ナナヲアカリ「明日の私に幸あれ」インタビュー|玉屋2060%らとの楽曲制作を振り返る

ナナヲアカリがニューシングル「明日の私に幸あれ」をリリースした。

「明日の私に幸あれ」は、テレビアニメ「ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います」のエンディングテーマを表題曲としたシングル。表題曲の作詞、作曲、編曲は玉屋2060%(Wienners)が手がけた。

音楽ナタリーでは本作のリリースを記念して、ナナヲにインタビュー。玉屋2060%らとの制作秘話や、ナナヲとアニメ主人公との共通点など、ニューシングルに込めた思いをたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 星野耕作

共感したのは“不憫なところ”

──タイアップ先である「ギルます」という作品に触れてみて、どんな感想を持ちましたか?

まず第一印象は、キャラデザがめっちゃタイプということでした(笑)。キャラデザがいい!から入って原作を読んで、主人公のアリナ・クローバーが“不憫かわいい”ところが刺さりました。気が強いし、後輩に頼られるぐらいしっかりしてるところはあるけど、実は陰で努力をしていたり、不器用な一面があったり。さらに言うと本人の運の悪さというか、ちょっとかわいそうな目に遭うところは、自分の作風とも重なるところがあって共感できました。

──確かにアリナにはどこか“ダメ天使感”が漂っていますね。

私の曲はアリナちゃんとマッチするところはすごくあると思いまして、もしかしたらそこがきっかけになってお話をいただいたのかもしれません。

ナナヲアカリ

──ナナヲさんはいろんな作家と仕事をされていますが、今回のタイアップ曲「明日の私に幸あれ」の作詞作曲はこれまで何度もコラボ経験がある玉屋2060%(Wienners)さんが担当しています。どういうことを期待して玉屋さんにオファーを?

玉屋さんはナナヲアカリという人間に対する解像度がすごく高い方なんですよ。例えばナユタン星人さんは、ナナヲアカリというアーティスト像への解像度がメチャクチャ高い方で、玉屋さんは人間としてのナナヲをすごく理解いただいているイメージ。「ギルます」のアリナちゃんと私自身が重なる部分が大きいので、玉屋さんに書いてもらったらバッチリだろうなと思っていました。

──ナユタンさんはインターネットカルチャーの人で、玉屋さんはバンド界隈の人ですよね。バンド界隈の人が、インターネットカルチャーに染まってきたナナヲさん個人の感覚を理解できているのは不思議な気もします。

生きてきた道筋は全然違うのに玉屋さんが「アカリちゃんの感覚はすごくわかる」と言ってくれたことがあって。私はネガティブな世界をちょっとはいい世界にしたい、という思いを持っていて、“ネガティブなのに前向き”なんです。人間だから当たり前のことですけど、あんなに明るく見える玉屋さんにもネガティブな部分はあって、もっと言えばそのネガティブさをWiennersではあまり使っていない。普段使わない要素を曲提供のときに出してくれているみたいで「すごく曲が書きやすい」と言ってくれています。私と根本が似ているところがあるので、それが解像度の高さにつながっているのかな。

──「明日の私に幸あれ」は間違いなくアリナの曲でありながら、現代に働く人に通じる普遍性を持った曲でもありますよね。

「ギルます」のアリナちゃんは、アニメのタイトルにもあるように“絶対に残業をしたくない子”で、物語の舞台はファンタジーだけど、主張していることはすごく現実的なものですよね。玉屋さんには、その現実的な主張の部分をすくい取って、等身大な私に重ねて曲を書いていただきたくて、「残業が嫌で嫌で仕方ないけど、それでもがんばらなきゃいけない、がんばる私たちの歌を作りたいです」と伝えました。

ナナヲアカリ
ナナヲアカリ

オタクじゃないことがうらやましい

──玉屋さんから「明日の私に幸あれ」のデモが届いたときの第一印象は?

めっちゃかわいいしキャッチーなのに、サビでは思わず泣いちゃうようなエモさもあって、なんのリテイクもありませんでした。

──スキャットだったり、シャッフル調のスウィングする歌い方だったり、ナナヲさんのこれまでの楽曲ではあまり見られない、挑戦的な一面もあると感じました。

冒頭のスキャットのところは具体的なオーダーをしていました。リファレンスとして、ラマーズP feat. 初音ミクの「ぽっぴっぽー」を聴いてもらったんですよ。「耳から離れなくてリフレインするようなフレーズが欲しいです」と伝えたら、冒頭にいい感じにスキャットを盛り込んでくれて。これこれ!となりました。逆にスウィングしながら歌う部分は玉屋さんが出してくれたアイデアで、「アカリちゃんは早口が得意だから、シャッフル調でもいけるでしょ!」と言われました。

ナナヲアカリ

──作詞作曲のクレジットは玉屋さんですが、ポエトリー部分はこれまで同様ナナヲさんご自身の作詞です。どんなことを考えながら、このパートを書きましたか?

デモを聴いて、玉屋さんの歌詞を読んで、すごくグッとくるものがあったんですよ。それと、ポエトリーを入れるために玉屋さんが空けておいてくれた部分が、ウォーキングベースがバックで鳴っているめちゃくちゃカッコいいパートで。「え、このいい雰囲気を邪魔しないようにしなきゃ!」ってめっちゃプレッシャーでした。ポエトリー部分は語感のよさ、音鳴りをかなり大事にしながら書きました。

──これまでのナナヲさんの楽曲では、ポエトリー部分で視点が変わったり、ほかのパートとは違う切り口にしていたりすることが多いと感じていて。でも「明日の私に幸あれ」のポエトリーは、一見するとナナヲさんがどこを書いたのかわかないくらい、玉屋さんの書いた詞に溶け込んでいるように感じました。

わ、うれしい。玉屋さんと一緒に何曲も作っていく中で、お互いの表現の塩梅がわかってきたというのもあると思いますが、今回はその間にアリナちゃんが入っているのが大きいかもしれないですね。アリナちゃんの「残業したくない!」という普遍的な主張が土台にあって、それを玉屋さんが怒りではなくて切なる願いとして軽快に表現してくれて。アリナちゃんの気持ちもわかるし、玉屋さんがそれを重くしすぎず捉えてくれた気持ちもわかる。だから限りなく近い視点でポエトリーを書けたのかもしれないですね。

ナナヲアカリ

──玉屋さんのようなバリバリのバンドマンとアニソンを作る、というのはナナヲさんにとってもけっこう刺激的だったと思いますが、感化される部分はありましたか?

オタクじゃないことがうらやましい瞬間はありましたね。私はオタクだから「アニメに関われた! それだけでうれしい!」みたいになっちゃうんですけど、玉屋さんの場合は一歩引いて、フラットな視点で情報を摂取できているような気がして。それってもう私には一生わからない感覚なんだと思います。オタクカルチャーの内側にいすぎちゃってるから。

──すでに「明日の私に幸あれ」はダンス動画が投稿されるなど、ちゃんとアニソンのトンマナを守りつつも、ニコニコ的に流行しそうなエッセンスがちりばめられてもいて、玉屋さんの適応力のすさまじさを感じました。

ある意味“お決まり”のようなトーンがあったアニソンを新しい視点で、新しい手法で料理してくれるので、私もすごく刺激になるし、界隈も盛り上がっていくんだろうなって。