ナタリー PowerPush - WIRE12

石野卓球に訊く13年間の変遷と「WIRE TRAX」

近年の曲はパーソナルな実験の場に変化

──音楽的な好みではどういう変化があると思いました?

うーん、時代的な変化もあるよね。BPMが遅くなってきたっていうのがあるし。あとは……そうだな、大バコ向けに曲を作ってきたけど、だんだんそうでもなくなってきたっていう。大バコでかけるときでも、必ずしも曲が大バコ向きである必要はないっていう。昔は大バコ向きと小バコ向きって、きっちり分かれてたけど、今はあまりないかな。

──大バコ向けの曲をやってるって印象もあまりなかったけど、自分の意識としてはそういうのがあったわけだ。

インタビュー写真

結構最初の頃の曲はあるかな。2001年~2003年ぐらいはすごくあった。

──横浜アリーナのメインフロアで鳴らして気持ちのいい……。

そうそう。スケール感だよね。例えば去年のやつ(「Five Fingers」)とか5拍子じゃない? 5拍子でデカいハコって、ちょっとないじゃない? 実際「WIRE」の本番でかけようと思って作ってるわけでもないからさ。

──あっ、そうなの?

うん。実際ここ数年のやつは使ってないしさ。さっき言ったように、「WIRE」に向けてっていうよりも、もうちょっとパーソナルな実験の場に変わってきてるし、「WIRE COMPILATION」の中の1曲って意識。

──じゃ「WIRE」というものから離れて、好きなことをやるという。

自分のアルバムじゃないから、悪く言えば無責任に、良く言えば気楽に作れるでしょ。自分のアルバムだとそれ1曲じゃ成り立たないから、作品集になる。1牧のアルバムの中で流れを作って、それに向けて曲を書かなきゃならないけど、そういうところから全く関係のないところで曲を作れる良さがある。

──作ってるときの心理としては、なんの縛りもなく好き放題やってると。

そうそう。わかりやすくする必要もないし。それが気が楽かな。

──なるほど。でもオレが聴いた印象としては「変わってないなこの人」って思った。

うん、そうそう。オレもそう思うよ。時代によって使ってる機材とか全然違ったりするんだけど、ヘンな統一感があるっていうか。

──変化があっても、それは時代ごとの表面の飾り付けの部分であって、本質的なものは一切変わっていない。

そのとおり!

叙情的な部分を一切入れないように心がけてる

──さっき変わってないところは「グルーヴ」って言い方をしてましたが、その「本質」ってなんでしょうか。

いくつもあるし、なかなか言葉にするのは難しいんだけど……ブロックの部品のようなものを組み合わせて作るタイプの曲が多いなっていう。あと、なるべくこの「WIRE COMPILATION」に収録する曲は、叙情的な部分を一切入れないように心がけていて。

──ほーお。それはなぜ?

必要がないからっていうのもあるし、「WIRE COMPILATION」みたいなイベントに向けてのコンピレーションに叙情的な曲を入れると、そこばかり注目されてしまうから。そのイベントの思い出とリンクしちゃうと荷が重いというかさ。だからなるべく表情のないものっていうか叙情性のないものにする。

──感情移入とか、思い入れを持ちにくいもの。

うん。例えばコードで多幸感があるようなものはなるべく避ける。これに関しては。

──へえ。そんなことまで考えてるんですか。

インタビュー写真

うん、聴いてもらえばわかると思うんだけど。

──でも元々そういうのは少ないじゃん、あなたの音楽って。

そうそう。さらに少ないんだよ(笑)。意図的に入れてないから。

──逆に考えてもよさそうだけど。こういうコンピに入れる曲だから、普段よりエモーショナルな曲にするとか。

でもそうすると密接すぎて、あからさますぎてツライっていうかさ。

──その曲とともに、その年の「WIRE」の思い出がよみがえってくるとか。

そうそう。イヤなんだよ、そういうの!(笑) そんな責任とりたくないからさ。そういうのはイヤなんだよ!

──(笑)。2度言いましたね。「責任」と思っちゃうわけだ。

責任、でもないな。気持ち悪いんだよねそういうの。

──いや、すごくわかります(笑)。そういうことを堂々とやってる人はたくさんいるけどね。

うん。でもオレはやりたくないな。なんか本心でやってる気がしないっていうかさ。「ホラ、こうすると思い出作りになるでしょ」って下心が透けてみえる気がして気持ち悪い。

──なるほど。そういうところは変わってないですね。

そう?(笑) 何ニヤニヤしてるの?(笑)

──(笑)。いや、昔から考え方が変わらないなあと思って。

やろうと思ったらできなくはないけど、恥ずかしくてできないし、ウソ臭く感じちゃう。ウソを突き通せないんだと思う。ウソ突き通せないから恥ずかしいと思うんだろうね。

──演じられないってことかな。

うん、そうそう。実際はそこまで脳天気じゃないからさ。「WIRE」に関してはオーガナイザーだからさ。フタを開けてみるまで手放しで喜べないから。それも影響してるかも。

WIRE 12 公演情報 2012年8月25日(土)神奈川県 横浜アリーナ OPEN & START 18:00

出演者
DJs

BUTCH / デリック・メイ / DJ SODEYAMA / DJ TASAKA / フランク・ムラー / 田中フミヤ / ゲイリー・ベック / HELL / ジェスパー・ダールバック / KEN ISHII / REBOLLEDO / ロバート・フッド / 石野卓球

LIVE acts

A.MOCHI / 電気グルーヴ / DUSTY KID / FORMAT:B / PORTABLE / Y.Sunahara

VJs

DEVICEGIRLS / DOMMUNE VIDEO SYNDICATE

料金

前売11550円

石野卓球「WIRE TRAX 1999-2012」 / [CD2枚組] / 2012年7月4日発売 / Ki/oon Music KSCL 2071-72

収録曲
Disc 1 "from WIRE COMPILATION albums"
  1. Bitter Sweet Break Down (Edit) / WIRE99 COMPILATION (1999)
  2. Suck me Disco (Takkyu I. Rmx) (Edit) / WIRE00 COMPILATION (2000)
  3. Hyperspeed (Long ver.) / WIRE01 COMPILATION (2001)
  4. WIREWIRE / WIRE02 COMPILATION (2002)
  5. Drums And Wires / WIRE03 COMPILATION (2003)
  6. Tesco Figilico / WIRE04 COMPILATION (2004)
  7. Macaronic Train / WIRE05 COMPILATION (2005)
  8. MabuchiMortorHeadPhoneCableGuy (J20) / WIRE06 COMPILATION (2006)
  9. St.Petersburg / WIRE07 COMPILATION (2007)
  10. Slaughter & Dog (Edit) / WIRE09 COMPILATION (2009)
  11. 7th Tiger (W10 Mix) / WIRE10 COMPILATION (2010)
  12. Five Fingers / WIRE11 COMPILATION (2011)
Disc 2 "for Media ads, Unreleased and the Others"
  1. Pinhead / WIRE02 COMPILATION (2002)
  2. Spike it out / WIRE05 COMPILATION (2005) ※未発表曲
  3. WIRE05 Ad / WIRE05 (2005)
  4. Shout To Die / (2005) ※未発表曲
  5. WIRE06 Ad / WIRE06 (2006)
  6. WIRE08 Ad / WIRE08 (2008)
  7. WIRE10 Ad / Kweek / WIRE10 (2010)
  8. Carrie / WIRE10 (2010)
  9. WIRE12 Ad / WIRE12 (2012)
石野卓球(いしのたっきゅう)

石野卓球

1967年生まれのDJ / リミキサー / ミュージシャン。インディーズバンド・人生を経て、1989年にテクノユニット・電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。1990年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。ベルリンで行われるテクノ最大の野外フェス「Love Parade」では100万人を前にプレイするなど、数々の偉業を成し遂げている。また、1999年からは日本最大の屋内型レイヴパーティ「WIRE」を主催。毎回1万人以上もの集客で人気を誇る。2006年には川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成。2010年に約6年ぶりのオリジナル作品であるミニアルバム「CRUISE」を発表した。