のステージを通じて、それと同じような体験をしてもらいたいなと思って。映像自体の光と会場内の照明が連動して、映像の世界観をそのまま皆さんにお届けできるよう、スタッフとディスカッションしながら作り上げていきました。

──現在はライブ中にファンの方と直接コミュニケーションを取るのは難しいと思いますが、ツアー中に演奏していてオーディエンスの反応に手応えを感じた曲はありますか？

そうですね……「Anniversary」（2021年10月）や「愛しき日々の真ん中で」（2021年11月）など、ツアー開催後に発表してきた新曲ですかね。各公演のアンコールで新曲を初パフォーマンスするたびに、皆さんに喜んでもらえた気がします。

──コロナ禍以前、平井さんはよくアンコールで観客の方々のリクエストに応えて即興で演奏されていましたよね。

そうなんです。今は皆さんが声を出せない状況だから、直接要望を聞くことはできないんですけど。SNSをよくチェックしているので、ライブの日が誕生日だという方のコメントを見つけたら、当日アンコールでバースデーソングを演奏したり、「この曲を聴きたい」みたいなコメントに応えて歌う曲を決めたりすることもあります。

──なるほど。ファンの声に応えつつ、柔軟にパフォーマンスしていらっしゃるんですね。

今回のツアーでも、アンコールで演奏する曲は皆さんの希望を踏まえつつ、そのときの気分で決めることが多いですね。ライブにおける、もっとも自由な時間かもしれない。ツアーファイナルもそうなる予定なので、皆さんにもその空気感を楽しんでもらえたらなと思います。

──そんな全国ツアーのファイナルにあたる2月23日の東京ガーデンシアター公演の模様が、WOWOWオンデマンドにて生配信されることが決定しました。

生配信ですもんね……ちゃんとパフォーマンスしなきゃというのはありますよね（笑）。普段はその場の雰囲気を楽しみつつ、最後は自分任せになっている部分もあるんですが、よりたくさんの方にライブを観ていただける特別な公演になるわけですから、一層気合いを入れねばと思います。

──半年近くにわたって行ってきたツアーの千秋楽。この間、いろいろな思いを吸収されていると思いますが、その集大成として当日はどんなステージにしたいですか？

会場にお越しの方にとっても、WOWOWでご覧いただく方にとっても、この日のライブを観たことが、その人にとって美しい思い出として残るような公演にしたいです。それに、観てくださる方の中には幸せな気分の方もいらっしゃれば、必ずしもそうでない方もいる。いろんな方のいろんな気持ちに寄り添えるような音楽を届けたいです。

──WOWOWを通してよりたくさんの方にパフォーマンスをお届けできるというのは、平井さんにとってもうれしいことですよね。

だから本当は映画「リング」の貞子みたいに、僕がにゅっと画面から出てくるみたいな、おうちで観てくださる方にとってスペシャルなことができたらいいんですけどね（笑）。

僕を前に進めてくれるもの

──また1月30日には新曲「バレンタインソング」「もしも、僕がいなくても。」が配信リリースされましたね。「もしも、僕がいなくても。」のミュージックビデオは、パラパラマンガで知られる芸人の鉄拳さんが手がけたアニメーションが楽曲の世界とリンクしていて泣けると話題です。

MVを通して鉄拳さんの手描きイラストの温かさが伝わってきて、この楽曲の放つ温度とフィットしていますし、いいコラボレーションになっていてうれしいです。

──そして5月9日には約3年ぶりのCDアルバム「Hope & Wish」をリリースされますね。

3年ぶり!? そんなに時間が経っていたとは……自分でも驚きです（笑）。前作以降は新しくアルバムを作ろうという意識は特になく、とにかく気負わずに楽曲を作り続けてきたのであっという間でしたね。

──どんな作品になりそうですか？

自分史上一番ボリュームのある作品になった結果、これまで以上にサウンドの広がりを感じていただけるものになったと思います。それに、コロナ禍になってから僕がどんなことを考えながら生活していたのかも伝わるんじゃないかなと。この2年は僕だけじゃなく、皆さんにとってもいろんなことが起こった期間だと思いますが、決してネガティブなことだけではない、ポジディブな変化もきっとあったはず。そういう部分にフォーカスして、リスナーの方が未来に対して前向きな気持ちになれる作品にできたらなって。そう思いながら、今も制作している段階です。

──アルバムリリース直後の5月14日には、千葉・稲毛海岸特設ステージにてビーチフェス「HIRAIDAI presents THE BEACH TRIP 2022」の開催も予定されています。

これは僕自身もとても楽しみにしているイベントなんです。海の近くという、自分の音楽や生活におけるバックボーン的な環境でパフォーマンスできる絶好の機会なので。僕も音楽を奏でることを純粋に楽しめると思いますし、皆さんにもぜひその空気を楽しんでもらいたいです。近所の公園へふらっとピクニックに行くような、自然体の気分でね。

──素敵なイベントになりそうですね。最後に、2022年はどんな1年になればいいと考えていますか？

これまでも明確に目標を定めて活動してきたわけではないので、この1年をどう過ごしたいかはあまり考えていないんですよね。楽曲制作に飽きたらひと休みしたくなることもあるかもしれない。でも、自分で1年を振り返ったときに、最終的にはポジティブな気分になれる年にしたいですね。1人でも多くの方がハッピーになれる音楽や時間を作ることが、何より僕を前に進めてくれるんです。