Lotus Juice×Azumi Takahashiインタビュー|「ペルソナ3 リロード」サウンドの裏側にあった、18年前の自分を超える戦い

2024年2月にPlayStation 5 / PlayStation 4 / Xbox Series X|S / Xbox One / Windows / Steam向けにリリースされ、大きな話題を呼んだアトラスのRPG「ペルソナ3 リロード」が、新たにNintendo Switch 2用ソフトとして10月23日に発売される。

「ペルソナ3 リロード」といえば、その戦闘曲の1つである「It's Going Down Now」が世界的にヒットし、今年5月に音楽アワード「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」で「Top Global Hit From Japan」にノミネートされたことで音楽ファンからも知られているタイトルだ。しかしそのような結果は、作り手にとってもまったくの予想外だったという。なぜゲーム内の1曲が、YOASOBI、藤井風、XGといったアーティストと肩を並べるほど世界で聴かれるようになったのか。

この記事では「It's Going Down Now」をはじめとする「ペルソナ3 リロード」の多くの楽曲を担当した、Lotus JuiceとAzumi Takahashi(高橋あず美)の2人にインタビューを実施。「It's Going Down Now」の話題はもちろん、Lotus Juiceがオリジナルの「ペルソナ3」に参加した当時のエピソードや、彼の熱願により18年の時を経て書き直されたラストバトル曲の歌詞、そして音楽を通じて生まれた世界中のファンとのつながりなどについて話を聞き、「ペルソナ3 リロード」のサウンドの核心に迫った。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 曽我美芽

「ペルソナ3 リロード」

港区の人工島ポートアイランドにある月光館学園高等部に編入した主人公の少年は、怪物の襲撃をきっかけに「ペルソナ」という心の力に目覚める。

彼は特別課外活動部(S.E.E.S.)に加入し、午前零時にだけ訪れる通常の人間には感知できない時間「影時間」に出現する、謎の怪物・シャドウを討伐するため、仲間とともに戦い続ける。

果たして彼を待ち受ける運命とは……。


ペルソナシリーズの中でも高い評価を受ける2006年発売の青春×RPG「ペルソナ3」のフルリメイク版。ナンバリング最新タイトル「ペルソナ5」のゲームデザインを継承しつつ、ビジュアル、ユーザーインターフェース、バトル、日常パートのすべてが現代的に再構築され、2024年2月にPlayStation 5 / PlayStation 4 / Xbox Series X|S / Xbox One / Windows / Steam向けにリリースされると、原作ファンも新規プレイヤーも楽しめる作品として話題になった。

そして新たに、Nintendo Switch 2版が10月23日に発売される。

キャプション

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パッケージ通常版:税込7678円

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デジタルデラックスエディション:税込10406円

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※DL版「P3R」にアートブックとサントラのデジタルアプリを付属した豪華版。


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「MAJ」ノミネートは冗談かと思った

──「東京ゲームショウ2025」のスペシャルライブ、おつかれさまでした(参照:Lotus Juiceと高橋あず美「ペルソナ3 リロード」曲の連発で「東京ゲームショウ」を盛り上げる)。「ペルソナ」シリーズはたびたびライブが開催されるタイトルではありますが、お二人はゲームファンの前でライブをする機会をどのように捉えていますか?

Lotus Juice 僕の場合はアトラスさんから依頼があって、作詞をして、レコーディングをするのが基本的な職務なので、こうやってゲームがリリースされてから皆さんの反応を直接見られる機会があるのはご褒美ですね。「東京ゲームショウ」でもライブをしながらみんなの表情を見ていましたけど、しかめっ面の人なんて1人もいないし、ペルソナファンはみんな温かい人ばかりなので。

高橋あず美 そもそもゲーム音楽にはボーカルが入っていないBGM的なものも多いわけですから、こんなにシンガーがフィーチャーされるなんて思ってなくて。ゲーム音楽をライブでシンガー付きで披露するというのはすごく新鮮です。私はパフォーマーなのでいろいろなステージに立ちますが、ゲーム音楽のライブは、みんなすごく幸せそうなんですよ。「今、自分のゲームをプレイしたときのことを想像しているのかな」と思いを巡らせながら歌わせてもらっています。

左からLotus Juice、高橋あず美。

左からLotus Juice、高橋あず美。

──すでに「P3R」のゲーム自体は昨年リリースされたものですが、今年5月に行われた音楽アワード「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」の「Top Global Hit From Japan」に、「P3R」の戦闘曲「It's Going Down Now」がノミネートされて大きな話題を呼びました(参照:「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」主要部門ノミネート作品を柴那典や松島功が解説、発表会レポート)。横並びのノミネートがYOASOBIに藤井風ですから、ゲーム音楽としてはものすごい快挙だと思います。

Lotus 最初に聞いたときは「なんの冗談だろうな」と思いました(笑)。以前からサブスクでの再生数がものすごく伸びていると聞いて、不思議に感じていたんですよ。その大元がTikTokと聞いてまた驚いて。どうやらサビに入るところの「Disturbing the peace」、日本語で言うと「平和を乱す」という歌詞が動画の展開にちょうどいいみたいで、実写だったりアニメの映像だったり、いろんな動画に「It's Going Down Now」を付けて投稿してくれた結果、「ペルソナ」のことを知らないユーザーにもこの曲が広まって、アメリカ、カナダといった北米だけじゃなくてブラジル、あと南アフリカといった地域でもよく聴かれているみたいです。

高橋 主題歌の「Full Moon Full Life」の歌唱にも参加させていただいていますが、どれかが流行るとしたらやっぱり主題歌なのかなって思っていました。まさかバトル中で流れる1曲がここまで皆さんに広く聴かれるようになると思っていなくてびっくりしています。

──「It's Going Down Now」の制作時のことも聞かせていただけますか?

Lotus 「P3R」ではいろいろな曲に携わっていますが、「It's Going Down Now」は最後のほうに書いた曲ですね。制作順で言うと「Full Moon Full Life」は主題歌なのでゲーム全体を総括した内容にしなくてはいけなくて。次に「Color Your Night」。この曲ではサビの歌詞を別の方が書いているので、それを受け取りながらいろいろ考えていく中でけっこうな難産になった記憶があります。「It's Going Down Now」は最初にバーッと歌詞を書いて、次の日に少し読み直し、3日目にちょっと録音して。そのときにいつもなら気になったところを直すのですが、思いのほか最初に作ったものの出来がよく、ほとんど手を加えずに本番の収録まで進んだ楽曲です。そんなふうに自然に生まれた曲がここまで広まって、改めて世の中の面白さや予想外の反応の魅力を感じました。

高橋 このレコーディングをしたのがおそらく4、5年前なのでおぼろげな記憶なんですが、私は今回の「P3R」が「ペルソナ」の音楽に携わる初めての機会だったので、すごく緊張しながら現場に向かったのを覚えています。すごく素敵な曲ばかりだな、と思いながらレコーディングのときはどの曲がどういうシチュエーションで流れるのか、頭の中ではそこまで具体的に思い描けていないんですよ。なので去年ゲームがリリースされて自分でプレイしながら、「あ、この曲歌ったの覚えてる!」と思いながら口ずさんでいます(笑)。

──「It's Going Down Now」のミュージックビデオがつい先日公開されました。ゲーム音楽の実写MVが制作されること自体が珍しいですし、ゲームのリリースから1年以上経ってからMVが公開されるというのもなかなかないことですよね。

Lotus これは明確に「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」がきっかけですね。アワードのノミネート作品として紹介される中で、唯一「It's Going Down Now」だけMVがなくて静止画で紹介されていたんですよ。「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」は今年初めて開催されたアワードだったので、最初はその規模感とか、どれくらい注目されるものかわかっていなかったんですけど、アワードの開催日が近付くにつれて「せっかくだからこの曲もMVを作ってみようか」という話にアトラスさんの中でなったみたいで。それで「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」の授賞式が行われた翌日、都内に戻ってきてすぐ撮った記憶があります(笑)。

高橋 撮影は基本的にグリーンバックで行われていたので、完成したMVを観させていただいて感動しました。ちゃんと「ペルソナ」らしさもある、素敵な映像に仕上げていただけて光栄です。

Lotusさんは心の安定剤

──高橋さんがゲーム音楽のボーカルを務めるのは今回が初めてですよね。「ペルソナ」の制作陣からオファーを受けて、どう思いましたか?

高橋 驚きました。私のゲーム知識が中学生くらいで止まっていて、ある意味まっさらな状態で「P3R」の制作に参加させていただいたので、恐れ多いともいいますか……。でもアイギス役の坂本真綾さんのライブのコーラスをやらせていただいていたり、「ペルソナ5」でボーカルを担当したLyn(稲泉りん)さんとも10年以上の交流があるので、近いところにあるタイトルではあったんですよ。

高橋あず美

高橋あず美

Lotus 「P3R」のお仕事が決まる前から高橋さんのことは個人的に知っていました。高橋さんがニューヨークの地下鉄で歌っている動画を観たことがあって「なんてすごい歌手が日本にいるんだろう」と思っていたので、僕にはなんの権限もないけど「絶対高橋さんがいいと思うよ」って、プッシュしていたんです。

高橋 ありがとうございます。ホント、ゲームに関しては小さい頃の知識で止まっているので「P3R」のストーリーに触れてみて、こんなに深い物語なんだと驚きました。すごく考えさせられるというか。ゲームをプレイするのは得意じゃないんですけど、私もプレイさせてもらって、すごく時間はかかったけど大人がやっても面白い、すごい作品だと感じています。

──普段のレコーディングとの違いは感じましたか?

高橋 「ペルソナ」シリーズはボーカル入りの楽曲が多いとはいえ、やっぱりゲームの中で流れる曲だから、いつもとは違う歌い方が求められるというか。歌が前に出すぎないように、歌い上げすぎないようにする、というところはかなり意識しました。

Lotus 僕もディレクションで参加させてもらいましたが、高橋さんのボーカルはどれもいいテイクなので選ぶのが大変でした(笑)。高橋さんは声の出し方や響き方、マイクを通したときにどうなるかなどナチュラルに把握できている方だから、「こうやってみて」と要望を出すとすぐ反映してくれるし、ちょっと繊細な要望にもすぐ応えてくれる。とにかくいろいろなパターンを歌ってもらい、コンポーザーの喜多條(敦志)さんと「Aのテイクを取ってもいいけど、Eのテイクも捨て難いですよね」といった話し合いをして、ずっと悩んでいました。ぜいたくな、素晴らしい時間でした。

高橋 あとはリメイクなのでオリジナルのボーカル(川村ゆみ)のことも、私なりに意識しました。オリジナルのタイトルのファンもいらっしゃるわけですから、その要素を完全になくしてはいけない。そうは言ってもただのモノマネのようになってもいけないので、私の要素もそこに混ぜる必要はある。自分なりにですけど、考えながら歌わせてもらいました。レコーディングではオリジナルから参加されているLotusさんが私の心の安定剤になってくださいました。

Lotus レコーディングに限らず、例えばライブのときにもチームの距離感ってお客さんに伝わってしまうものなんですよ。「ペルソナ」のライブはダンサーさんが入れ替わったり、ボーカルの方が新たにジョインしてくれたり、定期的に人の入れ替わりがある。例えばライブ中のちょっとしたアイコンタクトでもファンの方は見てくれているから、新しく入ってくる人がいたらできるだけ入りやすいようにするのが僕の役割かなと思って。

Lotus Juice

Lotus Juice

──お話を伺っていて、Lotusさんはアーティストとしての側面のみならず、アトラスの一員、ゲーム開発チームの一員といった視点も持っているように感じます。

Lotus 長らくアトラスさんと仕事をしていると、人と人との付き合いなのでいろいろな悩みを聞くこともあるし、僕は音楽のことをやっているけど、ゲーム開発がどれくらい大変なのかを理解する瞬間もある。そうやって深いところでつながっていくと、単純に仕事の依頼がきたとしても、そのオファーのひと言がすごく重く感じるんですよ。僕も歌詞を気軽には書けないし、貴重なライブの機会を無駄にはできない。だからこういう役割を担うようになったのかなと思います。