サンスクリット語で大合唱

──「天地創造」とか、ライブで大合唱したらすごく盛り上がりそうですよね。でもこの「バーヴァナタシュ アプンニャ スカ ディヤナード」って……。いったい何語？

玉屋2060%　サンスクリット語（古代インドの言語）です。

──なんでまた。

玉屋2060%　わけわかんない国の、わけわかんない祝祭感っつうか。聞いたことない言葉の響きが欲しかったんですよね。

∴560∵　大昔か、はたまた違う次元の世界の部族がテーマで。「デカい象みたいなの、穫れた！」って男たちが帰ってきて、女子供が洞から出てきて、火焚いてその周りをグルグル回って。そういう原始的なお祭りで何かを歌ってる……みたいなイメージをやりたいなって。俺が思い付いちゃったんす。

──サビで連呼する「ヴァジュラ」っていうのはどんな意味なんですか？

玉屋2060%　これは「ダイヤモンド」。アルバムタイトルが決まってから歌詞に入れました。

──なるほど。「シャングリラ」でも中国語が使われていたけど、ワールドミュージックは好き？

玉屋2060%　というよりは、もともと自分がバックパック背負って世界中旅するのがすごく好きで、そういう趣味を音楽に取り入れていきたいと思って。……でもこのサンスクリット語、ライブでお客さんと大合唱できたら気持ちいいと思ったけど、よくよく考えたら長すぎてお客さん覚えらんないかな。

一同　ははははは（笑）。

幻想の中にある郷愁を描きたい

──古代に思いを馳せたと思ったら「ASTRO BOY」「VIDEO GIRL」みたいな近未来っぽい曲があったり、世界旅行のみならずタイムトラベルまでしてしまったようなカラフルな世界観が詰まってますけど、それらを締める最後の1曲が「雪国」って。インパクトありました。

玉屋2060%　この曲を最後にするってのは最初から決めてたんです。タイトルが決まってないときに、東京に大雪が降ったんですね。デモを流しながらぱって窓を開けたら一面雪景色で、「これだ！」って。俺たちは東京の人間だから雪国って幻想なんだけど、その幻想の中にある郷愁を描きたいというか……。懐かしさみたいな、そういうフワッとした感情が一番グッとくるんですよね。明らかに楽しい曲をバーッてやって「はい終わり」みたいなのも好きなんですけど、終わったあとに意外と何も残ってなかったりする。「雪国」は、聴き終わったあとにちょっと複雑な感情が後味として残ってる、っていうのをやりたくて、最後に入れたんです。

∴560∵　なんか好きなんだよね、郷愁とかそういうのに浸るのが。田舎に行って田園とか見ると「ああ……」って懐かしく思うんだけど、俺、めっちゃ23区内生まれで。

──あはは（笑）。「南無阿弥陀仏のリズムに乗って」も日本の田舎の原風景が浮かぶような曲で、これまた懐かしさを感じました。

∴560∵　メンバーみんな関東出身だから、そういう故郷って幻想なんだけど、なんかある種の理想の郷愁みたいなものが自分の中にあって。それを曲を作るときに形にしようとしてるかもしれない。

玉屋2060%　確かに、そういう故郷って俺たちにはファンタジーなはずなのにね。俺たちは田舎を知らないから、もう頭の中で勝手に最高の場所みたいになってる。

MAX　私は千葉で育ったんですけど、けっこう田舎で。子供の頃は夏になるとトラックの荷台に乗って田んぼに行ったり。だから憧れというより、実体験や戻れない大切な思い出として故郷への郷愁があります。

∴560∵　話してて思い出したんだけど、Sonic Surf Cityってすげえカッコいいバンドがいるんですね。The Beach BoysとRamonesを足したような3コードポップパンクみたいなバンド。でもその人たちスウェーデン人で。スウェーデンって北欧で、サーフィンとかできる国じゃないわけ。

一同　（笑）。

∴560∵　もう「寒いし……海行きてー!!」って欲求が彼らの中で大きくなりすぎて美化されてるのかもしれないけど、そういうのすごい好きだなって。俺たちが郷愁を曲に込めるのもそれに近いのかもしれない。

「FUCK OFF」って言いたくなっちゃう

──総じて、Wiennersの振れ幅の大きさが存分に凝縮されたアルバムだなと思いました。3曲目から5曲目までの流れなんてほんと象徴的で、「天地創造」で合唱したと思ったらパンク魂全開の「FUCK OFF」、そしてその次にアイドルソング「片瀬江ノ島」が控えるという。

マナブシティ　カオスですね（笑）。すごい振れ幅があるからビートで表現するのも大変で、自分の引き出しのなさとの戦い。全部挑戦だったので、すごく愛着があります。

玉屋2060%　歌を大事にしたって言いましたけど、やっぱり俺たちにはそれだけじゃないところもあるし。別にそれだけにしてもよかったんだけど、いろいろやりたくなっちゃう。

──「FUCK OFF」って言いたくなっちゃう。

玉屋2060%　言いたくなっちゃう（笑）。周りのスタッフとかからは、「別にこの曲カットしていいんじゃない？」とか言われたりもしたんですけど。

∴560∵　シングルを何回か出してきた上でのアルバムだから、いろんなことをやっていい場所だと思った。やっぱり自分たちが育ってきた吉祥寺とか西荻のルーツは失いたくないし、失ったと思われたくないし。

──「FUCK OFF」みたいな曲が入ってくると、Wienners初期のファストチューンを愛するファンはうれしいと思います。「忘れないでいてくれてる」って。

玉屋2060%　そうっすね。「メジャーに行って変わった」って言われるだろうなっていう危機感がたぶん俺たちすごい強いんです。根本は変わってねえぞって思うし、延長線上でありたい。

∴560∵　バンドとして成功したい気持ちはあるけど、今までやってきたこととか、自分たちのルーツをモヤッとさせていくのはイヤだよね。

──いまだにそういうシーンのバンドとも、精力的にライブをし続けてますよね。

玉屋2060%　誘われたらホイホイ出ちゃうって、たぶん周りもわかってるんすよ（笑）。ライブはずっとやっていきたいけど、本数は考えなきゃいけないですね。いまだに年間5、60本やってるので……。

∴560∵　ライブしてないとバンドやってる感じがしないっていう育ち方をしてしまったから（笑）。今回もアルバム制作期間を設けて、「ここはライブ入れない」って決めてたんだけど、結局いろいろ誘われて月3、4本ライブやって。レコーディングに入った段階で曲が半分くらいしかできあがってなかったから、もう録りながら作る感じでギリギリでしたね。マスタリングの5時間前にミックスが終わるとか、かなり無茶なスケジュールだった（笑）。