初めてタイトルから曲を作った
──改めて「winderlust」完成までの過程をお聞きします。「Beyond」リリース以降、「Run」(2023年9月)や「FAKE IT」(2024年2月)、「Imagination」(同年5月)といった楽曲を発表してきましたが、「winderlust」の全体像がイメージできたのはどれくらいのタイミングでしたか?
橘 今回はツアーもやりながらだったので、実は1年ぐらいかけて制作していたんですよ。しかも、自分で全部作るとなると自然と方向性って固まるんだなと、制作の途中で気付いて。作曲してトラックを作って歌詞を書いて……ってことを繰り返すのは、常に自分自身と対話しているようなもので、今自分がどういうことを考えているかが歌詞やサウンドを通して見えてくるんです。なので、7割くらいできたところでこのアルバムに対する思いみたいなものを自分が受け取った感覚があって。自分が今どういうスタイルで音楽をやっているのかを自覚できたうえで、「winderlust」というタイトルが出てきたんです。
──結果論かもしれませんが、アルバムを通して聴くと「Run」が完成した時点ですでに「winderlust」の方向性が予兆されていたように感じました。
橘 それは僕も、完成したアルバムを聴いたときに感じました。アルバムのトータルプロデュースは「20XX "We are"」以来でしたけど、あのアルバムと聴き比べると……どちらも前を向いているんですけど、「winderlust」からは迷いを一切感じないんですよね。ただ前だけを見て突き進んでいくパワーが、今作においては自分の想像以上に大きなもので、きっとそれは「Run」を制作した時点で定まっていたんでしょうね。
──実際、多くの歌詞が「ここから先も迷うことなく、この道を進んでいく」という所信表明のように感じられました。
橘 本当にそんな感じになっていると思います。
──ボーカルに関して伺いたいんですが……これはミックスによるものなのか、感覚的なものなのかわかりませんが、「Beyond」では慶太さんと涼平さんの声がいい形に混ざり合ってひとつの歌として成り立っていた印象があり、今作「winderlust」ではお二人の声がそれぞれ独立した個性として響いていると感じたんです。
橘 それは面白い意見ですね。「Beyond」は僕がミックスしていないからわからないですけど、自分がミックスする際には……それこそ自分の声のよさと涼平くんの声のよさをしっかり把握しているつもりなので、それぞれの魅力が伝わるようなバランスを心がけました。でも、そういうふうに響くのはちょっと意外でした。
──お二人の声が切り替わると、場面がパッと転換するような感覚なんですよ。あと、シンガーとしての涼平さんの成長も著しいものがあるから、そこも大いに反映されているのかなと。
千葉 そう言っていただけるのはありがたいです。今の体制になった当初はコロナ禍でもありましたし、いろんな迷いがある中でライブや制作と向き合ってきましたが、そうした活動を続けていく中で自分自身変わってきたなという感触もあったので、そういう色が徐々に作品にも濃く表れてきたのかなと思います。
──アルバムのオープニングを飾る「Zip It」には、特にその傾向が強く表れていると思います。
橘 確かに。この曲での2人の役割は明確に違いますしね。
──にしてもこの曲、アルバムの幕開けを飾るにふさわしい、強烈な1曲ですね。
橘 ですよね(笑)。ライブのオープニングにふさわしい楽曲を意識したら、イントロも必然的にカッコよくしたいなと思って。なので、作り始めた時点で「これがアルバムの1曲目だ」ってことは決まっていました。こんなことを言うとちょっと浅く聞こえちゃうかもしれませんが、僕は2023年から英語の勉強を始めまして。その中で“Zip It”に「静かにしろ」と「秘密だよ」という2つの意味があると教わって「何そのおしゃれなフレーズ!」と思い、曲に使いたくなったんです。きっかけはしょうもないかもしれないですけど(笑)、結果的にはめちゃくちゃカッコいい曲に仕上がりました。
──意外とそういう些細なきっかけから名曲が生まれるのかもしれないですよね。
橘 僕、タイトルから曲を作り始めるってことを今までしたことがなくて。サビの世界観をタイトルにすることが多かったんですけど、「Zip It」というフレーズを題材にストーリーをイチから作っていくことが意外と楽しかったです。この曲をリードナンバーにしてもよかったんじゃないかってくらい、胸を張れる仕上がりだと思います。
わかりやすく色が出た「Rookies」
──「Zip It」から「Run」へと続く冒頭の流れや、「One more time」「Rookies」というアルバム前半の構成はとにかく気持ちよくて。
橘 聴いてるだけで飛びますよね(笑)。
千葉 僕も気に入ってます。
──特に「One more time」「Rookies」「FAKE IT」は音色が今っぽいんだけど、どこか懐かしさも感じられて。それが先ほどおっしゃった“1周回った感”なのかなと。
橘 まさにそうですね。そこはかなり意識しました
──ちょっと話題がそれますが、w-inds.の楽曲は特にここ数作はどれも3分前後とコンパクトにまとまっていますよね。世の中的にそういう方向に向かっているのもありますが、慶太さん的に意識しているのでしょうか。
橘 そこはめちゃくちゃ意識してます。「One more time」が3分超えたとき、正直「しまった」と思いましたもんね(笑)。本当はどの曲も3分以内に収めたかったんですよ。というのも、最近は3分を超える曲を聴いていると、大半が「長い」と感じてしまうことが多くて。なので、自分で曲を作るときはできるだけ3分以内に収まるように心がけています。今はサブスクで曲がどんどん回っていく時代ですし、すごく細かい話をすると5分の曲と2分半の曲だったら確実に後者のほうが多く再生される。そういう時代なんだと理解したうえで制作と向き合うと、おのずと短い尺にすることを意識しますよね。
──なるほど。「Rookies」の話題に戻りますが、この曲の涼平さんのボーカルがめちゃめちゃ素敵なんですよ。
千葉 ありがとうございます。改めて言われると、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。
──この曲に限らず、今作での涼平さんボーカルの安定感や安心感は絶大なものがあると思います。
橘 いいですよね、「Rookies」の涼平くん。
──「Zip It」ではお二人の役割が異なるからこその違いが表れていましたが、この曲は1番を慶太さん、2番を涼平さんが歌うことで、同じトーンの中で色の違いを見せていますね。
橘 一番わかりやすく色が出てますよね。
千葉 僕はただただ気持ちよく歌わせてもらっただけで。そう感じてもらえるのは、素直にうれしいです。僕は「Rookies」ラストの慶太のフェイクが“歌い散らかす”感じで気に入ってます。あそこで感情がグワーッと高まるんですよね。
──「Rookies」のようなゆったりしたテンポ感の楽曲を、説得力を持ってしっかり届けられるところにも今の自信が伝わりますし、もっと言えば20数年の活動で蓄積してきた経験に裏打ちされたものなんだなと実感しました。
橘 これまでのw-inds.らしさもしっかり感じてもらえると思います。どんな音楽をやっても違和感なく届けられるのが今のw-inds.のよさだし、「Nostalgia」というツアーを経験したからこそより自然に届けることができた。それが顕著に表れているのが「Rookies」かもしれません。
品よく攻めてるw-inds.を届けたい
──アルバム後半では「Who's the Liar」で再び“攻め”の体勢に入ります。
橘 急にイケイケになりますよね(笑)。
──アナログ盤でいったらB面の幕開けに当たるのが「Who's the Liar」です。「Zip It」同様、各サイドのオープニングはアグレッシブですね。
橘 確かに。「Who's the Liar」もめちゃくちゃ好きな曲です。ミックスとかマスタリングの話になっちゃうんですけど、それまで自分でやってきた中で納得のいったマスタリングって1曲もなくて。結局ミックスとかアレンジの時点で、マスタリングの限界って決まってしまうんです。それもあって、自分の中では世界的に有名な楽曲とか海外の著名なエンジニアが参加している楽曲のレベルにまったく届いていないという感覚が続いていた。でも、「Who's the Liar」に関してはそこと肩を並べられるものができた自信があります。この10年ぐらい必死に勉強してきたという自負が人一倍あるから、「やっと同じような音が出せた」という手応えが得られた瞬間に、涼平くんにLINEしたんです。
千葉 確かに、この曲を完成させたときの慶太はほかと比べてちょっと違いましたし、文字だけでその感情がしっかり伝わりました(笑)。今の日本に対する社会風刺じゃないですけど、メッセージ的にもけっこう攻めていて。喝を入れるっていうんですかね。まあ歌詞を書いたのは慶太で、僕は歌っているだけだから……。
橘 責任逃れ?(笑)
千葉 僕が言っているわけではないので(笑)。でも、こういう楽曲が慶太から生まれてくること自体がすごいことだと思うんです。長く続けてきたからこそ守りに入りたくはないし、常にみんなに「w-inds.、攻めてるね」と思ってもらえるような楽曲を届けたい。だから、ここまで攻めた曲を作れたことが素直にうれしかったです。
──「Who's the Liar」のような風刺的で攻めた表現をするうえで、慶太さん的にはw-inds.のパブリックイメージからどこまではみ出すか、という線引きを意識するものですか?
橘 かなり意識していますよ。でも、過去にも「w-inds.らしくない」と言われるような作品はいくつかあって、その都度反省はしているんですけど、僕の中ではw-inds.における「品」の部分だけは大切にしていて。そこを崩してまで攻めたくはないので、「Who's the Liar」に関しては今僕ができるギリギリのラインを狙えたのかなと思っています。この曲、ミュージックビデオでもそういうギリギリの表現ができたという手応えがあるんです。たぶん20数年活動してきた中でも、今までにない新しい攻めができたと思いますし、w-inds.が持つ品のよさを損なわずにダークな部分を表現できたのではと。
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今の自分がどういう姿かを見てほしい