VIDEOTAPEMUSIC×Chappo|カクバリズムとビルボードライブのコラボ企画始動

カクバリズムとビルボードライブによるコラボレーション企画の第1回が、10月24日に神奈川・ビルボードライブ横浜で開催される。

記念すべき初回公演に登場するのは、レーベルメイトであり、ともにインストゥルメンタルを軸に音楽シーンの中で特異な存在感を放つVIDEOTAPEMUSICとChappo。お互いの音楽やクリエイティブにシンパシーを感じているという2組だが、ツーマンライブを行うのは意外もこれが初となる。

音楽ナタリーでは本公演の開催を記念して、VIDEOTAPEMUSICとChappoにインタビュー。2組の出会いから創作やライブ表現におけるアティテュード、公演への意気込みまでじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 松永良平撮影 / 三田村亮

公演情報

VIDEOTAPEMUSIC × シャッポ
KAKUBARHYTHM presents The Billboard Live Sessions

2025年10月24日(金)神奈川県 ビルボードライブ横浜
[1st]OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd]OPEN 20:00 / START 21:00
<出演者>
VIDEOTAPEMUSIC / Chappo

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「田園」の人

──VIDEOTAPEMUSICとChappoはツーマンはもちろん、フェスに一緒に出るような機会もこれまでなかったですよね? 初対面というと、いつ?

VIDEOTAPEMUSIC 2023年のceroのライブ(2023年7月12日、Zepp Shinjuku)の打ち上げですかね? その時点では、彼らが音楽をやってることも知らなかったけど、「Chappoの2人です」と紹介されたと思う。

福原音(Chappo / G, etc.) そのときは、まだ僕たち名前がなかったと思います。

VIDEO そうだった! 「今度カクバリズムからデビューすることになっている悠太くんと音くんです」みたいな感じだった。

VIDEOTAPEMUSICとChappo。

VIDEOTAPEMUSICとChappo。

──Chappoの2人はVIDEOTAPEMUSICの音楽はもちろん知っていた?

福原 はい。でも、実はVIDEOさんの音楽を知る前に、歌う場面を見てるんです。片想いの日本橋でのライブで。

──ああ! 2019年の暮れの?(2019年12月30日、CITAN)

福原 あのとき初めてカクバリズムというレーベルを認識したくらい僕は何も知らなくて。片想いのゲストで出てきたVIDEOさんが「田園」(玉置浩二)を歌っているのを見たんです。療養中だった(片岡)シンさんの代わりにいろんな人が歌うという設定だったかな。

VIDEO 初めてがあれじゃ何者か全然わからないよね(笑)。僕は「田園」が本当に好きなんです。中学のサッカー部の合宿に行くときも、移動中のバスでずっと「田園」を聴いて自分を鼓舞してたくらい(笑)。その「田園」を片想いがカバーしてるのが悔しかったし、僕が歌いたかった。そんなことをシラフさん(MC.sirafu)やオラリーに言ってたから「じゃ、歌っちゃいなよ」となって、あの日歌わされたんだと思います。

──VIDEOTAPEMUSICの音楽はどんなふうに聴いてました?

VIDEO そもそも「田園」以外の人としてどう認識したのか気になる(笑)。

細野悠太(Chappo / B, etc.) MVで立川の映像を使ってる「Sultry Night Slow」が、カクバリズムと関わりを持つ前からすごく好きで、めちゃくちゃ聴いてる時期がありました。

福原 僕は「田園」を歌う姿を目撃したあと、4年後に新宿の打ち上げで会うまでは、VIDEOさんと「田園」の人は別人物だと思ってたんです。アルバム「世界各国の夜」(2015年)が好きで、中でも「Speak Low」がお気に入りでロングインタビューもちゃんと読んでいたのに(笑)。僕は10代の頃は1940年代の音楽が好きで、20代になってからようやく現代の音楽を聴き始めたんです。そのときに現代は「エキゾ」というムードが流行っていて共有されているというのはわかったんですけど、誤解を恐れずに言うと大半の人がやるエキゾの受容の仕方には納得がいってなかった。だけど、VIDEOさんの音楽はすっと自分の中に入ってきたんです。「こいつ、すげえな」と若気の至りで思ってました(笑)。

VIDEO それはどうして?

福原 エキゾの持ち込み方、説得力の出し方が違いました。自分でも音楽をやろうと思い始めた頃だったので、学ぶところが大きかった。普通にやったら自分の音楽も(過去の音楽や文化の)ニセモノになっちゃうかもしれない。じゃあどういうやり方があるのか?と考えるうえで、VIDEOさんはすごく参考になりました。

VIDEO うれしい。僕もエキゾチックなものとの距離の取り方は課題でしたね。今振り返ると、浅はかだったなと思う部分もかつてはあったし、やりながら試行錯誤と反省を繰り返していた。なので、そういうふうに言ってもらえて光栄です。

Chappoは追いかけて聴き続けたい存在

──VIDEOくんから見たカクバリズムのニューカマー、Chappoはどういう印象でした?

VIDEO 最初に聴いたのはデビューシングル「ふきだし」(2023年)でした。そのあと晴れ豆(晴れたら空に豆まいて)でライブを観たり、徐々にどういう人たちなのか知っていった感じです。ジャンルとの距離の取り方も絶妙で、好きなものそのままじゃない。僕にはもうわからないくらいいろんな音楽が混ざっていて、すぐには理解させてくれない感じがあって、この先も追いかけて聴き続けたい人たちだなと思ってました。だから動向は気にしてましたね。あと、実は出会って間もないタイミングで舞台の劇伴音楽をChappoに頼んだことがあって。

──そんな話があったんですか。

VIDEO テニスコートという演劇ユニットをやっている神谷圭介さんが、「画餅󠄀(えもち)」というソロプロジェクトのコント公演をやっていて。前に一度、僕が劇伴を任されたことがあったんです。その流れで次の公演も頼まれたんですけど、当時めちゃくちゃ忙しくて誰かに手伝ってもらうか、丸投げするしかない感じで。そんなときに、ちょうど「ふきだし」を聴いて、これなら裏方もできそうだと思って僕から2人にお願いしたんです。

福原 話をいただいたときはびっくりしました。

VIDEO それ以前から音くんが劇伴に興味あるような話を聞いてたし、神谷さんのコントとも相性がよさそうだと感じたんです。コントの劇伴って、こっちが想像する音数の半分とか3分の1くらいでいいという実感があって、そういう話を音くんともしたんですよね。

VIDEOTAPEMUSIC

VIDEOTAPEMUSIC

福原 大役だし、VIDEOさんの代役って大丈夫?と思いましたし、すごい修行でした(笑)。ちょうど悠太くんが動けない時期で、僕1人でやったんです。結局、あのときは10曲くらい作って、1曲はアルバムのインタールードに流用しました。VIDEOさんには音数の実感や、納期の対応について細かく教えてもらって、すごく助かりました。

──Chappoの音楽にも映像を意識して曲作りをするようなところはある?

細野 「めし」(アルバム「a one and a two」収録)とか。

福原 僕が曲を作るとき、好きな映画を無音にしてそこに音楽を付ける、みたいなやり方をすることがあるんです。映像なしで作るときもわりとイメージはしてます。「めし」や「御法度」みたいに映画からタイトルを持ってきがち。

VIDEO 2人でそういうイメージは共有する?

福原 一緒に映画を観に行ったりはしますね。

細野 前提の共有みたいなものはあるかもしれない。

福原 このベースラインをどうしようか?という話になったときに、僕が映像を見せたりはします。「こういう映画のこういうシーンがあってさ」と口で説明したり。

細野 僕は「あー」みたいな感じ(笑)。

福原 悠太くんは一緒に映画観に行っても、わりと途中で寝ちゃうことがあるから。

細野 そんなことないよ(笑)。

Chappo

Chappo

映画に現代的解釈でアンサーを

──映像へのアプローチという話は面白いですよね。

VIDEO 映画と音楽の関係でいうと、Chappoが「めし」でやったアプローチには、さすがと思いました。たくさん映画を観てる音くんならでは。僕も実際、映画を題材に曲作りをしますけど、あの解釈というか、実際の映画とは違う別エンディングにはすごくびっくりしました。自分なりの現代的解釈で映画にアンサーを返したわけじゃないですか。

──小説家・柚木麻子さんに依頼して書き下ろしてもらった曲中の語りのことですよね。

VIDEO 「こういうやり方で過去の映画にアプローチできるんだ」と思ったんです。

福原 「めし」はもともと映画の「めし」(1951年公開、成瀬巳喜男監督作品)を観て作った曲だったんです。語りは料理のレシピとかでも成立するなと思ってたんですけど、柚木さんから林芙美子の原作小説の話とかを聞いて、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019年公開、クエンティン・タランティーノ監督作品)みたいな物語の逆転を、この曲の中でもできるんじゃないかと思ったんです。

VIDEO 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」的アプローチ、それはいいですね!

福原 「めし」を通して僕ら男性2人の、生活のスタンスみたいなものが言えたらいいなという希望も柚木さんに話して、いろいろ膨らませて実現した感じです。VIDEOさんにはアルバムが完成して会った直後に「めし」のことは褒めてもらいました。

VIDEOTAPEMUSICに感じる、カサヴェテス作品との親和性

──映画の別のエンディングを考えることが曲になるというのは、すごく面白いですよね。

福原 昨日、たまたまジョン・カサヴェテス監督の話を知人としていたら、自然とVIDEOさんの話になったんですよ。他人のホームビデオを使って曲にする手法って、使いようによってはあざとくなったりもするじゃないですか。

──最近、「湖底」という名義でVIDEOくんがやっている、他人が撮っていた家庭用ホームビデオを再構成して作る曲が、まさにそういう世界観ですよね。

VIDEO 他人の映像を自分の物語を作る素材にしてしまうような暴力性については、ずっとギリギリのラインを模索しながらやってますね。

VIDEOTAPEMUSICとChappo。

VIDEOTAPEMUSICとChappo。

福原 カサヴェテスの映画って物語の中で急にすごくリアリティのあるシーンが出てきたり、すごく変な具体例を見せられてるような部分もあるんですけど、彼はきっと映画や表現に精通しているうえで直感的かつ即興的に物語を組んでいってる。だから、わざと仕組んだようなあざとさがなく、ああいうシーンを表現として出せるんだろうなと話してて。僕はそれを音楽でやれてる人はVIDEOさんなんじゃないかと思ったんです。

VIDEO そこまでカサヴェテスを強く意識してはこなかったけど、そう言われるとそのあざとさのないリアリティの立ち上げ方は興味深いかも。今の話に通じるかわからないけど、僕は人生において、こうなりたいからこうするみたいな目標をあんまり立ててこなかったんですよ。それは音楽の作り方も同じだなと自分を振り返って思いました。曲についても、こんな曲を作りたいからこういう素材が欲しい、とかではなく、そのとき自分のもとに転がり込んできたビデオに対して自分がどう反応できるか、その瞬間反応だけでやってるんだなと。フレームの中に自分の理想のイメージを作り込むよりも、すでに目の前にあるものをどうフレーミングして提示するかに興味があるのかな。