ナタリー PowerPush - WIRE12

石野卓球に訊く13年間の変遷と「WIRE TRAX」

必ずしも踊らなくてもいいんだよ

──実際に曲を作ったときの状況とか覚えてるものなんですか? 作り方とか。

聴き返すと思い出すね。最初の頃は今と全然違うシステムで作ってたから、そういうテクニカルな部分で思い出したり。でも「ああ、このときはこういう気分だったなあ」なんて思い出すことはないね(笑)。

──あははは(笑)。でもそういう聴き方する人は多いかも。当時の自分の個人的な思い出と結びつけて。

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まあねえ。でも絵画で言ったら、風景画と抽象画があって、風景画でしか感情移入ができないかっていうと、そうでもないと思うんだよ。どちらかというと(自分の作風は)抽象画に近いと思うんだけど、抽象画であっても、なんらかの印象とか情動はあると思うんだよね、その人なりの。

──「WIRE TRAX」向けにあなたが書いたセルフライナーノーツには曲名の由来とか書いてあるじゃない。でもそれ自体にあまり意味がないというか。

そうそう。

──「Slaughter & Dog」が「例のパンクバンドからです」と言っても(※SLAUGHTER & THE DOGSは1976年に結成されたイギリス・マンチェスター出身のパンクバンド)、それがどうしたっていうか、別に音楽的な共通項があるわけじゃないし……。

(笑)。そうそう。そうなんだよ。今年のは「Uncertain Ratio(アンサートゥレイシオ)」っていうタイトルなんだよ(笑)(※A CERTAIN RATIO / アサートゥンレイシオは、マンチェスターのニューウエイヴファンクバンド)。

──今年の「WIRE COMPILATION」の曲ですね。どういう曲なんですか。

「CRUISE」の辺りからさ、ポリリズムとか変拍子の曲が作ってて面白くて。今回は7拍子に13拍のシーケンスなの。それが、ある種のプログレみたいにこれ見よがしに「ほら、変わってるだろ」っていうんじゃなくて。変わってるビートなんだけど、割り切れないビートなんだけど、それをいかに気持ちよく聴かせるかっていう。

──当然踊らせることが大前提なんだよね。

うん。でも必ずしも踊らなくてもいいんだよ。みんなiPodで聴いてるわけだから。

──自分でプレイするために作った曲じゃないから、踊らせることは必須ではないと。

そうそう。

「WIRE」は数あるダンスミュージックの楽しみ方のひとつ

──「WIRE」の話に戻りますが。ブースの上から観てて、お客さんの変化は感じますか。

うん、それは感じる。最初の頃はハタチだった人がもう30歳過ぎちゃってるわけだしさ。来なくなった人もいるし、ほかのフェスもあるしクラブも増えてきてるから、遊び方は変わってきてる。昔ほどがっついてないっていうかさ。ここ数年は特に……必ずしも音楽中心じゃないお客さんが増えたかなあ。もっとお祭りとして楽しみに来る人が増えた。

──ここ数年、電気グルーヴのファンから流れてきたような人がすっかり減ったという印象はありますね。

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クラブって2~3年周期で客が入れ替わるからね。(初期に来ていた人は)歳取ってクラブにも行かなくなってるだろうし。

──その代わり新しい世代が増えてきて。

そういう子たちって、それまでのテクノの歴史とか文脈とか一切知らなかったり関係なかったりする子が多いから。そりゃ雰囲気も変わってくるよね。

──テクノ聴いてる人の平均年齢は上がってるよね。

うん。テクノってジャンルではね。でもダンスミュージック全体として考えれば、昔より裾野が広がって、幅広い人たちが聴いてるよね。音を聴く機会が増えてるから。昔だったらレコード屋に行ってアナログをあさらなきゃ聴けなかったものが、今はネットでどんどん聴けるでしょ。夜遊び好きな人もいれば、オタク的にマニアックに聴く人もいる。クラブに行く人もいれば、全く出かけない人もいる。数あるダンスミュージックの楽しみ方のひとつとしてクラブがあり「WIRE」があるって感じかな。それでいいと思うよ。時代によってお客さんも変わってくるのは当然だしね。

「That's EUROBEAT」以来の快挙じゃない?

──まあいずれにしろ14回も続いてるのは素晴らしいですよ。特に「WIRE COMPILATION」のほうは、メジャーレーベルから出てるテクノのオムニバスで、これだけ長く続いてるのって……。

本当だよ!「That's EUROBEAT」以来の快挙じゃない?(笑)(※アルファレコードから発売されていたコンピレーションCD「That's EUROBEAT」シリーズは1980年後半から90年代前半まで続いた。 エイベックスから発売されている「SUPER EUROBEAT」シリーズは、1990年以降現在まで220枚ものリリースを続けている)

──あははは(笑)。そろそろ、これとは別のソロ作品も待たれる頃ですが。

いや、それは電気作ってからだから、まだまだ先。それより最近リミックスの依頼が多くて。

──そうですね。今年に入ってから、中村一義、フィッシュマンズ、サカナクション、東京スカパラダイスオーケストラ、アンジェラ・アキ。楽曲提供やプロデュースだとPUFFYとか。確かに多いですね。受けるときの基準とかあるんですか。

1回聴いてみて、自分でなんとかできるかどうか。難しくて断る場合もある。あとは(リミックス対象のアーティストの)お客さんがどういう層かっていうのも考えるよね。アンジェラ・アキのリミックスに、ゴリゴリのDJツールみたいなの渡してもキョトンとされるだけじゃない? アンジェラ・アキのシングルのカップリングなんだから、そこまでやってもあまり意味がない。だからアンジェラ・アキのお客さんにも受け入れられる範囲内の、でもこっちのカラーも出せて、石野卓球のリミックス作品として納得できるもの、という。

──サカナクションは?

サカナクションも近いかな。あれは原曲がロックっぽくてすごくテンポも速かったから、それをもっと派手にするというよりは、クールダウンするようなリミックスがいいなと思って。

──山口一郎くんは、「卓球さんに頼むのは自分にとって特別なこと」って言ってました。

去年のライジングで頼まれたんだよね。「ああ、いいよいいよ。手抜きで良ければ」って答えたんだけど(笑)。

──あははは。

もちろん冗談だよ!

──わかってます(笑)。

で、実際に依頼が来てリミックスやって送ったら反応がなくてさ。あ、これは本当に手抜きだと思ってるんじゃないか?と思って、思わずTwitterで訊いちゃった(笑)。

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WIRE 12 公演情報 2012年8月25日(土)神奈川県 横浜アリーナ OPEN & START 18:00

出演者
DJs

BUTCH / デリック・メイ / DJ SODEYAMA / DJ TASAKA / フランク・ムラー / 田中フミヤ / ゲイリー・ベック / HELL / ジェスパー・ダールバック / KEN ISHII / REBOLLEDO / ロバート・フッド / 石野卓球

LIVE acts

A.MOCHI / 電気グルーヴ / DUSTY KID / FORMAT:B / PORTABLE / Y.Sunahara

VJs

DEVICEGIRLS / DOMMUNE VIDEO SYNDICATE

料金

前売11550円

石野卓球「WIRE TRAX 1999-2012」 / [CD2枚組] / 2012年7月4日発売 / Ki/oon Music KSCL 2071-72

収録曲
Disc 1 "from WIRE COMPILATION albums"
  1. Bitter Sweet Break Down (Edit) / WIRE99 COMPILATION (1999)
  2. Suck me Disco (Takkyu I. Rmx) (Edit) / WIRE00 COMPILATION (2000)
  3. Hyperspeed (Long ver.) / WIRE01 COMPILATION (2001)
  4. WIREWIRE / WIRE02 COMPILATION (2002)
  5. Drums And Wires / WIRE03 COMPILATION (2003)
  6. Tesco Figilico / WIRE04 COMPILATION (2004)
  7. Macaronic Train / WIRE05 COMPILATION (2005)
  8. MabuchiMortorHeadPhoneCableGuy (J20) / WIRE06 COMPILATION (2006)
  9. St.Petersburg / WIRE07 COMPILATION (2007)
  10. Slaughter & Dog (Edit) / WIRE09 COMPILATION (2009)
  11. 7th Tiger (W10 Mix) / WIRE10 COMPILATION (2010)
  12. Five Fingers / WIRE11 COMPILATION (2011)
Disc 2 "for Media ads, Unreleased and the Others"
  1. Pinhead / WIRE02 COMPILATION (2002)
  2. Spike it out / WIRE05 COMPILATION (2005) ※未発表曲
  3. WIRE05 Ad / WIRE05 (2005)
  4. Shout To Die / (2005) ※未発表曲
  5. WIRE06 Ad / WIRE06 (2006)
  6. WIRE08 Ad / WIRE08 (2008)
  7. WIRE10 Ad / Kweek / WIRE10 (2010)
  8. Carrie / WIRE10 (2010)
  9. WIRE12 Ad / WIRE12 (2012)
石野卓球(いしのたっきゅう)

石野卓球

1967年生まれのDJ / リミキサー / ミュージシャン。インディーズバンド・人生を経て、1989年にテクノユニット・電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。1990年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。ベルリンで行われるテクノ最大の野外フェス「Love Parade」では100万人を前にプレイするなど、数々の偉業を成し遂げている。また、1999年からは日本最大の屋内型レイヴパーティ「WIRE」を主催。毎回1万人以上もの集客で人気を誇る。2006年には川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成。2010年に約6年ぶりのオリジナル作品であるミニアルバム「CRUISE」を発表した。