w-inds.「winderlust」インタビュー|橘慶太プロデュースの新作で得た絶対的な自信

w-inds.の16thアルバム「winderlust」がリリースされた。

「winderlust」はメンバーの橘慶太がトータルプロデュースを手がけ、作詞作曲からマスタリングまでをすべて1人で担ったアルバム。最新のトレンドを押さえつつもどこか懐かしさを覚えるサウンドの全10曲で構成されている。その仕上がりには、2000年の結成から音楽的な進化を止めない彼らの姿勢と、2024年から2025年にかけて行われた、初期曲だけを届ける全国ツアー「Nostalgia」での経験が深く関係している。

音楽ナタリーではw-inds.の橘と千葉涼平にインタビュー。現在の2人体制になって5年を迎える彼らに、新作の手応えをじっくりと聞いた。

取材・文 / 西廣智一撮影 / YOSHIHITO KOBA

初期曲に新しさを見出した「Nostalgia」ツアー

──w-inds.は昨年から今年にかけて、初期の楽曲でセットリストを構成した全国ツアー「w-inds. LIVE TOUR 2024 "Nostalgia"」を行いました。周年タイミングなどの節目に実施しても不思議じゃない企画だと思いますが、なぜこのタイミングで?

橘慶太 そもそも「Nostalgia」は2020年、20周年のときにやりたかったんですけど、コロナ禍になってしまって。その後、今の2人体制になったこともあって、昔の楽曲をやるよりも今の自分たちのスタイルを確立して、2人でのw-inds.をみんなに知ってもらわなきゃいけなかった。そういう意味でもタイミングを逃してしまったんです。結果、僕らは「20XX "We are"」(2021年11月発表)と「Beyond」(2023年3月発表)という2枚のアルバムをリリースして、w-inds.を作り直していった。デビューしてからの20数年でみんなが知ってくれているヒット曲にも恵まれ、非常にありがたい思いがある一方で、音楽を作る側の人間としてはヒット曲を更新し続けなきゃだめだという気持ちがあって。2023年夏の「Beyond」を引っさげたツアーでは、昔の楽曲をまったくやらずにライブを構成したんですが、サウンド面でもダンスの面でも新しい表現を見せることができたんです。

w-inds.

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──ある種、大きなチャレンジだったわけですよね。

 はい。やっぱり今のw-inds.がどういう音楽を表現していて、それをどのぐらいの人に楽しんでもらえるのか。そこが音楽を作る身としては大切であり、過去の作品だけに頼りたくなかった。だから、「Beyond」のツアーがファンの皆さんに受け入れてもらえたことが大きな自信になって、初めて「もう自分たちは何をやっても大丈夫なんだ」と実感できたんです。そのタイミングで、コロナ禍前に考えていた「Nostalgia」というライブを改めてやりたいと思って。確かに25周年まで待ってもよかったんですけど、今やったほうが面白いんじゃないかと。僕らはその感覚を常に大切にしているので、あとに取っておくのはやめました。25周年は25周年でやりたいことが出てくるだろうし、とにかく今のスタイルのw-inds.を楽しんでもらいたかったんです。

──常に音楽的に進化し続けている中、急に初期の楽曲だけでライブを行うとなると、いろんな気付きもあったのかなと思います。

 変な話、20数年前の楽曲が今は1周回って新しく感じられるタイミングだな、とすごく感じました。昨今、NewJeans(NJZ)がニュージャックスウィングをやっていたり、そういうリバイバルの波も来ていましたし。きっと10周年のときだったらデビュー当時の曲は古く感じちゃって、できなかったと思います。なので、僕は「Nostalgia」のステージを作っているとき、古い楽曲をやっているという感覚が本当にゼロで。ダンスも最近ではまったく踊らないようなスタイルが多くて新鮮だったし、懐かしさと新しさが混じり合ったツアーになったんじゃないかなと思います。

──なるほど。

 もっと細かい話をすると、低音のあり方が2000年代と2010年代と2020年代の今とじゃ全然違うじゃないですか。2010年代は低音重視の時代だったけど、その頃に今のような低音の軽さをアピールすると物足りないと感じたかもしれないし。今のような軽さは2000年代と近いものがあるから、今20数年前の楽曲を再演することは音楽的に見ても理に適っているんじゃないかな。

「w-inds. LIVE TOUR 2024-2025 "Nostalgia" The Final」の模様。(Photo by Kippei Ogata)

「w-inds. LIVE TOUR 2024-2025 "Nostalgia" The Final」の模様。(Photo by Kippei Ogata)

──納得です。3人でパフォーマンスしていた楽曲を、慶太さんと涼平さんの2人で新たに表現するとなると、個々の役割含めいろんな変化が生じたかと思います。

 涼平くんが歌うパートが増えたりしてね。

千葉涼平 そうだね。だから、ほぼ新曲みたいな感覚だったし(笑)、いろいろ背負うものが多い中、緊張感を持ちながらやらせていただきました。それは慶太も一緒だよね。今まで自然と出ていたものを逆にセーブして、踊りに振り切るとか。

 新たにパート分けしたものの、以前ずっと歌っていたところを癖で歌っちゃいそうになるという。僕はリハーサルのとき、涼平くんが歌うか歌わないかを見てパート分けを判断していました。

千葉 マジで?(笑)

 いや本当に(笑)。

千葉 でも、楽しかったですよ。改めていい楽曲が多いなと気付かされたし、20数年経つと曲の捉え方も当時とは変わったりしているので、そういう意味でも歌いながらちょっとした気持ちの変化がありました。長く活動しているとこういうこともあるんだなと、面白かったですね。

千葉涼平

千葉涼平

──そういった経験は、ニューアルバム「winderlust」にも反映されているのでしょうか。

 そうですね。確実に反映されているので、やってよかったなと思います。

橘慶太の音楽的レベルが向上

──アルバムを聴いて感じたのは、今の時代にアジャストしたテイストであると同時に、1980年代や90年代のR&Bやダンスミュージックの香りも感じられるし、先ほどおっしゃったようなw-inds.がデビューした2000年代当時のポップミュージックやダンスミュージック的な側面も伝わるということ。世代を選ばず、全方位に向けたキャッチーな作品だなと思いました。

 ありがとうございます。まさに狙い通りです。自分で言うのもあれですけど、我ながらめちゃくちゃいい作品に仕上がったなと感じています。もちろん、これまでのどの作品も好きですが、近年の作品には自分の癖みたいなものがちりばめられていて、ある意味自分の好みを追求したものになっていた。でも今回はちょっと方向性を変えていて、個々の楽曲のよさを生かすための音のバランスとかアレンジを追求したところがあるので、今までよりも1曲1曲の深みが増しているんじゃないかな。そこをかなり意識したので、いろんな人に響くし、楽しみ方も豊富でまったく飽きないと思います。そういう意味でも、自分の中ではいい出来だなと自負しています。

橘慶太

橘慶太

──前作「Beyond」は慶太さんプロデュース楽曲もありつつ、過去にw-inds.に関わった作家さんの楽曲も多数含まれていました。「winderlust」では再び慶太さんの全曲プロデュースという形に戻ったことで、より1曲1曲にこだわることができた側面もあったのでは?

 はい。自分でも言うのも本当にお恥ずかしい話ですけど、この数年で自分の音楽的レベルが一段と上がりまして。以前は作っても作っても「まだ足りない」と感じることが多かったんですけど、今回は完成させた現時点においてもめちゃくちゃ満足していますし、ようやく自分が心から納得できる作品を仕上げられるようになりました。

──涼平さんは一番近くで慶太さんのことを見ているわけですが、そういう成長や変化を感じますか?

千葉 僕が言うのはなんだかおこがましいんですけど……慶太は幅広いタイプの楽曲をたくさん、しかもストイックに作り続けているわけで。その姿を目の当たりにするたびに感動しますし、しかも誰にも頼ることなくすべて1人で完結させているわけですから、本当にすごいことですよ。

 そう、今回はマスタリングまで全部自分でやったんです。だからこそ、本気で納得がいくものになりましたし、自信にもつながって、より音楽が好きになりました。