w-inds.|2人が手繰り寄せた“w-inds.らしさ”の現在地、15thアルバム「Beyond」はファンのための作品

w-inds.が通算15枚目、橘慶太と千葉涼平の2人体制となってからは2枚目となるニューアルバム「Beyond」を完成させた。前作「20XX “We are”」から1年。2022年のw-inds.はコロナ禍と向き合いながら、ひさびさに有観客ライブの醍醐味を味わい尽くすような時間を過ごしたという。新作「Beyond」には近年の音楽的な根幹を支えていた橘によるセルフプロデュース楽曲のほかに、過去のw-inds.作品を彩ってきた葉山拓亮、松本良喜、今井了介といったおなじみの作家陣が提供した楽曲も並んでいる。本作は間違いなく2023年のw-inds.だからこそ作り上げることができたアルバムであると同時に、時代性や音楽性を超越したw-inds.ならではのポップアルバムという言い方もできるだろう。本作が完成するまでの道のりを橘慶太と千葉涼平に語ってもらった。

取材・文 / 三宅正一撮影 / NORBERTO RUBEN

2人でも“w-inds.らしさ”を体現できた

──まずは2022年を振り返っていただきたいのですが、w-inds.にとってどんな1年でしたか?

橘慶太 とにかくひさしぶりにライブをやれた喜びが大きかったですね。コロナ禍に入ってからは配信ライブのみだったので。でも、2022年の2月に開催予定だったファンクラブツアーがコロナの影響で延期になったり、8月から始まったアルバムツアーの初日の千葉公演で僕が、2日目の愛知公演で涼平くんがコロナに罹ってしまって、延期になってしまったりして。「なんでこんなにライブ運がないんだろう?」とも思いましたけど、結果的にファンクラブツアーと通常のライブツアーをなんとか延期公演も含めて回ることができて、2020年6月に2人体制になってから初めてお客さんと生で向き合うライブができたことが何より大きかったです。生のライブに対する不安もありましたが、それもステージに立ったら解消されて。自分たちの中で「もう大丈夫だ」という確信に変わりましたね。涼平くんはどう?

千葉涼平 夏のツアーは慶太くんが先にコロナに罹って、慶太くんなしでゲネプロをやって戻ってくるのを待とうという心構えだったんですけど、「慶太くんが戻ってきたらすごくいいライブになりそう」という予感を覚えながら、慶太くんが今日から復帰するという日の朝に、今度は僕の体調が悪くなって(笑)。結果的に2人ともコロナに罹ってしまったんですね。

──ああ……。

 「そんなことある!?」という感じですよね(笑)。でも、結果的にツアー初日となった八王子公演は涼平くんも病み上がりでつらい部分もあったとは思うけど、ステージのクオリティとしては本当にすごくいいライブができた実感があって。

千葉 お客さんの前でパフォーマンスして「ああ、やっぱりこの感じが楽しいな」と思いましたね。

 ライブで体現することで前作「20XX “We are”」を完成させることができたと思えたし。そのうえで、w-inds.らしいライブを2人体制になってできたのもすごく自信になったんですよね。

w-inds.

w-inds.

──2人でも体現できた“w-inds.らしさ”という部分をもう少し細かく語ることはできますか?

 なんだろう? すごく感覚的な部分ではあるんですけど、過去をちゃんと肯定しつつ、未来へと踏み出せたと思うんです。あとはすごく変な言い方になりますが、僕と涼平くんがそれぞれ持っていたポテンシャルを、これまで以上に引き出さざるを得なくなった部分があるんですよ。

千葉 うん、確かにそうだね。

 それもかなり大きいかなと。涼平くんが歌うようになったことが目に見えて大きな変化ですけど、実は僕も変わった部分がいっぱいあって。それは自分にとってかなりプラスになったんですね。

──慶太さんの変化はどういう部分ですか?

 涼平くんが歌うことで僕が歌う範囲が減ったし、そういう部分でダンスを含めたパフォーマンスに触れる力が増したんですよね。これまではライブのセットリストが20曲あるとしたら、20曲のほとんどを自分がメインで歌っていたから常に慎重だったんです。でも、そこで涼平くんの歌うパートが増えると、僕の中にもパフォーマンス上の遊び心が出てくる。つまり、歌だけではなく、視覚的なパフォーマンスにおいてもお客さんにアピールできるようになったことがすごく大きな変化なんです。

──過去曲のパフォーマンスももちろん変わるだろうし。

 そうそう。だから、2人になってからプラスの部分をどんどん見い出すことができているという感じですね。

橘慶太

橘慶太

橘慶太

橘慶太

──涼平さんはそのあたりどうですか?

千葉 歌も含めて意識しなきゃいけないところがだいぶ増えましたね。これまで以上に楽曲に触れて、歌の中に入っていく時間も増えましたし。そうすると、ダンスに対する意識も大きく変わるし。ダンスに関しては逆に我慢する時間が増えたんです。

──というのは?

千葉 例えばこの曲のここの振付が好きだから、僕自身はめっちゃ踊りたいけど、歌唱の面でも、演出的にも次の曲への移行をスムーズにするために踊れないという時間が増えたんですよね。(椅子から立ち上がって)「う~! ここめちゃくちゃ踊りたいんだけどなあ!」と思いながら、こう、グッと堪えます。

 これ、文字になるんだよ?(笑)

千葉 (笑)。でも、本当に2人になったことで見せ方も演出もかなり変化しましたね。

千葉涼平

千葉涼平

千葉涼平

千葉涼平

1日で3曲分の歌詞を書いた

──ここからはニューアルバム「Beyond」について聞かせてください。アルバムのビジョンはいつ頃から描き始めたんですか?

 スタッフからは、夏前くらいに「2022年内にアルバムをリリースできたら」みたいな話はありました。でもライブツアーがあったので、とにかくそこに集中したかったんです。正直に言ってしまうと、ライブ1本の評価で人生が変わるような職業なので。だから、はっきり言って「アルバムを作りましょう」って言われても、それどころじゃなかったんです。それで結局、2022年12月までにできたのが1曲だけなんですよ。

──その1曲は2022年12月28日に配信リリースした「Bang! Bang! feat. CrazyBoy」ですよね?

 そうです。それ以外では今回、過去のw-inds.の楽曲を手がけてくださっていた葉山(拓亮)さん、松本(良喜)さん、今井(了介)さんにひさしぶりにお願いしていた曲は制作を進めてもらっていたんですけど、そのほかの曲は完成はしてなかったんです。それで、2023年1月に入ってから少しずつ曲ができていって。

橘慶太

橘慶太

──心が落ち着かない年末を過ごした。

 はい。「年が明けないでくれ」って思ったのは去年が初めてでした(笑)。年が明けるのが怖かった。でも、アルバムの発売日の3月14日はw-inds.のデビュー日でもあるので。それもあってリリース延期はしたくなかったし、急ピッチで進めて1月に一気に8曲レコーディングしました。だからこそ僕たちはこのアルバムに関して新鮮な気持ちのままインタビューを受けられるんですよ。時間が全然経ってないから。そういう意味ではよかったかなと(笑)。

──そのあたりの考え方はさすがのポジティブさですね(笑)。

千葉 でも、年明けの1月7日からすぐにファンクラブツアーが始まって、アルバムの制作と並行していたからかなりキツかったです。

千葉涼平

千葉涼平

 しかも今年のファンクラブツアーでは、300曲くらいある過去曲から一度もライブで披露してない曲をやる、という試みをして(笑)。そうすると、レコーディング以来聴いてなかった曲もあるから、僕たちからするとほぼ新曲なんですよ。

──なんでそこまで自分たちを追い込むようなコンセプトを(笑)。

 謎ですよね。思いついちゃったんですよね(笑)。

千葉 なので、1月は本当にヤバかったですね。1日に2曲ずつ歌録りするみたいな感じで。

 でも、人間って崖っぷちに立たされたらやれるんだなって改めて思いました。僕、1日で3曲分の歌詞を書いたんですよ。